第六十九話
「は?ニュータイプって感染するのか?」
『感染じゃなくて覚醒と言って欲しいです……でもどうやらニュータイプのプレッシャーがニュータイプの覚醒に繋がるのは間違いないようです』
ふむ……ああ、なるほど。
俺のニュータイプの解釈ではストレスとトラウマによる精神異常によって第六感が異常に発達した存在ではないかと思っている。
ただ、この理論で行くとジュドー・アーシタだけは当てはまらないんだけどな。
つまり——
「ニュータイプとして規格外のマリオンちゃんにシゴカれてトラウマやストレスを抱えてニュータイプ化した……と」
『失礼ですね!ちゃんと普通の訓練でしたよ。まぁ酷い失敗するとノーマルスーツで45分程度の酸素で50分間宇宙遊泳させたりしてましたけど』
おー、思った以上のスパルタだった。
そりゃニュータイプ覚醒するわ。
「よくそれで人が死ななかったな」
『…………ヒーリングって便利ですよね』
おいぃ!ってか死んでも身体さえ大丈夫だったら蘇生できるのか?!ってかこの前の燃料が大きく減ったのはそのせいか?!
これが世界違ったら素質さえあれば直死の魔眼を開眼させれそうだな。
『そ、そんなことより休戦協議がニューギニア島で行われることが決定したみたいですね。これで私達の地位は盤石です』
「ああ、戦争が終わると俺達の食料がなくなると焦ってたが軍需会社を運営し始めた俺達にはあまり関係なくなったしな」
露骨に話を逸らしたがツッコムまい。
当初は戦争がなくなると食料供給が減るからという理由で戦争継続を狙ってたんだが、現段階だと冷戦状態必至、内戦の火種がわんさかあるんで心配は少ないし、なにより自給自足ができるようになったことで余裕を持てるようになったのも大きい。
『こちらはニュータイプ覚醒のおかげで訓練期間は短くて済み、3日後にはこちらを出る予定です』
「その頃にジオン側の代表……デギン・ソド・ザビがサイド6に行くと思うから一緒に連れてきてくれ」
『私達はおまけですか?』
「むしろデギンがおまけです」
誰がマリオンちゃんズをおまけ扱いするか!
『その後も連邦の偉い方も迎えに行かないといけないんですね』
「その通り、こういうことに差をつけたら色々面倒だからな。ジオンを先に迎える段階でも散々文句を言われたからな」
全く、それほど細かくしないといけないもんかねぇ。
と言うか休戦協議だと国のトップが出向くほどのことではないと思うんだけど……特に今回はまだ非公式の会談なんだし、外交官でいいと思うんだけどなぁ。
もしかしてあの眉なし、耄碌してるデギンを俺達に押し付ける気じゃないだろうな?
……ありえそう、さすがにそれは断りたい。デギンなんて大物、何かあると困るから護衛が必要になる、となるとマリオンズを張り付けておかないといけなくなる可能性が高い。
いい加減マリオンちゃんを投入して14人と底上げしてギリギリで対応させてるのに、これ以上縛られるのは厳しすぎるぞ。
『戦争が終わると私達の優位がいくらか損なわれますね』
「だな」
原作では地球圏にジオンの領土なんてなかったから取り残されたジオン兵がゲリラ化していたが、このまま推移すれば地球圏にジオンの領土が生まれるため、ゲリラ化しないだろう。
原作通りならゲリラ狩りという美味しそうな仕事があっただろうけど……あ、でもティターンズの結束理由と戦功稼ぎになるから無理か……あれ?そういえばティターンズってどうする気なんだろう?
ジャミトフの最近の動きからして設立するのは間違いないだろうけど、大義名分が立たなくね?
まぁ、俺が気にすることじゃないか。
「連邦は経済がやばいらしいから仕方ない」
『ジオンも随分と国債を発行していてその半分ほどを買い占めているのがアナハイムってあたり、嫌な予感がしますね』
うわ、ジオンがアナハイムに乗っ取られる?!
もしかして休戦協議は国債云々じゃなくてアナハイムの乗っ取りに対しての対抗策なのか?!
経済基盤が脆弱なジオンでは抗い辛く、そもそも軍需産業以外はアナハイム傘下の企業が7割を占めるような状態だ。
それにアナハイムの手を逃れるためとはいえジオンも独立してすぐにデフォルトするわけにもいかんだろうし……さすが裏ボスアナハイム、油断も隙もない。
恐らくジオニック社やツィマッド社などにもアナハイムの魔の手は伸びていると思っていい。
そうなると戦後はアナハイムの天下だねぇ……死神と呼ばれる俺達だけど、アナハイムこそ死神と呼ばれるに相応しいと思うのは俺だけだろうか。
「そういえば裏稼業の方針転換したって聞いたけどそちらは順調?」
『順調ですよ。私達以外の海賊はアナハイムの手先だったのは報告通り、今はアナハイムの船団をメインに狩ってます。近いうちに月に拠点を作りたいと思ってたんですがマリオンズが全員帰還となるとしばらく先になります』
「アナハイムが産業の独占を狙い過ぎな件について」
『今ではコロニー企業のほとんどはアナハイム系列の保険に入ってますよ』
天災がない宇宙間移動なので本来保険なんて小さいものなんだが海賊の存在で保険の価値を向上させたわけか、マッチポンプ甚だしいな。めっちゃブーメランだけど。
「民間軍事会社への参入はありそう?」
『いえ、さすがにあの規模の大企業が軍事会社まで手を出すと叛意を疑われると思ったのかそんな動きはありません。本来私達規模でも問題視されるぐらいですからね、私達の場合は成り立ち上仕方なしと黙認されてますけど』
ならしばらくは警備業は独占かな。
独自に軍事力を持つ企業なんてモビルスーツの開祖であるジオニック社でも持っていない。つまり一人勝ちである。
「裏稼業の方は海賊達を牽制や情報収集を重点的にして、余裕があれば狩る程度に押さえておくように言っておいて」
『了解です。安全第一ですね』
マリオンちゃんズ、帰還。
「会いたかった——ちょっと待——」
マリオンちゃんズもみくちゃにされる俺、これが噂の逆レイプか。
感動の再会がこれとはなんとも無残、まぁ俺達らしいけどね。
「ブルーニーさん!会いたかったです!」
そう言ってくれるのは嬉しいがデギンがめっちゃ呆(あき)れてるというか呆(ほう)けてるから少し落ち着こうか。
ん?脇にいるのは壺さんと……えーっとこの女は……確かアイリーン・カナーバ……じゃなくて……誰だっけか?
何にしても挨拶だな。
「ようこそ、ニューギニア特別地区(これが正式名だったらしい。知ったのは昨日)へ。表向きのトップより実質トップが出迎えた方がいいと思いお迎えに上がりました」
「おお、そなたがあの蒼い死神か。うちの者が随分世話になったようだな」
これは嫌味か?それとも言葉通りか?いや、両方か。
「傭兵家業というのはなかなかに難しいものですからその辺はご容赦を」
「なに、あの2人には良い薬だろう」
話がわかる人だな、見た目は顔が怖いダルマだが。
用意したリニアカーに案内して乗り込み、走りだす——と思ったんだけど同乗していたマリオンちゃんが止める。
「少々お待ちを」
外を見るとマリオンズ3人が通行人を取り押さえているところだった。
どうやら暗殺者だったようだな、護身用にしてもおかしいサブマシンガンが取り上げられたのを確認した。
「では、行きましょうか」
マリオンちゃんズの前では暗殺者など普通の人間と変わりない。
それにしてもこのタイミングで暗殺者か、眉なしとも考えられるが壺もいるし、何より俺達に喧嘩を売る度胸があるか疑問だ。
となると、休戦させたくないアナハイムか俺達の立場を悪くしたい宇宙引越公社かのどちらかかな。
暫定カナーバさんの顔色が悪いが壺とダルマさんは特に変わりないように見えるのはさすがの貫禄と言ったところだろうか。
「まずはお騒がせして申し訳ありません」
「いや、大したお手並みで。これほどの練度が公国設立当時にあればサスロも死ぬことはなかっただろう」
そういや幻のザビことサスロ・ザビはテロで死んだんだっけ、でもマリオンちゃんズと同じ練度って人間やめないとできないぞ。
「そういえば紹介がまだだったな。マ・クベ少将とセシリア・アイリーン外交官だ」
「マ・クベ少将ですか、昇進おめでとうございます」
「ありがとうございます。オデッサ防衛戦ではお世話になりました」
「アイリーン外交官は確かギレン総帥の秘書官であったと記憶していますが」
「ええ、非才の身でありながらこのような重要な身分をいただきました」
愛人である彼女を現場に出すということは眉なしはその能力も買っているんだろうな、私情で外交官を選ぶような無能ならもうキシリアに殺されてるだろうし。
19歳で眉なしに認められるとはなかなか有能だな。眉なしがもし死ぬようなことがあったら俺達のところに来て欲しい、無理だろうけど。
「ところで先ほどからボールがたくさん転がっていますが、あれは何ですか?」
おや、アイリーン外交官はなかなかお目が高い。
「あれはハロといい、監視や犯罪者の捕縛などを行う治安維持用ロボットです。最近やっと導入に漕ぎ着けたブルーパプワの商品の1つですね。ジオンでも導入してみませんか?」
「前向きに検討しますので資料を頂けますか」
「もちろんです」
戦後のジオンが困るのは戦争経験者による治安悪化と戦後復興による働き盛りの若者の供給不足、更に地球圏の領土を持つことにより拍車がかかるだろう。
治安維持は国にとって重要な仕事であるため手を抜き辛く、結構人的資源を割かねばならないためハロがもしその代わりに使えるとなれば是が非でも欲しいだろう。
あ、もしかしてアナハイムは労働者も提供するつもりだったんじゃね?グラナダは終始戦争に関わっていないから人的資源には余裕が有るはずだし……なんだか大体アナハイムのせい、って言いたくなるな。
「モビルスーツが街中にいて普通に生活してるのも不思議な光景ですね」
「人間は慣れる生き物ですから、もっともほぼ独裁で連邦ジオンに見放されている現状に諦めているのかもしれませんが」
そう言うと3人は揃って苦笑いを浮かべた。
恐怖政治のつもりはないけど、客観的に見るとそういうふうに見えるかもな。
粛清とかはあまりしてないし、善政を敷いてるつもりだけどなぁ。
あ、今度匿名アンケート調査でもしてみるか。