第四十九話
第1回キリマンジャロ攻防戦は連邦有利で終わったと言ったが、若干話が変わる情報が入った。
「まさか撃破されたパイロットの帰還率が7割とはね」
「キリマンジャロでの地の利はジオンにありますからパイロット回収がスムーズだったのでしょう」
どの程度いるかわからないが、回収された新兵は最低限の実戦経験を積んだパイロットに進化したわけだ。
しかもモビルスーツの補給はキャリフォルニアベースから続々と送られるだろう。
こうなると質よりも量な連邦は熟練度の上昇がジオンと比べた場合低いので戦果的にはまだキリマンジャロを落とせていない以上、ジオンの方が大きいかもしれない。
その辺がわかっているのかどうかは知らないが連邦も調子に乗って進軍するわけでもなく、再編成に忙しくしている。
思った以上に激戦になるような予感がする。
乱入したいなー。
会社のこととか考えなかったら両軍両成敗!とか言って大暴れするんだけども…そういうわけにいかんよなー本当に縛りが多い身分になったもんだ。
「ジャミトフさんからアクアジムIIの設計図を頂いたんですけど…本当にジムクゥエルに水圧に耐えれるように装甲を追加して、推進機関を替えて魚雷を付けただけの機体なんですね。それでもスペック自体はアクアジムよりいいんでしょうけど…」
連邦に余裕がなくなってきた証拠だろうな。
今となっては開発や生産に予算を取り過ぎて復興が遅れているために民衆がジオン憎しより貧しい生活に我慢できなくなってきているとも聞く。
ジオンがもう1度コロニー落としでもすれば話は別だろうが、今年中に…いや、半年以内には決着をつけたいに違いない。
実際ジャミトフは政治家から度々苦情が来るそうだ。
キリマンジャロ攻略作戦の裏の事情には焦った政治家達の圧力もあったと聞くとよっぽど焦っているのだろう。
「それでも俺達はのんびりだなー」
「ですねー」
分身SDモードで頑丈に作ったチェアで日光浴、マリオンちゃんも隣でパラソルの下でチェアで寝転がっている。
ただいま俺達はバカンス気分を味わっている。
「……嬢ちゃん達はアホなのか?なんで雪が積もってる今日光浴なんてしてんだい」
そう、まだ春は遠く、冬の真っ最中だったりする。
「気分だけでもと思いまして」
「そういうのは会社に帰ってやりな」
会社はインドネシアだから1年中20度を下回ることはない…というのはコロニー落とし以前の話。
最近は15度を下回ることが結構あるけど、幸い10度以下になることはないけどな。
それでも日中は20度を超えるけどな。
簡単に言うと沖縄に近くなった感じか。
「出撃がなかったら仕事量が少なくて暇なんですよ」
事務仕事程度なら下の者がやってくれて、最終チェックして判子をポンで終わるし、トラブルなんかは基本的にシーマ様やコッセルが解決してくれる。
ちなみに俺が日光浴してるのはノリです。
そもそもモビルスーツで日光浴って何の意味があるのか。
ソーラーパネルでもつければ話は違うんだろうけど…戦闘をするモビルスーツにそんなものつけても壊れてしまうだろ——ん?俺達はほとんど攻撃が当たらないんだから別に問題ないか?
それほど必要性を感じないけどな。
「それでシーマさんはこの雪の中をわざわざ来たんです、何かあったんですね?」
「ああ、連邦の奴らが動いたよ。今度は西アフリカからスエズ運河を目指しているらしい」
「二方面作戦か、連邦も余裕が無いのによくやるな」
「そんなわけないだろう。連邦がそんな簡単に音を上げるわけがないだろ」
シーマ様は連邦の現状を知らないからな…ジャミトフやイーさんからも口止めされているからひょっとするとジオンも気づいてないのかもしれない。
ジオンがどれほどの諜報が行えるかわからないが連邦は結構切羽詰まっている。
恐らくジオンは、と言うかギレンは自分達、新興国と地球連邦という大国の違いを認識していない。
新興国は自分の立場を作るための聖戦、しかし地球連邦からすればただのクーデター、もしくはデモの一種。
それを鎮圧するためにジオンの聖戦ではないのだから予算を極端な振り分けをすることなんてできるわけもない。
大国ゆえの縛りというものがあるのだ。
「それで戦況はどうなんですか」
「ジオンはキリマンジャロの戦力を南アフリカとスエズ運河に分けるようだねぇ。連邦の思惑通りといったところかい」
「オデッサの動きは?」
「スエズ運河防衛に援軍を出すみたいだね。幸いヨーロッパの連邦は増強されてないから動きやすいんみたいだ。ただ…」
「誘いじゃなかったらいいですね」
「だねぇ」
つまりジオンは連邦のいいようにキリマンジャロ→スエズ運河←オデッサと見事に戦力を分散させることに成功している。
これでオデッサが奇襲されでもしたら目も当てられない…この会話、フラグか?
「ひょっとするとキリマンジャロは南アフリカ連邦を足止めするための捨て駒の可能性もあるか、あの辺り一帯は幹部クラス以外は貧乏人が金欲しさに兵士になったやつらばかりだからね」
シーマ様は歯を食いしばって不愉快そうにしている。
同じ境遇だったシーマ様からいえば愉快なわけないか、そしてここにもう1人。
「何とかしたいですが…んー…とりあえず会社の方と連携して撤退できるようにプランを考えてみましょうか」
「ただ問題になるのはその後だ。うちの会社が不満を持つジオン兵を受け入れていることが知れ渡っているらしいから捨て駒にされた兵士達がこぞってうちに雇用するとなると…」
「島が限界に来ている現状では難しいですね」
「なにか打開策を考えなくちゃな」
「嬢ちゃん達、肝心なことを忘れているようだけど…キリマンジャロとスエズ運河が落ちれば会社の卸先が半分以上なくなるんだからね」
「「あ」」
<連邦某所での会話>
「例の奴らからクレームが来ましたぞ。卸先がなくなるから代償を寄越せと」
「そんな私的な理由で代償などと——」
「では戦いますか、私は遠慮願いたいがね」
「それは儂も同じだ。しかしこれではまともに戦争なんぞできぬではないか」
「何か打開策はないのか」
「1.素直に代償を与える 2.そもそもの原因である作戦を変更する 3.もう戦争に手出ししないでもらう」
「む、戦争に参加させない…か」
「それはいい考えだ。だが、相手は傭兵なのだ。戦争に参加させないというのは無理だろう。そもそも私達が使わず、ジオン側に付かれては私達の敗北はほぼ確定だ」
「ふむ、わかった。儂がなんとかするとしよう」
<ジオン某所での会話>
「あの蒼い死神というのはなんなのだ!1機で地上の最重要拠点を落とすだと?!連邦はなんというものを開発してくれたのだ!」
「どうかご冷静に、連邦があのようなモビルスーツを開発したというなら量産されないはずがありません」
「では誰がアレを開発したのだ」
「…アレは開発されたのではなく、パイロット個人の能力ではないかと愚考いたします。そうであれば量産されない理由にも説明がつきます」
「パイロットの能力、か。ニュータイプというやつだと思うか」
「それはなんとも…」
「しかし、こうも連邦ばかり贔屓されては戦争にならん」
「捕虜となった兵士達を返してもらったり、モビルスーツを売ってもらったりしておりますが」
「それとキャリフォルニアベースでは合わん。それにこの前は南アフリカも落とされたんだぞ」
「ですが依頼するとなりますと連邦と値段競争をすることに…」
「……さすがに連邦の国力には勝てる気がせん。こうなったら…」
なんか連邦とジオン双方から連絡が来た。
いや、連絡というか提案?取引?契約?条約?まぁそんな感じのものが来たんだけど…
「それで俺達にこの戦争中は両軍に参加するな、と?」
『『簡単にいえばそうだな』』
通信相手はドズルとジャミトフ。
「それは俺達が傭兵だとわかった上で言ってるんだな?」
『『そうだ』』
こいつら、俺達を舐めてるのか?
いや、まだ決め付けるには早いか…もし舐めてるようならもう何回か実力を示さないといけないだろうけど。
「ということはなにか代償を払ってくれる、と?」
『『その予定だがいくらか支払えばいい』』
「んー……じゃあボルネオ島とスラウェシ島とその近海の島をもらおうか」
『『ぶっ!』』
ちょうど土地が足りなくなってたからなー。
え?日本の国土の軽く2.5倍はあるって?気にしない気にしない、俺は気にしない。
『それはいくらなんでも吹っ掛けすぎだろう!』
『さすがにそれは…』
ジオン的には資源を手に入れている最大の島を取られるのはキツイだろうね。
それに他の島が飛び地になるのも頂けないだろう。
連邦的にはさすがにジオンに占領されているとはいえ、そのうち地上から追い出すつもりだろうから第三者である俺達に土地を『公式的に』占有されたくないんだろう。
まさか連邦が個人の武力を恐れて広大な領土を明け渡したなんて知られたらそれこそ連邦が崩壊する可能性が——ない、のか?
よく考えたらデラーズ・フリートにコロニー落としを実行させた上にほぼ成功させるという実質的敗北しても連邦からティターンズに成り代わっただけで済んだんだしな。
「各々の思惑もあるだろうが、こちらの利益を優先してもらう。それが嫌なら問答無用で平和の大義のもとに武力介入するぞ」
『平和の大義と矛盾しすぎだろ』
『……』
ドズルが呆れ、ジャミトフが難しい表情を浮かべる。
実はこの条件は連邦に厳しいのだ。
もし本当に武力介入して停戦なり休戦なりするとジオンは地上に足場を残すことになるからだ。
1時間ほどあーでもないこーでもないと話し合ったがなかなか話が進まず、俺が少し折れてあげることにした。
「仕方ない、ならニューギニア島とその近海の島々で手を打とう」
『……』
「ジオンとは貿易をしようと思っている。もしこれで万が一地上から追い出されたとしても足掛かりができるし…愛人への手土産も簡単に手に入るだろ?」
ドズルだけに声が聴こえるようにしてつぶやく。
「ジャミトフには個人的にそれ相応のものを納めようじゃないか」
もちろんジャミトフにしか聴こえないようにしてからつぶやく。
「それで返答は?」
『『わかった』』
こうして新しい土地を手に入れた。
ニューギニア島って日本の2倍の国土だぜ。
まぁ日本と同レベルの地震大国でもあるけどな。
後日、ジオンがニューギニア島とその近海の島々を特別地区に指定する。
さすが独裁国家スピードが早い。
という訳で偽装してた国籍いらなくなったなぁ。
細かいことは次回。