第四十話
クリスマスも終わり、正月も過ぎて攻略作戦に向けてリリ丸に乗っている。
「それにしてもまさかキャリフォルニアベースを攻めるとはねぇ…嬢ちゃん達は戦略的観点があるのかないのか」
「全くです。キャリフォルニアベースを落とせたならジオンは地上だけに限れば大打撃と言えますが、正直この程度の規模の部隊で落とせるような防衛力ではないはず…相手が蒼い死神でなければ、ですが」
そう、次の目標はガルマが死んでギレン派とキシリア派の派閥争いの真っ最中であるキャリフォルニアベースである。
実は現在のジオンでは資源はオデッサとインドネシアと2分していて重要性が分散することで相対的にキャリフォルニアベースの生産力は最重要拠点となっているようだ。
その最重要拠点の主導権争いはなかなか決着がつかないらしく、司令官はギレン派で副司令官はキシリア派、立場的にはギレン派有利なはずだが地上のほとんどはキシリア派の影響下なので五分五分な争いになったようだ。
更にガルマの甘いと思われるような統治は功を奏し、ジオンが現地に受け入れられていた…だけどガルマが死んだことによって厳しい統治が始まり、反ジオン運動が活動し始めたようで土台そのものが揺らぎ始めている。
そうして重要度が増したキャリフォルニアベースの防衛戦力は細かい内訳は不明だが少なく見積もって600のモビルスーツと補助兵器2000はあるらしい。
原作では考えられない戦力だ。
さすが地球最大規模の工業地帯だ。
元々ジャブローは高い工業能力がある基地でしかなく、キャリフォルニアベースは本当に工業地帯で生産能力自体はジャブローを凌ぐ…が生産能力の代わりに立地上の問題で防衛能力はあまり高くないため、常駐部隊が多くしているのだろう。
そんなところに俺達は喧嘩を売りに行くわけだ。
「一気に攻め落とす訳じゃありませんから気軽なものですよ。簡単にいえばキャリフォルニアベースの生産能力を上回る損害を出し続ければ私達の勝ちです」
「……」
「……」
また極論を言ってるなーマリオンちゃんは。
シーマ様もコッセルも周りにいる兵士達も呆れているじゃないか。
今回は一気に攻略ではなく、少しずつ削っていく予定だ。
「ハワイ経由で行ければ楽なんだけどねぇ…連邦の水中戦力の弱さには呆れるわ」
本当はハワイを占領してからキャリフォルニアベースへ、というルートが俺達からすれば楽だったんだけども、水中戦ではジオンが一枚どころか三枚ほど上手なので取り返しても維持できるかわからないそうだ。
そりゃズゴックEやハイゴッグ相手に水中型ガンダムで対抗しろというのは無理がある。
新型を開発しているらしいがさすがに新設計のモビルスーツを開発するのは資金、資源的にちょっと厳しいらしい。
何処かの誰かが無遠慮に金を毟り取っていくからな、とジャミトフが言ってたけど…まさか俺達のことじゃないよね?
それは置いといて、今は南米ペルー…この辺に来るのは2回目だな。
中米当たりで1度補給してそこからは熱い戦場へ。
今まで他の部隊と共に戦ったことはあったが部隊を率いて…いや、できたてホヤホヤとはいえ同僚を連れての戦場なんて初めてだ。
以前は空輸だけに使っていたミデアやリリ丸がそのまま付いてくる。
しかも友軍としてミデアにゲルググキャノン6機、ゲルググ12機、リリ丸には何故かノリスさんからお土産として届いたゲルググJ1機(データ取りは終わってる)とルッグン・ツヴァイ4機、ドップ・ツヴァイ25機を搭載している。
陸上戦力はミデアに、航空戦力はリリ丸にと言う感じだな。
ちなみにドップ・ツヴァイの搭載数の多さはボックスを作ったからだ。
分かりやすく言うと靴が自動で出てくる学校の下駄箱のようなもので元々平面収納という効率の悪さを解決するためにマリオンちゃんとアイディアを出し合って会社に急遽作ってもらったものだ。
実戦投入はこれが初めてだがこの収納ボックスは燃料や弾薬も自動で補給できる優れものだ…もっともやはり機械がやることなので人間が最終チェックをしないといけないけどな。
これでとりあえず母艦の護衛能力を持ったわけだ。
リリ丸自体の攻撃能力もあるが…今回は間に合わなかったけどミサイルはやはり降ろそうかな?誘導が効かないし、効くようにすると単価上がるし、そもそもミサイルは単価が高いからメガ粒子砲か迎撃用の機銃の増設に回すようにギニアスに頼んどくか。
なんだか俺達、本当に傭兵家業してるって感じだよな。
『今のところ順調に進んじゃいるが何処まで進む気だい?あまり深入りし過ぎると嬢ちゃん達はともかく艦がやばいことになる』
「そうですね。とりあえず艦から降りて最寄りの基地に攻撃しかけましょうか」
『了解(まるで散歩に行くような気軽さだねぇ…軍を抜けたのは間違いかもしれないね)』
「大丈夫ですよ。今回の戦いで貴方達に被害を出させる予定ではありませんから」
『え、あ、うん(今、心を読まれた?)』
ゲルググ2機とゲルググキャノン1機を1個小隊として編成し、艦隊の護衛に1個小隊、後の5個小隊とシーマ様が乗るゲルググJを率いて基地へ前進。
ドップ・ツヴァイやルッグン・ツヴァイなどの航空戦力はもちろん艦隊の護衛。
そういえばリリ丸にミノフスキークラフトを付けて良いことがあった。何処でも離着陸できることだ。
日頃は垂直で離着陸できるミデアを利用してたから分からなかったがザンジバルって滑走する場所がないと離着陸できないんだよな。
基地がそこら中にあるわけではない俺達にはミノフスキークラフトは思った以上に重宝しそうである。
…あ、そういえばミノフスキークラフトも作って喰えばランクアップするだろうか?チャレンジする価値はあるな。
「さて、皆さん。今回傭兵部隊『突撃!パッパラパー隊』の初陣——」
『異議あり!さすがにそんな名前は許しやしないよ!』
『『『そうだそうだ!』』』
「ええーせっかく頑張って考えたのに」
マリオンちゃんのネーミングセンスがカオスだ…いや、ネタに走ってるだけだろうけど。お風呂入る時はしっとマスクだし。
「では部隊名は後で会議で決めるとして——初陣ですが、今回は見稽古です。私達の動きを見て参考にしてください」
((((((参考になるわけねーだろ))))))
今、共有してニュータイプでもない俺だけど、みんなの声が聞こえた気がした。
「では、行きます」
いってら〜…って俺も一緒だけどね。
基地へ突撃開始、レーダーに引っ掛かり警報が鳴り響く…が、ジオンの警報ってこんな音だったか?
ソナーがゲルググの足音を探知…今更だけど足音で識別できるなんて便利だな…数は5、いや6機か。
前線の基地だが、その役割は監視と警備だからこの程度の規模だろう。
「出てきた——な?」
「先頭のゲルググは白旗振ってますね。他のゲルググも土下座ですし兵士さん達も土下座してますよ」
……まだ戦ってないんですけど。
「あ、もしかしてさっきの妙な警報は…」
「私達専用の警報の可能性がありますね」
そこまで徹底するか普通。
権威とか信用とかさ、色々暴落しちゃいませんか?
『クックックッ…これは私達じゃ真似できないねぇ』
『さすが蒼い死神、死神通れば敵降る、ってか』
『違いねぇな、ガッハッハ』
ああ、マリオンちゃんが涙目で頬を膨らませている…萌え〜…てる場合じゃなかった。
「ほら、お前さん達、仕事が出来ただろう。とっとと取り掛かりな」
『お、今度は伝説のニート様のご登場かい?仲間なんだからいい加減姿を見せたらどうなんだい』
見せれるなら見せてるわい。
それとニート言うな。
「それ以上無駄口叩いてたら鉛を叩き込むぞ」
腰のミサイルランチャーをポンポンと叩いて言うとシーマ様以外は慌てて仕事を始めた。
『それで小さい基地とはいえ、ここを拠点に動くってことでいいんだね』
「ええ、連邦の方にも連絡入れてこちらに補給物資を回してもらうようにします。ただミデアはともかくリリ丸が入る格納庫がないのは問題です」
『お、ファットアンクル1機ありました。他にも弾薬の類も全力戦闘1回分はありますぜ』
幸先がいいな。これで輸送の余裕ができる。
ちなみにだがファットアンクルはジオンのミデアなんだがスペックは圧倒的にミデアの方が優れている。
生産性、整備性の悪さはもちろんだが積載量も少ないし、機動性も悪い上に値段はミデア以上と航空機に弱いジオンらしい機体となっている。
ただミデアより装甲が厚い点が唯一優れているんだが…ぶっちゃけローター破壊すれば落ちるんで装甲なんてあってないようなものだ。
「ならファットアンクルに捕虜を乗せて会社へ…というのは無理がありそうですね。ここからだと少し距離がありますし…」
『今から攻めるキャリフォルニアベースに引き渡すと敵が増えるだけだろうから…一時的に連邦に預けるといいんじゃないかい』
「んー…正直連邦もジオンも捕虜の扱いが悪すぎて預けるのは気が引けるんですよ。…捕虜は何人居ますか?後、ジオン正規兵と現地兵の人数も調べてください」
『了解しましたぁ』
まぁこの規模の基地だと多くて300人程度のはず、それをファットアンクル1機で運ぶには手間が掛かる。
…てか最近こういう処理に時間がかかり過ぎて話の進みが遅い。
「リリ丸から鹵獲ゲルググのパイロットの選出と鹵獲兵器らしくカラーリングの変更をお願いします」
『もう連絡してあるよ。リリー・マルレーン達はもうこっちに向かってる』
シーマ様はどうしてもリリ丸と言いたくないらしくリリー・マルレーンと言い張っている。
鹵獲した兵器は等しく青くしてるんだけど青いゲルググを見てるとガトー専用ゲルググを思い出す、なんか強そうなんだよね。
「せっかく地上でフルバーニアを使ってみようと思ったのにただ加速しただけで終わっちまったなぁ」
「ただ、地上では私達の機動力に追いつける機体は無いようなのでスナイパーキャノンを装備した方がいいですね」
確かに、宇宙ならモビルアーマーがモビルスーツを上回る機動力と加速性を見せるので加速する必要性があったが地上だとその必要はない。
「ゲルググにはフルバーニアが付けれませんし…」
『付けれたとしてもそんな化け物バーニアを付けたいってやつなんか居やしないよ!』
シミュレーターにフルバーニア仕様ゲルググの機体データを入れてみたんだが、見事に自爆するパイロットが続出。
シーマ様はギリギリ及第点だがそれは掛かるGが存在しないシミュレーターだからであって実際には遠慮するとのことだ。
そんなものがコウ・ウラキに使えるとは思えないので恐らくアムロ仕様のフルバーニアなんだろう。
さて、次は本格的に戦闘に………なるのか?