第五十九話
1週間後、目の前には骨があった。
「ギニアス…ヤムチャしやがって」
「骨は宇宙埋葬してあげましょう」
「兄さん…こんな姿に…」
「アイナまでボケないでくれ、収拾がつかなくなる」
まぁ目の前にある骨はギニアスの骨ではないんだけどね。
骨とは言っても俺が開発設計を頼んだフィッシュボーンという船だ。
決してVガンダムに出てきた魚の骨ではない。
全ての部品が連邦規格で作られたこの通称『骨』は形状が魚の骨にしか見えない…というかそうした。
頭の部分にブリッジがあり、航海必要人数1名〜3名、収容人数0、ただしコンテナ改造で居住スペースにすれば可能になる。
背骨の部分は取り外しが可能で中骨から中骨が1ユニットとして、最小ユニットは1、最大は15まで。ただし最大まで延長した上に2段に増やすと速度が亀。
中骨は上下に伸びていて、骨に肉付けするように左右にコンテナを固定することができる。つまり1ユニット毎に右上左上、右下左下の4つのコンテナを固定ができるわけだ。
尾びれは推進部であり、移動速度は積載にもよるからなんとも言えないが積載無しだとマゼラン級の戦闘速度より速くて特攻兵器みたいになる。それとついでにミノフスキー粒子散布装置も搭載されている。
コンテナはミデア規格で多少手を加えるだけで使い回し可能、改造すればカタパルトやメンテナンス施設から宇宙カジノ、ラブホテルまでできる優れ物!……まぁ実はどのコンテナでもあまり変わらないんだけどね。
もちろんそんな見かけと内容なんで戦闘艦ではなく輸送艦である。つまりコロンブス級と競合相手だ。
武装は頭の上下にガトリング砲と6連ミサイル、背骨1ユニットに付き、両側に1門ずつにミサイルかガトリング砲ぐらいだ。その全てがデブリ対策でしかないため低性能だけどな。
単価は背骨5つが標準として、10隻ほど作ればコロンブス級とどっこい、もう10隻作ると3分の2、更にもう10隻で半額という安さが売りの商品である。
ただしブリッジと尾びれ以外はコンテナが装甲代わりというなんとも心許ない装甲ではあるんだけど……既にビームライフルが普及しちゃってるから装甲なんてあってないようなもんだから気にしたら負け、一応バルカン程度は防げる設計ではあるし。
「連邦に売れなくても民間企業相手に売れるだろ。最悪はマスドライバーが完成するまで死蔵するか……てか、俺は設計図を作れって言ったけど実物は作れって言ってないんだけど?おい、目を逸らすな!」
「まあまあ、ブルーニーさんが目指した製造が簡単な艦というコンセプトが立証されたと前向きにいきましょう、ね?」
「……アイナに免じて見逃すけど、今度は……」
「大丈夫です。その時は私が引導を渡します」
「ア、アイナ……」
いや、そんなショックを受けるほどのことじゃないだろ。
誰がフィッシュボーン10隻も作っていいって言ったよ。しかも潜水艦の製造を凍結させてまで……やっぱり説教が足りない気がする。
「売れればいいんだが……モビルスーツは既存の物を生産してそこそこ信頼があったから水上仕様も売れたが艦製造の実績はないし、不安だ」
そう、弱点を克服できていないにも関わらず連邦から水上仕様の本格的導入が決められたのだ。
俺達は知らなかったのだが大西洋でそこそこ大きい海戦が行われていたようで、そこで水上魚雷仕様が3機投入され、成果は2機撃破、1機中破だそうだ。
アクア系では1対3程度なのに較べれば随分マシであるため導入に至ったのだろう。
まぁ、裏話的にはジャミトフに便宜を図ってもらい、見返りに売上の1%を報酬として支払うことになっているんだけどね。
癒着大いに結構。
ただし天下りは断固として断る!外敵はいいけど内患は質が悪いんでな。
「とりあえずテストしないことにはどうにもなりませんね」
「マスドライバーは宇宙引越公社の独占で俺達は嫌われてるから利用できるかどうかわからん、となると……非効率だがリリ丸で運搬するしかないか」
「大気圏脱出用ブースターはどうしましょう」
「そのことだがミノフスキークラフトを搭載したことによってジオンが使っているザンジバル級より高度が低燃費で揚げれるになったことにより従来のものほど大型のブースターである必要がなくなっているはずだ」
「で、それは既に設計してあると?」
「ふっ、こんなことも!こんなこともあろうかと既に作ってある———ぶげらほっ?!」
マリオンちゃんのセメントの壁すら貫く拳がギニアスに見舞われる……手加減はしてるだろうけど。
「兄さん…さすがに庇い切れません」
「結果オーライではあるけど何処からそんな費用を捻出したのやら」
「私のポケットマネーさ」
「そんな余裕があったのか」
「没落したとはいえ、それぐらいの蓄えは——」
「ありませんよ。何処から手に入れたんですか?」
「…ブルーニー達のおかげでアプサラスの研究費が浮いたからそれを使った」
「…一応無罪か」
「ですね」
なら殴ったことを謝罪しろー!と叫んでいるがアイナが睨みで黙らせる。
「ミノフスキークラフトは単価が高い上にミノフスキー粒子をバラ撒く性質上、戦時はともかく平時にはあまり使いたいものではないな」
「確かに、宇宙なら航路さえ選べば気になりませんが地球だと電波障害が起こり不便ですからそんなに乱用はできませんね」
「マスドライバーの見積もりを見たが大した金額だな。潜水艦を作るのを止めた方がよかったかもしれないな」
「国防も大事ですよ」
潜水艦は国防のためでもあるがジオンの水陸両用モビルスーツ相手には分が悪い、それでも作るのは技術向上も兼ねてあるからだ。
「まぁ宇宙に行くのはいい。用事もあったしな。以前は戦闘だったけど今回はやっと安心宇宙旅行だ」
「じゃあブルーニーさんは蟹パーツを付けないといけませんね。私は巨大スパナを用意すべきでしょうか?」
「まさかこんなネタまで拾うとか優秀過ぎるだろ」
「恐悦至極」
「いや、褒めてないから、どちらかというと呆れてるから」
さて、宇宙にやって来ました。
次はマスドライバーが完成した後だと思ってたんだけど予想より早かったな。
ギニアスが言っていたように以前の仰々しい装備(連邦が用意したから規格が合ってなかったから余計に)から比べると半分以下とコンパクトなブースターで大気圏を脱出することが出来た。
宇宙世紀なだけあって本当に宇宙に行くのはお手軽だ。現代なんて1回宇宙に上がるのに出れだけの費用が掛かるやら。
「まずは今回のきっかけとなったフィッシュボーンのテストから始めようか、ナンバーズガンバ」
「精一杯」
「がんばり」
「ます」
事故っても死なない、正確に言うと復活するマリオンズは本当に便利だ。
今回連れてきたマリオンズは3人、残りの10人は今頃地上で再びスエズ運河のジオンに絶望を振りまいていることだろう。
フィッシュボーンの良い点は本体の大きさが小さくて、背骨や中骨を折りたたみ収納してサイズがコンパクトになり、競合相手であるコロンブス級のコンテナにも収まるサイズである。
リリ丸の格納庫に収まっているフィッシュボーンが外で通常モードに移行中、イメージはスーパーパンチハンドが徐々に伸びてるようだ…スーパーパンチハンドがわからない方はググってね。
今のところトラブルは無い。
そもそも構造は比較的シンプルで、問題になるのはブリッジの生命維持装置と制御系機器と尾びれの推進部の動作不良、背骨の耐久力への不安ぐらいであって航行自体はそれほど問題にならないはず。
まぁ背骨を伸ばした状態だとコンテナが固定されてないと推進で背骨が揺らいで真っ直ぐ進まないというデメリットがあるが、そもそもコンテナがないなら折りたたんだ状態でいいだろって話だ。
続いて一番の問題点があるであろう機能のテストを行う。
リリ丸の格納庫からマスドライバーから発射されたコンテナを再現するためにカタパルトで射出、それを中骨からワイヤーが射出してキャッチして上手く制御できている。
「トラブルはないか?」
「背骨が注意、中骨が警告を発しています。というかブルーニーさん、カタパルトの射出が大気圏脱出の際の減速計算されてません!」
「あ、すまん。調整させる。その間にユニットの交換をしておいてくれ」
「わかりました」
うっかりし過ぎだろ俺……というか随行してる開発チームも気づけよな。
ちなみにギニアスは地上でお留守番だ。
それにしても予定より速いコンテナをキャッチできるとはフィッシュボーンは丈夫だな。カルシウムが足りている証拠だろう。
そういえばマスドライバーって輸送費掛からない、時間短縮、距離が開いててもそのうち届くなどのメリットに目が行きがちだが、実はデメリットも存在する。
例えば、マスドライバーの起動を読んで途中で奪う、護衛が居ないため盗られ放題、つまりあまり機密に関わるものは送らないが吉。
ミノフスキー粒子が散布されていると障害物の有無が確認できないため射出できない。
結構大規模な設備がいる。
船じゃないから臨検ができず、宇宙引越公社と結託されると敵国やその残党が利用しても気づかない。などなどがデメリットだな。
大規模なマフィアなんかは自分達専用のマスドライバーを持ってて麻薬などの違法取引をしているって噂もある。
もっとも地球圏を脱出させるマスドライバーは多少デメリットが軽減されるけどな
「こちらは準備できたがそちらはどうだ」
「交換は完了して最終チェックしています。少々お待——今できました。いつでもどうぞ」
ユニット交換も早い、これは本当に売れるんじゃね?いや、売れない商品とか作ってるつもりはないけども。
再びチャレンジ、今度も上手くキャッチができた。が問題はトラブってないかだな。
「どうだ?」
「特に問題ありません。次は続けてどうぞ」
次はコンテナ2つを同時射出、これも無事キャッチに成功した……が。
「背骨に注意が出てます。事態の把握を行ったほうがいいと思います」
「了解、開発チームをそちらに向かわす。ナンバーズは一時リリ丸に帰還、今日のテストはこれで終了とする」
さて、次回は……飛べ!ビット!