第四十八話
そういえばキャリフォルニアベースが降伏することが決まってから連邦が続々と集まってきている。
一応奪還したのは俺達ではなく連邦だ、という名分のためだろうが恐らく本音はジオンが簡単にキャリフォルニアベースを明け渡すとは思っていないのだろう。
そのための戦力にしてはまだビックトレー2機とモビルスーツ150機程度しか集まってないけどな。
のんびりタイムはまだまだ続いている。
ついにキリマンジャロ基地のジオンが動いた。と言っても機雷を撤去して水泳部の皆さんがシーレーン破壊に乗り出しただけなんですけどね。
それで細くて長いながらジャブローまでのシーレーンが綻び、激怒した南アフリカの連邦がキリマンジャロ攻略に本腰を入れ始め、ジャブローもそれを支持したようだ。
ただしこれによってインドからアフリカ向いて進軍していた連邦は足を止めざるを得なくなったためもしかしたらこちらがジオンの狙いだったかもしれない。
あ、それとキャリフォルニアベースで生産した兵器を宇宙に打ち上げさせているが、どうもその兵器はキリマンジャロに降下させているようで、今まではオデッサとインドネシアのおまけ程度だった立場から一転、インドの重要性が上がったため相対的に立場を向上した。
今まではザク改やそれを砂漠仕様に変更した公式名(笑)デラーズザク、通称Dザクが主戦力となっていたが砂塵対策が施されたゲルググやズゴックEなどが多数送り込まれている。
もちろん全てが送られているわけでなく、オデッサやペキンなどにも送られている。
ペキンって…何かあったか?俺の記憶にはないし…ぶっちゃけた話し重要でも何でもないんだけど?
「それはですね。どうも生産拠点をペキンに移す予定のようなんですよ」
ああ、なるほど。
……前世が日本人な俺からすると凄く微妙な気分だ。と言うか安かろう悪かろうを地で行くイメージしかないのにモビルスーツなんて生産させて大丈夫か?
「アイナさんもガンガン工場を拡大してシェアを広げつつあるようですよ。なにより立地から考えれば当然ですけどね」
インドネシアの島の1つである俺達の会社はペキンから比べると前線から近い、そして何より連邦に襲われない!という強みもある。
連邦側の現場指揮官は歯ぎしりしてるらしいけどね。
そりゃ目の前を堂々と輸送されてりゃそうもなるよな。
「最近は島が手狭になってきたと言ってましたね」
だろうね。
元が無人島というのは大勢の人間が住めない場合がほとんどである。つまりそんなに大きくない島だ。
地下まで広げているので都心近くの工場などよりは規模は大きいが郊外に用意する工業地帯などには到底及ばない。
どうにかして土地を用意しないといけないな。
ちなみに現在不法占拠している会社がある島を正式に購入しようと思って一応元が連邦の領土とはいえ、今はジオンの領土であるからジオンに…というか司令とギニアスに…打診した所、ここは占領したわけではないので連邦の領土のはずですが?とご無体なお返事。
ジオンと違って連邦は法律がうるさそうだなぁ、と思いつつこのあたりで一番権力を持っているイーさんに連絡を入れてみると、ジオン領土まではさすがにコネはないぞ、と言われる始末。
俺達が居座ったのはインドネシアのスラウェシ島とニューギニア島(知らなかったらググってみよう)の間の若干北側にある島(細かく設定してないからテキトーですよ)にある。
ジオンはニューギニア島を占領しているため、俺達の島はどちらかというとジオンの領土だという連邦の言い分の方が正しい。
……てかジオンが俺達との面倒事を避けるために言葉濁してるだけじゃね?
黙って作った家族寮ならぬ家族島のことも聞いてみたが同じ返答だったからほぼ間違いない。
以前問題にしていた元ジオン兵とコロニー落とし被害者は未だに和解もせずに…というか完璧に隔離しているので和解もなにもないんだけどね。
コロニー落とし被害者には主に内部系部品製造部門を、元ジオン兵は外装系部品部門に加えてジオン製品を作っていることはコロニー落とし被害者には内緒なので組み立て、弾薬製造などもやっている。
俺達が帰還すると引き抜いた兵士達も当然連れて行くので更に大所帯になるので隔離が難しくなるだろう…最近の悩みの種だ。
ちなみにだがリリ丸やゲルググなどはコロニー落とし被害者の前でも堂々と使っている。
ジオンから奪ったという触れ込み…まぁ事実なんだけど…なのでウケが良いんだよ。
「上へ拡張することも考えないといけませんね」
「あまり目立たせたくないんだけど…仕方ないか」
俺達が会社の方針を悩んでいるとある報が届いた。
それは南アフリカ連邦とインド連邦vsキリマンジャロジオンの大規模戦闘が発生したというものだ。
南アフリカ連邦はそれらしい動きをしていたのでわかるがインド連邦まで?と疑問に思ったが、どうやら新型水中モビルスーツが導入されたらしい。
ジャミトフ情報では新型とは名ばかりの水中用に調整したジムクゥエルなんだとか、それでいいのか連邦…しかも名前もアクアジムIIと安直、ただやはり水中戦用に調整されているだけはあって水中内でも高機動、高火力を実現していてその強さはスペック的にはズゴックEを上回るらしい。
ただし弱点も存在するらしく、アムロが水中戦のデータ取りをしてないせいで学習型コンピュータが機能しないためパイロットの腕だけで戦わなくてはならないというモビルスーツを導入してまだ日が浅い連邦にはなかなか厳しいだろうな。
……実は連邦のパイロットの熟練度はどうも原作より低いらしいというのも問題になってるっぽい。
原因は……まぁ俺達なわけなんだけどな。
どういう経緯かというと俺達がインドネシアで大暴れしたのはわかると思う。
そして陸ガンや陸ジムをバッカバッカと落としたわけだが…まだ生産を始めたばかりのモビルスーツに乗せるパイロットってやっぱり適正が高いパイロットを選ぶだろ?つまり俺達が殺してきたのはモビルスーツ適正が高いパイロットなわけだ。
そのパイロット達からノウハウを手に入れるはずだったのに俺達が殺っちゃったせいでようやくノウハウも最低限に達したらしい。
いやーなんだかスマン。
「なかなか激戦を繰り広げてるようですね。今まで私達がやってたのは戦争じゃなかったようです」
「いや、多分戦争って認識ではなかっただろうよ。両軍とも」
恐らく虐殺か災害のどっちかだろ。
今見ているのは連邦ジオン両軍の戦闘詳細データである。
コネがある俺達だからできる所業だな。
データはゲームのような画面で流れるのでプレイ動画を見ているようでいい暇つぶしになる…一応両方からレポートを書いてくれと頼まれてるからお仕事の一環でもあるけどな。
「んー、やはりというか連邦は強い上に粘り強いですねぇ精神面が」
「そうだな。連邦は歴史がある分規律がしっかりしているからモラルも根性もある。それに対してジオンは付け焼き刃だからな」
洗練化された軍としてのノウハウの差はなかなかに厳しい、効率良く殺す方法が磨かれている。
ただ、それゆえに奇襲奇策には弱い側面もあるがね。実際モビルスーツがそれに当たるんだし。
「パイロットの差は歴然ですけどね」
「だな」
学習型コンピュータでサポートされていても避けるのがうまくなるだけで射撃が上手くなるわけでもなく、接近戦が強くなるわけでもなく、連携がしやすくなるわけでもない。
逆に撃とうとするタイミングで回避したり、回避行動を優先して孤立したりすることが多々あるため戦果は芳しくない。
ジオンはモビルスーツのノウハウ自体はやはり一枚も二枚も上手で、射撃や連携、位置取りなどがかなり上手い。
ザク改でジムカスタムを落としているのがその証拠だろう。
「……あ、これは」
「あー、これも俺達のせい、なのかな?」
ジオン側のデータを見る限りザク改やゲルググの反応が次々消えていくので何事かと思って連邦側のデータを見ると…
「ジムスナイパーはやはり普通の人達には厳しいですね」
「ああ、俺達も撃墜できた回数は少ないし……あ、ダブデが落ちて指揮系統に混乱が——と思ったらここにきて真紅の稲妻か、というか地上に降りてたんだな」
指揮が乱れたところを連邦が突き崩して決着をつけようとしたが真紅の稲妻が乗るゲルググJに瞬く間にジムカスタム1、ジムクゥエル4を落とされて逆に連邦が崩れかけるが指揮官がいいのか何とか立て直しに成功した。
「ジムスナイパーもゲルググキャノンやザク改キャノンに砲撃されては迂闊に攻撃ができません——あ、1機落ちました」
比較的苦労するジムスナイパーが簡単に落とされるとちょっと凹むな。
まぁこれが集団の戦いなのだろう。
正直傭兵団を運営する上ですごく参考になります。
「しかしジオンもここまでですね」
「そうだな。さすがに物量に差がありすぎる」
元々この戦いはモビルスーツの数は500対310、航空機に至っては1300対600というなんとも絶望感溢れる戦いだ。
航空機戦力の差によって制空圏が完全に取られかけてジオンは慌てて撤退。
撤退途中で我らがドップ・ツヴァイが430ほど撤退支援で駆けつけたのでモビルスーツ達も事なきを得たが厳しい戦いで数は半数まで減らし、航空機に関しては増援も含めて100機しか帰還することができなかった。
それに比べ連邦はモビルスーツ300、航空機は900。
勝ったのは明らかに連邦である。
ただし戦力比から考えると連邦の被害は多いような気もする。
「次は海の戦いを見てみるか」
「こちらは本来ならジオン有利って感じですが…新型水中モビルスーツアクアジムIIでしたっけ?の強さが気になるところです」
「問題はあまり数を用意してないところだな」
モビルスーツの数は300なのに対しアクアジムIIは30しかいない。
今回の作戦はほぼ勢いで決まった作戦だから生産が間に合わなかったのだろう。
「さて、連邦の水中専用モビルスーツの性能とやらを見せてもらお…う……か?」
「………開始1分で半数が沈みましたね」
「というか連邦めっちゃ弱い」
学習型コンピュータがないとこんなに弱いんか?
アクアジムやアクアガンダムが次々沈んでいき、開戦10分で連邦軍は撤退。
「あ、沈む早さに目を取られていましたけど、ジオン側もそれなりにダメージがありますよ」
「……つまり特攻兵器扱いか?」
キルレシオにして1:3でジオン有利かな。
さすがジオン水泳部の皆さん…しかも何気にゾックとかいるしグラブロもいた。
水中戦はまだまだジオンの時代らしい。
「空では連邦が勝ち、陸では五分、水中ではジオンが勝ち、総合すると引き分けでしょうか」
「いや、勝ち具合で見ると連邦の有利がつくだろうな」
こうして第1回キリマンジャロ攻防戦は終了した。