第五十一話
マスドライバーの技術が欲しいのは確かだが、手に入れても一朝一夕でどうにかなるものでもないのでギニアスがこちらに来てからにしようと思いなおした。
決してビットが早く欲しいとかそんな子供っぽい理由では決して、更に重ねて決してない。
それにしてもギニアスは随分会社にいるようだが基地には帰らなくていいのだろうか。
「兄さんは軍を辞めてこちらに向かってますよ」
「あれ、アプサラス量産化計画はいいのか?」
「どうやら自分の許しを得ずに勝手にアプサラスを作られたのに腹が立ったようで、最低限のデギン公への忠義は示したと言ってました。せめて一言いれてから作って欲しかったとも言ってましたね」
あー、なるほど。
わが子同然に思っていたギニアスには耐えられなかったのかもな。
ジオンもなんでわざわざアプサラスにしたんだろうか、スカーさんのビグ・ザムで良かったじゃん…あ、もしかしてキシリア主導だったのか?
これがデギンとギニアスの離間工作なら…俺達に付いてきたんだからジオン涙目。
「そういえば民衆の反応はどうなんだ?」
「普通一番最初に聞くことだと思いますけど…まだ少し混乱状態ですが貿易が減り物価が上がりましたが税が軽減され、犯罪率もモビルスーツで巡回していることが功を奏しているようです」
対人にモビルスーツ?と思うかもしれないが、攻撃ヘリの武装であるバルカン…いや宇宙世紀でバルカンと言ったら内蔵されている砲のことを指すことが多いからガトリング砲というが…をいくつも装備したザク改を導入しているので対人にはそこそこ適応できている。
ザク改は原作と違ってゲルググの仕上がりがよく、大量生産しているのでジオンも俺達も既に一線から退き、売ることも喰うこともできなかったので倉庫の中で眠っていたのを流用した。
ガトリング砲は火が吹けば人は肉塊と化して大変だからトリモチ弾仕様だけどな。戦車対策でいくつかは実弾装備だけどね。
そしてモビルスーツは戦車などと違って目立ちやすく事前に犯罪者の心を折るという役割もあり、犯罪を未然に防いでくれている。
「最初はモビルスーツがうろついてて市民も落ち着かなかったようですけど、いくつか事件を解決すると受け入れられ始めているようです。ただ、ジオンの圧政のせいでザクへの印象が悪いこととホバー移動なので振動はありませんが風圧による苦情が来てます」
そりゃそうか、基本的に配置した場所から動かないとは言っても補給やメンテを受ける時はどうしても移動しないといけないからな。
んー、なんとかしたいけど…ギニアスチームに相談してみるか…いや待てよ、そういえばアレは使えるかもな。
このモビルスーツ治安維持部隊だが政府に外部委託警備員として無理やり委託させた部隊でうちの社員の給料や補給は政府が出してくれているので死神の陽炎は安定した仕事にありつけたわけだ。
いやー政治と結びついての金儲けって楽だなぁ。
こりゃ腐敗もするわ。
「あ、造船所から報告がありましたがユーコンとマッドアングラーの製造に取り掛かるには少し時間が掛るそうです」
「理由は」
「経験がないことももちろんだけど何より材料がないそうです。兄さんと一緒に人材も材料も届きますからそれから建造するとなると…早くても初夏、遅ければ秋頃かしら」
それは仕方ない、と言うか潜水艦が3ヶ月でできるって結構凄くないか?
あ、でもジオンも潜水艦を手がけたのは地球降下作戦でキャリフォルニアベースを手に入れてからなんだっけ、それを考えればユーコンやマッドアングラーの生産性の良さが凄いのか。
まぁそもそも軍オタでもない俺が現代で潜水艦がどの程度でできあがるのか知らないから比べようがないんだけどね。
どこかの世界では17分か22分で出来上がるけど、そんな便利なわけもない。
それとコロニー落とし被害者はこちらにさせることにした。
ニューブリテン島などの島から代わりの社員を雇用して派遣する予定だ。
問題は現代より良いとは言っても教育格差が気になる…しばらくは厳重にチェックするよう注意しておこう。
「大型輸送船はやはり1から作るとなると造船所の規模が足りませんし、何より潜水艦の建造に使われますので作るのではなく買うことにしました。予定では中古ですけど信頼性が高い日本のものを買うつもりです」
へー、現代では中国や韓国に押されて造船業は衰退の兆しがあったけど耐えれたのか…まぁ原作が昭和だからその当時の常識がある程度反映されてるっぽいからその影響かねぇ。
「補助金って便利ですね。2割も負担してくれるんですから」
まぁ俺達有利になるようにしたからな。
本当はもっと額を増やそうと思ったんだけど他にもやることがあるからこの程度が限度だった。
「あ、そういや会社の名前決まった?」
今まで会社のようなモグリ組織だったんだけど晴れて正式に会社になったので商号が必要になったわけだ。
一応社長はアイナだから会社名ぐらいは任せることにしたんだが、聞いてなかったな。
事実は考えるのが面倒だったんだけどね。
「ええ、ブルーパプワグループに決めました」
蒼き清浄なる世界のために!とか言ってテロを起こすようにならないことを祈る…って俺達自身がテロリストみたいなものか。
「ロゴできてます」
白い下地にニューギニア島を始め、特別地区の範囲に入っている島々を蒼く染めている…これがロゴ?
「私達が…いえ、ブルーニーさんとマリアさんが作った会社で、勝ち取った土地なんですから」
1つわかったことは…アイナ、センス無い。
わかりやすさ重視と言われれば確かにわかりやすいけどさ。
「一種の勲章ですよ」
…ああ、うん。
確かに一種の勲章だな。
現代に居た時は身内からすらも讃えられることがなかった。
それなのに現代では重犯罪、いやどんな極刑も生ぬるいほど人を殺して讃えられるとは…戦争とはこういうものなのかとしみじみ思う。
「ところでそのコスプレって暑くないんですか?」
「中にエアコンついてるから無問題」
アイナ…コスプレなんて知ってるんだな。
「通信で見た時は何の冗談かと思ったが…生で見ると奇っ怪な存在だな。君は」
「会って早々失礼だな」
ギニアスが来たのは3日後の今日なわけだが…
「やつれてんなー」
「誰のせいだと思っている」
「いや、俺達は戦争が終わる頃までにって言っただろ」
「そんなことは聞いてない。開発者というのはいつでも全力を尽くすのだ!」
八つ当たりだろ。
「あ、軍を辞めたらしいな」
「閣下(デギンね)には申し訳ないが、すっぱり辞めてきた。いい加減関係ない一般人を巻き込む現在のジオンのやり方は好きではないのに、私のアプサラスを無断で作った上に強襲そのものも失敗とは…呆れてものも言えん」
そういや、原作では味方を裏切ったり、騙し打ちしたり(結果的にはただしい判断なんだけど)と色々問題が多いギニアスだが一般人には被害を出していなかったな。
「それで本題だけど、ビットはどう?」
「お前達の依頼通りに仕上がってるぞ。まだ下位互換程度にしかできていないから完成品とは言いづらいがお前達が考案した使い方なら現状でも問題ない」
「さすがアプサラスの生みの親!」
「ふ、それほどでもあるがね…それにしてもまさかお前達が戦争から閉めだされて国家運営するとは…世も末だ」
「全くだよな」
そこは全く否定しない、俺は一般市民、マリオンちゃんに限っては永遠の13歳。
明らかに国家運営するには無茶がある…今のところなぜか数字にはやたらと強いイリュージョンデータ(数字を書く際に勝手に浮かぶアレ)や生前読んでた二次小説やらを手本にして色々考えてみている。
とは言うものの、1つわかっていることがある。
あまり軍事予算に傾けると戦争が終わって次の戦争が始まる(起こす)まで不況に陥るのでほどほどにしないといけないということだ。
第二の戦争は既定路線なんでそれ以上稼ぐ用意をする予定だけどな。
「お前のアドバイスがブレイクスルーになったというのは癪だが、なんとか小型化に成功したが機動性が今ひとつだ。本家のビットと勝負すると負けるとシミュレーションで出ているから注意だ」
「了解…お、早速取り付けてるのか」
本体は取り付けられてる方なんだから当然知ってたけどな。
ん?もしかして分身体で本体をじっくり見るのは初めてか?改めて見ると…うん、立派なガンダムだな。
現代でも等身大ガンダムがあるって話はテレビやネットで見たけど見る機会なんてなかったし…ちょっと感動だ。
「注文された通り、地上ではオールレンジができないビットを砲のように使うためのハンガーも作った。ついでにハンガーに収まっている状態でビットのブースターを使用することができる。とは言ってもそれほどの加速は期待できんがな」
そう、地上で浮遊できないビット、キュベレイまで進化しないとオールレンジができない地上では使いものにならない。
しかしビットとはそれだけの価値しかないのだろうか、と考えてできたのがビット旋回砲仕様である。
よくよく考えればビットとは無線で精密に動く砲台なわけだ。
それなら地上では飛ばさず砲台として使えばいいだけじゃね?という結論が出たわけだ。
さすがにモビルスーツで抱えるほどのビットは持ち運びできないんで小型化が必須だったけどな。
必死に考えてたんだけど…今気づいた。ストライクフリーダムがこんな仕様だっけorz
発案だけでビットハンガーの形や設置場所などはギニアスに任せたが…やっぱり背中か、ビットやファンネルって他に設置できないもんかね?
ビットハンガーは反っていてフルバーニア仕様なら通常状態ではフルバーニアに沿う形になっていて、戦闘や加速する場合はゴッドガンダムの背中の羽根?みたいに両肩、両腰にと展開され、両肩は前向きに両腰は後ろ向きにビットは向いている。
これで前後ろ両方同時対応可能となった。
スナイパー仕様の場合はスナイパーキャノン自体が邪魔をして3つまでしか装備できない。
ギニアスが解決策を考えているそうだがなかなか思い浮かばないらしい。
こりゃしばらく死蔵か?…あ、しばらく戦わないんだっけ?なら移動速度重視にフルバーニアでいいか。
「後はサイコミュも載せないと…」
「それは大丈夫、もう載ってるから」
うお?!なんか人を殺せそうな視線…いや、殺気を感じたぞ?!
「どういうことだ。私のブルーディスティニーを他の誰かに——」
「いや、お前のじゃねぇから。強いて言うなら俺とマリアのだから」
この後誤魔化すのに3日掛かった。