第二十九話
「機体性能からしたら倍以上の戦力があるにも関わらず3分経ってるのに均衡を保ってるのは連邦が思ったより不甲斐ないのか、ジオンが優秀なのか」
ドムは装甲が溶けたり片腕が無くなってたりしているが倍の数が相手なのだから当然として、ジム改はドムと同じぐらいの損害を受け、ジムクゥエルはサッカーのボランチ的な役割をしていて、ダメージやエネルギーの管理をしているっぽくて無傷。
ぶっちゃけ高性能機の意味なくね?もっと戦えよ。
多分ジムクゥエルの単価が高いから慎重に使いたいんだろうけど…連邦の買取値がジム改の倍というのが証拠だ。
「ジオンの兵隊さんは優秀ですよ。ああやって闘いながら私達も警戒してますからね」
「……うお、本当だ。そりゃ俺達が動くと劣勢になるから注意するのは分かるけど、よくやるよ。あっ」
「とうとうドム2機脱落…と思ったらジム改3機が道連れにしましたね。ジオン軍人の意地でしょう…か…ってなぜか残りドムがこちらに。玉砕覚悟ですかね」
「まぁ楽に死にたいならその選択もありだな。まさか俺達を殺れると思ってるんなら甘い考え——」
ズシャーッ!という音とともにドムは揃って……土下座、またか?!
せっかくかっこよく戦ってたのに最後は降伏かよ。しかもわざわざ俺達にか?!俺達は中立国ってわけじゃないんだぞ。
それとドムが土下座するとスカートの中が見えるぞ…なんて言ったらパイロットに怒られるかね?
「ハァ、また呼ぶのか…あ、そういえば…ジムクゥエル01の人」
肩に番号書いてるから分かりやすくていいな。
『は、はい!なんでしょうか!』
なんで正規兵が傭兵にビビってんだよ。
そんなに俺達有名なわけ?
「今回の依頼はあんたらと同行するように言ってたがまさかさっきの不意打ちが目的じゃないよな?」
『そ、そのようなことは決してありません!』
まぁそうだったとして口を割るわけないよな。でも目の前で真後ろからの攻撃を躱して逆にやられるなんてところを見せられたらそんな気も起きないだろうけど。
ああ、そういや何かで第二次世界大戦とか気に入らない上司を戦場で殺すこともあるって書いてたな。連邦に与えたダメージを考えれば俺達なんてほぼほぼ敵なんだから背中から撃たれても仕方ないわな。
「んじゃミデアの手配をよろしく」
『分かりました!』
素直で従順な奴は嫌いじゃない。
今度来たミデアは若干弾痕があったものの無事到着した。
中身は新型機…と言っていいのか分からないけど、ジムクゥエルに両肩キャノンが付いてた。
俺命名、ジムクゥエルキャノン、略してジムクキャ…ジムクゥキャでも可だ。
どうやらジムキャノンIIと俺が呼んでた機体はジムキャノン無印になったらしい、ジムがほとんど製造されなかった結果、ノーマルジムの派生機であるジムキャノンもお流れになったようだ。
ちなみにジムクキャの本当の名前はジムキャノンIIなんだけど原作を知ってる俺からすると面倒なのでジムクキャなのだ。
ジムクキャはキャノンを装備しただけで本家ジムキャノンIIのように追加装甲はされていないため身軽そうに見えるが実際はどうなんだろう。
ジムキャノンIIはどこからどう見てもジムカスタムにNT-1のチョバムアーマーを着せてキャノンを付けただけの機体だ。
劣化版ジムカスタムであるジムクゥエルにキャノンを付けるとどの程度の性能になるのかは未知数、強いのか弱いのか…まぁぶっちゃけて言えば中遠距離とはいえ求められるのは支援砲撃なんで装甲とかあまり必要ないんだけどね。
今回の増援で増えたのはジムクゥエル2機、ジム改4機、ジムクキャ3機と大量の補給物資だ。
輸送機などが随行しているわけではないので多めの補給は助かる…俺達以外が。
「これで計32機が俺達の前に鹵獲、もしくは撃破された訳だけど…もうそろそろジオンはモビルスーツの品切れになりそうなもんだけどな。連邦みたいな工業力はないんだから」
「そうですね。むしろ他の地域まだモビルスーツが存在するあたり結構な戦力が配置されてたんですね」
「ひょっとすると統合整備計画とインドネシアで資源確保が成功した影響かもしれないな」
こうやって時と場合によってあっちへこっちへ渡り歩いていると俺達は一体何をしてるんだろうと思う時がある。
傭兵だから仕方ないんだけど、資源確保させてモビルスーツを奪うってどうなんだ…まぁステータスに闇商人って書かれてるあたりもう…ね。
ジオンのモザンビーク基地に一番最初に辿り着いたのはもちろん俺達、予想通りあれからモビルスーツは品切れを起こしたらしく順調に歩を進める。
ただ他の部隊が遅いせいで待ちぼうけ、その間連絡などはジムクゥエル01の人に任せ、まとめた上で報告してもらうようにした。
その情報によると一部ゲリラに長けた部隊がいるらしく撃破しようにもヒット・アンド・アウェイを徹底的していて補足できないんだってさ。
そういえばZZで青の部隊ってやつらがゲリラ戦が得意だったような、そいつらが粘ってるのかもな。
あ、アフリカと言えばロンメルさんがいたな。もしかしたら戦う機会があるかも。
「それにしても土下座なんて誰が教えたんだ」
「あ、それは私です。ギニアスさんと司令にちょっと冗談のつもりで言っただけなんですけど…」
まさか真犯人は隣にいたとは。
やっと連邦の本隊が到着、なんかボロボロだけどな。
「それで俺達は基地に突っ込めばいいんだな?」
『はい、私達は後ろから援護しますのでよろしくお願いします』
ジムクゥエル01の人から詳細?な作戦内容が伝えられた。
結局俺達が突っ込む贔屓目に見ても作戦と呼べるような代物ではないな。
連邦が落としたという華を持たせるだけのために待たされてたのか、俺達は。
仕事だからやるが——
「嫌な予感がする」
「ですね。なんだか気持ち悪いです」
命の危機って訳じゃなさそうだが…警戒しておこう。
「さて、お仕事お仕事」
ブースターを全開にして突入。
マゼラアタックやザクタンク砲戦仕様の砲撃がドカドカッと土煙をあげるが俺達を止めるには狙いが甘い、音が大きい、ニュータイプは伊達じゃない——そして!
「スピードが足りない!」
ちょっと変則的に使ってみた。でも全部口にすると厨二病って言われそうだから最後だけ言って——
「厨二病乙です」
グフッ…結局ツッコまれた。
「さて、そろそろ暴れ——」
「ブルーニーさん!」
チィッ!後ろから砲撃だと?!
俺達ごと葬り去るつもりか!
「まさかここで連邦が裏切るとは…」
「ですけど私達が率いてきた部隊からは攻撃はありません。なぜでしょう?」
「なんらかの事情があるのかな」
<バスク・オム>
「よし、あの盗人が敵陣地に入ったな。まとめて葬り去るのだ!」
「しかしジーン・コリニー提督もジャミトフ大佐もそのようなことは——」
「ふん、高が1人の傭兵ごときに連邦がなぜ、私がなぜ協力せねばならんのか!いいからとっとと攻撃を開始しろぉ!」
あのような下賎な者など連邦軍には不要なのだ。
宇宙ではスペースノイド共に押されてはいるがここが占領できれば連邦の勝ちは揺らがん、オデッサ作戦も時間の問題だろう。
そうなれば終戦も見えてくる。これから戦果をあげることは容易だろうが、苦戦している今こそ戦果をあげる絶好のタイミングなのだ。
それなのに傭兵のおかげで勝ちました、などというふざけたことがあってはならん!
なぜ副司令はそれが分からんのだ、早く号令をしろ。
「………攻撃を開始しろ。最優先目標は蒼い死神だ。ジオンは後でいい」
「ハッ!了解しました。全軍に只今より攻撃を開始する。最優先目標蒼い死神、繰り返す——」
これでいい、私の栄進にあのようなものは必要ないのだ。
「ジムキャノン25機、ガンキャノン重装型7機、ガンタンク29機が砲撃を開始」
「61式戦車72両も攻撃を開始しました」
「ジムスナイパーカスタム隊(8機)準備完了まで後1分、ジム改77機とジムクゥエル32機が配置完了」
「ジムカスタム20機を護衛として展開」
「後方基地よりフライマンタ100機、デブロック60機、護衛機セイバーフィッシュ300機が発進の連絡がありました。到着予定時刻まで後1分20秒」
次々報告される内容に満足する。
これほどの戦力を導入したのはルウム戦役以来だろう。
ライヤーやジャマイカンにも協力させて戦力を集めたかいがあったというものだ。
「そろそろ蒼い死神も片付いただろう。スペースノイド共を叩き潰して——」
「蒼い死神、被弾した形跡なし!こちらにすごいスピードで前進中!」
「前衛部隊と接触、ジム改…1、4、7…次々撃破されていきます!ジムクゥエルも同様の被害が!」
「進行速度若干低下しているものの止まりません!」
「どういうことだ!これはいった——」
「前衛部隊が動揺が広がり、混乱状態になりつつあり——前衛部隊が突破されました!」
高が1機だぞ!
なんだというのだ。
なぜこれほど——これほど——ッ!
「乗組員に告げる退艦せよ。至急退艦——逃げろおぉ!!」
「何を勝手なことを!敵前逃亡は銃殺刑だぞ!」
副司令は何を考えているのだ!この戦力で負けるはずが…負けるはずが——
「逃げるな!戦え!」
「やっぱり蒼い死神と戦っちゃいけないんだ!あいつにどれだけやられたと——」
あの兵はインドネシアで戦っていた者だったはず、蒼い死神はそれほど——
「ジムカスタム全機撃破、当艦まで——うわああああ!!」
最後まで残っていたオペレーターが逃げ出す。
クソ!思考停止の時間が長すぎ——
『俺達を裏切った報いを受けるがいい』
手に持ったビームライフル、胸部と肩の穴がピンク色に輝く——
「私はここま——」
『連邦、ジオン双方共に戦闘を停止し、指示する座標で待機することを望む。でなければ退却せよ、追撃はしない。ただし双方が戦闘行為を続けるのであれば俺達が相手をしよう』
Aチャンネ——オープンチャンネルで繰り返し呼びかけるがミノ粉が散布されてるからどの程度効果があるかは不明だけどな。
いくら裏切ったとはいえ、これからのことを考えると連邦を痛めつけるのは嬉しくないのでちゃんと連邦へのダメージは最小限にしたつもりだ。
なにせ司令部であるビックトレーへ一直線に進んだからな。
「全く、裏切られたと思ったら司令がバスクならある意味納得だ」
「その人が今回の首謀者ですか」
「たぶんね。ま、これで俺達の強さが知れ渡っただろうからこれからはもうちょっと過ごしやすくなるかな」
「連邦にしてもジオンにしても私達は災害みたいですね」
「確かに」
でも雇えた側からすれば災害どころか天の助けレベルになりつつあるなぁ。
アムロに勝ちきれなかったことを反省して戦い方の研究と練習を積み重ねているからスペックではなく、戦闘能力が向上している…はず、実際今回はなかなかの成果だ。
「それにしても1つ思ったけど連邦のOSって確かに回避能力は優れてるけど所詮コンピュータだな。回避行動にはパターンがあるし、何より問題なのがモビルスーツ同士の連携に障害が生じてることだな」
「確かにそうですけど、それでも若葉マークの連邦パイロットが熟練のジオン兵と対等に戦えているのは間違いなくOSのおかげですよ」
まぁ、そうだな。でも分析解析されるとそのうち意味がなくなるだろうけど。
「そういえば今回もグフを見かけないな。絶滅したのかな?」
「私達のせいで絶滅したなんて思いたくありませんね…まだ食べたことないのに!」
「………あ、そういえばこの前のジャブロー強襲の際にフライトタイプがいたな、空中で爆発したせいで大部分が四散したせいで食べれなかったけど」
「まだだ、まだ諦めませんよ!」
マリオンちゃんが燃えている?!