第四十二話
持って帰ってきたゲルググを青く塗装して実戦投入…といきたいところだが熟練パイロットは品切れしたので新人パイロットを後方支援がメインのゲルググキャノンの半分に乗せて、熟練パイロットがゲルググに乗る。
ただ艦の積載量的に戦力がオーバーしたので熟練パイロットが居残り組になるので実質戦力低下である。
しかし交代要員ができたと考えれば良いことでもある。
初陣は人的被害はなかったが戦場なんていつ死ぬかわからない、ストックは何人居ても困らない…金があるかぎりは、だけどね。
まぁシーマ様とコッセルの替えはなかなか居なさそうだけどね。
「連邦の補給部隊を確認しました」
「報告ご苦労さまです。到着予定時刻は…偵察に出て、今ということは1時間ほどですか」
「はい、そのぐらいかと」
「わかりました。下がっていいですよ」
実はマリオンちゃんってめちゃ忙しい。
シーマ様が補佐しているとはいえ、シーマ様も『部隊』の運営はしたことがあっても『傭兵部隊』を運営したことはない。
今回こそ兵站は連邦任せでもいいがこれからは兵站も自分達で行わないといけない。
つまり良い勉強というわけだ。
「書類仕事多すぎます。ブルーニーさん手伝ってください」
「あいにく俺のサイズじゃ書類仕事なんて無理だって、データ化してくれれば多少は手伝えるがそれだってデータ化する手間を考えれば微妙だぞ」
「わかってますよーちょっと八つ当たりしたくなっただけです」
八つ当たりしながらも手は止めず、書類を確認して判を押したりサインしたり計算したりしている。
弾薬の消費量から補給物資の要求する量を割り出したり、モビルスーツのメンテナンスや捕虜の様子、部隊の要望書など様々な書類がある。
まぁ慣れてないから大変なだけでそのうち片手間で出来るようになるさ。
「シーマさんとコッセルさんに権力分散させようかなぁ〜権力の分散は腐敗の原因となるけど、圧倒的武力があるんですし問題ないですよね」
マリオンちゃんがいつの間にか本当にヤクザになってる気がする。
それでも可愛いから俺は許すし、誰かが許せなくても力で黙らすし…あれ?もしかしてというかやっぱりというかマリオンちゃんがこうなったのは俺のせい?
「どうせ全体指揮はシーマさん、戦場に出てる場合はコッセルさんが指揮するんですし——」
「嬢ちゃんいるかい!」
「はい、居ますよ。どうしたんですか?」
ちなみにマリオンちゃんはブルーディスティニーの掌で仕事してます。
最近会議や仕事で定番化しつつある。
「ジャブローから緊急連絡があった。どうやらジオンは前回のジャブロー強襲が成功したのに味をしめたらしいね。アプサラスを作ってジャブローにもう一度強襲したってさ」
うひゃー止めを刺しに来たねー…本格的にジオンの勝利エンドか?
「それでどうなりました」
「強襲という意味では防衛網を突破したんだから成功と言っていいかもね、。でも連邦も対策してたようでアプサラスのメガ粒子砲が通じなかったらしい。多分ドズル肝いりのビグ・ザムが装備しているというIフィールドってやつだろうさ」
マジでか、Iフィールドジェネレーターを基地に施したってのか?!
あ、でもモビルスーツに載せるのとは違って基地に設置するだけなら大型でもいいしエネルギーなんてどうとでもなるから問題は少なそうだな。
空中砲台であるアプサラスはIフィールドの内側に入ろうとすると高度を下げる必要がある。そうなれば落とすことも容易になるだろう。
なるほどねー、よく考えたもんだ。
「ビーム兵器しか搭載してなかったアプサラスIIIは袋叩きにあってあえなく撃沈、他の強襲部隊も数を減らしながら撤退中…で、ここからが問題さ」
「……あ、撤退中の強襲部隊がここを通る可能性が高いですね」
ジャブローから移動した北米に移動するなら俺達と同じ道を通ってくる可能性は高いだろう。
「防衛戦の準備を始めるかい?それとも尻尾巻いて逃げるかい?」
「いえいえ、商売の準備を始めましょう。前回と同じような無理な強襲なら補給とか修理などが必要でしょうからモビルスーツと交換すればなかなかの利益がでそうですね」
「……これが世に聞く商い魂ってやつなのかねぇ。何にしても心強いには変わりないけどさ」
「それではちょっと私達だけでキャリフォルニアベースまでの基地と近隣の基地へお宅訪問するとしますか」
「まさかとは思うけど、効率良く補給物資を売るために?」
「その通り、ちょっと物資を拝借してこようと思いまして、シーマさんはこの基地で防衛戦の準備を始めてください。幸い、空からの強襲ですから砲戦仕様のモビルスーツはそんなに多くないでしょうから一方的な戦いができそうですよ」
「なるほど、射程ではこちらに分があるってことかい。それなら戦闘になったとしても勝算はあるねぇ」
傭兵兼闇商人の本領発揮ですな。
問題は交渉を受け入れずに戦闘になった時だが…まぁどうにかなるかな。
1度目の強襲は意表を突けたからよかったが今回は連邦も警戒していただろう、そうなるとそう多くない戦力でしか強襲はできないと思う。つまりこれから来る強襲部隊は100機は超えないという程度の戦力、十分余裕…ってなんか感覚おかしくなってないか?俺。
40対100なんていう戦闘は本来成り立たないだろ、それこそモビルスーツみたいな兵器の革命を起こさない限り。
ただ、あら不思議俺達が戦う1対100程度ならどうとでもなるから不思議なもんだ。
「ルッグン・ツヴァイ…もう面倒なんでルッグンにしますけど…で偵察は怠らないように、強襲部隊を発見次第交渉と私達へ報告をお願いします」
これからルッグン・ツヴァイがルッグン、従来のルッグンはザクに倣って旧ルッグンとする。
「了解、どうせモビルスーツの足じゃどんなに急いでも戦闘もあるだろうから4日は掛かるから問題ないさ」
「それならミデアを一度会社に返して補給物資を追加しましょう」
「しばらく使う予定もないから賛成だ」
実はミデアとザンジバルでは速度が違い、ミデアの方が速くて最高速度で積載無しなら会社まで1日で着くので積載ありでも2日で帰ってこれる。
これは最短の空路を通った場合だから多少遠回りしても大丈夫なはずだ。
この辺は万能艦のデメリットだな。ギレンの野望で使いような万能性はなく、大気圏にしても宇宙にしても専用の艦には劣る。
まぁでもホワイトベースとスペック的にはそれほど変わらないあたり航空機に弱いジオンにしては頑張ったほうだとは思うけど。
「あれ?でもアプサラスのデータが連邦に渡ったらやばくね?」
「ブルーニーもいたんだったね。それなら大丈夫だ。跡形もなく破壊されたらしいからねぇ」
あの破壊力と装甲だからな、手加減なんてしようとは思わなかったんだろう。
それをほぼ無傷で倒した白い悪魔はさすがです。
「それでは早速出撃しますので…この書類をお願いしますね!」
シーマ様にドサドサドサッと書類を放り投げてコクピットに乗り込む、もちろんシーマ様は色々汚い言葉を発しているが聞く耳持たず。
基地巡礼をしていると以前友達に誘われた八十八ヶ所巡礼を思い出した。
あれで新しい自分が見つかるとしたら絶対ドMの自分だと思う、あの時は本当に後悔した…まさかあれほど歩かされるとは。
そういう意味では目的があるのでこちらの方がマシだけどな。
「ミデアを全部行かせたのは間違いだったな」
「そうですね。基地を落とすのはともかく奪った物資をどうやって運搬するかは考えてませんでした」
仕方ないので現地のジオン兵にモビルスーツでコンテナを運ばせているが移動が遅いのが難点、一応ゲルググなんだけどやっぱりモビルスーツは移動にはそれほど向いてない。
いっそモビルスーツ用のバイクでも開発するか?…そういやVガンで似たようなものがあったな。
「おかげで基地巡りは予定していたほど回れそうにないな」
「ですねぇ…あ、私達の部隊のルッグンですね」
『こちら死神の陽炎偵察隊3番機です。ジオン強襲部隊をルッグン2番機が捕捉、取引を申し出たところ返答は了承とのことです。責任者はケリィ・レズナー大尉という方だそうです』
大物の名前が出たな。宇宙で落としたヴァル・ヴァロには乗ってなかったらしいな。
「強襲部隊が基地に辿り着くのはいつ頃ですか」
『12時間後になりますが到着時刻が夜中であるため、恐らく取引自体は17時間後になるかと思われます』
ん、十分間に合うな。
「わかりました。ところでミデアは基地に帰ってきましたか?」
『はい、既に帰ってきています。こちらに派遣するようにしますか』
「お願いします」
『了解しました。すれ違ってはいけないのでこちらでお待ちください』
しばらくするとミデアが到着、ジオンのパイロット達にゲルググから降りてもらってゲルググもミデアに載せる。
各基地からゲルググを2機(コンテナを運ぶために)提出させて他は見逃した……まぁ近いうちに全部徴収するかもだけど。
おかげでゲルググ12機も増えたんだけど…後で何処かに売っぱらうか。
基地に帰り、一晩過ぎてケリィ・レズナーと面会。
「初めまして、傭兵部隊死神の陽炎運営者蒼い死神ことマリアです」
「あの蒼い死神と会えるとは光栄だ。私はケリィ・レズナー、この部隊を率いている者だ。それで補給をさせてもらえるとのことだが」
「ええ、もちろん対価は頂きますが出来る限りの補給はさせてもらいますよ」
マリオンちゃんが合図を送るとトラックが物資を運んでくる。
「トラック3台分でゲルググ1機でどうでしょう」
「……わかった。ただ負傷者の治療をお願いしたい」
「それぐらいはサービスしますよ。何でしたら負傷した方々はこちらでお預かりしましょうか?ジオン兵の捕虜は沢山いらっしゃるので私達の用事が終わり次第ハワイあたりで解放しますよ」
「なぜジオン兵が捕虜に…」
「それはもちろん私達が基地を落としたりしてるからですね」
それを聞いたケリィは頬を引き攣らせる。
まぁ普通に考えたら自国の兵を捕虜にしている敵が有料とはいえ補給してくれるなんてありえないよな。
「私達は大義のために戦ってるんじゃありません。稼ぐために戦っているんですから無駄に人殺しなんてしませんよ」
遠回しに『お前らみたいな無闇に人殺しなんてしないぞ』って言ってるんだけど気づいただろうか?
「……わかった。負傷兵を預ける」
「では、早速補給を始めますね。それとモビルスーツには誰も乗せないでくださいね。勝手に動かれると撃ちますからね」