第四十一話
捕虜は面倒になったので基地に放り込んでおくことにした。
普通はメシ代に困るところだが…俺達が必要だと言った分だけ持ってきてくれる便利な財布がいるので存分に頼らせてもらおう。
とは言っても見張りどころか鍵も掛かってないんだけどね。
捕虜って言ったって俺達からすれば客みたいなものだし、あちらからすれば大人しくしてれば良い休暇になるってんでのんびりしている。
むしろのんびりが性に合わずに働きたいと申し出てくるもんで、自分達の食事は自分達で作らせたりしているんで世話が掛からなくて助かっている。
ゲルググ6機追加されたが、ファットアンクルを使うにしても3機は積載量的に乗せれないので基地の護衛をしてもらうことになった。
「では会議を始めます。まず最初の議題は攻略作戦の進行ルート……なんてどうでもいい話ではなくて、私達の部隊名です」
「いや、どうでも良くないんだけどさ…部隊名も大事だけど」
シーマ様というツッコミを手に入れたマリオンちゃんは対外的にも遠慮がなくなってきたように思う。
……元からそんなに遠慮してなかったか、若干人見知りだったのも初めの方だけだったし。
「では事前に匿名投票を行っていましたが、それを開票したいと思います。では1つ目『シーマ女王と犬達』…」
パンッ!という発砲音と同時に1人の男が倒れる。
発砲したのはもちろんマリオンちゃんである。
「安心してください。峰打ちです」
「いや、銃弾に峰はないだろ…それとなんであの男を撃ったんだい?匿名なんだから分かるはずが——」
「私にはわかるんです」
「……」
「……」
そりゃーニュータイプだから分かるだろうけど普通の人が聞いたらただの寝言か狂気の言動である。
ちなみに撃ってるのはペイント弾なので死にはしません。
「それでは続いて『這いよれ!マリアさん』…」
再び発砲音、そして倒れる(以下略
「……」
撃つのに容赦の無いマリオンちゃんの姿を見て慄いている皆さん…あらやだ、何この恐怖政治。
「次はもっとまともな名前だったらいいなぁ…『死神death夜露死苦』…んーギリギリセーフのアウトです」
どうやら銃殺は免れたようだ…が、マリオンちゃんの判断基準がどうなっているのかを聞きたい。
撃たれて倒れていた2人も起き上がって納得出来ないと抗議している、もちろん却下されたが。
と言うかさ、突撃!パッパラパー隊とレベルはあまり変わらんだろ。
もういっそのこと先取りしてロンド・ベルでいいんでない?
「『死神様御一行』『女王様のお通りだ!』『死神もまたいで通る(略して死にまた)』——パンッ!——『シーマリーニ』『青薔薇』『死神の本』——パンッ!——……あまりいい名前がありません」
「確かに、まさかこれほど酷い結果になるとは思いもしなかったねぇ」
「仕方ありませんね、やはり私が独断で決めるとしますか」
「ちょっと待ちな、こんな碌でなし共にもやり直すチャンスをやろうじゃないか」
「……ハァ、仕方ないですね。一度だけですよ?今度悪ふざけなんてしたら実弾ですからね?」
「「「イェッサー」」」
そして一日開けて開かれた会議を開かれたが、結局全てを却下したマリオンちゃんが独断で部隊名は『死神の陽炎』となった。
シーマ様が宇宙の蜉蝣と揶揄されてたと話したら何やら気に入ったようで、さすがに蜉蝣はちょっと嫌だったのか同じ読みの陽炎と俺達の異名である死神をくっつけたようだ。
ちなみにリリー・マルレーンことリリ丸もマリオンちゃんの独断で決定、最後の最後まで粘っていたシーマ様も色々と言い表せない程に大変なことになっている…南無。
「さて、この基地を落とす前に連絡を送ってたようなのでひょっとしたら攻撃してくるかも、と思ってましたがその様子はないようですので…むしろ近隣の小規模基地は早々に撤退しちゃってるそうですね」
「嬢ちゃん達の強さを前に少数で立ちはだかるのは無謀だから当然さ、私だったら辺境にあるっていうアクシズか木星に逃げるね」
コッセル達が頷いてシーマ様を肯定する。
しかしこれでは部隊としての実戦訓練ができない、このままでは休戦後の立場が危うい。
一応傭兵として名を上げていればモビルスーツを保有していても何も言われないだろうが、ただの会社がモビルスーツなんてものを保有してたら逮捕される。できるかどうかは別だけどな。
「私達の目的はあくまでキャリフォルニアベース…なんですがこのまま行くと激闘になる可能性が高いですね。困りました」
「それでも勝てるだろ?困ることなんてないだろう」
「最終的にはもちろん勝ちますよ?でも、あまり激しい戦いだとシーマさん達の損害が多くなる可能性が高くなります」
「それぐらいは覚悟の上だよ。変なところでお人好しだねぇ」
「いえ、シーマさん達が死ぬことが問題ではないんですよ。問題は損害が出るってことなんです」
「……なるほど、今までは蒼い死神は文字通り一騎当千の強さを示してきたが、私達が減らされ過ぎると弱点と見做されるわけかい」
そうなると会社の方へも何らかの工作、最悪侵攻されることもあるかもしれない。
でも逆に言えばシーマさん達が戦果を出せば会社も今まで以上に安全になり、傭兵家業も安定する…かも?
「とりあえず電撃戦を行おうと思うのですが——」
「その場合兵站が問題だ。補給が滞れば死ぬしかないからねぇ」
おおう、俺達は意識しなかったが人間の部隊って面倒臭いな。これが普通だけどさ。
「幸い母艦の数が多いですし、攻めて物資が切れたら戻ってきて、また攻めて…と繰り返してみましょう」
「長丁場になりそうだねぇ」
という訳で無人の小規模基地を無視して集結中の中規模基地に到着。
リリ丸やミデアからは降りて、徒歩でここまで来たが哨戒には引っかかっていないはず。
「攻撃開始」
森を跨いでゲルググキャノンの砲撃が始まる。
ガンガン6機分の砲撃が命中するが有効射程より若干遠くからの砲撃なんであまり被害は大きくない。
基地が慌ててミノ粉をばら撒くが既に座標が分かっているので砲撃は命中し続ける。
「なかなか出てこないですね」
「出てこないねー」
俺達は森で伏せて待機している。シーマ様とモブキャラ5名と共にね。
本来砲撃されてりゃ引き篭もらず撃退のために部隊を出すはずなんだけど…出てこない。
「蒼い死神が攻めてきてるってわかってるんだから出てこないんじゃないかい」
「私達は砲撃なんてしたことないんですけど…その可能性はありますね。でも降伏してこないあたり判断に困っているのかもしれません——あ、出てきましたね…ってドム?しかも黒い上に3機って…」
「黒い三連星かねぇ、こりゃちょっと面倒なことになりそうだねぇ」
ドム・トロピカルテストタイプ…じゃないな、ドム・トローペンじゃん。
さすが改修機、なかなか良さそうな動きをしている…欲しいな。
他にもゲルググ24機を率いてこちらへ向かってきている。
数はこちらが少ない、これは俺達だけで対処した方がいいかな。
「後ろの雑魚は私達に任せな。その代わり黒い三連星は嬢ちゃん達に任せていいかい?」
「大丈夫ですか?相手は4倍ですよ」
「この程度やらなきゃ死神の陽炎なんて名乗れやしないさ」
死神は縁起が悪いって最後まで文句言ってたのはシーマ様だったような気がするけどな。
「じゃあ任せました。多分それほど時間は掛からないと思いますから最低でも生き残ってくれさえすればいいですからね」
「了解、その代わりと言っちゃなんだけど先手はこっちがもらっていいかい?」
「かまいませんよ」
それにしてもゲルググばかりの中ドムってすっごい目立つな。
多分黒い三連星は自己主張が強いんだろう…戦場ではそういうやつほど死にやすいと思うんだけどな。
シーマ様達は回り込んで後ろから攻撃を開始。
『くそ、やっぱり待ち伏せされてるじゃねぇか!』
『そんなことを言ってる場合——』
『オルテガ!あ、蒼い死神だとぉ?!』
俺達も少し遅れてジオン軍の進行方向から堂々と攻撃を始める。
初手はいい感じにコクピットを貫けれそうな状態だったのでビームライフルで狙ってみたが狙い通り1人撃破。
後方に気を取られてたのでこちらに気づかなかったようだ。
これで連携は崩れるだろうし、士気は下がる。
シーマ様達も既に4機を撃破しているが数の差はまだあるので態勢を整えられると劣勢に追い込まれそうだがシーマ様と他2名が突撃して乱戦へ、残り3機は援護しているようでここからは姿が見えない…が、ニュータイプの能力で大体の位置を把握する。
『オルテガの仇!!』
『待つんだ!マッシュ!!』
俺達と正面から1人で挑むとはいい度胸だ!…ってどこの敵役だよ。
度胸は認めるけどさ。
「所詮3人揃ってのエース……1人だと熟練した兵士程度か」
ビームライフルを躱してヒートサーベルで斬りかかってきたのは見事だけどシールドをコクピットに叩きこんで潰す。
最近出力が上がってきてこういった攻撃でも有効打になるようになったんだよ。
「さて、ラストは——土下座かい!!それでいいのかガイア?!」
『どう見ても勝てないんだから仕方ないさ』
「そちらも終わったんですか」
『ああ、嬢ちゃん達が黒い三連星を倒してくれたおかげで思ったより苦労はしなかったよ。こっちの被害は小破1、中破1ってところかね、負傷者はいないよ』
ジオン軍のゲルググは無事なものは土下座状態でコクピットからパイロットが降りている最中だった。
思わぬ敵が出てきたが案外楽勝だったな。
「とりあえず今回の戦果はこれでいいか、基地に帰るとするか」
「そうですね」
『了解』
ゲルググキャノンの砲撃を止めさせ、リリ丸達を呼び寄せる。
もし察知して更なる攻勢を仕掛けてくるなら遠慮無く狩るつもりだったが出てこず、鹵獲したゲルググの総数は15機と残り残骸を運ぶためにリリ丸達が何回か往復する必要があったがそれも無事終了し、仮宿へ帰ることとなった。