第六十八話
———私達はエリートなんてものじゃありません。
———ただの臆病者なんです。
———遠くから敵を狙い、敵が近づく前に逃げるか味方の背に隠れます。
———ただしそれは死神を除きますけどね。
———死神はどんな攻撃でも当たりはしない。
———死神に攻撃されれば等しく死が訪れる。
———核ミサイル?あんなものはただの鉄塊だ。
アナハイム・ジャーナルが取り上げた『連邦精鋭部隊が語る真実』の1文より。
全国紙のアナハイム・ジャーナルを読んで思い出した。
そういえばマスゴミに力入れるの忘れてたな。
情報統制や操作をする上で重要なのになんで忘れてたよ、俺。
正解は……最初からマスゴミは俺達に従ってたからだ。
ニューギニア島の地方紙のほとんどはアイナやシーマ様に協力的で、情報操作に苦労したことはない。
もっとも今はステマを仕掛けたり、新商品の広告を大々的にしたりして他企業の広告が載りにくくしている程度だから大きな不利益を被ってないので逆らってないだけだろうけどな。
連邦やジオンの戦況とか、生の情報が入ってきた所で俺達には特に関係ないから問題なし、唯一社会不安を煽るのは控えるように指導してるってアイナの報告書に書かれてたような……もう少しちゃんと仕事しないといかんな。
最近仕事が多岐に渡っていて、データのバックアップは本体にしているんだけど検索かけてもなかなかヒットしないんで困る。
「マリオンちゃんが居ないと暇だ」
「ニューギニア島は平和そのもので、ハロの初期ロットを無事配置しましたし早速成果をあげています」
実は前回から1ヶ月と15日が過ぎていて、ハロは実践導入で問題がなかったので本格導入されたのがついこの前である。
「誤認捕縛は大丈夫か?」
「51件の事件の内、1件でトリモチ弾に巻き込まれて捕縛されましたが条例により慰謝料を払いが生じましたが大した問題はないと思います」
こうやって文脈だけ見るとマリオンちゃんとアイナの見分けがつかないな。
「追加生産での修正点は?」
「システムの軽い再設定だけで現在は問題ないようです。あ、そういえばハロハロうるさいという苦情があったので修正し、9時〜20時まで10分に1回音声広告を流す仕様にしました。そのおかげで広告料の収益も結構な金額になってます。現在はハロにプロジェクターを搭載して映像広告に手を出すか検討中です」
全然考えてない方向に進んでるな。
まさか広告会社としての業務も増えるとは思わなかったが、広告会社と言っても待っているだけで広告を出してくれという依頼が来るので今のところ熱心に営業はしてない。
それに自社広告の合間に入れるだからそれほど本格化することはない。
元々ハロの声はその存在に慣れてもらうことと、そこにいるという安心感を与えるために設定していたのだが、数が増えたことにより煩わしさが上回ったか。
「治安維持部隊にも余裕ができましたからマリオンさんやナンバーズを戻すのもそう遠くない未来です……ですから仕事をしてください」
「……はい」
アイナ、本当に逞しくなっちゃって。
この1ヶ月半の間にニューギニア島とブルーパプワに大きな変化はなかったが世界情勢にそこそこ変化があった。
まず、大量に兵器を購入、生産していたロシアが本格的に連邦と衝突した。
戦線を後退するさせるつもりだったジオンも協力して連邦と戦うが有利はやはり連邦。
新兵が多いロシアでは練度や経験の違いで苦戦、ジオンから学習型コンピュータのサポートを受けているが連邦も同じだからアドバンテージにならない。
それでもジオンからすればアースノイド同士が殺しあってくれればウマウマな現状だろうけどね。
連邦が有利と言っても牛歩の進みで、その要因は大量生産されたザク改キャノンの存在だ。
一線級のモビルスーツから比べると機動力や運動性が劣るが、単価が安いので数が揃えやすく、そもそも運動性は接近戦をしなければデメリットとはいえず、中遠距離から砲弾による弾幕で連邦は手を焼いていた。
接近戦になるとジオンの手練れが蹂躙するというなかなかいい組み合わせで戦いを若干不利程度に抑えられている。
しかし、問題は宇宙だ。
宇宙はホワイトベース隊の活躍で小規模の基地を次々落とされてジオンはソロモン以外の前線基地はほとんどがなくなったことにより、連邦はチェンバロ作戦の準備に入った。
ジオンもそれに応えるようにソロモンの防衛を強め、新型モビルスーツ、モビルアーマーを投入するようだ。
原作ではほぼ捨ててたソロモンだが、今回はちゃんと防衛するんだな。
「世は大乱、このまま戦い続けるようだと両軍ともに経済破綻しそうだけど大丈夫なのだろうか」
「……はい、わかりました……ブルーニーさん、ジャミトフ中将から通信だそうです」
「わかった。すぐ行く」
政庁へ行かないといけないのは面倒だな……しかし通常の依頼だと普通に連絡してくるのにわざわざ秘匿回線ということはなにか重要なことなのかね?
「それでなんのようだ?」
『今チェンバロ作戦、ソロモンを攻略する動きがあるのは知っているな?それで成功の有無に関係なく停戦協議を行おうと思っている』
「お、戦争もそろそろ終わりか。財界からクレームでも来たか?」
『よくわかっておるな。その要因としておぬしらの台頭もあるがの』
「いやいやいや、アナハイムなんてバケモノがいるのに俺達を目の敵にするとか」
『アナハイムは特別なのだ……まぁそれは置いておくとして、おぬしの立場からすればその協議に参加したいじゃろう?』
「つまり領土保証をして欲しければジオン側と橋渡ししろと?」
『有り体に言えばそうだ。おぬしにも都合がいいだろう?』
まぁ、今のところ俺達の領土を保証しているのはジオンだけで連邦は黙認しているだけで容認していないからな。
協議に参加できれば俺達は別の意味での名声を手に入れれる。
「確かに……俺達のこういう話をするってことは停戦協議はウチで行うということでいいんだな」
『私達はそのつもりだ。後はジオン側が了承すればそうなるな』
ふむ、断る理由がないな。
唯一の不安はマリオンちゃんの不在ぐらいか。
「いいだろう。俺達が仲介しようじゃないか、護衛は死神の鎌が務めさせるからこれ以上無い安全を保障しよう」
『ハッハッハ、それは全世界で2番目に安全そうだな』
1番は俺達(蒼い死神)ですね、わかります。
「では近いうちに良い知らせを届けるとしよう」
『頼むぞ』
通信が切れて、ため息を一つ吐く。
「とうとう1年戦争は終わりかー、いや1年半戦争かな?でもゴロが悪——ウオッ?!」
突然の電子音でビビっちまったじゃないか。
これは確か内線だよな?
『よかった、まだそちらにいらっしゃいましたか。実はジオン公国のギレン総帥から連絡がありまして……そちらに回してよろしいでしょうか?』
受話器を取ると、あら不思議、今度はジオンのトップから通信ですよ。
「わかった。回してくれ」
『初めてお目にかかる。私はジオン公国総帥ギレン・ザビだ』
「ブルーパプワ会長ブルーニーだ」
『聞いていた通りの風貌だな』
「趣味みたいなものだ。それで総帥閣下がどのようなご用件で?まさか俺の容姿を見るためではないだろ?」
『もちろんだ。実は連邦と太いパイプを持つ貴公に停戦協議の場を用意してもらいたい』
あれ?デジャヴ?
『現在連邦が進めているチェンバロ作戦を決戦として手打ちにしたいのだ』
もしかして打ち合わせして連絡してきた?んなわけないか。
「俺達に仲介を頼むということの意味はわかっているのかな」
『もちろんだ。今まで通り特別地区として容認し、協議地はニューギニア島で行う。そして協議に参加してもらう予定だ』
なんというかタヌキや妖怪、老害な両国にこんなにスマートに要求を飲まれると逆に怖いんだけど。
『更に貴社にはジオニック社、ツィマッド社が技術協力の構えがあるようだ』
これは俺達と繋がりを強めようとする動きだろうか?それとも戦後のアナハイム対策かもな。
宇宙はアナハイムの力が恐ろしいほど強い、キシリアの開発した兵器のほとんどはアナハイム製というし、ジオニック社だけでは生産が間に合わず、ゲルググもライセンス生産されていると聞く。
「わかった。1週間以内に段取りをつけよう」
『おお、それは心強い。よろしく頼む』
ギレンが腰が低すぎる件について。
ジオンも経済が限界に近いのだろうか?キシリアとかサイド3から離れているし、ドズルは論外でイマイチ情報がないんだよな。
と言うか、既に俺達勝ち組確定じゃね?
<マリオン>
ああ、ブルーニーさんは大丈夫でしょうか。
「そんなその場凌ぎの攻撃が当たるわけないでしょう!」
一人寂しく寝てるのでしょうか。
「考えるのではなく感じるのです!」
……あ、寝る必要ありませんでしたね。
「シールドなんて重いだけで当たらなければどうということはないですよ!」
でも私は寂しいですよ。
「そこ!回避が遅い!味方の連携を考えなさい!」
ああ、早く会いたいです。
『No.0、さっきからうるさいです!私の方がずっと会ってないんですから我慢してください!』
『そうだそうだ!』
『でも会いたいですよねー』
『ですです』
帰ったら絶対撫でてもらおう。
「そのために貴方達にはエース級の腕前になってもらわないといけませんねぇ」
(((嫌ーーー!!誰か助けてくれえぇ!)))
猛特訓の結果、3人がニュータイプが誕生したのは予想外でした。
もしかして念能力の目覚めと一緒でニュータイプのプレッシャーを浴びせ続けたせいでしょうか?