第五十三話
マリオンちゃんと共に宇宙引越公社の関連会社を廻ってる間に動いた世界情勢を解説。
キャリフォルニアベース、つまり東アメリカを無傷で取り返した連邦は調子に乗ってニューヤーク、西アメリカも取り返そうと試みた。
しかしそこでジオンは自分達の十八番である水泳部の皆さんでキャリフォルニアベースと中米を強襲する。
キャリフォルニアベースには割りと戦力を残していたし、ジオン側も少数だったから良かったのだが、中米の方は本気で強襲した結果一時的で一部地域とはいえ占領することに成功した。
それにより連邦は兵站が途切れ、進攻することができなくなり、キャリフォルニアベースへと引き返すこととなったわけだ。
本来ならキャリフォルニアベースだけで兵站は賄えるのだが、なにせまだ取り返してそう時間が経っていないため万全ではない。
そしてすぐに中米を取り返したがまた強襲される可能性を考慮すると動くに動けず、北アメリカの戦線は停滞することとなった。
この水泳部の強襲が成立するようになったのは何を隠そう、俺達が開発した(パクった)ドップ、ルッグンの活躍があってこそなのだ。
陸に上がっても強い水泳部だが唯一弱点といえるのが対空戦だがキャリフォルニアベースから引き渡される前の段階でかなりの数のドップ、ルッグンが生産され、ハワイへ送られていた。
更に俺達は航空機をあまり相手にしないため、元々キャリフォルニアベースに存在していた航空戦力がそのままハワイへ合流していたので珍しくジオンは物量で押し切ったのだ。
しかも俺達も騙されていたがペキンに送られた戦力は実のところハワイへの増援、つまり工場をペキンに移設するというのは隠れ蓑だったというわけである。
おかげで連邦のスパイも情報が掴みきれなかったとのこと。
実は連邦がモビルスーツを本格生産を始めてからの戦略的勝利は初めてだったりする。
大体俺達が暴れたせいなんてのは気のせいだ。
そしてキリマンジャロ、こちらも進攻されているわけだが…かなり激戦となっていて、一進一退とはまさにこのことだと思う。
陸では戦線を後退させつつ粘り強い戦いをみせるジオンに、実戦に慣れてきたのか動きが格段に良くなってきた連邦。
海ではやっぱりジオン有利、連邦の兵站を不安定にして陸の部隊にプレッシャーを掛けて進行を遅延させることに成功している。
ただし少しずつでも押し込まれつつあるので全体的には連邦有利、アクアジムIIの数も増えつつあり、ジオン水泳部はまだ余裕があるがその余裕が削がれていっているのが現状である。
スエズ運河争奪戦は戦力集中によりジオン有利というのは唯一の救いか?
原作だと戦力集中しても勝てそうになかったから随分頑張るなジオン。
司令から情報が入ってきたがどうも各地の現地徴兵を増やして援軍に向かわせているんだってさ。
質が劣化しているが連邦のモビルスーツを真似て操縦の簡略化、学習型コンピュータの蓄積データで作られたOSが搭載を始めて実働24時間程度でそこそこのパイロットが仕上がる。
まぁ、連邦と同じく接近戦と連携に弱いから中遠距離がメインになるけど支援が増えるだけでも随分助かるだろう。
このままだとジワリジワリとキリマンジャロは陥落することになるだろう。
陥落するまではうちの会社との取引は続くので頑張って粘ってほしいものである。ついでに亡命者も受付中で少しながら亡命してくる人達もいる。
宇宙では基本的には小規模の戦闘しか行われておらず、どちらもほぼ同じだけ被害がでている…あれ?ジオン消耗戦仕掛けられてるけど大丈夫?
「データの収集完了しました」
「マリオン先生、ご苦労さまです」
「いやーそれほどでもあります」
なんてふざけながら帰宅路につく。
ついでにある会社を買収しておくがそれは後ほど。
「マスドライバーは動力以外は物資が沢山いるだけでそれほど技術は必要ないので建造にはそれほど時間がかからないと思います。動力の方はギニアスさん達に見てもらわないとわかりませんけど」
「後は場所の問題か」
ニューギニア島は地震がなぁー…耐震してても何回も揺られると耐久力が落ちる可能性があるので維持費が結構掛かりそう。
それにマスドライバーの打ち上げに万が一失敗でもしたらコンテナが降ってくるんだから海に向かって作らなくてはならないが地震の津波にも注意しないといけない。
「あ、それと分身体でいいことが発覚しました」
「なんだ?」
「テレビが13番組同時で観れます!」
「……そら良かったね」
あまりにくだらないことだったがマリオンちゃんが嬉しそうなのでとりあえず返事はしておく。
しかしよく考えれば13番組同時に観て内容がわかるって凄いな。
「それで知ったんですけど、やっぱり食料品の値上がりが深刻化しているそうです」
「穀倉地帯であり畜産業も盛んだったオーストラリアにコロニーが落ちたのは痛いな」
ニューギニア島は自給率が高いのでいいが、日本なんかは打撃を受けている…ってもしかしてジオンの支配を受け入れたのはこのためか?穀倉地帯として有力なアメリカやロシアなんかがジオンに占領されて食料危機に陥った…うん、ありそうだな。
「コロニー産の食料品が多く輸入されているようですから当面は大丈夫でしょうが…」
「それでも追いつかなくなった時大変だな」
幸い?なのは戦争で人口が減っていること…か?同時に働き盛りの年代が次々死んでいってるんで経済が危なくなりそうだけどな。
どっかの種みたいにエネルギー不足にならなかっただけマシといえばマシか。
ジオンが衛生を落としたからGPSが使えなくなって飛行機、船、カーナビは大混乱したらしいがね。
おかげで俺達は衛生で監視されず自由に動けたし秘密も守れたんだからジオンさまさまだ。
ニューギニア島に帰宅…中にまさかうちの新商品に出会うとは思わなかった。
「早くも完成したのか、水上仕様」
ギニアスに頼んでいたのはコレだ。
前々から思ってたんだけどなんでモビルスーツって水中か空中か陸にしかいないのよ。というツッコミで作ってみた新しい仕様である。
注意する点は水上『仕様』である点だ。
普通のゲルググなどのモビルスーツに推進機関を付けた水上スキーを履かせている感じになっていて、スキー部分を外せばすぐに陸戦仕様に元通りである。
ゲルググやドムなどはホバー移動ができるので水上移動もできないこともないが、そういう仕様ではないので無理がかかる。
その点、水上仕様はスキー内部に数発の水中魚雷とそれほど高性能ではないがソナー、燃料も詰められていて、対潜にいくらかの適応されており、航行距離も伸びていて航行速度も上がっている…はずだ。
唯一の弱点は——
「あ、コケましたね……起き上がりませんね?」
「助けに行くか」
1度コケると態勢を整えるのが難しいということだ。
ただ、水陸両用モビルスーツのようにある程度陸で戦えるモビルスーツではなく、陸で戦えるモビルスーツとなるのでどちらがいいか…というのは戦況によるだろう。
それにニューギニア島でもっとも重要とされている艦船護衛や護送、対潜警戒などに活躍してくれる…はず。
水上バイク型も考えたんだけど、色々な面でスキー型より優れているものの、上陸時に放棄していくには単価が高い、大きくなりすぎる、旋回速度が遅い、モビルスーツなんか乗せずに水上バイク型に似せた別兵器を作ったほうがいいのでは?という意見が多く廃案。
「今気づいたんですがあのテスト機には私の分身体が乗ってますね」
「あー、死んだりしないからテストパイロットには打って付けなわけか」
「ですね。その辺も考慮して自分から勝手でたようです」
「それでやっぱり態勢が立て直せない?」
「みたいです。色々解決案は出ているのでそれを試しているのが現状だそうです」
マリオンちゃんは分身体とずっと感覚を共有してるわけではないので全てが全て把握できているわけではない。
というか俺を置いて何もかも知ってしまうとあまりいい気分ではないため重要なこと以外はフィルターしているらしい…愛されてるな俺。これがリア充というやつか。
フィルターなんて便利なシステムがあるのかという疑問もマリオンちゃんの愛の前では大した問題ではない。
ゲルググ水上仕様を助け起こして一緒に会社へ帰る。
あ、そういえば言い忘れていたが俺達が拠点としているのは現代で言うパプアニューギニアの首都、現在のニューギニア島首都でもあるポートモレスビーの郊外だ。
「マリアさん達も一緒でしたか」
「ええ、アイナさんはこの新型仕様の視察?」
「上手くすれば私達の主力商品となりますから…既に連邦とは試験的に何機か購入すると話をつけてます」
現在連邦が苦しめられている水陸両用モビルスーツの対抗になればというところか。
「現在ゲルググが装備しているのを標準タイプとして対潜タイプ、索敵タイプなども作る予定です」
「特化させるか、確かに標準タイプは中途半端といえば中途半端だよなぁ」
まぁ少数精鋭な俺達は特化タイプは使いづらい、強いて言えば索敵タイプは欲しいかな?ぐらいだ。
「それでマスドライバーの方はどうですか?」
「しっかり取ってきたぞ。また開発チームには負担になるかもしれないがね…あ、SUN社からはデータは届いてるか?」
「ええ、頂きましたが…しかしあの玩具…ハロを本当に警備に使うんですか」
「ああ、モビルスーツが動きまわって民に迷惑が掛かるならハロに活躍してもらおうじゃないか」
モビルスーツでの治安維持も続けるつもりであるが、四六時中というのは確かに迷惑だ。
そこで休日など人が多い時はハロによる監視、通報で治安を向上させようと思ったわけよ。
アムロが改造したハロほどではないにしろ…いや、いっそ原作通りアムロに連絡してデータを買い取らせてもらうか?戦争が終わった後、連邦の居心地は悪いだろうから受け入れてもいい。
そうなるとカラバ涙目だな。
近いうちに連絡取るか。
「今回の水上仕様とマスドライバーの件が落ち着き次第ギニアスには休養を与えるかな」
「ええ、兄さんは働き過ぎ——」
「余計な心遣いは結構だ。その言いようからしてまだまだ仕事があるんだろう?」
「まぁね…でも少しは休養を与えるつもりだからそのつもりでいろよ。ケンタッキーにも与えてやるからゆっくりしてろ」
「ケンタッキー?アメリカの地区の1つがどうした?」
「サンダースさんのことですよ。ブルーニーさんはなぜかケンタッキーと呼ぶんですよ」
「???」
意味がわからないとギニアスは首を傾げる。
細かいことは気にするな。