第三十六話
そういえば俺ってブースターとかブーストって言ってるけど、フルバーニアって言うぐらいだから『バーニア』って言うのが正解なのだろうか?
ま、そんなどうでも良いことは置いといて…
「ビグロが痺れを切らして全面に出たか、機動力では既にビグロと五分…いや若干こちらが上回っているので問題はない——」
「他に敵が居なければですけどね」
その通りだ。
ゲルググJが補給のためか知らないがザンジバルへ帰投、代わりにビグロが前線へ、更にグワジンから出てきたヴァル・ヴァロも追加される。
エルメスとの距離が詰まった関係かビットの動きが俊敏になり、今までは味方の攻撃を逃げ惑いながら余裕がある時に撃ってきてた感じから味方の攻撃を先読みして最小限の動きで回避して撃ってくるようになってきた。
もっともビットがあまりに良いポジションにいるので予測しやすくて乱戦中にも関わらず既に6機のビットを落としている。もしかするとオールドタイプでも何とかなるかもしれない…この乱戦を耐えれたらの話だが。
機動力で優る俺達だが弾幕が厚過ぎて回避行動でかなり減速を強いられるため敵の中で一番遅いゲルググキャノンにすら追いつかれる始末、それでも被弾はなしだけどな。
Gなんて気にせず急旋回、急下降、急上昇を繰り返すと付いてくるモビルスーツの何機かは動きが止まる。
恐らくGに耐えられなくなって気絶したんだろうね。自分の力量を測れないあたり三流だな。
そういえばニュータイプって絶対Gに対して耐性があるよな。だってとんでもない躱し方してもGで気を失ったニュータイプっていないし。
あえてその気絶したモビルスーツの腕や脚を攻撃して、いかにも狙ってるよ〜というフリをすると敵の味方が慌てて救助する…これで損傷したモビルスーツ1機と完全なモビルスーツ1機がいなくなるんだから撃墜するよりは効率がいいはず。
敵は見殺しにできても味方を見殺しにできないよな。これが指揮を執っているのがシャアや紫ババァだったらともかくドズルだしね…見殺しとかできそうにないよな。
「ん、なんか敵の動きが全体的に悪くなってる?」
「みたいです。なぜでしょうか」
「お、チャンスッ!ッシャーーー!」
ビグロとヴァル・ヴァロが直線上に並んだ瞬間をメガ粒子砲4門で撃ち抜くことに成功、さすがメガ粒子砲、そこそこ離れている上にビームコーティングをも貫通するほどの高威力。
両機ともに沈黙…爆発しなかったから後で喰えたらいいなぁ、と夢見てみる。
ヴァル・ヴァロのハサミが付いたらVガンに出てくるコンティオみたいなのにならないかなぁ…手がハサミになったら嫌だな。
そういえばヴァル・ヴァロのプラズマリーダーって意味分からない仕様だよな、地面に固定しないと使えないとか…それなのに宇宙専用モビルアーマー…何処で使うんだよって話だ。
実は設定にないだけで大気圏内用だったのかも?仕方なく宇宙で使ってただけなのか…可能性はあるな。あの形でどうやって飛ぶか知らないけど。
「メガ粒子砲は初めて実戦で使いましたね。正直肩と胸では使い難いと思ってましたけど、あのような装甲が厚そうなモビルアーマーも一撃で落とせるなら有効な武装ですね」
「だな。燃費が悪いが一撃で沈めれるなら有りだ」
…気にしてなかったけどヴァル・ヴァロを操縦してたのはケリィさんだったのだろうか?いや、凄みを感じなかったから多分一般兵…だと思う…いやトクワンかデミトリーあたりかもしれないけど…ねぇ?
「ん?撤退を始めたな…何でだ?」
「何ででしょうね。ビグロとヴァル・ヴァロがやられたぐらいで撤退なんてするわけないですよね」
「そうだな…いや、撤退しないモビルスーツもあるな」
「あ、もしかして———」
<ドズル・ザビ>
「くそ、モビルスーツ単機相手ではビグ・ザムも本領を発揮できんか」
「ドズル様、ここは撤退すべきかと…」
「たった1機のモビルスーツごときに撤退だと!ジオンの威信を失墜させるつもりか!!」
「ですが現在出撃しているモビルスーツ隊のビームライフルのエネルギー切れや推進剤が底を尽きかけています!」
「さっき交代したばかりではないか!…仕方ない帰還したモビルスーツ隊と交代させろ。補給は完全でなくても構わん。前線維持を最優先にしろ」
「ハッ!」
とは言ったものの…姉貴が寄越してくれたニュータイプ部隊やシャアすらも苦戦するとはな。
確かあのモビルスーツは蒼い死神とか言われ、あの姉貴がビビって俺にまで忠告を入れてきた存在か…只者ではないとは思っていたが…なるほど、納得がいく強さだ。
あの機動力にあのメガ粒子砲をあのサイズに収められているとは信じられん、しかもあれが個人の持ち物だと?ありえんだろ。
本当はグワランより安全なビグ・ザムに乗る予定だったが蒼い死神が敵だと知ると部下達が蒼い死神なら最悪降伏すればジオンに帰れると言い、ビグ・ザムだと降伏が遅れて撃墜される可能性があるとも言われて止むを得ずグワランで指揮をしているが今回は正解だった。
「シャアを呼べ」
「ハッ……繋がります!」
『これはドズル中将、今から出撃ですがどうしたのですか』
「蒼い死神とかいうあの傭兵を倒す自信はあるか」
『…正直申し上げますと以前の奴なら数で押せば…と思えましたが今の奴はエネルギー切れを誘えば何とか、というところでしょうか』
ふむ、ガルマの件では許す気にはならんがシャアの戦闘能力は間違いない。
そのシャアが正面からでは勝てぬか。
それにしてもあのモビルスーツ、燃料やエネルギーはどうなっているのだ。
既にこちらのモビルスーツ隊はギリギリだというのにあちらは全力機動でなぜあれだけ動けるのだ。
「…退却を視野にいれたほうがいいか」
『むしろ被害が少ない今のう——』
「損害35%、ホワイトベースより砲撃?!陣形が崩れ——ああ!!ビグ・ザムに?!」
「なに?!」
「いやーブライトさんやるねー。めっちゃいいタイミングの艦砲射撃じゃん」
「おかげで陣形が崩れましたね」
「ビグ・ザムまでの道が見えたな」
全速力でビグ・ザムへ真っ直ぐ進む。
ドラッツェやゲルググなどが道を塞ごうとするが少数では俺達を止めれないぞ。
振り切ったり、ビームサーベルで胴を切り離したり、ビームライフルで落としたり、踏み台にしてみたり…黒い三連星じゃないよな?
グワジンに帰っていたはずのケンプファー3機が何処からか現れ、行く手を阻む…が、今の俺達のスピードを捕捉するには実弾系では難しくて問題なく振り切った。
元々ビグ・ザムの目の前に陣取っていたエルメスは…うん、逃げたね。一応メガ粒子砲とかビットを展開して攻撃はしてくるが…ビットはバルカンでテキトーに追い払い、メガ粒子砲は躱して問題ない。
そしてついにビグ・ザムの目の前にまで来た。
「これを倒せばアムロ達に後を任せて俺達は休憩するかな」
「え、この数を任せるんですか」
「まぁ何とかなるだろ」
「アムロさん達…ブルーニーさんの無茶ぶりを止められなくてごめんなさい…でも私も疲れました」
大気圏内とは違い、宇宙空間では360度に注意を払わなければならないし、ビットの攻撃も予測できるとはいえ回避には神経を使う…神経がないだろというツッコミは受け付けない。
数が多いだけでマリオンちゃんとの共有だけで、EXAMシステムは100%起動で済んでる。
ただいつも通りニュータイプが近くにいるせいで『ニュータイプは死ね!氏ねじゃなくて死ね!』と叫んでるが最近慣れてきた。
「とりあえずミサイルランチャー山盛りご注文のかたー」
あっちこっちへ20発ほど撃ち込んでみたが凹んではいるものの貫通に至っていない。
「集中して5発ってところか?」
「追加注文入りまーす」
加速を殺し、静止状態でミサイルランチャー発射。
「お、破れたな。ここで活躍の場が少ないアイアンネイ——」
「あ、信号弾です。えっと…降伏せよ?」
は?俺達が押してるのに降伏勧告?
え、なに?ドズルはボケたの?
「えぇードラッツェとエルメスが白旗揚げとる…しかもゲルググとか脚があるモビルスーツは真空土下座してるし」
「まさかの降伏せよって味方に対してだったんですねー」
え、なに、まさか白旗って標準装備してるわけ?Gジェネじゃあるまいし、白旗って…俺達、別に両軍の信号弾で分かるんだけどなぁ。
「グワジンから通信が来てますよ。受けますか?」
「ここで受けずに撃墜しようものなら俺達の信用はガタ落ちだろ。通して」
「了解」
『こちらジオン公国宇宙攻撃軍司令官ドズル・ザビだ』
「蒼い死神ことマリアです。よろしくお願いします」
ドズルが驚いたように若干目を瞬かせる。
『……まさか蒼い死神が女だったとはな。それで通信を受けてくれるということは降伏を受け入れてもらったと思っていいのだろうか』
「もちろんです。私達は信用第一、降伏した者に攻撃などしませんよ。あのまま戦っていれば勝てたのは私達ですし」
『そうか…それで俺達はどうなる?』
「そうですねぇ…とりあえずあのそちらの優先度が高そうなあのグワジンと貴方、巨大キャベツ、赤いゲルググ2機、実弾兵器を一杯持ってるモビルスーツ3機は返すことを確約します」
『巨大キャベツ…………連邦と相談しなくていいのかね。それと巨大キャベツではないビグ・ザムだ!!!』
巨大キャベツって言われるのはさすがにショックだったらしい。
必死過ぎ、ワロタ。
「私達に降伏してきた場合、連邦は不介入という契約していますから大丈夫です」
『その契約内容を俺達は聞いてもいいだろうか』
「後で許す限りのことはデータで送りますよ」
『それは助かる』
「それで私達の要求なんですが変なユニットを飛ばしていた芽キャベツですけど」
『芽キャベツはエルメス、飛んでいたユニットはビットだ』
「そのエルメスとビットを全部とザンジバル級1隻、コムサイあるだけ、今宙に浮いている残骸全てをもらえませんか?」
『…………エルメスはやれん…と言いたいところだが、ここまで優遇してもらってこちらの要望だけ通すのも仁義に反するか、全ては無理だがエルメス1機とビットはエルメスに内蔵できる数だけ、それと連邦にデータや機体を渡さないという条件で飲もう』
「分かりました」
まぁ実は最初からそれぐらいにする予定だったんですけどね。
商談をする時は吹っかけるもんだからな。
これでサイコミュGET!
「後ザンジバルやコムサイを動かす人員を選出してください。あ、人質ではありませんよ。地球に降ろしたいだけなんです。降りる先はそちらのインドネシア基地ですから降りればすぐ解放しますので地球に降ろしても問題ない人選をしてくださいね」
『分かった。手配しよう』
あ、ホワイトベースにも連絡入れておかないと……ミノ粉絶賛仕事中で通信できない。
「どうしよう」
「私達も信号弾を使えばいいのでは?」
「なるほど!!」