第四十六話
そういえば前回、俺の実体化はマリオンちゃんの願望によって手に入れたと言ったことを覚えているだろうか。
その理由は1人実体化しているのが寂しい…なんて理由ではない。
ましてや逢引がしたいなんて理由でもない。
本当の理由は!!
「ブルーニーさ〜ん、書類追加来ましたよ〜」
働け!!ってことですね。分かります。
24時間働けますか?働けます!を地で行く俺達であるからして労働力的には3人分ぐらいの仕事をするはめに…
俺が思うにこの前、サイズ的に書類仕事なんて無理!って言ったのがフラグだったんじゃないかと思う。
「ブルーニーさん、手が止まってますよ」
「イエッサー」
まさかモビルスーツになるってだけでもビックリなのに、その身体で書類仕事させられるなんて思いもしなかったよ。
唯一の救いといえば計算系だな。どういう仕組か分からないが計算するまでもなく答えが勝手にでるのだ…もしかしてこれもマリオン特典か?
日常的な書類仕事は基地の司令官を引き抜いたことによって解消されたが、戦闘後の書類仕事は未だに多い。
降伏される度に仕事量が跳ね上がる、と言うかもしかしてこうやって俺達を攻略しようとしているのか?!?!…いや、ないか。
実は捕虜が増えすぎて食糧難が起こっている。
仕方ないので休暇中ではあるが暇で金がない社員を集って、以前無視していたもぬけの殻となった小規模基地にミデア2機にゲルググ2個小隊、ミデアの護衛にルッグン1機とドップ6機を付けて派遣することにした。
食糧や弾薬などの物資がない確認させるため…簡単な宝探しかな。
敵が居たら戦闘をせず引き返すように言ってあるから大丈夫だと思うが、最低ミデアとルッグンは帰ってきて欲しいものだ。
ちなみに宝探しの成果次第では特別ボーナスが付くのでやる気満々である。逆に不安でもあるがね。
もっとも補給までに足りない食糧は1日程度であるからして今から配給量を制限すればそれほど苦にならない程度の食事で乗り越えられるだろうけど。
「母艦の確保ができたおかげで輸送能力が上がりましたけどダブデの遅さは何とかならないんですかね」
ダブデはビッグトレーと同じく移動司令部としての役割がメインとなっているのだが、ビッグトレーとの決定的な違いはその機動力にある。
ここでも技術的差が……と思ったがどうやら違うようだ。
連邦は豊富な資源を思う存分使うことによりあの大型陸上艇をホバーさせるほどの燃料が使用できるが、ジオンはそれほどの資源がなくて仕方なくキャタピラを採用しているようだが…傭兵からすれば機動力が無いためお荷物な感は否めない。
しかも共通部品規格外ときている。本格的にいらない子である。
「ジオンに売れるなら売っぱらうが…売れ残ったら会社の防衛用兵器に転用するか」
いっそ機動力は最低限にして移動砲台に…いや、熱帯雨林な会社の周りでは運用しづらいか?
今のところジオンも連邦も俺達の会社に手を出してきていないがやはり防衛施設の充実も考えなくちゃな…やっぱりモデルはジャブローか?でもあそこは丈夫な岩盤に守られているという自然の要塞でもあるからなぁ。
「ブルーニーさん、そもそも会社にどうやってダブデを運ぶんですか」
「あ」
普通に考えれば船なのだが大型の船なの保有しているわけもなく、そしてレンタルするにしてもそれほどの価値がダブデにあるのかは甚だ疑問だ。
「やっぱりジオンに何としてでも買ってもらうか」
「です」
これから取引量が増えるだろうし大型の船も必要だろうな…そうなると…うん、新しい事業も思いついたかな。
アイナに近いうち話しておくか、ギニアスにはまた頑張ってもらうことになりそうだけどな。
「ブルーニーさんって何気にドSですよね」
「いやいやマリオ……んん、マリアちゃんには負ける」
「私の何処がSなんですか!」
いやーペイント弾だったとはいえツッコミで撃ってただろう。
他にも俺が指示してないのに色々脅してたじゃないか。
「あれは立派な交渉術です!」
まぁそう言われればそうなんだけどね。
俺達の武器は圧倒的な一である俺達自身、信用も信頼も金も人もほとんど脅しだけで揃えてきたが……あれ?今まで冗談で言ってたけどマジでヤクザだっただとぉ?!
「それでシーマ様は折角の休日なのに仕事をするのか」
「これでも一応は現場責任者だからねぇ。やらないといけないことは山積みさ……それと何であんたまで私を様付けで呼んでんのさ」
「似合うから?」
「……まぁいいけどさ。そういえば興味本位に聞くがあんたと嬢ちゃんで蒼い死神ってのは分かったけど操縦はどっちがしてるんだい」
「一応俺だな」
「私は基本的にアシストしてますね。オペレーターみたいなものでしょうか」
「へぇ、あのモビルスーツの何処に複座にするスペースがあるのか疑問はあるけど…色々とやばそうなんでツッコまないでおくさ」
ですよねー。
俺も言ってて無理あるかなぁーって思う。
深く聞いてこないシーマ様は空気が読める人だ…まぁ下手に聞いたり調べたりするとある日忽然と行方不明になるかもだけど。
「そういえばシーマさんは結婚しないんですか?」
ドッカラガッシャンッという音が聞こえるようにズッコケたシーマ様。
空気読めないのはむしろ俺の嫁だった。
「嬢ちゃん、表に出な。ちょっと教育が必要なようだね」
「?わかりました」
なんで怒っているのかわかってないだと?!マリオンちゃんの天然さが久しぶりに炸裂。
ちなみにこの後通信教育で修得した合気道でシーマ様がポンポンと投げられてたのはシーマ様の名誉のために見なかったことにしよう。
唯一の救いは他に目撃者がいなかったことだろう。
小規模基地に出していた宝探し部隊の成果は……大成功。
どうやら相当慌てたようでモビルスーツこそなかったが日用品や食糧、弾薬などは放置されていたらしい。
中には足が遅いが故に放棄されたザクタンクも鹵獲した…が使い道に困るな。
ギレンの野望などであるような砲戦仕様ならともかく、作業仕様であるためいるかどうか…作業用としては活用する方法はあるのかなぁ?
何にしても成果があって良かった良かった。
「これでしばらくは多少贅沢しても余裕があるな」
「問題はジオンの動向です。偵察した限り中規模の基地すらも捨てたようです。それ自体はいいんですけど、その部隊が何処に行ったのかが問題です」
「ゲリラ戦なんてされたら厄介だねぇ。さすがに嬢ちゃん達抜きで3倍も4倍もの敵とは戦える自信はないからね、ここを攻められたりすると前線の部隊が孤立しちまうよ」
残党と言うにはまだまだこちらの数を上回っている現状、下手に進行するわけにはいかない…しかし、いつまでも戸惑っているわけにはいかない。
「兵力集中は兵法の基本、ただし兵站維持も基本なんだよなぁ」
ジオンが思い切って基地を破棄したせいで兵站が伸びる、そして補給部隊を襲うのは常套手段だ。
さて、どうしたものか。
「やっぱり嬢ちゃん達に先行して攻撃してもらって私達は防衛するしかないのかねぇ」
「激戦の予感が——」
「姉貴!ジオンからの使者ってやつが来ました!どうしやすか?」
「……どう思う」
「さて、ねぇ。一時休戦か、寝返り工作か…何にしても会わずに追い払うのは礼儀に反するだろ。要件だけでも聞いてみよう」
「「異議なし」」
ジオンからの使者はルッグンに乗ってた。もちろんうちの会社から売れたものだ…そう思うと感慨深いものがあるな。
使者からの申し出はキャリフォルニアベースから撤退する、その代わり期限を2ヶ月後の猶予を与えてほしいという。
つまりこれは実質……
「降伏を受け入れるわけか」
これ以上沈められるより早々に撤退した方が得だと判断したらしい。
懸命な判断だ。
その申し出を受け入れ、一時休戦、ダブデの売り払いもちょっと高額に買い取ってもらえたし捕虜の身代金も払ってもらえたので足手まといは減った。
まぁこれから戦闘になるかは疑問だけどさ…ザクタンクが売れなかったけどな!
また兵士に戻るのが嫌で捕虜から40人ほど就職したいということでまた人数が増えていいことばかりだ。
連邦に取引内容を伝えた所早く落とせ早く落とせとうるさかったんでジャブローを落とすぞ!と脅しつけたら受け入れられた。
ああ、またヤクザみたいなことしてしまった。
「拍子抜けですね。まさか中規模の基地の部隊が居なくなってたのは撤退準備だったなんて」
「ま、命が第一ってことだろうな」
ジオンと連邦の戦争はそんな生易しい戦争じゃないのに、なぜ俺達はこんなに緩めなのか…傭兵だからか?
ただ立会人として2ヶ月間、ここから動けなくなったのは誤算だ。
ジオンも連邦もお互いを信用してなく、俺達は随分信用されているようだ。