第三十二話
「こうしてお会いするのは初めてですね。傭兵の蒼い死神と呼ばれている1人、マリアです。よろしくお願いします」
「蒼い死神が女性だと——失礼した。私は先日第13独立部隊と命名された旗艦ホワイトベース艦長ブライト・ノア、中尉だ。アムロからは男性だと聞いていたが…」
「ああ、私達は2人で蒼い死神ですからね…自分達を異名で呼ぶのは恥ずかしいですね」
声からして照れた様子のマリオンちゃんがこちらを向いた。
ミノ話がなくても自己紹介しろと促してるのが分かる。
「蒼い死神の片割れ、ブルーニーだ。よろしく頼む」
「なるほど、2人いたのか。アムロの聞いたのはブルーニーさんの方か…それでこれからの予定だが——」
前もって作戦や行動方針は伝えてもらう契約だがちゃんと守られているようだ。
宇宙へ上がる、と一言でいえばそれまでだが予定時刻や俺達の役割がどうなのか、裏切ったら遠慮無く艦を沈めるとか色々話しあった。
基本的に俺達は自由行動、と言っても納得できる指示なら従う旨は伝えた。
だって宇宙で迷子になったら色々と面倒だしな。
多分大気圏突入も燃料次第で何とかなるけど…溶けるのと再生速度、どっちが早いか勝負!みたいな?…まぁ大気圏突入は周りの目があるからやらないけどね。どうやって帰ってきた?!とか言われても困るし。
宇宙に出たら偶に散歩(食材探し)に出るかな、自由行動してもいいんだし。
「それと食事の時間だが——」
「ああ、自分達の食料は自分達で用意してますので大丈夫ですよ」
「は?…失礼、でもモビルスーツに乗る程度の食料ではそんなに長くは持たないのでは?」
「予定通りの日数(20日程度)を過ぎるようなら頼ることにします」
「そうですか…分かりました。そのように手配しておく」
マリオンちゃんだけ食事してくるのはありだと思うんだけど…実はマリオンちゃんは実体化してる時に食べた感想だけど砂を噛んでるみたいで食べたくないらしい。随分ショックを受けてたけどね。好物のパンの耳フレンチトーストが食べれないって。
……マリオンちゃんの人間だった頃の生活を思い描くと涙が出そうだ。
「おい、あれが蒼い死神だってよ。まさかパイロットは女だったなんてな。恐ろしい女が居たもんだ」
「カイ、さすがに失礼だぞ。でもアムロ、蒼い死神のパイロットは男だって言ってなかったか」
「そうなんだ。間違いなく蒼い死神は男だった。通信した時も間違いなく。でも確かにあの子は…この感じ、似ている…が違う…というのも違う…半分?混ざってるのか?…分からない…それにモビルスーツも随分様変わりしてるし」
ホワイトベースの主力を担うアムロ、カイ、ハヤトの3人か。
どうやら戦ったことがある俺達を見に来たらしい。とは言え、俺達は戦闘を回避しようとしたぞ?攻撃を仕掛けてきたのはそっちからなんだから正当防衛だ!あ、でも連邦は遠慮なく叩き潰してたから成立しないか。
「ま、うちのエースのガンダムがまたパワーアップしたんだから今度は勝てるって」
「そんな楽観視は良くないぞ。聞いた話によるとこの前の南アフリカ戦ではほとんど1機でジオンを降伏させたんだぞ」
今聞き捨てならないことを聞いた。
NT-1のパワーアップだって?ジャミトフ情報ではチョバムアーマーによるフルアーマー化はアムロ本人との相性の悪さ(反応速度の低下と武装の減少)によって頓挫したはず、ならどうパワーアップしたんだ?
くそ、この格納庫にないのが残念だ。どうやら反対側の格納庫にあるらしい。
ちなみに南アフリカ戦で連邦も降したことは連邦の最高機密扱いになっている…士気にも関わるし、連邦のメンツにも関わるからな。
「さすがにデマだろ。モビルスーツ1機で勝てるほど戦争は甘くねーよ」
「それでも警戒するべきだ」
「でも今回は味方なんだ。正直やられかけた僕は複雑な気分だけど、敵じゃなくて味方なら心強いじゃないか」
「アムロまで…」
そりゃお前さんと共に戦うなら向かう所敵なし…と言いたいところだが現実は非情、某クロ助が言った『世界は、いつだってこんなはずじゃないことばっかりだよ!』と。
テクノロジーの発展は俺達とアムロだけでどうにかできるとは思えない。
いや、厳密には宇宙に慣れさえすれば俺達はなんとかなるだろうし、アムロもパワーアップしたNT-1である程度余裕があるだろう。
問題は母艦の耐久力だ。
宇宙において母艦の生存率はモビルスーツ隊の生存率でもある。
恐らく宇宙ではモビルスーツ同士の対決が待っているだろうが俺達は間違いなく自分達より数多くのモビルスーツと戦うことになる。
そうなると母艦のフォローに回れるかどうか…増援も見込めないし、頭が痛い。
死んでもらってもそれほど困らないけど一応協力体制である以上は生き残らす努力はするよ?仕事ですから…日本人の勤勉さは世界に誇れるぞ!(嘘)
背中からピチューンなんてティターンズじゃあるまいし…ん?俺達の協力者はそのティターンズだったような…
『マリオンちゃん、皆が怖がっているからここはやっぱり期待に答えてメガ粒子砲を1発お見舞いすべきだと愚考いたします』
『ブルーニーさん、それは本当に愚考だからしないでくださいね。絶対しないでくださいね』
『押すなよ押すなよの法則ですね。分かります』
『違いますから!』
何人か知っているキャラが俺達を見に来ていたが順調に宇宙へ旅立つことができた。
現代ではほんの一握りしか達成できない偉業がこの世界では飛行機に乗るのと変わらないレベルでしかないのはどうも納得がいかない。
ちなみに見に来た人間の中にはスレッガー・ロウとリュウセイ・ダテ…じゃなかったリュウ・ホセイを確認、ちゃんと乗ってたし生き残ってた。
ジョブ・ジョンは…ごめん、どんなキャラか忘れた。ギレンの野望だとヘルメット被ってて分かりにくいし…他にも金髪さんやミライさんなんかもいた。
「海中で移動するのに似てるから思ったより簡単に宇宙には適応できそうだな。海中移動するより遅いのがネックだけど」
「海中の方が抵抗があるのに不思議な感覚ですね」
現在実機でアムロと模擬戦中。
NT-1がパワーアップしたとは聞いていたがまさかフルバーニア風になってるとは思わなかったぞ。
恐ろしいほどの機動力で現代の人間感覚に伝わるように言うと小型な新幹線を相手してるみたいだと言えば伝わるだろうか?
遠目で見れば確かに見えるが実際捕捉するのはなかなか面倒で、いくら俺達でもその機動力に追いつける訳もなく、必要最低限の動きで相手の攻撃を躱して反撃するだけだ。
しかも模擬戦ということもあって接近戦用兵器は模擬用のものがないため射撃しか行えないもんだからニュータイプvsニュータイプもどきの戦い延々と終わらない。
最終的にはアムロの疲労と推進剤が尽きたことにより俺達の判定勝ちと相成った。
「こりゃしんどいな」
フルバーニアと同じ機動力なのか劣っているのか優っているのかは分からないけど、フルバーニアを上回る機動力を見せるヴァル・ヴァロはこれ以上速い可能性が高いのか…鬱だ。
ヴァル・ヴァロは0083に出てきたのにその存在は一年戦争に既にあったらしいから出てきても不思議はない…というか十中八九出てくるよな。
もっとも機動力だけなら俺の腕とマリオンちゃんのニュータイプの感覚でなんとかなりそうではあるけどな。
「もっと疲れているのはアムロくんでしょうけどね」
あの機動力、いや加速力というべきか?人間がよくあの速さ耐えられるよな。
模擬戦終了したのにアムロは帰ろうとしない…もしかして…
「アムロくんアムロくん、生きてますか?」
「……」
「返事がない、ただの屍のようだ」
「い、生きて…ます」
とは言っても息絶え絶えだけどさ。
仕方ないので格納庫まで運ぶと、アムロをコクピットから引き摺り出して医療室へ。
俺達はもうちょっとトレーニングをすると言って再び宇宙へ…近くにゴミが溜まっている場所があったので少々燃料補給に向かう。
残骸はセイバーフィッシュやサラミス、マゼランなど連邦のものが多い、ルウム戦役時のものかねぇ。
ザクもあるが形式とか分からないぐらいボロボロだからひたすら食べる。
セイバーフィッシュは名前からの予想通り太刀魚の塩焼き、サラミスはサラミ、マゼランは多分炊き込みご飯…恐らく混ぜご飯かな?旧ザクも食べたけどきゅうりとわかめの酢物だった。おまけにタコ多め。
適正上昇を期待したんだけどそんなには甘くないか、今のNT-1を喰えりゃあAにはなれるだろうけど…まぁ言っても詮無きこと。
『マリアさん、ブルーニーさん、そろそろジオンの影響圏内です。帰ってきてください』
「了解、帰投する」
「帰投します」
『気をつけて帰ってきてください』
そういえばスナイパーキャノンを装備してから初めて本格的に動いたが、それほど問題はないと思う。
正直機動力の差があり過ぎて狙えないんだよね。まぁそもそもアムロ相手に不意打ちだったとしても当てれるとは思えないけど。
絶対精神コマンドひらめき使ってるよな…いやひょっとすると愛かな?むしろ集中な気も…
格納庫に帰ってきてマリオンちゃんは少々お出かけ…お風呂があるので入浴を楽しみに行っている。
アニメならサービスシーンだろうが俺にはサービスシーンになりえない。
なぜか、改めて言おう!実体化してない時は裸であると!!
マリオンちゃんは実体化してない時は特に気にならないらしい…どういう心の構造をしているんだ?
俺は暇なのでホワイトベースにあるシミュレーターのデータをパチってプレイ中、ゲーム感覚で面白いがコレって訓練になるのか?Gすら掛からないって駄目だろ。
シャアザクのデータもあったが…こりゃ強いって言うよりただ単に映像が追いついてないだけなんじゃないか?実際俺達が対峙した時はこんなスピードじゃなかったしさ。
ちょっとお遊びで俺の劣化データ入れておこうかな。誰かやってくれるといいなー。
俺のデータにハードが追いつけず、シミュレーターが壊れたのは3日後のことであった。