第四十三話
補給は割りと簡単に終わった。
対価はゲルググ4機、補給の対価にしては本来は貰い過ぎなのだがこれも商売…そもそも近隣のジオン基地の物資が切羽詰まっているから補給が受けられないというのが主な原因。
一体誰がそんな酷いことを…
「俺達の戦力は合計44機になったわけだが…始めは19機だったのにどうしてこうなった」
「必要以上に(?)恐れられた結果、降伏の割合が増えたのが主な原因ですね。今までコクピット周りの修復は面倒だったので売ったり解体したり部品取りにしたりがメインでしたがこ
こに来て一気に新規モビルスーツが増えましたね。おかげで部品が品切れになりそうですよ」
「その時はどれかをバラすしかないだろうな」
予定より戦力が増えたせいで色々大変なことになっている。
武器弾薬は俺達の戦闘を増やすことで調整できるが整備に関しては最低限は行わないとモビルスーツ自体が使えなくなる可能性もあって頭を悩ませる事になったわけだ。
「ケリィ大尉を引き抜けなかったなぁ」
「残念ですね。大尉という階級ですから事務仕事も期待できたのに…」
ジオンは大将、中将がザビ家独占しているので連邦の佐官はジオンで言う尉官上位にあたる。
まぁ原作を見ている限りモビルスーツ乗りが佐官だったりするあたり、多分だけどモビルスーツ乗りの階級と本来の意味での階級とは別にあるんじゃないかと思う。
「その代わりと言ってはなんですけど、基地にいた捕虜の方達を引く抜くことに成功したので仕事は楽になりました」
ここのところ捕虜という立場ではあるが平和に過ごして戦争が馬鹿らしくなり、今回のジオンの部隊に補給物資を取引している俺達を見て心が動いたらしい。
基地の責任者であった中尉を始め、その側近や一般兵なども合わせて134名を雇用した。
戦争という名の狂気の中で平和という甘美な一時を感じたら再び狂気に戻りたいとはなかなか思えないものなんだそうだ。特に戦場に直接立たない指揮官や事務係は。
「ケリィ大尉」
「これはマリアさん、何か用で?」
「ええ、一応話しておこうと思って」
「いったい何をですかな」
「私達はこうやって貴方達に補給していますが、現在連邦の依頼でキャリフォルニアベースを攻略しようとしています」
それを聞いた瞬間ケリィが険しい顔になる。
そりゃ自分達の重要拠点を攻略する予定だ、なんて言われて心穏やかな奴は居ないだろう。
「ではなぜこのような補給を?」
「私達は軍人ではありませんから現在敵対していますが、ジオンも大事なお客様ですからね。それに連邦との契約はあくまでキャリフォルニアベースの攻略であり、ジオンの全滅ではあ
りません」
「……なるほど、貴方達は死の商人達と同類というわけですか」
嫌悪感いっぱいの表情でマリアを見る…が人殺しで給料もらってる軍人もあまり変わらないだろ常考。
「それでですが、私達的にはこのまま攻略し続ければ多大な利益が手に入るのですが、正直それをやるとジオン軍は干上がってしまいかねないですからモビルスーツをある程度…そうで
すね、100機ほどのモビルスーツを残して撤退するように上の人達に伝えてもらえますか?もちろん施設破壊はしないでくださいね」
「バカな!!そんなバカげたことなど伝えれるわけないだろう!!」
普通ならそうですよねー…でも——
「私達なら許されるんですよ。多分ですけどね」
「……蒼い死神の名はそれほどのものなのか」
「まぁ私達は連邦ジオン合わせて500機以上を損失させましたから、それと——」
ケリィが腰にぶら下げていた銃を引き抜きマリオンちゃんに突きつけようとする、がマリオンちゃんはその腕を取りケリィの懐へ入り、一本背負い。
「私は生身でも強いですよ?」
ケリィが手にしている銃を包むようにするマリオンちゃん、次の瞬間バカンッ!という音と共に銃が破砕される。
今まで発揮することはなかったマリオンちゃん実体化の異常、どうも肉体が世界最高記録と同じ事が出来るらしいというものだ。
ちなみに根拠は100m走などが同タイムだったからなんだが…どんなフォームでも同じ記録が出るという謎仕様も存在する。
まぁこの異常を知ったのは最近なんだけどな。
会社で荷物運びしてる時に明らかに男の軍人ですら持てそうにないものを運んでいたからわかったんだけどな。
握力なんて計測不能だし…握力計が壊れるとは思わなかった。
冗談でフライパンを渡したら軽く丸められてしまったのはいい思い出だ。……おかしいな、純チタンだったはずなんだが。
「それとそこから動くなよ」
マリオンちゃんがケリィと離れてからの〜〜〜……俺からの愛だ、受け取れ。
バルカンの雨を降らせる。
動いてなかったら生きてるだろう……うん、生きてるっぽいな。というか気を失ってるな。
「マリオンちゃんに危害を加えようなんて輩は今回が初めてだなーいつかはあると思ってたけどさ」
「ですねー…ただ負ける気がしません」
そらそうでしょうね。
スペックだけなら人類最強だろうし。
「とりあえずこいつはここで放置するとして…また後で話さないとな」
「そうですね。無益な殺生…いえ、無益ではないですが殺生は少ない方がいいですし」
最初からジオンに伝えておけばいいだろ、と思うかもしれないがシーマ様達の実力も知っておきたかったというのもある。
本当は最後まで落とすつもりだったんだけど…一体どれだけの話数が…ゲフンゲフン、随分時間がかかりそうなので計画を断念した。
何より思ったより兵站管理が面倒過ぎる。
「まぁさすがに地上随一の生産地区をそう簡単に手放すかどうかも疑問だけどな」
「ですね。それに現場の人達が言うことを聞くかどうかという問題もあります」
言えれるな。
今までそういったことはバスクの裏切りぐらいしかなかったとはいえ、これからも十分気をつけなくちゃいらん被害が出るかもしれんし…もっともいつまでも過保護にしておくわけに
もいかんげどな。
結局降伏はしない…というより徹底抗戦の構えのようで、引き篭もっても勝ち目がないと踏んだのか大軍でこちらに向かっているご様子。
ルッグンからの報告ではガウやギャロップ、ダブデなど多数の艦艇がこちらに進行中、そして俺達はその進行ルートを眺められるような山に陣取っている。
「では本邦初公開!スナイパーキャノンの実力を試してみよう!」
「わぁーパチパチ」
『…楽しそうだね。嬢ちゃん達』
シリアスな空気なんて出してたら数的にこちらが負けフラグ立っちゃうじゃないですか。
シーマ様達もこちらで待機、俺達にとって基地は守る場所でも帰る場所でもなく、ただ休むための仮宿でしかないので敵が来るってわかっているのに仮宿で戦うわけがない。
「という訳で撃つべし!撃つべし!撃つべし!」
スナイパーキャノンの有効射程ギリギリからガウは翼を、ギャロップとダブデはブリッジを狙い撃つ。
ギャロップやダブデは足を止め、ガウは墜落して息の根を止めた。
「航空機って想像以上に脆いですね」
「ああ、そういう意味ではミノフスキークラフトは有効だよな。翼がなくても…いや最悪ブースターがなくても浮くだけならできるんだから」
墜落なんてすればモビルスーツがどんなに優れていても意味が無い。
護衛していたゲルググ達が慌ただしく艦艇を守ろうと壁になろうとする。
「でもそれは俺達がブリッジを撃ち抜いた腕で無謀と気づけよ」
次々盾の隙間を狙って沈黙させていく。
ちなみに盾は初期型のゲルググが装備していた身体全体を隠すようなものではなく、それの半分ほどのサイズの盾である。
大気圏内であの大きな盾が持てるわけがない…持ってたらそれだけで機体がオーバーヒートする可能性がある。
実際うちのシーマ様を除くゲルググ達は同じ盾を装備している。
ゲルググJはそもそも高機動が売りで盾は用意されていない、というかシーマ様がいらないって言って聞かない。リスクあるのにねー。
「よし、ガウは6機、ギャロップ6機、ダブデ3機、ファットアンクル3機沈黙、ゲルググも21機はやったかな」
『……何なんだい、この戦い……いや、虐殺は』
「いやいや、虐殺って…俺達の方が数が少ないんだから兵法と言って欲しいね。さて、ゲルググキャノンの砲撃でトドメを刺すとしようか」
『その前に降伏勧告した方がいいんじゃないの、これじゃ戦う気も起きないだろうさ』
「んーでも敵対したやつには容赦はしないってのが俺達の方針なんだけど…」
『下っ端まで戦う気があるのかどうかという疑問もある。それにそうは言っても蒼い死神は寛容だって噂も流れてるから乗っかっちゃった方が後々聞いてくるんじゃないかい』
「そこまで言われたら降伏勧告はするか、拒否されたらその時は…」
『ああ、そこまで親切にする義理はないだろうね』
「じゃあ責任をもってシーマさんが降伏勧告して、事後処理もお願いしますね」
『…なんだか凄い地雷を踏んだ気がするねぇ。了解したよ』
シーマ様がなんだか丸くなってる。
それにしても降伏してきたら…艦艇全部沈めちゃったからどうやって運ぼうかな。
ミデアで運ぶのが手っ取り早いが再びそう時間を置かずして戦場になる場所にただの輸送機を呼ぶのはリスキーだな。とか思ってたんだけど結局降伏されて荷物運ぶのに苦労するから
ミデアを呼んで運んだ。
艦艇の残骸は美味しくいただきました。
ガウは巨峰で甘くて美味しく、ギャロップは馬刺しで人間の時でもあまり食べれなかったので嬉しかった。
ファットアンクルはぼたん鍋でこちらもなかなか美味かったがダブデはなぜか豚足……別にそれほど食べたいとは思わなかったがスタッフ一同で美味しくいただきました。
ルッグンやドップ(ドップ・ツヴァイのことね)などの航空機は狙撃で落としているうちに逃げていた…それでいいのか?
「これでまた管理が面倒になるな」
「そうですねぇ…でもシーマ様が頑張ってくれるらしいので少し気が楽です」