第五十七話
同レベルの技術があれば兵器だろうが家電だろうが複製は容易だ。
その証拠にEパックと対応のビームライフルが量産されていく。
もっともギニアスさま様だがね。
今は日産…車メーカーじゃないぞ?そういえばシーマっていうセダンが…じゃなくて1日の生産高は20丁。
モビルスーツが持つ銃を1日を日産20丁は規模から考えるといい数だろう。
なにせ、まだ本社の工場より前の工場の方が生産設備が整っているのが現状。
思ったより単純なEパックの製造は本社でできるがビームライフルはまだ生産ができないんだからな。
「スエズ運河のジオンが買い占めてくれるから作れば作るほど儲かるな」
既に100丁ほどが売れていて、新しい設備投資に費やしている。
NT-2の製造は一部専用機器だけが稼働中でほとんど手付かず状態だ。
死神の陽炎や警備隊などの更新を進めなくてはいけないし、マリオンズの感想ではゲルググでもまだまだ実戦に耐えられるのでビームライフルを更新してくれた方が成果が増えると言っていたのでNT-2は後回しになっている。
知ってたか?NT-2の値段ってジムカスタム3機分相当なんだぜ。俺達が連邦に売ってる値段じゃなくて正式値段で。
ギニアスは更にフルバーニア仕様も作ろうとしてるがさすがにストップを掛けた。金銭面じゃなくて休養的な意味で、だけどな。
とりあえずしばらくはビームライフルとEパックの生産に掛り切りだろうから休養に入ってもらった。
外へ出掛ける時はマリオンズ2名を連れて行くように念を押している。
そうそう、俺達のビームライフルがEパックになったらどうなるんだろうと思って装備してみたんだが、Eパックの残量とか関係なく消費燃料が半分になった。
速攻で替えたね。しばらく戦うことなんてないだろうけど、やっぱり燃費がいいと助かる。
「おかげでなんとか持ち堪えているみたいです。ペキンのジオンから次の取引がいつか問い合わせがありました。どうやら日時を合わせて援軍を送るそうです」
「どんな事情かは知らないが一応スエズ運河のジオンに連絡入れてそれから教えてやれ」
「わかりました」
ブルーパプワの輸出は連邦ジオン両国に安全を保証されている。されているのだが嫌がらせに遭うこともある。
もちろん嫌がらせをしてくるのは連邦だ。
わざと駆逐艦を接近させたり、潜水艦で尾行したりと予定航路を邪魔するでもなく、時間が遅れるわけでもないがストレスは溜まる。
一応抗議はしたんだがジャミトフ曰く、黙認しているだけで精一杯だそうだ。
俺達のことを噂の産物程度にしか認識してないアホが結構いるんだってさ、俺達が1回〆ていい?って聞いてみたんだけど条約を盾にされて断念…すると思ったか!次回から護衛にモビルスーツ…連邦がマリオンズに付けた異名、『死神の鎌(デス・サイズ)』を載せるから積極的自衛権の名の下で問答無用に沈めると伝えてあるので必死に止めてくれることだろう。
本当に邪魔しに来たら撃沈なんてせず鹵獲するけどね。
話はだいぶ逸れたが、ペキンのジオンは自分達から少しでも目が向いていない時に行動したいから俺達が嫌がらせをされているということを承知の上で利用しようとこんなことを言ってくるんだろう。
まぁ、うちの会社の輸送量を量ることでスエズ運河の戦力分析してるようだ。
もちろんオデッサのジオンの補給線でも同じようなことをされているがこちらは遅れがでたり、偶に破壊されたりするので気が抜けないようだけど。
「それでハロの方はどうだ」
「アムロくんからデータを頂いたので今のところは順調です。後は犯罪を犯す、犯したものの脳波パターンを解析して、通常脳波と病による脳波の変化との識別できるかどうかのチェックと武装であるトリモチ砲の小型化だけですね」
アムロにはパテント料としてそれなりの金額を支払ってOSや改造した内容を教えてもらった。
ついでに戦争が終わった時に会社で働かないか、と勧誘してみたんだが「考えてみます」と思った以上に前向きな言葉が聞けたのは意外だった。
ニューギニア島が実質俺達を封じるための檻という真実は俺達の存在を直接知る者には伝わっているらしく、アムロを始めホワイトベース隊内では知らない者はいないとのこと。
表向き俺達の政策(全てがそうではないのだが支配している俺達がしているように見える)がほとんどの民衆には善政と捉えられているようで、アムロもそのうちの1人のようだ。
まぁ悪政をしているつもりはないけどな。
軍需産業の色が未だに強いブルーパプワだがそれも戦時の現在では優良企業といえるし。
ちなみにアムロが本気で考えていると思える根拠は俺のニュータイプ能力故…かな?
「シーマ様、島全体の状況はどうだ?そろそろ自体の飲み込みが終わった頃だと思うんだけど」
ニューギニア島に俺達が入って1ヶ月が経ち、民衆も状況の把握してきただろうこれからが正念場だ。
「モビルスーツの巡回で一時期減っていた犯罪も最近は増加傾向になりつつある。警察の汚職も進んでいるようだねぇ。民衆の意思なんて関与しない形での独裁国家を作ったんだからこれぐらいのことは当然といえば当然さ」
「やっぱりモラルの低下を招いたか、元々治安が悪いのに更に悪くなりつつあると……連邦やジオン、宇宙引越公社等の工作の可能性は?」
「そうなるように誘導しているという意味では黒、しかし直接的に何かをしているかというと連邦、ジオンは白、宇宙引越公社黒なのはマフィア連中で明確」
結局のところ俺達が舐められてるってことだわな。
ハロの投入を急がせるべきか?
「ただオーストラリア移民達からの評判は上々、普通は移民者が治安の低下を促すものだけど今回は逆に作用してるようだ」
「元々オーストラリアは裕福層が多く居た地域ですが、それが一変して貧困層に転落、そこを助けられれば悪い印象を抱くことは少ないと思います」
「とは言っても最近は原住民とのもめごとを起こるようになってきている。まだまだ未開拓地があるし移民希望者も後が絶えないようだし移民達用に新しい都市を建設するなんてどうだい」
「しかしそれでは移民と原住民の溝が深まりませんか?」
混ぜては危険、分離しても危険。
移民問題は根が深いねーいっそ武装蜂起させて叩き潰すか?……いやいや短気は損気、これが他の場所ならともかくニューギニア島は俺達の島なんだから何事も武力で解決するのは良くないな、うん。
決して拳を構えていたマリオンちゃんズが怖かったわけではない、いやー俺も丸くなったもんだ。
「それなら移民と原住民を協力させて新しい都市を建設するか、雇用も生まれるし融和政策としては悪くない…それに新しい都市で新たな利権を作るチャンスだ」
「商売熱心だねぇ。経済が傾く程度じゃないなら問題ないけどさ」
失敬だな、俺達は金なんて使ってなんぼでしょ。正直俺達に金なんて元々必要性はないんだし…ん?金?
「あ、金塊忘れてた」
「……ありましたね、そういえば」
「なんのことだい?」
シーマ様が知らないのも当然だ、まだ蒼い死神と呼ばれる前の話なんだからな。
「ちょっくら回収してくっか」
「今の資産からすれば決して大きいとは言えませんが、少ないとも言えませんから」
今は金がいくらあっても足りない。
軍需部門は言わずもがなだが食品部門では冷凍設備、造船部門は技術向上と規模の拡大、警備部門は島内で生産するための設備、何よりモビルスーツの維持費もバカにならない。
金塊は無事あった。ゲーム風に言えば資金+10000って感じかな。
金塊を漁っている間にペキンからスエズ運河への援軍は無事到着できたようで、スエズ運河の戦闘はジオン有利となりつつある。
局所的にはヤザン達がヘイズルで大暴れしていて着実にダメージを与えているのでダメージは少しずつ蓄積されているので完全な有利とは言いづらいらしいけどな。
ヘイズルはニュータイプ仕様に改造されたNT-1をジムクゥエルをエース級にデチューンさせ、拡張性を増した仕様といえる。
言い方を変えればNT-1の量産型とも言えなくもない……が単価はジムカスタム2機分とやはり破格なので大量生産には向かないようだ。
もっともガンダムTR-1ヘイルズはジャミトフ派……いや、ジーン・コリニー派が独自に開発したモビルスーツなんだそうだが……なんかジオンと同じ過ちを犯してないか?
「そういえばアナハイムからの干渉はないのか」
月に一大勢力を築いている言わずと知れたアナハイム・エレクトロニクス。
宇宙利権のほとんどを手中に収めていたアナハイム、それに飽きたらず一年戦争後は地球まで手を伸ばして軍需産業の独占に成功している。
「最初こそ宇宙引越公社と同じようにジオンや連邦に対して抗議していたのですが、それ以降大きなアクションはありません。諜報活動に専念しているようで何十人かは捕捉してます」
ニュータイプという常人とは違う能力で見つけ出されたスパイ達は改めて洗い出しされ、ほとんどの者は素性がすぐバレる。
「あの会社と競合しないといけないとか……軽く鬱になりそうだな」
「利権の大きさが違いますからねー」
ジオンがサイドをいくつか潰してくれたおかげでパイが小さくなったのでほんの気持ち地球圏の価値が上昇…してないか、コロニー落としの大打撃でむしろ価値が下がってる。
「今のうちに地球圏の産業の買い占めを進めないと戦後のアナハイムの躍進に飲まれる可能性が高いな」
月の専制君主、元々地球圏に本社を置いていたが地球圏は連邦の利権が大きいことと宇宙の利権はまだ何処の勢力も安定させておらず、それを狙って月へ本社を移し、大成功を収めて、月に一種の治外法権を獲得したことによりそう呼ばれている。
現在勢力拡大を本格化させないのは戦時に大規模買収なんてすると市場が混乱するので連邦に止められているのかもしれないな。
「なら私達が先にいくつか頂いちゃいましょう」
「そのための資金には今回の金塊だけではちょっと厳しいぞ。今は戦時だから軍需産業は基本的に好景気だ」
「それがそうでもないんですよ。例えばブリッツ社とかラッツリバー社とか」
確かジオンの兵器メーカーだよな。
「地球圏を本社に置いていますから手が出しやすいことと、元々はDザクやザクの頭部バルカン、ザクJの脚部ミサイルポッドなどを開発していた会社なのです」
「ああ、つまり現在の主流兵器からは外れて赤字なわけか」
「ですです」
「……確かに届かないことはないか、今なら工場や開発者などいくら居ても困らないし」
「では早速アイナさんと打ち合わせをしておきますね」
「頼む」
…………ところでDザクとかザクに頭部バルカンなんてあったっけ?