第65話
ジブラルタル基地、昔から地中海の入り口にあたり対岸のセウタと並んでの要衝である。
現在、連邦の兵站はジャブローとベルファストから地中海を通り、ギリシャから陸路で輸送している。
本来は北海やバルド海から地中海へ抜ける運河はいくつかあったが、そんなものをジオンが放置しておくわけもなく、爆撃により再建には半年は掛かると予想され、現在は復旧は放棄している。
そして俺達がジブラルタル基地へ行くことになったのは……もちろん攻め落とすためだ。
ジブラルタル基地を落としたなら地中海を通ることは簡単ではなく、兵站に影響に致命的なダメージを受けるのは間違いない。
実は兵站のルートはもう1つあり、インドからスエズ運河を通るという、ほぼ我が社の通商ルートと同じだったりする。
ただ、こちらはしばらくジオンが支配していたというだけのことはあって諜報や地理の把握が行われていて輸送船を効率良く拿捕、撃沈できている。
それに比べてジブラルタル基地、というより地中海は壺の独断で侵略する予定がなく、ほとんど手付かずで地理の把握、諜報が行えていないので俺達に任されることになったのだ。
つまり壺の尻拭いを俺達がすることになったんだけどね。
契約内容も変更されて撃墜数1500からジブラルタル基地占領と海峡の封鎖を3ヶ月、もしくはオデッサ防衛が成功、失敗することが条件となっている。
しかも死神の鎌が不在ということを連邦に知られると大攻勢に出られる可能性があるのでマリオンズ3人はオデッサにいる。
各個撃破される可能性があるが……もしかしたらそれを狙ってのこの作戦か?
普通に考えれば13人、マリオンちゃん含めて14人の少数精鋭が分散しているのだから偶然を装って始末するというのはジオンにとっても連邦にとっても都合がいいだろう。
まぁ、24時間したら復活すると知ったら絶望するだろうがね……もっとも奮闘しての戦死なら文句は言わないけど、補給を渋る、モビルスーツの整備不良などの作為的な戦死だった場合はそれ相応の報復をさせてもらうが。
現在手元の戦力は艦艇リリ丸、ミデア4、前線戦力マリオンズ専用ゲルググ8機、海峡封鎖用に借りてきたズゴックD3機、緊急戦力であるガイア率いる新・黒い三連星専用ゲルググ3機、艦艇護衛のドップ12機。
戦力から考えるとマリオンちゃんズの活躍に期待!……と誰しもが思っていた。
しかし……
「なんだこれは」
いざ、ジブラルタル基地へっ!と思って突撃してみると……
【死神様御一行様 ご来訪歓迎!!】
という横断幕を持ったジムIIが2体立っていた。
「情報がだだ漏れだろ、とツッコむべきか、なんで横断幕を用意してるんだ、とツッコむべきか」
「両方でしょう。どうします?罠の可能性もありますが」
今回はメンバーが少ないためマリオンちゃんもコクピットにいるので話し相手は海賊もどきさんにしてもらっている。
「ナンバーズ3人を先行させて事態把握を——」
「目の前のジムIIより入電、『死神様一行を歓迎します。だから殺さないでください』だそうです。返信どうしますか」
いや、戦場で殺さないでってどうなんだ。
「熱い歓迎ではなく、手厚い歓迎感謝するとでも返してけ……ナンバーズへの指示は変わらず、3人を先行させて事態把握だ」
「了解」
全く、なんでこんな面倒なことになるかねぇ。
10分ほど待つと先行させたマリオンズから報告が入ってきた。
詳細は省くが簡単に言うと、ジオンの諜報員から死神の鎌がジブラルタル基地を攻めると聞いて上層部は慌てて撤退を指示した。
しかし完全に撤退できなかったので、ならば歓迎をしよう!ということでこうなったらしい。
「連邦はアホばっかりなのか?」
「蒼い死神はもちろんですがナンバーズの強さを知ると真面目に戦おうなんて思わないのは確かです」
ガイアやシーマ様の激しく頷く幻影が見えたあたりその通りなんだろうね。
「では、基地に入ってみるとしようか……あ、もちろん全機出撃させておけよ」
「了解」
結果から言うと激闘……なんてなかった。
普通に基地内に入ると武装してない兵隊がズラッと軍事パレードのように並んで待っていた。
マリオンちゃんズも嫌な予感がしないというし、ニュータイプ占いでも信じる者は(相手が)救われると書かれていたので大丈夫だろう。
司令と話そうとすると、もっと上が話をしたいそうですと即通信室に通され、モニターに映ったのは——
「やっぱりジャンボミックスパフェデラックスか」
『なんだ、そのバケツぐらいありそうな器に山のように積み上げられているようなパフェがどうかしたのか』
もしかして元ネタ知ってますか?!ちなみに略してジャミトフなので間違ってない!
「それは置いといて、俺達が来るって良く知ってましたな」
『それぐらいの諜報網ぐらいはできておるよ。もっともジオンもこちらに内通者を飼っているようだがね』
エルランのことかな?
「それで、話ってのは」
『うむ、できれば地中海を素通りさせてもらえると嬉しいが……』
「無理なのはわかってるだろ?信用問題になるからな」
『報酬ももちろん出すが』
「信用と金、あんたならどっちを選ぶ」
『……ならばせめて艦を発見した場合は撃沈ではなく拿捕してイタリアの味方に売ってくれないか』
斜め読みすると発見しても拿捕できない場合は見逃せ、ということだな。
それに俺達が護衛することによってジオンが手を出せないという一石二鳥の作戦か、やるな。
「それぐらいならいいかな」
『それと報酬に関してじゃが……国債で構わんか?』
「国債?いつもニコニコ現金払いだったのに」
『さすがにそろそろ戦争を終わらそうと思って私達は動いておる。そのためには資金が必要だがそれも危なくなってきておる』
「それって戦後は経済危機だろ。間違いなく」
『その責任の一端はおぬし達にもあるんじゃがな』
「それは知らん。ちなみに現在のニューギニア島のGDPは前年比120%とかいうわけわからん数字になってるけどな」
気分は昭和のバブルだね。
何やっても金が入ってくるし、大きい投資しても返ってくるんだから。
『自然保護を名目であまり思い切った開拓が行われなかったからな』
「確かに自然はいっぱいだな。おかげで気を遣う気を遣う」
原住民の方々は宇宙世紀の中にいる原始人みたいなもんで、必要ない自然破壊にはすぐに目くじらを立てるので工場を広げるのにも苦労する。
しかも工場が水質汚染を〜なんて言い始めたりするんだが、コロニーが完全循環型になっているだけのことはあって浄化機能はかなり優れた物を導入していて、出てきた水をそのまま飲んだりして説得している。
『それで、国債でもいいのか?』
「まぁ、これまで随分支払ってくれたからな。しばらくは国債でいいだろう……ところで償還期限は?」
『本来なら10年だが今回は特殊国債ということで2年になっている』
「わかった……ああ、拿捕した品の中からいくらか物資をもらうこともあるかもしれないけどいいかな?」
『あまり希少品や大量に取られると困るが……』
「いや、主に食料品や日用品の類だ。それも100人分満たない程度の」
『それなら直接そちら分を運ぶのでそれで頼む』
「了解だ。他に要件は?」
『ないな。ではくれぐれも頼むぞ』
こうしてSPECIALEASYモードのジブラルタル攻略作戦は終了した。