第五十五話
「この前あんた達を襲った奴らなんだけどね。取り調べをしてみたら面白いことがわかったよ」
「取り調べって…シーマ様にそんな権力あったっけ?」
「今の私ならどうとでもなるさ。実際あんな騒動起こしたのにあんた達は何もお咎めなかっだろ?そもそもあんたのその格好は職質掛けられてもおかしくないのに何もなかったのも、入店拒否されなかったのも手を回してたからさ」
……言われてみればこの見た目で普通に客として扱われるのは逆に不自然か。
「それであのマフィアだけど、どうやらブルーパプワと死神の陽炎を狙って雇われた奴らみたいだ」
「怨みは買ってるのは自覚あるからとうとう来たか、という程度だけど差し向けたのは誰かわかったのか?」
「途中までしか辿れなかった。私の推測じゃ宇宙引越公社だね」
「この前のハッキングがバレたかな?でもそんなヘマをマリオンちゃんがするとは思えない……となると内通者か」
「一概にそうとは言えないねぇ。うっかり誰かに漏らしちまっただけかもしれないからね。ハニトラの可能性も捨てがたいわけだし」
なるほど、無自覚な漏洩は可能性が高いな。
悪意を持って漏洩したとなるとマリオンちゃんズに感知されるのでこれでほぼ確定だろう。
高レベルのニュータイプは嘘発見器として使える便利な存在である。
俺なんか未だにニュータイプ能力の恩恵がわからないでいるしなぁー、ニュータイプ描写がろくに無いシドレじゃこの程度だろうとは思うけどさ。
「マフィアは抱き込んだつもりだったけど、甘かったようだねぇ。取り締まりを厳しくするかい?」
「んー、俺やマリアちゃん、デビルナンバーズが狙われる分にはどうとでもなるけど…」
デビルナンバーズとはマリオンズの強さが白い悪魔を彷彿とさせる強さであることとナンバーで呼ばれていることから来る会社内の異名である。
「今回は初回ってことで見逃すかな」
「意外だねぇ。てっきり皆殺しかと思ったんだけど」
「次回から端末まで皆殺し、幹部は人間の尊厳なんて残らないがないぐらいの拷問をしてからかな。録画して他のマフィアに送り付ければ多少は効果があるだろう…あ、このことは一応警告しておいてくれ」
「なかなか手厳しいねぇ。わかったよ、伝えとく」
「なに、心配しなくていい。シーマ様や他の人間にやらせるつもりはないから…俺がやるからさ」
手が若干震えるのが目に入ったので安心させるように言ってやる。
どうも戦場以外で人を殺すことがトラウマみたいだな。
「それはありがたいね…そうそう、死神の陽炎の営業を始めたのはいいけど、連邦の反応は芳しくないねぇ。実力未知数の傭兵を雇うなんてのはハードルが高いんだろうさ。ジオンからはキリマンジャロとスエズ運河の救援依頼が来てるけど報酬が安い…どうする?」
最近は有利に進めている連邦はいくら俺達が経営している傭兵団とはいえ、ならず者という印象が強い傭兵を好き好んで雇おうとはしないのだろう。
逆に徐々に削られていっているジオンは死神の陽炎が元ジオン兵で構成されていることを知っているので受け入れやすかったんだろうな。
それに母艦はザンジバル(ミデアもいるけど)、モビルスーツはゲルググとジオン系で固めているので受け入れやすいってのもあるかな。
ちなみにマリオンズのゲルググキャノン(やっぱりガンキャノン仕様)はえげつない命中率を誇る。
相手が動かないなら100kmは命中率100%というデタラメさだ。
ただし今回もそうだがこれから先、マリオンズがキャノンを装備させる予定はほとんどない。
なぜなら俺達の収入のほとんどは鹵獲であるため、キャノン砲ではモビルスーツへのダメージが大きすぎるためいただけない選択なんだよ。
連邦とジオンが組んで攻めてくるなんてことがない限りは必要ない。
「ジオンの依頼を請けよう。実績さえ積めば連邦からも依頼が来るだろう」
「前線の奴らが可哀想だねぇ。正直デビルナンバーズは1人でもキツイってのに13人もいる。勝てる気が全くしないね…何処からあの子達を拾ってきたんだい?」
「それは企業秘密かな」
「私はその企業の幹部なんだけどね」
「おっとこりゃ1本取られたな。褒美としてヒント、全宇宙のデータバンクを探しても見つからない身元、かな」
「……わかった。聞かないでおく」
「賢明な判断だ」
まぁシーマ様なら別に知られてもいいような気がするけど、秘密を知ってるのは少ないほうがいいだろう。
このやりとりで答えを聞きたがるかどうかは疑問だが。
「ああ、まだ報告することがある。最近連邦がビームライフルを母艦でエネルギー補充させずに弾倉を交換するようにエネルギー補充しているという情報が入ってきた」
E(エネルギー)パックか、モビルスーツの進歩から比べると遅いけど原作を知る俺からすると早いと思ってしまう。
これにより継戦能力が向上し、弾幕が厚くなるわけか…ジオンは開発に遅れなければいいが…って俺達にとっても人事じゃないか。
「ギニアスはなんて?」
「もしジオンの依頼を請けるようならぜひ鹵獲して欲しいそうだ」
「まぁ当然か」
ギニアスだとアプサラス級のメガ粒子砲をEパックに詰めようとしそうで怖いな。
無事に実現できればいいけど、暴発なんてされたら一帯が消し飛びそうだから要注意だ。
「それでキリマンジャロとスエズ運河、どっちに派遣すんだい。報酬的にはキリマンジャロの方が多少はいいけど…」
「スエズ運河にしよう。ジオンには悪いがキリマンジャロを守り通すと連邦からまた何か言われるかもしれいし戦争はさらに混迷とするだろう」
何より現在のキリマンジャロ攻略の指揮官はジャミトフだからな。
色々お互い持ちつ持たれつの関係であるからそれぐらいは配慮しないとね。
丁度良くスエズ運河攻略の指揮官はジャミトフとは相反するレビル派だから喜んでくれることだろう。
「デビルナンバーズにNT-2を渡せたら良かったんだが…」
「ブルーパプワの設備じゃ一部の部品が現状の設備で生産できなかったから仕方ないさ。今は代用部品でなんとかならないか模索中らしいけどスペックが落ちちまいそうだから根本的な解決にはならなそうだね」
デチューンさせちゃったら駄目なんだけど…まぁこれも開発の一環か。
「まぁデビルナンバーズ達なら無事帰ってくるだろうさ」
俺も同意見だ。
ホワイトベースは宇宙に行ったきりだから死亡フラグっぽい敵なんていないはずだ。
<マリオンズNo.1>
『諸君、とうとうやってきた私達の初陣である!今までブルーニーさんにおんぶに抱っこだった私達がブルーニーさんに代わって連邦に絶望を与えるのだ!』
『『『オオーーー!』』』
『常に一緒にいて役に立たない本体との差を見せるときである!立てよマリオンズ!奮闘せよマリオンズ!』
『『『オオーーーー!』』』
『さて、演説ごっこは終わりとして降下用意』
『『『了解』』』
全部ミノ話なので他人に聞かれないから安心です。
さて、私達は今スエズ運河前線近く上空におり、先ほど言った通りそろそろ降下ポイントに到着します。
敵はおよそモビルスーツ400機、補助兵器600機、航空戦力1000機とブルーニーさんなら余裕でしょうけど今の私達には厳しい数字です。
何が厳しいかというとビームライフルは20発しか撃てません、つまり最大20発×13機の260機までしかやれないんですよ。
それにバルカンも無いから航空機や戦車などもやり辛い。
リリ丸やミデアが補給に来てくれる予定にはなっているけど、私達やモビルスーツより貴重な艦…特にリリ丸を撃沈されないよう注意しないと。
『降下予定ポイントまで後90秒』
『天気は良好、戦況はジオンが不利、既に後退を始めています』
『この状況をひっくり返せば私達の価値も示せるでしょう』
「デビルナンバーズ、準備はでき——カフ」
全く、こんな可憐な乙女を掴まえてなんという言い草。
まだ搭乗途中だったNo.13がツッコミを入れてくれたので少し気が晴れましたけど。
とりあえず一言。
『『『ナイスNo.13!』』』
『降下30秒前』
慌ててNo.13が機体に乗り込む、慌てすぎて昇降ワイヤーを使わず、ゲルググのヒザまでジャンプして、そこを足場にしてもう1度ジャンプを行い、コクピットに入っていったのはご愛嬌。
周りの整備員が唖然としてたけど別にいいよね。
『降下開始』
以前探していた降下用パラシュートなんて装備せず空へ。
パラシュートはブルーニーさんが燃料ギリギリまで使って宇宙に行くのを試すからいるんであってホバー移動ができる機体には必要はない。
『ではミーティング通り、指示はナンバーが若い順、ホウレンソウは忘れない、いらないダメージは与えないことを重視、戦果は2の次、以上を守るように』
『『『了解』』』
私達マリオンズは同一の思考なせいか、同じような立ち位置で始めるとどうしても同じ敵を狙ったり、あえて別の敵を狙っても同じようなことしたりということが多発するんです。
それを回避するためにナンバーが若い順に優先順位が決められ、最初の行動を指示するようになってます。
これも慣れればそのうち改善すると思う。
『では、各自健闘を祈ります』
『『『祈ります』』』
3機1小隊編成、4小隊はバラバラで連邦に突撃を開始。
事前情報でわかってましたけど弾幕が厚くなってますね。だけど、私達を止めるにはまだ足りません。
リリ丸から当てずっぽうの艦砲射撃を行い、弾幕が一瞬薄まり、そのタイミングで一気に間合いを詰めることに成功した1小隊が瞬く間にジムクゥエルのコクピットにビームサーベルを突き立て3機撃破。
そこから小隊すらバラけて1機で行動を始める。
連邦もジオンも3機編成が基本としているようですけど、私達は普通のパイロット相手に1:3で負けることはまずないのでこういう戦法が取れるのです。
そしてその影響で周りの弾幕も薄くなり、他の小隊も同じように突撃を成功させる。