第三十三話
マリオンちゃんは素顔バレしないためにしっとマスクを作ってお風呂に入ったそうです。
それってどうなんだ?というかどこで知ったのか。
他にも監視という名のストーカーが付きまとって、巻くのが楽しかったらしい。
ニュータイプを気付かれずに監視するのは至難の業なのだ。
ホワイトベース隊の若干の疲れを気にしなければルナツーへののんびりまったり旅路中…だった。
「ブリッジ!緊急だ!ハッチを開けろ!」
「開けてください!」
『ど、どうしまし——』
「いいから早くしろ!」
この感覚は——爆発か、間に合わなかったようだな。
『右舷エンジン被弾!』
「あちゃ〜よりにもよってエンジンかよ。狙いが正確過ぎだろララァさんかシャリア・ブルさんか他のニュータイプか知らないけど」
これで俺達やアムロが迎撃しつつルナツーまで逃げ切る手段は難しくなったか。
宇宙ってのは補給線が拠点と拠点をほとんど一直線で繋がっている。何故かと言うと障害物が少ないから…ではなく遠回りするとその分だけ有限である燃料が消費されるからだ。
そして俺達が襲撃されるのは肝心な補給線を守れないほどジオンが勢力範囲を広げているからに他ならない。
「もうちょっと警戒していればよかったかな」
「後悔先に立たず、失敗はモビルスーツの母ですよ」
「失敗は成功の母じゃなかったっけ?…あ、ハッチがやっと開いたな。出るぞ」
『え、まだ指示が——』
オペレーターしてたフラウ・ボゥにゃ悪いけど今は一分一秒どころかゼロコンマ何秒を争う事態だって———くっ?!
「やってくれる。まさかハッチから出る時を狙ってるとは」
「あれがブルーニーさんが言ってたビットですか、確かにあの小ささは普通の人には脅威ですね。私達ですらちょっと危ない…かも?」
「マリオンちゃん、実は余裕あるだろ」
問題は本体が何処に居るのかわからないこと…ん?ビットから糸のような何かが——
「あっちじゃないですか?ビットから何か出てますし」
「やっぱりそう思う?なら行ってみるべか…ってアムロ達大丈夫かね——ってアムロは大丈夫みた——あ、後続が」
死んではないみたいだけど誰かのジムキャノンIIが脇腹と右足、左腕、頭部を撃ちぬかれて宇宙を漂う。
ん、そういえばビットの数が多い——と、それより敵が見えてき…た?
「エルメス3機とブラウ・ブロ1機、ゲルググJ2機、それにケンプファー4機ってどういう編成だゴルァ!」
「ゲルググJはジャブローで見かけたやつですね…それにしても見事に新型ばかりです。味に期待!」
エルメス3機って誰が乗ってんだよ。
ララァ、クスコ・アル…あと一人誰よ。
そして都合よく通信傍受。
『アスナさん、貴女は若いのですから後ろから援護してください』
『ララァさんも十分若いですよ!』
アスナ?いつの間にネギま!とクロスしたの?…いや、最近の流行り的にはソードアート・オンラインの方かな?
「アスナさん…確かフルネームはアスナ・エルマリート、ニュータイプ研究所で一緒に訓練もしたことありますよ。そうですか、あの子が…」
それなら覚えがあるな。エコール・デュ・——なんだっけ?の主人公か、そういやサイド3生まれだったはずだから出てきても不自然はない。と言うかもしかしてジオン側初の主人公登場か?!
『ララァ、君も下がって援護するんだ。クスコ・アル中尉もな。前衛は私とジョニー・ライデンが務める。サイクロプス隊の方々は自由にやってもらって結構だ。シャリア・ブル大尉はエルメスの護衛を』
ええ、何このメンツ。
ニュータイプ5人はともかく真紅の稲妻とサイクロプス隊とか完璧に殺す気じゃないですか。
もしかしてホワイトベース隊や俺達がここを通ることを知ってた?……あ、オデッサ作戦前ってことはエルランが捕まってない?!
あいつの仕業かもしれないな。
「とか余計なこと考えてる場合じゃねぇな」
それにしても動き速いなーNT-1フルバーニア仕様も速かったがモビルアーマーも速いしゲルググJやケンプファーも速い…というか俺達遅えぇ。
一番辛いのは最前衛を務めるシャアとジョニー・ライデンのコンビだ。
アムロ達がビットの相手に苦戦していてこちらに未だ辿り着いていないことが問題でもあるのだが同色コンビが交互にヒット・アンド・アウェイを繰り返して俺達にペースを掴めさせない。
俺達の隙を狙うかのようにブラウ・ブロの有線メガ粒子砲が飛んでくるのも厄介で、反撃の機会が激減している。
「だから宇宙には来たくなかったんだ」
「もっと強く主張してくださいよ!それならもうちょっと考えて決めました!」
割りと本気で余裕がなくなっている俺達。
なによりモビルアーマー達だ。いくら機動力に優れていると言ってもあの図体だからビームライフルを数発当てることに成功したんだけど…まさかの、というか当然というか、ビームコーティングが施されていてダメージとなっていない。
アプサラスIIIがジムスナイパーの狙撃に耐えたのだから俺達のビームライフルを耐えれても当然だろう。
メガ粒子砲なら何とかなるとは思うんだけど、それが分かっているのか俺達の正面に入ろうとすると攻撃は一切せず、避けに転じるので攻撃の機会がない。
だからといってマシンガンに替えた所でダメージは期待できないし、そんな余裕もない。
「くそ、避けるだけで精一杯———お、アムロくんが突破してきたか…ありゃーホワイトベースはボロボロだけど」
ビットのビームは出力が小さいため、ホワイトベースに対しては若干攻撃力が不足しているようで致命傷とはなっていないようだがあっちこっち損傷しているのが見える。
「アムロ、こいつらは全員エース級だ。気をつけろよ」
『はい、僕にも分かります』
ニュータイプだもんな。何となく分かるよな。
「アムロの愉快な仲間達は大丈夫か、ビットはなかなか面倒な兵器だぞ」
「ビット?あの小さくて飛び回ってるやつですか?カイさん達は対応でき始めたので問題あり——ませんッ!」
さすが覚醒しきっていないとはいえニュータイプの端くれ、この短い間に対応しはじめたか。
アムロが囮として敵を引き付け、俺達が攻撃するという流れが自然と成り立ち、一番簡単に落とすことができるビットを集中して狙って相手の手数を削っていく。
でもビットは撃ち落としたら食べれないから残念だ。
「ブルーニーさん!」
あいよ!
ケンプファー1機のショットガンをアムロが撃ち抜き、俺達がコクピットをビームサーベルで貫く。
『ガルシアーーー!』
『くっ、これが蒼い死神か?!』
サイクロプス水泳部の人がお亡くなりに…食材的にはエルメスかブラウ・ブロがいいんだけどなぁ。
サイクロプス隊は仇討ちとばかりに俺達に集中し始めるのと同時にニュータイプ組はアムロに集中し、ジョニー・ライデンは俺達に向かってくる。
シュツルムファウストをバルカンで迎撃しつつアムロの方にも流れ弾を装って狙い撃ちして援護をする。
ぶっちゃけサイクロプス隊は強いは強いが機体的に強いだけで腕前はホワイトディンゴ隊より優れているわけじゃないので俺達の敵じゃない。とは言っても決定的なチャンスにはビットや有線メガ粒子砲が援護に入ってフォローされてなかなか厳しい。
アムロの方も肉体的にも推進剤的にも時間制限がある。
まだ通常なら余裕はあるだろうが今のような死闘を繰り広げる場合どちらも消耗が激しいだろう。
ジョニー・ライデンはあまり先ほどまでと違い接近戦は避け、援護射撃がメインとなっている。
「ヨシッ!」
接近戦を仕掛けていたシャアが乗るゲルググJの肩を消し飛ばして腕が宙に舞う。
ニュータイプに初めて射撃が当たったよ。多分アムロに集中してたせいだろうね。
続けてゲルググJの破損に動揺したララァが乗っているであろうエルメスのブースターを2つほど破壊することに成功するとシャア達は撤退を始めた。
サイクロプス隊はグズってたが最終的には撤退を開始した。
「これだけ戦って、倒したのはケンプファー1機か…挫けそうだ」
「今回の依頼は今まで以上に大変なことになりそうですね」
「全くだ……アムロ、大丈夫か」
『なんとか、それにしても本当にお二人は強いですね。あんな奴らを相手に無傷なんて』
「まぁ攻撃をしないならまだ凌げるさ。ただ攻撃するとなるとなかなかねぇ」
「アムロくんもご苦労さまです。赤い彗星とあの丸っこいのを相手にするのは大変でしょう」
『ええ、もう戦いたくないですね』
「だが現実は非情だった。多分補給したらまた来るぞ」
『ははは…本当に非情ですね』
「そういうものですよ」
ホワイトベースに帰ると…修理を手伝うことにした。
フリーメンテナンスな俺達とは違い、出撃していた他のモビルスーツ達はメンテナンスが必要で、ホワイトベースの補修を行うのにもモビルスーツがある方が効率的だから唯一動ける俺達が手伝うことになった訳だ。
ただ、アムロを先に帰してケンプファーをこっそり喰うことができたのは行幸、味はケバブのヨーグルトソースだった。
左舷エンジンはまだ無事で何とか前進できているがルナツーまではまだ少し遠い。
そういえばミデアとかミノフスキー型核融合炉じゃないからすっかり忘れてたが俺達が使ってるビームライフルをホワイトベースで充電(?)すれば俺達の燃料が消費されないことに気がついて現在充電(?)中だ。
補修作業を手伝ったからなのかホワイトベースの乗組員からのマリオンちゃんへの好感度がうなぎ登りっぽい。
人間と仲良くできるのは良いことかもしれないが、依頼が終われば敵になる可能性が高い人間と仲良くするのはあまりいただけないんだけどなー…素顔を隠しているのはシャアで慣れてるらしい…嫌な慣れ方だな。
補修をとっとと終わらせて早く休みたいです。
さすがに今回は精神的に疲れましたよっと…あ、酷くやられたジムキャノンIIのパイロットはリュウだということが判明、ご愁傷さまです。