第五十話
ニューギニア島特別地区。
それは突然(笑)実施された不可思議な存在。
特別地区は中立国と同じ扱いであるとジオンは一方的に宣言し軍を退いた。
連邦がそんなこと無視して進攻して取り返すものだろうと誰もが思っていたのだが、軍に何も動きがなく、実質黙認するという結末となる。
これには全世界が驚いたことだろう。
表立ってはいないがほぼ独立国家に等しく、何より武による独裁国家、そしてその独裁者は——
「俺達だ!」
「………コッセル、死神でもボケるんだねぇ。歳なんて知らないけどさ」
「そのようで」
「んなわけあるかぁ!」
「じゃあ何かい、あのニューギニア島特別地区は私達…嬢ちゃん達を戦わせないための巣を用意したってのかい」
「その通りです」
シーマ様達は信じられないご様子…無理もないか、普通はありえないもんな。
個人的には銀英伝のイゼルローン要塞みたいなのが欲しかったけど、宇宙世紀だとルナツーかアクシズだもんなぁ。
力だけじゃどうもできない生活物資が多すぎるから無理。
その点ニューギニア島なら何もなくても自給自足はある程度できる…というかそれを視野に入れた上で選んでる。
実は前もって調べていたんだけどニューギニア島はほとんど貿易に頼っていない経済構成をしているので、もし外交的孤立に陥ってもなんとかなりそうなのだ。
何を隠そうボルネオ島やスラウェシ島を要求したのはドズルが言っていたように吹っ掛けに過ぎず、本当の狙いはニューギニア島だったんだよ。
ぶっちゃけあんな大きな島2つももらっても多分防衛できない(いつ裏切られるかわからないから常に考えてる)からな。
本当はニューギニア島だけでもわりとキツイ。
前回にも言ったが国土だけで見るとニューギニア島だけでも日本の2倍、近海の島々の範囲でついてきた西側のアルー諸島やワイゲオ島、トランガン島、ビアク諸島、東側のビスマルク諸島などなどを合わせると…うん、日本の国土大体2.5倍かな?
それを100機も無い…いやパイロットさえいれば100機はあるか…のモビルスーツで守りきれるかというと……無理だな、勝つだけなら俺達だけでどうとでもできるけどさ。
なんか打開策を考えねば独裁政権を敷いても安心できないじゃないか(笑)
戦後の展開次第では三日天下になるかもだけど…策はある。
「それで実質ニューギニア島とその周りを手に入れたってのが本島だとして…これからどうするのさ。政治なんてやったことあるやつなんていないだろう」
「サハリン家の2人も政治家の子供ってだけで政治家なわけじゃないしな…最近アイナがその血を発揮してる気もするけど」
「じゃあアイナに任せるのかい」
「いや、さすがにアイナに仕事を押し付けすぎだろう…現地政府は一応残ってるからこっちがしたいことを伝えれば勝手にやってくれるだろう。交渉は…シーマ様がんば!」
「がんば!」
「私にやれってのかい?!」
「どうせしばらく傭兵家業はお休みだからな。政治家を苛めるのもいい暇つぶしになるさ」
「……それは面白そうだねぇ」
やっぱりシーマ様はドSだな。
その顔は死神のノートを持ったお月さんのようでした。
「コッセルさんはしばらく傭兵団こと防衛隊の引き締めをお願いしますね」
「了解しました」
「という訳でシーマ様はこれからニューギニア島に行ってもらう」
「今からかい?まぁ仕事もないしいいんだけどさ。通したい法案とか用意してるんだろうね」
「コレですね」
「…消費税引き下げに所得税引き下げ、相続税の引き下げに戦時増税取りやめかい…連邦から文句が来そうだね。それに減った税収でこれからやっていけるのかい?」
「元の支配者である連邦は政治家や官僚が腐り果てていて随分横領してたようだな。ニューギニア島にいる政治家は摘発する予定だ。次に占領したジオンは…まぁ独裁政権らしくやりたい放題してたようだ。現政権はジオンが都合がいい人間ばかり置かれてるし、横領はもちろん強奪に近い徴発を繰り返してたからなぁ。民忠を上げないと民忠」
「民忠?」
詳しくはググってくれ。
連邦は腐敗してるってのは間違いないらしいし、ジオンが起ったのも気持ちはわかるがジオンも五十歩百歩なんだから皮肉だな。
いや、連邦はちゃんと腐ってることを隠しているのに対してジオンは隠す気すらないんだからジオンの方が悪質か。
こういうことがあるからクーデターって成功しにくいんだよな。
俺達はその強奪されたりした弱った現地企業をアイナがガンガン買収してるから現地住民は味方になりつつあるしね。
乗っ取りをするなら俺達みたいにスマート(爆)にしないとね。
もっともジオンからすればニューギニア島はオーストラリアから近い過ぎるんでいつか取り返されること前提で搾り取ってたんだろうけどね。
ちなみに俺達が司令と呼んでる人物はスラウェシ島の司令である。
「それに元々の税がニューギニア島や南アフリカは経済状況の割りには税収が重すぎる。この程度の税でも余裕を持って運営できるはずだ」
資料は先にニューギニア島入りを果たしたアイナ親衛隊から届いている。報酬はシローを3発殴る権利だったりする。
それで予算とかまだ決まってない(今は2月で予算争奪戦真っ只中に特別地区指定により混乱中)ため、予算振り分けはこちらで勝手に決めている。
現地政府の説得はシーマ様がやってくれるだろう。色々な手段で。
まぁ、必要以上な軍事予算が組ませる予定な段階で俺達も連邦やジオンと同じ穴のムジナだけどね。
軍事予算全てうちで使わせてもらうからね、我田引水ウマウマですよ。
他の予算と違って軍事予算ってのは政府が特定の企業を指定することが公然と認められてるから助かる。
ちなみにだが予算振り分けも資料全部見終わったら自然と脳裏に数値が浮かんだ…しかも自分達の思惑に沿うような形だったのだからなんとも便利なパワーアップである。
「俺達の標語は偉い人には黒く汚く、民衆には見せかけでも優しく!」
「くくく、いいねぇ。私達らしい標語だ」
こうして変な形の国運営を始めることとなった。
連邦政府は最上位政府機関であるが、現代で言う国家のほとんどが地区へと名前が変わっているが地方政府という下部組織ならぬ下部政府が存在し、その下部政府を複数でまとめる管理政府という中部政府が存在する。
簡単に言うと連邦政府は常設されているサミット、管理政府が現代の各国政府、地方政府が自治体…かなぁ?自信はないけどそんな感じ。
こんな変な構造(名前が組織じゃなくて政府)になっている理由は色々遠回しや言い訳、誤魔化しなどをしているが簡単にいえば議席の数を増やすためだな。
そして各政府の選挙が時期をズラして年に1回開かられるんだけども…ここに腐敗を促す仕組みがある。
上位政府の議員が下位組織の議員を推薦すると推薦票として上位議員の得票数の一部が得票扱いになるのだ。 そして連邦政府の議員は管理政府の投票で決まるようにできている。
つまり贈収賄が頻繁に行われ、派閥化が進み更に贈収賄が…結果が腐敗に繋がるわけだな。
もっとも地方政府や管理政府ができたのは差別や宗教なども関わっているんだけどね。
ちなみに国家=地区というのは一部の例外があり、細かく言うと中国は華東、中南、西南、東北、華北、西北の6地区、ロシアは西ロシア、ロシア、東ロシアの3地区、アメリカは49州を地区化されている。
アメリカ細かすぎね?
アラスカとカナダは全人口をコロニーや別の地区に移住させ自然保護区になっているんだが…よく移住させれたなぁ。現代のカナダって結構人数いたのに。
ジオンが占領した後もほとんど仕組みは変わらず利用されている。
実はジオンに管理政府が降伏したことにより、地方政府も半強制的に降伏することを余儀なくされたという話もある。
ロシアや中国などはそれだな。
旧国家体制が色濃く残るロシアや中国は未だに国を分断されたのが気に入らないらしく、反連邦に近い状態にあった。
防衛権を持つ地方政府(ジオンと戦争状態になった際に与えられた)が抵抗しようと軍(多国籍)は動くが管理政府は丁度いいやと、とっとと降伏するという珍事が起こったのだ。
組織的反抗ができず地方政府軍は敗北、ジオンは無駄に増えた領土に愕然としたらしいけどな。
つまり俺達が取ったニューギニア島のほとんどはパプアニューギニアの政治家と官僚で、少数のインドネシアの官僚で運営することになる。
「連邦政府の組織講座でした」
さて、本題。
やっとこさジオンがキャリフォルニアベースの立退きをしたので俺達はお役御免。
新しい我が家に帰還、と同時に地震とかw
出迎え地震ってやつかあるある…ねぇよ。
幸い震度4だったので大した被害なし、初めて地震を体験したジオン兵出身の社員が連邦の攻撃と勘違いして慌てたという笑い話ならあるけどな。
「シーマ様、お肌テカテカだな。ストレス解消になった?」
「ああ、政治にゃ興味なかったんだけどこういうのだったらやってもいいよ」
楽しそうで何よりだ。
「アイナさん状況はどうですか?」
「予定通り、無理ない程度に中堅の建設会社や造船会社、食品加工場など買収に成功しました」
「順調ですね。これで兵器製造だけに頼らなくて済みます。何より道路の発注とかいいですねー」
マリオンちゃんが更に我田引水に拍車を駆けるようです…いいぞもっとやれ!
「宇宙引越公社誘致はどうですか?」
「難しいですね。どうも先方は連邦が私達を優遇することが気に入らないようです」
マスドライバー施設の建造、運営を独占している宇宙引越公社。
地上から宇宙に低コストで運び出せる(というか放り投げる)マスドライバーがあれば商売幅が一気に広がる。
ボルネオ島ならマスドライバーがあるのだがニューギニア島にはない…残念だ。
まさか一々リリ丸に外付けブースターを付けて宇宙に飛ばすわけにもいかんし、ボルネオ島まで運ぶとなると俺の構想通りにはいかない。
「ブルーニーさん!無いなら作ればいいんですよ!」
「また無茶を言うね、嬢ちゃん。マスドライバーは建造自体が独占されてるんだ。建造ノウハウすらない私達に作れるわけ——」
「よし、作るか!」
「「えぇー」」(アイナとシーマ様)
という訳で今度のターゲットはマスドライバーの技術だ!
「あ、そういえば兄さんがもうすぐビットが完成すると言ってましたよ」
マジでチートじゃね?