第五十四話
現在マリオンちゃんモビルスーツの操縦を特訓中。
戦闘は俺が体を動かすという形で行っているのでほぼ素人なマリオンちゃん。
しかしシーマ様部隊の熟練パイロットを初っ端から一方的に撃破したあたりはさすがニュータイプ。
訓練3日目の現在は1対2の戦いで少し苦戦しながらも白星を上げている。
近いうち1対3に移行されるだろう。
暇になったので今まで行ったことがないポートモレスビーの街を徘徊しようと思い至った。
ポートモレスビーは現代でも治安が良くない(住みたくない首都ワースト1位)がこちらのポートモレスビーも治安は良くない。
マフィアとか普通にいるからね。もっとも、だからこそ俺達に合っているとも言える。
ほとんどの政治家や官僚はマフィアと繋がっていたからかから良心に邪魔されずに排除できたし、多少の違法手段はお互い様だ。
街にいてくると近くにいたギニアスに伝えると「テストをしてやる」と言って問答無用で足に向かって発砲してくれやがったんだけどSD化した身体でも拳銃程度なら何の問題もなく弾くことが立証された……その後しばらくビームサーベルで叩き斬ってやろうかと悩んだことをここに記しておく。
銃声を聞きつけて事情を知ったアイナが平謝りしてたから許してやったがな
貫通したらどうする気だったんだ。
マリオンちゃんの鉄塊すらプレスする握力でアイアンクローされてたけど。
そしていざ参らん!と思ったんだけどなぜか護衛としてマリオンズ2名が同伴することになった……なんで?
「No.3とNo.4か」
分身体は日頃から会社ではコードネームとして振られたナンバーで呼び合うことになっている。
「なにかご不満が」
「ありますか?」
「ないない。というかマリオンズだと誰でも変わらないだろ」
「それは乙女としては」
「屈辱的です」
どうもマリオンズは複数人が同じ場所に居た場合言葉を分けて話すことが流行していて社員から妙な奴らだと認識されている。
マリオンちゃんの悪ふざけには困ったものだ。
「本体が」
「悔しがって」
「ましたよ」
「なんでだよ。それとその分けて話すの止めないと置いていくぞ」
「初デートが私達にとられたーと地団駄踏んでましたね」
「私達もマリオンには違いないのに…ポッ」
遠くでマリオンちゃんが見聞きしてることがわかった上で言ってやがるな。
しかし、初デートか…よく考えたらSD化を手に入れてから街に出かけるなんてしたことがなかったな。
ちょっと悪いことしたかねぇ?
「仕方ないですよ。パイロットとしての技術は私達が訓練したところで本体に反映されません」
「一応訓練すると分身体が個々に技術を身につけますが消滅するようなことがあれば経験は消失します」
だからマリオンちゃんを置いてきたわけだけどなんで今さらそんな説明を…ああ、もしかしてあえて言うことでマリオンちゃんに言い聞かせてるのか?だとするとマリオンズはなかなかやりおる…って元はマリオンちゃんなはずなんだけどな。
街の郊外に俺達の本拠地があるからどうやって街に行くかというと…走ってだ。
フルバーニア仕様の状態でSD化しているのでフルバーニア仕様のSD状態だからかなりの速度が出る。
そしてマリオンズはさすがに人間がベースなだけあって付いて来られるほどの速度は出せないので俺自身を少し大きくして小脇に抱えてることにした。
そうそう、サイズ変化といえばどこまで大きくなれるのか気になったので試してみたんだが限界は39.2mだった。
俺の記憶が確かならモビルスーツで一番大きいクイン・マンサと同じサイズだ。これ以上は今のところ無理っぽい。
「それにしてもお前達…まるでオセロみたいだな」
No.3が肌色が褐色、白髪、No.4が肌色は真っ白、黒髪、髪型はお揃いでボブカットである。
「これぞ名づけてオセロっ娘です」
「きっと流行間違いなしです」
「忘れてるようだが普通の人間は肌の色や髪の毛を自由には変えられないぞ」
「「そうでした」」
まぁ日焼けや化粧、脱色なんかをすれば何とか再現はできるだろうけど…
「お前達みたいに可愛くはできないだろうな」
「なんだろう、せっかく褒めてくれてるのに」
「親ばかな父親が娘を愛でるような感覚です」
せっかく褒めてるのにご不満なようだ。
それに2人セットでないといけないのもハードルが高いかな。
さて、街が見えてきたので元の人間サイズにSD化、ここからは歩いて行く。
勝手なイメージだが荒廃としているか、良くてそこそこ繁栄している程度と思ってたけど想像以上に栄えているようだ。
具体的には外国人が昔ながらの日本をイメージして観光に来たらめっちゃ都会な東京を観た気分だ。
「それにしても注目されてるな。さすがマリオンズ」
「いやーそれほどでも…」
「と言うよりブルーニーさんの姿のせいだと思いますよ」
「まさか、俺は至って普通だろ」
「まぁ、確かにブルーニーさんからすれば普通ですけど」
「少なくとも普通の人間はそんな格好はしませんよ?」
そんなこと言ってもこれが標準だから仕方ないだろ。
「それで街に来て何をするんですか」
「そうだなーやっぱ定番で買い食い…は味がしないし、ウインドショッピング…は俺は無意味、マリオンちゃんズ(マリオンちゃんとマリオンズ両方を指す場合の呼称)は衣装自由に変化できるし、映画…はダウンロードできるしなー」
「違法ダウンロードは良くないと思います!」
「そうだそうだ!」
「お前達がそれを言うかぁあ!」
俺本体の容量がどれだけゲームのデータで埋まってると思ってる!……実際やってるのはマリオンちゃんだけども、元が一緒なので気にしない。
「いたいいれふ」
「おのふぇのやわはやになによすゆ」(乙女の柔肌に何をする)
頬をふにふに引っ張ってやっているが、力はそれほど込めてないので痛くはないはず。
「おい、兄ちゃん…ではないか…おい、そこの鉄塊!分解されたくなければ連れの女を寄越しな」
「鉄塊じゃなくてガンダニュウム合金だと思うが…というか何だ、このテンプレ展開は」
しかも展開自体はテンプレなのに目の前に居る屑はマから始まる自由業の人っぽいし、そんな微妙なテンプレ崩しはいらんって。
数も20人ぐらいいるし…やっぱ簡単には治安は良くならないか。
「ほら、言うことを聞いてくれたらエンジンオイルやるからよ。あ、潤滑油の方がいいか?ギャハハハハ」
何が面白いのか爆笑してる…マリオンズも一緒に。
とりあえずゲンコツを一発叩き込んでおく。
「何がそんなに面白いのかは知らんが…慈悲はないと思え」
攻撃的なのは良くないと思い、シールドに収納していたマシンガンを取り出してばら撒く。
慈悲はないと言ったが暴徒鎮圧用ゴム弾だから死ぬ心配はない。
ただし顔面を狙ってるんで失明したり歯が抜けたりするが、俺の辞書に犯罪者に人権などない。ただし辞書にはロボットにはロボット権があるし、現行の法ではロボットに対しての法なんてないから俺は何をやっても無罪だ。
ちなみにゴム弾な理由は別に人殺しが〜なんて理由ではない。
ただ単純に街を血で汚すのは民が可哀想だからという俺なりの配慮だ。
まぁ目や口から血が流れてるからあまり変わらなかったような気もするけどな。
「おい、そこのロボ!動くんじゃねぇ!この女がどうなってもいいのか!」
「キャー」
「ブルーニーさん助けてー」
そして更なるテンプレ……と言うかマリオンズ…今わざわざ人質になりに走っていったよな?俺はてっきり倒しに行ったのかと思ったから何もしなかったのに。
それと助けを求める声が棒読み過ぎる。
人質にとった方もマリオンズのわざとらしさに怪しさを感じて汗が止まらないようだ。
死んでもマリオンに戻るだけだし24時間後には復活できるし、何よりゴム弾だから死ぬこともないので遠慮なくマシンガンを撃とうとすると。
「もー少しは躊躇してくれてもいいじゃないですか」
「そうだそうだー!」
発砲する前にマリオンズが自分を捕まえていた男達の足を踏み抜く、足の甲を踏んだんだけど地面が陥没…ありゃ何もかも粉砕してるな。
蟀谷(こめかみ)に突きつけられたいた銃を持つ腕を取り、一本背負い…ただしどこか1000年続く古武術の圓明流のように関節をキメて投げていた。
マリオンズは走り寄って来て…
「「怖かったです」」
「おー、よしよし…俺はお前達の方が怖かったぞー…ゴフッ」
せっかく受け入れて頭まで撫でたのに、重い俺が浮くほどのボディーブローとはご無体な。
「じゃ、気を取り直して……そうだ、せっかく部屋が割り振られたんだし家具とか小物でも買うか」
「「おお、ブルーニーさんにしてはいいアイデアです」」
「にしては、は余計だ」
テンプレもこういうテンプレな会話ならいいよな。
会社に帰るとマリオンちゃんに殴り飛ばされるマリオンズ…いや、他のマリオンズもリンチしているからNo.3とNo.4、か。
意味がわからずマリオンちゃんに恐る恐る聞いてみると——
「私ですら撫でられたことないのに!!」
まるでアムロの親父にもぶたれたことないのに!的なフレーズだったが言ってる内容が酷い、いや嬉しくはあるんだけど。
期待した目で俺を見てくるマリオンちゃん。
……
「ほら、よしよし」
自分で要求しといて照れて真っ赤になるなよ。
さて、問題は…後ろに並ぶマリオンズか、もしかして全員やらないとだめ?一斉に頷かれた…頑張るけどさ、コレってハーレムって言うのか?元々は同じだから違うよな?
「そろそろマリオンズを派遣しようと思います」
「ん?何処に?」
「もちろん戦場ですよ」
「……傭兵としてか、でもジオンと連邦との条約が——」
「細かく見てみたんですが、蒼い死神、つまり私達の不参加は盛り込まれてますけど死神の陽炎は対象になってませんから問題はないでしょう」
「言われてみればそうか」
俺本体にデータ化してある条約を読み直してみると俺達は積極的な防衛は認められているが戦争に介入する行為は禁止されている。
しかし死神の陽炎に関しては何1つ触れていない…そこそこ強いとはいえ、所詮普通の傭兵団だから気にしなかったんだろうね。
「なるほど、つまりインターバルがあるにしてもほぼ常時13人のニュータイプが戦場を駆けまわる、か」
「はい。一応捕らえられると面倒なので自殺手段も用意しておきますね」
……自分の分身体なのに容赦ねぇな。
そりゃ俺達の20m以内にいるか、死なないと戻ってこれないから捕虜なんかになられると頭数が減っちゃうから仕方ないんだけどさ。
「ニュータイプ専用ゲルググを開発しようと検討したんですが、サイコミュ自体がまだまだ大型のためゲルググに搭載するには無理があるそうなので断念しました」
「ん?ギニアスは俺達にもサイコミュを載せるつもりだったよな?」
「大型のサイコミュを外付けする予定だったそうです。私達の出力や推進力は普通のモビルスーツではありえない数値なので実現できる予定でしたがゲルググでは不可能だそうです」
なら仕方ないか。
「本来現場指揮官であるシーマ様はまだ政治家や官僚達とやりあってもらわないいけませんからこちらに残ってもらって代わりにガイアさんを派遣しようと思います」
「ん、いいんでない」
占いでもラッキーアイテムがモビルスーツだし。
「そこで1つ問題が浮上しました」
「今まで実戦で問題なかったのに今になってか?」
「はい、実は今まで私達が前線で戦っていたので気にならなかったんですが、弾薬補給が母艦からのみとなるとどうしても敵に味方が捕捉されたり、前線にミデアを出すという無謀を繰り返さないといけなくなります」
「そうか、今まで俺達が前線で戦ってたから味方には弾薬の余裕があったがこれからはそうはいかないのか」
それは困ったな。
確かに弾薬などはあまり多く携帯できないモビルスーツは継戦能力は乏しい。
傭兵では当然基地などというものは存在しない以上、現地で補給を行う必要があるわけだ。
「そう…だな。自走型キャリーケースでも作るか」
「それならトラックでよくありませんか?」
「荷物運びだけならそうだけど、戦地にひ弱なトラックに乗ってくれるような人間がどれだけいるかわからん」
「ああ、無人化させるんですか」
「そういうこと。戦場で一番襲われて困るのは輸送部隊で一番狙われるのも輸送部隊だからな。少数精鋭の死神の陽炎ではカバーしきれないだろう。なら無人化してしまえばいい。ミノ粉もそんなに離れてなければ誘導はできる。難所はモビルスーツで持ち運びできるようにしておけば自走できなくてもある程度は解決できる」
「なるほど、早速開発チームにお願いしてきます」
こうしてまた開発チームの忙しさは加速するのであった。