第二百七十六話
毎日毎日プチプチッと蟻(ダイクン派)潰しをしている。
いやね、あまりにも鉄壁な防諜にティターンズからそのノウハウを教えてくれって依頼があったんだよ。
まぁ別にいいけど、と言うわけでマリオンズを1人派遣してダイクン派をプチプチッとしているわけだ。
「国内だとでっち上げ逮捕から証拠集めでいいですから簡単なんですけどね。ティターンズだとそうは行きません」
「まぁティターンズは一応法治国家だからな……一応」
表向きは法治国家だけど、本質的にはジャミトフの独裁主義に近い……と言いたいところだけど連邦は軍部が主導権を握っていたとまでは言わないけど、かなりの権限を持っていたから連邦当時から法治国家なのかは微妙に怪しかったりするが気にしては負けだ。
「それにしても成果を報告した時のジャミトフさんの表情が面白かったですよ。初めて生で二度見を見ました」
1日で検挙されたダイクン派、もしくは支援者は30人を超えた。
証拠なんて質問するだけで見つけることができるからあっと言う間にこの人数だ。
ちなみに検挙されたのは特別地区内の基準と同じで、個人的な支援は見逃され、軍機や機密を漏らそうとしている者のみが対象となっている。
特に厳しくしたのは技術系の漏洩であることは言うまでもない。
資金や物資程度なら即効性があるだけで持続性はないから問題にはならないが、技術は資金と物資さえあれば即効性も持続性もあるため、アクシズが勝とうがジオンが勝とう技術は流用され、優位性が無くなる。
俺達の利権にも関わるサイコミュ関係は特に念入りに漏洩を防ぐ予定だ。
「アクシズでニュータイプなんてそうそう揃えれるとは思えないが、反乱が成功すれば国力が手に入るし、ジオンが勝てば技術も手にするだろうし、なによりどちらにしてもアナハイムに渡りそうだからな」
「私達の少ないアドバンテージですからね。ちょっと証拠が少ないぐらいは仕方ないですよね」
こうやって会話している最中にも検挙される人数は増え続けている。
思った以上にアクシズに協力的な存在は多い、その理由の大体は利権の拡大にある。
今は好景気で資金や物だけは溢れていたことも引き金の1つとなっているんだろうな。
事業拡大にテロリスト、もしくは反乱軍への資金提供がいい投資なのかどうかは疑問があるが、当たればかなり大きいから完璧に間違いではない……まぁ、俺達を敵に回して勝てると思っているなら過小評価も甚だしいが、参戦する方針ではあるが表明はしていないからザビ家とダイクン家コラボに夢を見るのも仕方ない。
もっとも夢は夢、儚いものだが。
<キャスバル・贄・ダイクン>
……なんだか私の名前がおかしい気がする。
「どうしたんですか、不機嫌そうですが」
「いや、なんでもない」
「また他の女の人のことを考えてたんじゃないでしょうね」
「そんなわけないだろうララァ」
「どうだか……」
いや、レコアにしてもナナイも勝手に——
「勝手に?」
「勝手に?」
「勝手に?」
……
……
おのれ死神!お前達のせいで——
「「「死神は関係ないでしょ」」」
くっ、これが若さ故の過ちというものか?!
いや、ちょっと待て、レコアはまだ100歩譲るとしてもナナイ、君は違うだろ!
「そんな!あんなに熱烈に私を求めてくださったのに……酷い」
「大佐酷い」
「酷い男ね」
「私はそんなことをしていない!」
「私が欲しいと言ってくださったじゃないですか」
「……それはもしかしなくても初対面の時のことか?」
「はい!」
…………確かに君が欲しいとは言ったような気がするが……それは研究者、開発者としてなんだが……言いづらい。言いづらいぞ。
こんな勘違い、アニメやマンガの世界だけかと思っていたがまさか自分の身に振りかかるとは思いもしなかった。
「大佐?」
ララァの視線が私の心を凍らせる。
口説いてない、口説いてはないのだ。信じてくれララァ。
いや、言い訳をしても通じないことはわかっている。ララァが私を『大佐』という時は怒っていて私の言葉が届いた記憶はほとんどない。
「ハァ、これが惚れた弱みってやつなのかしら」
レコアはどちらかと言うと寛容で私をあまり責めてこない……が、責めてこないゆえに罪悪感を私に感じる。それがレコアの怒り方なのだ。
私はハーレムなど築く予定ではなかった。
ララァと共にゆっくりしたいだけで……レコアは逃亡生活で荒れていた時に泥酔状態の時にうっかり……朝起きたら2人共裸でベッドの上にいたのだ。
まぁ、その後ララァに話をして半殺しにされたのは今でもトラウマだ。
「と、ところでナナイ。グレミーから受け取ったというサイコフレームというものは使い物になりそうか」
((誤魔化した))
「はい。サイコミュの延長の技術ですからなんとか形にできそうです。未知数な部分が多いので何度もテストをしてデータ収集しなければなりませんが」
そのあたりはしかたあるまい。
新兵器の実力などそう簡単にわかるものではない。実際独立戦争初めの頃、連邦はジオンのモビルスーツを軽視した結果があの敗北へと繋がった。
あれほどの戦果が上がることはあるまいが、サイコミュの技術がほとんどない私達には貴重なものだ。
「そういえばアナハイムがモビルスーツに高性能AIを搭載して無人化させるという開発がされていたようで、その試作機が提供されたという話を聞きましたがご存知ですか」
「いや、そのような話は聞いてない。ララァ、レコアはどうだ?」
2人とも首を横に振るあたり、極秘情報の1つなのだろう。
モビルスーツの無人化か……ん?何処からか「エレガントではないな」という声が聞こえた気がするが……気のせいか。
「元々はティターンズへ売り込む予定だったそうですが高性能な自動制御に対してトラウマがあるようで拒否されたそうです」
ティターンズの気持ちが嫌というほど分かってしまう。
どう考えてもEXAMシステムのことだな。
あんな化物はそう簡単に生まれないとわかっていてはいても、万が一がある。
EXAMシステムは死神以外の機体にも搭載できて実戦投入されることがあったと聞く。
1機で中隊は軽く全滅させるほどの戦果があげられた……暴走して味方も同じぐらい損害が出たそうだがな。
制御出来ない無人兵器ほど厄介なものはない。
「しかしアクシズにはサイボーグクローン兵がいる。それほど数に困っているわけではないから必要があるとは思えんな」
「ジオン相手に戦果を出せばティターンズも導入に前向きにならざるをえないからでしょう。今地球は労働者不足ですから無人兵器は軍縮に必須とも言えますし」
昔の映画みたいにロボットやAIの反乱などがなければいいがな。
「ところで大佐、アクシズとしての未来も重要ですが……私達の未来のことも話しましょうか」
…………誤魔化しきれなかったか。