第二百七十七話
<グレミー・トト>
アナハイムからサイボーグクローン兵の台頭でお蔵入りになったとされる無人モビルスーツの試作機が届いた。
「……系統的にSガンダムか?原型が違いすぎて確証はないが」
人工知能の名前がALICEだし、名前がS(スペリオル)ドムだから多分間違いない。
ただし、見た目がドムというやられ役、踏み台役感が半端ない。
今となってはドムはアナハイム、グフとザクはジオマッドという住み分けをしているわけだが、原作知識があるせいで違和感がある。
それもブルーパプワのドートレスなんかよりいくらかいいが。
「しかし今から学習させて戦いに間に合うのか?」
ALICEの学習データは出来がいいものとは言えなかった。
今もメンテ以外はフル稼働させてデータの蓄積に励んでいる……皮肉なことに戦争経験がないアクシズの兵では畳の上の水練、鞍掛け馬の稽古に近いものであるため、本物のデータを得るためにまたエゥーゴが、クワトロが中心となっている。(情報を伝えるのが遅れて若干疑われたようだが、それも晴れたようだ)
やはり実戦経験の無さは如何ともし難いな。実際エゥーゴの下級兵であってもアクシズの兵は苦戦する始末。
こうなると歴戦の勇士が多く集うジオン公国との戦いはどうなるのか。
最近は常に差を埋めるための策を考えている。
「ああ、協力者が欲しい。なんで私の前には勢いだけの人間しかいないのか」
だからこそ扇動して蜂起することに成功したのだから仕方ないという思いもあるがさすがにまとめるのがつらい。
唯一の救いはサイボーグクローン兵だ。
戦闘経験はアクシズ兵と同じでないため役に立たないが、スペックだけで通常の人間を大きく上回る。
その上に洗脳教育を施して死を恐れないし、従順で、死んでも誰かに怨まれることはない。
見事なほど完璧な兵士にして兵器だ。
「問題は命令系統のトップがアナハイムってところか」
サイボーグクローン兵を製造する工場はアクシズにあるが、管理や権限を持つのはアナハイムだ。
兵器から兵士まで外に頼っている現状から考えて……勝っても負けても地獄な気がするのは気のせいだと思おう。信じよう。
「しかし、アナハイムも一枚岩ではないのは間違い無さそうだな」
アナハイムは既にサイボーグクローン兵を私達に提供している以上、Sドムなど寄越す必要性はない。
一応試作機の実戦データが欲しいという名目が立つが、それならジオン側でいいはずだ。
アクシズが勝つにしろ負けるにしろ激しく消耗することは必至、つまりSドムが無事であるという保証はない以上、意味が無い。
そうなるとアナハイムの利益はないどころか赤字だろう。いくら計画が潰えた試作機だとしても価値を見出すのが商人で、アナハイムはその商人の親玉なのだからもっと悪劣なはずだ。にも関わらず、この微妙な一手、これは商人としての意志ではなく別の意志を持って決断されたものだろう。
「アナハイムの切り崩し、か……今まで考えたことなかった」
しかしこれを考えるのは今ではない。
考えるのはジオンに勝ってからの話だ。
0091年5月。
なんかジオンの経済がやばい。
何がってアクシズの影響が経済にも出たって話なんだけど……まぁ内乱ってつまりは政府の失態だから経済に影響があっても不思議ではない。
しかし……ちょっと影響が出すぎじゃないか?とも思える。
ジオン平均株価が下落を続けているし、犯罪件数も増えている。
まだ戦争が起こったわけじゃないのに世紀末的な雰囲気を醸し出している。
「戦う前からこれじゃ、眉なしもさぞや胃に来るだろうな」
「人間はなぜこれほど争いを好むのでしょうか。私達じゃあるまいし」
お、マリオンちゃんはなかなか哲学だね。
確かに、俺達は人間と違って兵器を摂れば摂るほど進化するし、生きるために必要だ。
普通の金属を喰っても生きていけるが、それは人間で言うところの1日3食カ○リーメイトで生きていけるかというのと同義。ゼリーでもいいぞ。
新しい味を求めるために争いを好むのが俺達だ。
しかし人間は争わなくても生きていける。
なのに争いはなくならない。
マリオンちゃんも成長して……全俺が泣いた。涙は出ないが……あ、一応メインカメラの洗浄液で流せるか。
それはさておき、ジオンの景気低迷は地球の好景気とは対照的で、明らかに人為的なものだろう。
裏で操っているのはアナハイムとダイクン派、反ギレン派なのは間違いない。
本当はマリオンズを派遣して狩ってしまえば問題ない……と行きたいところなんだけど、ジオンはティターンズほど人材の層が厚くない。
もし狩ってしまえば政府の機能が20%ほど死ぬんじゃないかとはジオンの予測だ。
裏切り者すら使わないといけないなんて……ジオンも不憫だ。
まぁブルーパプワも特別地区もアイナとシーマ様、カーン一家が裏切ったら80%ぐらい機能しない自信がある。
権限を集約してると対応力は高くなるけど、こういうリスクは高まるよな。
そんなことを考えていると凄い勢いでドアに何かが当たる音が聞こえた。
恐らく慌てすぎてドアが開く前に突っ込んだんだろうけど、何があったやら。
入ってきたのは俺達の部屋に来ることなんてめったにない勇者王シローくんじゃないか。
「ア、ア、ア」
「カオナシのものまねを見せに来たのか?」
「でも似てませんね。それにやるなら最低限、仮面を着けることおすすめします」
「違う!!アイナが妊娠した!!」
「オオ、オメデトサン」
「オメデトウゴザイマス」
「ありがとう!」
俺達の棒読みを総スルーするとはシローもレベルが上がったな。
それにしても随分時間がかかったな。
2人共運なさすぎだろ。まぁ幸は薄そうな2人だけどな。
しかし、これは同時に不安の種が撒かれたということでもある。
親が不老不死で、子だけが年老いる……なんてことをこの2人が許容できるのか……できるわけない。
シーマ様ならひょっとすればと思わなくもないけど、アイナもシローも馬鹿親の素質は十分ありそうだからな。
ちなみにこっそりヒールしてたデギンに関しては——
「特別地区に恩を受けた身、立身出世はともかく、不老を得るに足る器でなかったなら仕方なし」
——と、元とはいえ公王の役職を務めた人間の格を魅せつけた。
さすが国を作った人間は違うな。