第六十話
さて、続いては念願だったビット…いや、仕様上で言うならファンネルか?の作動試験を行う。
「と言っても本体はニューギニア島だから分身体SDで、だけどな」
「ブルーニーさん、ちっさい」
「ちっさい言うな!!」
表立って試験なんて出来ないので自室だけどな!
では、早速——
「ファンネル!」
この掛け声は原作を知る者には欠かせぬセリフだろう。
そしてファンネルが——!
「………」
「ぷっ」
飛ばない。
「ファンネル!」
もう1度叫ぶがやはり飛ばない。
「………」
「ぷぷぷっ」
なぜだ。
なぜなのだ。
なぜなのじゃー!っと、また違うキャラが。
それにしてもなぜ?
「カラコン挿入してないからか?」
今度はカラコン挿入して試してみる……が、やはり飛ばない。
ぐぬぬぬぬ、なぜ飛ばない。
「………あ!」
あ、ああ、あああ、そうか!そうだったのか!
シドレ曹長じゃファンネルを飛ばせるわけがないorz
つまり今の俺ではファンネルを飛ばせないのだ。
「マリオンちゃんと共有してみるか」
「了解です」
後で笑った仕返しにお気に入りのクマのぬいぐるみにビームサーベルとシールドを装備させてやる。
「改めて…ファンネル!……飛ばねぇー」
「ファンネル!あ、私がコントロールするみたいですよ」
そこには6つのファンネルがフヨフヨと浮かぶ光景があった。
夢だったファンネル無双はしばらくお預けのようだ。
まぁマリオンちゃんがコントロールするんだから無双するには違いないだろうけどな。
「それにしても……ファンネルは補充されないんだな」
今までのことから考えればファンネルも補充されると思ったんだけどな。
「ファンネルは使い捨てじゃなくて帰ってくるんですよね?なら補充されるのは壊れた時だと思いますよ」
ふむ、なるほどね。
試しに近くにあったファンネルを握りつぶす——
『ギィー』
………
「なあ、なんか今聞こえなかったか?」
「気、気のせいですよ」
「聞こえたんだな?」
「はぃ」
………まぁ深く考えないようにしよう。
まさか意思あるなんて思ったら使い捨て辛くなるからな。
「お、ファンネルが補充されてる。マリオンちゃんの予想通りだな」
「これで使い倒せますね」
きっとそのうち【ロボットにも】ファンネルの苦労を語るスレ【労働基準法を】が立つな。
「燃料に不安があるわけじゃないんだが…ファンネル1個で200%消費とかデカイなー」
メガ粒子砲は低燃費ボーナスでビームライフル並の燃費に下がって使い勝手が良くなったがファンネル1個でこの負担はどうなんだ。
ファンネル同士の戦いは気をつけてやらなくちゃな、原作のアムロとシャアみたいな落とし合いになったら塵も積もればで結構バカにならない消費になりそうだ。
それと最近気づいたんだが俺達が食事をすると金属がミノ粒やバルカンの弾、推進剤に置き換わる、つまり人類が使える金属が本当に少しずつだが消失してたりするのだ。
寿命というものがあるのか怪しい俺達であるから、そのうち人類が土壁や土器の時代に戻ったなんてことにならないことを祈る…そうなる前に金属の取り合いでまた戦争だな。そしてまた俺達の燃料に…悪循環。
「何にしてもファンネルが使えるのはいいことだな!しばらく出番無いだろうけど!」
「これで今まで問題だった火力はある程度補われましたね。地上じゃ未知数ですけどね」
封印された魔王の心境はこんな感じなのだろうか、と最近思う。
「そういえばサイド6まで後どれぐらいだ?」
「大体1日ですね。加速用の推進剤をケチって牛歩ですから」
「慌てて行く必要性がないからな。それに今回、船員の半分が新人だから安全で、なるべく長く航行を経験させた方がいいだろ?」
「それはそうですけど…時は金なりともいいます」
「急がば回れ、急いては事を仕損じる、とも言うぞ」
「今回はサイド6に支社を作ることとマーケティングがメイン……だったんだけど、この感覚」
「ええ、間違いありませんね……ニュータイプが複数人います。それに……」
どうやら思わぬところに妙なものが引っかかったようだ。
これだけの数のニュータイプが1つのコロニーに…いや、一箇所に集まっているのは不自然だ。
つまりここにはフラナガン機関があるんだろうね。
サイド6にあるのは知ってたけどまさかこのコロニーにあるとはねぇ。
「どうしましょう?襲撃して掻っ攫っちゃいますか?」
「いや、さすがにそうなると犯罪者だから」
犯罪はバレなければ犯罪にならないが、バレたらデカイ借りを作ることになるから用法用量は守りましょう。
マリオンちゃんのハッキングは完全犯罪率100%なのでいいとして、軍を脅したりしたのは…まぁあの頃は仕方なかったと割り切るしかない。
「研究者に金を掴ませて引き抜くなり研究資料を流させることが精一杯だろうな。もう片方の気配はまた後で、だな」
「下調べを頼んでおきますね」
「頼む」
フラナガン機関とか特に気にしてなかったけど…資金提供して取り込もうにもサイド6との取引次第だが、今は少なくとも手元に資金はない。
そもそもジオンの支援を受けているんだから生半可な資金では靡(なび)かないだろうしな。
本格的な最先端技術の研究資料となれば外部とのアクセスはされてないはずだからハッキングは無理だし…比較的小さいムラサメ研究所とか狙ってみるか?
んー…でも新しい技術も大事だがやはりピーキーな技術は後回しにすべき、なんだろうな。
個人的には大気圏でファンネルを飛ばしたいと思ってるんだけど、今はそれほど必要ないというのも事実だし。
むしろモビルスーツ開発に有利な会社を狙うべきか……まぁ、それは次回として。
「随分大勢での出迎えだな」
「一応国家元首レベルだからね。私達は」
そんなに偉いやつが1人はガンダムのコスプレ、もう1人はフルフェイスのヘルメットってのはなかなかに失礼なやつらだな。
「私が当サイドの市長を務めていますランクといいます」
「これは市長自らご挨拶感謝します。ブルーパプワ会長ブルーニーといいます」
「同じく副会長マリアです」
挨拶もほどほどにエレカに誘導され、マリオンちゃんが抵抗なく乗り込んだため罠の心配は無さそうだから俺も乗り込む。
やはり俺の重さはちょっとキツイのかエレカが傾いているがなんとか発進。
「エレカの中で失礼とは思いますが、この度はどのようなご用件でしょうか」
「簡潔に言えばこちらに支社を構えて貿易を行おうと思っている」
「ほう、それはありがたいことです。地球で作られるものはやはり人気がありますからな」
「需要が高そうな魚介類やタバコなどを取り扱う予定ですが……」
「それですと連邦と競合していまいますが」
「そこで少し関税を引き下げて頂けないかと思いまして」
にこやかに会話しているが空気は戦場のそれである。
「それは、なんと申し上げれば良いやら」
「もちろんタダで、とは言いませんよ。私が聞いたところによりますと、最近海賊がよく出るそうではないですか」
「そうですね。ジオンや連邦に討伐をお願いしているのですが、腰が重くて……」
「そこで私達の死神の陽炎を派遣し、海賊狩りをしようと思ったわけです」
「しかし傭兵とはいえ、軍事力を保有することはジオンや連邦が納得するとは思えません」
「そこは私達が何とかしましょう。ついでにですが中立国となってから防衛手段がなくて不便でしょう?軍の設立の方もこちらで手を打ちましょう」
「そんなことが可能なのですか」
「可能ですよ」
中立国という立場上、防衛能力が欲しいところだが連邦とジオンの戦争が続いている限り、迂闊に武装しようものならどちらからかわからないが戦争に巻き込まれる可能性が高くなるため現在はトリアーエズやガトルのような旧式兵器がある程度でその数も少なく、ほぼ非武装である。
これで中立国が成り立つのは戦争を嫌った連邦やジオンの高官が逃げ込んでいてそれらの影響力で安全が保たれていたが、最近になってその影響力が及ばない海賊が出没し始めて軍事力が欲しくなってきた今日このごろなのだ。
「軍の設立が成功した暁には軍事費の7割をこちらに回していただきたい」
「そんな馬鹿な金額を出せるわけない」
「では、もし海賊がここを襲っても無抵抗に人や財産を見捨てるわけですね」
「……」
「別に高価な鉄クズを渡そうとは思っていません。連邦の主力機であるジムカスタムやクゥエル、ジオンの主力であるゲルググや追加装備などを導入するつもりです」
「……」
「そして最後に、こちらの死神の鎌を3人ほど派遣することを約束しましょう」
デビルナンバーズやナンバーズなどより死神の鎌という異名の方が知れ渡っているのであえてこちらを使う。
「本当ですか」
「ええ、これでも契約を破ったことはないんですよ。私達は」
割りと死神の鎌の名前は効果的だったらしく見た目では普通を予想ってたようだが心が揺らいでいることは手に取るようにわかった。
ひょっとするとニュータイプ能力が初めて役に立ったのかもしれない。
しばらく考えた後、答えが出たようで口を開く。
「分かりました。あなた方が当サイドに軍を設立させることに成功して、派兵していただけるのでしたら関税と支払いも吝かではありません」
「ご英断ありがとうございます」
「それでは細かいことは後ほど……」
こうしてサイド6への販路拡大に成功したわけである。
もっとも俺達にはまだ連邦ジオンを説得するという仕事があるがジャミトフやイーさんには前もって伝えてあるから恐らく根回しをしてくれているだろう。
細かい契約内容はマリオンちゃんが積めてくれるので俺は楽ちんである。
しっかしナンバーズは現在の主力なんだがサイド6に3人も割くのは、地上部隊の負担は大きいと思う。
実際現在も地上で暴れているナンバーズの収入は前回と比べると結構減っている。
あれもこれもギニアスのせいだな。お仕置きを……とも思うが一番キツイお仕置きが開発に携わることを禁ずることなんだけど、それをやるとブルーパプワの被害が大きくなるというなんとも言えない現象が起こるのが困る。