第五十六話
<マリオンNo.1>
戦場はほぼ一方的な戦いとなってますね。
私は基本的に戦略面を担当するので他のマリオンズに指示を出す立場であり、補給地を守るための護衛でもあります。
私の後ろにはみんなで担いできた替えのビームライフルやマシンガン、ビームサーベルが入ったコンテナが並んでいる。
偶に航空機がミサイルや爆弾で破壊しようと来るのでマシンガンで迎撃するだけの簡単なお仕事ですね。
大事な役割というのはわかってますけど、正直サボっているようで居心地が悪いです。
『こちらC小隊、補給のために後退を開始しますね』
『了解、A小隊はC小隊の後退をフォロー、まだ余裕がありそうですがB小隊も後退を』
『了解。ついでに鹵獲もしておこうか』
『頼みます』
既にモビルスーツの撃破数は100に届いている。
補助兵器、61式戦車やホバートラックなどを含めると330。
私達のビームライフルは1発必中で落とし続けている。
え?ビームライフルの弾数より多い?ビームサーベルを忘れては困りますよ。
思ったよりビームサーベルって省エネなんですね。
『こちらNo.1、リリ丸聞こえますか?』
『ああ、多少ノイズが入るが良好だ。ミノフスキー粒子が下がってきているということは順調のようだな』
『ええ、今からナンバーズが補給のついでに鹵獲モビルスーツを運んできますので回収をお願いします』
『了解した』
リリ丸の通信に出たのはガイアさんです。
最初は一緒に出撃する予定でした……まさか荷運び中にぎっくり腰とか、マンガかアニメかと思いましたよ。
私達がやるって言ったのに年甲斐なく張り切った結果がこれですよ。
鹵獲できるのは…ジムカスタム12機ですか、NT-2の機材を揃えると消し飛びますね。
全く、連邦も採算度外視のテストモビルスーツを作る意味はわかりますが本当に採算度外視過ぎますよ。
それに全天周囲モニターとか有効性はわかりますけど、コストがどれだけあがるか…そもそもカメラの数が増やしたり高性能にしたりするほどのメリットがあるのかどうか…ギニアスさん達は半周囲にする予定だそうです。適切な妥協点だと思います。
正直後方のモニターとか見る機会がどれほどあるというのか、前画面の隅に小窓で表示されている程度でいいでしょう。
情報は多いほどいい、などと思うかもしれませんが視覚情報は多過ぎると思考が追いつかず、逆に危険な可能性が高いです。
『こちらジオン公国軍突撃機動軍所属———』
ジオン側からも連絡がきましたね。
内容は前線維持の協力に感謝という何の意味もない言葉と更なる前線での活躍を期待するという使い潰すぞ宣言、そして出来ればこういうふうに動いて欲しいという遠回しな指示だった。
唯一評価できる点は下手に出てることだろうか、さすがに蒼い死神の関係者に高圧的態度は取れないらしい。
指示は私達が納得できる部分だけ言うことを聞いてあげることにしている。
私達は傭兵という立場ではあるけど『兵が足りないから臨時戦力』として雇われるのではなく、『戦況を打破したい時に使われる臨時戦力』なのだから打開できていない軍の言うことなんて話半分でいいんですよ。
ミデアが到来したのと同時にマリオンズも帰還。
『大体把握してますが被害はありますか?』
『少し脚部に違和感があります』
『ブースターの1つが動かなくなりました』
『特にありません』×10
あれだけの軍勢相手に正面から戦ってこの程度の被害、さすが私達。
『では被害…というか不調があるNo.6とNo.10はミデアでメンテを、他は補給と積み込み作業を始め』
もちろん私も積み込みを手伝う…とは言っても持ってきた人数より2人欠けただけなのですぐに終わりますけどね。
メンテが終わり次第また出撃して1小隊は回収班に回すとして……
『嬢ちゃん達もメンテを受けてくれよ。どうも嬢ちゃん達の反応速度に機体の関節が消耗しちまってるようなんで、今はなんともなくてもやりあってる最中に何か起こっちまうかもしれねぇからな』
『了解、交代向かわせます』
私はほとんど動かずにマシンガンを撃ってただけで特に何もしてませんから必要ないでしょう。
前線を押し込めたならミデアで直接回収することも可能なんでしょうけど……なかなかそうはいかないようですね。
ジオンが前線に加わってくれたおかげで少し安心して補給が行えるのはいいんですけど、鹵獲するモビルスーツは大丈夫でしょうか。
しかも中遠距離での撃ち合いはあれだけ被害を与えたにも関わらず連邦有利なようで、元々ジオンはモビルスーツ280、補助兵器400、航空戦力800機と劣勢でしたけど、私達が撃墜して戦力比はほぼ五分になった今でも撃ち負けるのは補助兵器の質の差もあるでしょうけど、やはり前情報として頂いていた給弾できるビームライフルの存在が大きいようです。
ビームライフルの弾幕というのは、この身が生身の人間なら怖くて戦えなかったかもしれません。
実際ビームの弾幕でジオンの皆さんの士気が低いようですし、私達は今日を含めて3日間しか雇われていません。
近いうちにキリマンジャロが陥落するでしょうからスエズ運河戦線もいつまで維持ができるかわかりませんね。
こうなるとジオンとの取引もインドネシア、ベトナムなどのアジアが主流になる予定ですがペキンに生産拠点を構えようとしているので売上が下がるのは間違いないでしょう。
一応連邦がスエズ運河を取り返しても私達はオデッサと取引はできるでしょうけど、やはり距離的にどうしても輸送費が掛かってしまう。
ブルーニーさんが海が駄目なら空があるじゃない!と叫びながら小規模のマスドライバーでオデッサへ荷物を届けるなんて無謀な計画がありましたが……ギニアスさんが一応検討してみると言ってましたがどうなったんでしょう?本体に確認してもらいましょう。
<マリオンズNo.9>
今日は契約最終日、途中で連邦の増援が到着してジオンの士気はガタガタになってましたけど私達は関係ないのでガンガン突撃。
ただ、途中で放熱が追いつかずオーバーヒートしてしまったゲルググが3機ほど出てしまい戦力低下か…と思ったらジオンがわざわざ蒼く塗ったゲルググを提供してくれたので戦力を維持したまま戦うことが出来ました。
鹵獲に成功したのは合計して81機、撃墜数から考えると少ないようですが砲撃などでスクラップになってることが度々あったので仕方ないんです。
給弾できるビームライフルも数多く鹵獲できましたけど、弾切れした場合は専用の機械がないと補充できないみたいで現状の私達では本当に使い捨てにするしかないので使い勝手が悪いものなのでほとんどをミデア特急便で本社送りにしました。
ちなみに後方指揮は出撃する度に次のNo.に替えられます。
『連邦の新型機が3、念のためフォローを——ッ!』
1対3で私が押されてるなんて…相手はニュータイプでもなさそうなのに、単純な技量の差ということですか。
『No.2後退に専念、すぐにNo.5、No.11が駆けつけますから粘ってください』
『了——ッ解』
新型機はガンダムヘッドですが、どことなくジムクゥエルに似ている気がします。しかし機能性や運動性は明らかに別格、NT-1ほどではないですがあのガンダムを上回る機体であるのは間違いありません。
ぜひ鹵獲したい…ところでしたがNo.5とNo.11が救援に駆けつけると逃げてしまいました。
退き際も心得ているようですね。
後でジャミトフさんに聞いたんですがガンダムTR-1、通称ヘイズルという機体らしいですね。
パイロットもなかなかの腕前だったので聞いてみるとヤザン・ゲーブル、ラムサス・ハサ、ダンケル・クーパーという方達だそうです。
要チェック人物です。
しばらくは戦闘が続きましたが、連邦も被害の許容量を超えたようで撤退を開始しました。
こうして小さな波乱もありましたが、私達マリオンズの初仕事終了と相成ったわけです。
「それでこれがデビルナンバーズの戦果ってのか」
「戦果というより成果だと思うけど」
「どっちでもいいさ。それにしても…133機鹵獲、1200機を撃墜って本当にデビルだねぇ」
「800近くは戦車とかホバートラック、航空機だからこんなものだろう」
「あんたを基準にすりゃそうだろうよ」
それもそうか、13人のニュータイプとはいえ機体の放熱効率が悪い地上、しかも通常のモビルスーツでその上3日という短期間でこの成果はいい結果だろうな。
「これで依頼も来るだろうねぇ。でもこの成果を見るとあまり調子に乗って依頼を受けすぎると蒼い死神の二の舞いになりそうだね」
「そうだな。臨時ボーナス程度に思っておくとするか」
「命懸けの戦場がボーナス扱い…」
実際、今回の臨時ボーナスのおかげでマリオンズの分のNT-2を生産可能になった。
もっともNT-2をそのまま生産するのは色々と問題があるのでフォルムは変更するけどな、既にイメージ図は開発チームに渡してある。
「それにしてもキリマンジャロが陥落してからというもの、売れ行きが悪いそうだけど大丈夫かい?」
マリオンズが初仕事から帰ってくる直前に入った悪い知らせである。
今までモビルスーツの接近戦で有利だったジオンはEパックの登場で接近戦をさせてもらえなくなり、以前とは比べ物にならない戦線の後退を繰り返して、とうとうキリマンジャロは連邦のものとなった。
幸い、Eパック自体が手に入り、Eパック自体の補充する機械もそれほど複雑な仕組みではないようで近日中に導入できるそうだ。
「ジオンにも技術提供するつもりは」
「ある。というかしないとジオンは圧倒的な敗北が決定する。それは避けなくては」
今工場はモビルスーツの製造を一時中断して現在ジオンで普及しているビームライフルに似せたEパック仕様のビームライフルを生産するのに傾けている。
モビルスーツ製造なんてペキンに任せておけばいいのだ。
「ジオンが無くなるようなことになれば私達の立場も危ういからねぇ」
「そういうことだな」