第三十七話
残骸回収してるフリをしながらむしゃむしゃと喰う、ヴァル・ヴァロの味だが予想が外れてカニではなく蒸されたロブスターだった。
ザリガニと言えばちょっとアレだけど、俺達に大事なのは味なので問題なし。泥臭さもないしね。
「そういえば面倒だけどマリオンちゃん、スカーさんにあのこと伝えといて」
「スカー?」
「傷の男って意味」
「ああ、ドズルさんですね」
白髪じゃないけど傷の男だから今度からスカーさんと呼ぶことにした。
「ドズル中将にお話がありますから繋いでもらえますか?」
『ハ、ハイッ!!』
オペレーターにめっちゃ怖がられてる。
そして怖がられてショックなマリオンちゃんの涙目カワユス。
『蒼い死神、話があるとのことだが何か問題があったか』
「いえ、私達の部隊はこの後ジオンのいくつかの小惑星基地を攻略する予定なのですが、退去していただければ楽なんですけど…これが予定している基地です」
『…攻略戦には貴殿も参加されると』
「ええ、傭兵ですから宮仕えなどより厳しい労働を強いられるんですよ。まぁ報酬には雲泥の差がありますけどね」
『分かった。各基地に退去を命じておく、基地自体はどうしたらいい?』
「私達は攻略が任務ですが占領は範疇外なのでご自由にどうぞ」
『了解した。情報感謝する』
「いえいえ、こちらも仕事は楽な方がいいですからね」
ドズルの苦笑いが印象的だったな。
さて、ザンジバルは俺達が乗る予定だから基地攻略が終わるまで(実質もう終わったも同然だけど)はこのまま随伴してもらうとして…コムサイは比較的使えそうな残骸を載せて先にインドネシアに降下して会社で修理してもらおう。
どうやらゲルググやゲルググキャノンはもちろんのこと、ドラッツェも統合整備計画の範疇らしいからなんとかなるだろう。
ただ宇宙専用機であるドラッツェにどれほどの価値があるのか…まぁギニアスがなんとかしてくれるだろう。決して丸投げではない、適材適所である!
残骸を(胃袋にも)回収したことだしザンジバルに乗り込み、ホワイトベースと合流。
『あのー木馬から通信が来てます』
「こっちに回してください」
『了解』
『マリアさん、これは一体どういうことだ!』
ブライトさん激おこぷんぷん丸。
「?何を起こっているんですか?ちゃんと電文を送ったじゃないですか」
そうそう、通信よりデータ量が少ない電文の方が長距離届くんだってさ。
『だから、なぜドズル・ザビを勝手に解放したりした?!ひょっとすればジオンと停戦ができたかもしれ——』
「言っておきますが」
マリオンちゃんの語気を強めた一言で怒鳴っているブライトさんは言葉を断つ。
「私達は現在貴方達と協力関係ではありますが私達に降伏してきた者の処遇は私達が決めます」
『しかし戦争を終わらせれる可能性をみすみす——』
「可能性を見出すのは勝手ですがこれは決定です。そもそも降伏してきた者の処遇に関しては契約で定められている私達の権利です」
『くっ——』
契約違反を行えば即報復、これが俺達と連邦、ジオンの関係だ。
バスクの行く末を知らないのだろうか?宇宙に上がりたての頃ならともかく、今はまだフルバーニア装備中だ。
ザンジバルを落とされるかもしれないが俺達は負ける気はしない。
『分かった。その件はいいとして、そのザンジバルはどうした』
「これは私達の戦利品ですね。ドズル・ザビの身柄、兵士の命、兵器の対価ですから安いもんですよ」
独裁者の家族ですからねぇ、しかも実戦指揮官だし。
『…ハァ、分かった。それでこれからどうするんだ』
「もちろん、仕事は続行ですよ。小惑星基地に向かいましょう。とは言ってもザンジバルを動かしてるのはジオン兵なんで信用できないでしょうからザンジバルの後ろに付いて来てください」
『了解だ。先行してくれ』
世の中って理不尽がいっぱいだ。代表は俺達だろうけど。
「ではジオンの皆さんに挨拶に行ってきます」
「ん、気をつけて行ってこいよ。危なく感じたら実体化を解いてでも逃げてこい。全員抹殺するから」
「はーい」
小さい子供のように元気よく返事するマリオンちゃん…可愛いけどさ、妙に不安になるのは俺だけか?
あ、そういえば後でスナイパーキャノンも回収しないと、後フルバーニアを報酬としてもらえるようにジャミトフなりイーさんなりと交渉も忘れてはいかんな。
『ブルーニーさんブルーニーさん、なんかドSなお姉さんがいました!ムチを持ってますよ!』
最近一般化してきたとはいえSなんて言葉どこで覚えてきたんだか…そしてなぜそれを喜々として報告してるのか。
『でもいい人っぽいですよ。過去に強く後悔するようなことをしてるっぽいですけど仲間のために必死に今を打破しようと頑張ってるみたいです』
ニュータイプはエスパーではないとかどっかの誰かが言ってたがあれは嘘だ。
実際マリオンちゃんは相手の強い思いを感じることができている。
言ってた本人がニュータイプとしてのレベルが低いからわからなかったんじゃないか。
『シーマさんって言うんですけどね』
「はぁ?!」
まさかのシーマ様降臨。
いや、ちょっと待て、落ち着くんだ俺。
そうだ、シーマなんてよくある名前だからな。
『あ、でも艦長はコッセルさんという方でシーマさんはモビルスーツにも乗れる司令官なんだそうです。エース級がなぜ私達と同行なんてするんでしょうね』
コッセルってシーマ様の副官の名前…いやいや、コッセルもよくある名前だから——
『あ、それとこのザンジバルの名前はリリー・マルレーンだそうですよ。結構いい名前ですよね』
アウトー完全にアウトー見送り三振って感じでアウトー…めっちゃ本人じゃん。
さっきの戦いでなんで出撃してこなかったんだよ。サイクロプス隊よりずっと強い人がなんで後方にいたんだよ。
あ、もしかして汚れ役だからドズルからも嫌われてた?だから出撃させなかったのか?
しかもシーマ艦隊の旗艦を俺達に寄越したわけか、シーマ様、怒ってるだろうなぁ。
『すごく褒めてくれてますよ。敵であるのを忘れて見惚れたって』
あれ?なんか想像と違う。
もしかして相手がマリオンちゃんだからか?
「ついでだからシーマ様も勧誘するか」
『なぜ『様』付け?でも勧誘するのはいいんですけど受けてくれるでしょうか』
「シーマ様はジオンのために戦ってる感じの人じゃないはずだから、生活と仕事さえ保証すれば大丈夫なはず」
『ということは原作に出てくる人なんですね』
「ん、頭も回るし有能だけど自分達の居場所を探して同胞を裏切り、裏切った先でも裏切られて死んだ人だな」
『裏切り…ですか、そんな人には見えませんけど』
「まぁその辺は気にしなくていい。汚い仕事を多くやらされて嫌気が差していた上に母国は敗北、自分が住んでいたコロニーは兵器化されて難民状態、残党勢力と合流するも安定した生活が手に入らない…ここまで来たら裏切りたくもなるだろ?」
『確かに…私、シーマさんの勧誘頑張ります!』
きっと以前の自分の境遇と重ねあわせているんだろうな。
ここでシーマ艦隊の何割かを社員に引き込めれば今まで俺達だけでやってきた傭兵家業が本格的に可能になるが、多分しない。
ジオンと連邦両軍から仕事が舞い込むのは俺達の圧倒的な強さがあってこそだ。
普通より多少強い程度では仕事になりはしないだろうし、下手をすると人質や後ろから撃たれて社員に余計な被害が出るかもしれないからな。
恐らく後方支援程度が関の山だ。
支援機の調達を視野に入れておくか、俺達なら後ろからの攻撃されても躱せるからな。
小惑星基地を周ると重要な設備を破壊した上でのもぬけの殻、楽ちん楽ちん。
ホワイトベースの皆さんは釈然としないご様子ですが、戦闘がないことは嬉しいらしくほのぼの空気だったけどね。
ルナツーに順次報告していくが毎回毎回攻略が早過ぎて訝しがられたが事実だから仕方ない。
ブービートラップの類は仕掛けられてなかったのはジオンの親切心か、それともただ思いつかなかったのか、どちらにしても楽な仕事になった。
そして現在、ジオンにおけるルナツー攻略戦は小惑星基地が制圧されたことにより中断され、俺達の仕事は終了となり帰路についている。
シーマから話を聞いたがどうやらドズルが率いていたのは通商破壊も兼ねた威力偵察だったようだ。
それとジャミトフと話し合った結果、フルバーニアは報酬として貰えることになり、今回は実入りが多い宇宙遠征だったな。
「それで嬢ちゃんの会社に入ればちゃんとした生活が送れるんだろうね」
「ええ、今のところ軍需産業ですけど、そのうちもっと事業を大きくする予定ですから戦争なんてしなくて良くなりますよ」
「まぁ戦争はそれほど嫌いじゃないんだけどねぇ…軍を抜けるのもそんなに簡単にゃいかないよ」
「大丈夫ですよ。いざとなったら武力行使で黙らせたらいいんですよ」
「あんたはいったい何処のヤクザだい?!」
言われてみればやってることはヤクザと変わらないか、イーさんとだって最初は命と引き換えで信用を得たからな。
「偽造か本物かは脱退の仕方で変わりますけど戸籍もちゃんとジオン、連邦どちらでも作れるので私達の会社に所属しなくてもいいとは思いますけどその場合は自己責任になります」
「キシリアのお礼参りや連邦に弱みを握られたまま野に出ても狩られるだけだろうから実質は一択ってことかい」
「そうなりますね。つまり現在のまま軍にいるか、それとも私達の会社で働くか…できれば私達のところに来てくれたら嬉しいなーとは思ってます」
「全く、若い身なりで逞しいこった」
「ブルーニーさんに色々鍛えられましたから」
え、俺ってなんかマリオンちゃんに教えたっけ?
「…正直ジオンのやり方にはついていけないからね。お嬢ちゃん達の強さに掛けてみるのもいいだろう」
「それじゃあこれからよろしくお願いします。あ、それと他の方の勧誘も」
「ああ、こっちでやっとくよ」
「ならこのリストに載ってる方は外してもらっていいですか、多分キシリアさんのスパイなんで」
「……なんでこんなリストがあるんだい」
「それは企業秘密です」
まさかマリオンちゃんのニュータイプ能力で識別したとは言えないわな。