第七十二話
<ソロモン・ジオンエース達>
「ふん、なんとも他愛もない……しかし数が多いな」
艦を始めとしてジムカスタムやジムキャノンは雑魚だがガンダムタイプに載っている者はどれも強敵でまだ1機しか仕留めれていない。
敵ながらあっぱれではあるが、自分が不甲斐ない。
今はガンタムタイプに代わって実弾装備したジムカスタムが私の周りをうろついている。
既に30は殺ったはずだがまだまだ敵は尽きない。
『大尉、そろそろ補給に戻られた方が』
まだ余裕はあるがノイエ・ジールは初陣、あまり無理をするわけにはいかんな。
「わかった。ここの指揮は……ケリィ大尉に任せる」
『了解だ。貴様が戻ってくる頃には獲物はないと思っていろ』
「なんとも心強いな……死ぬなよ」
『もちろんだ』
しかしこのノイエ・ジールは凄い。
最初はモビルスーツではないということで違和感があったが、なんという強さだ。
正しくジオンの精神を形にしたようだ。
そしてこの護衛艦アイギスはまるで母のような安らぎを与えてくれる。
Iフィールドは通常の艦ほど大きいものをカバーするにはまだ技術的に無理で丸い船体となり、移動速度がない艦になってしまった。
そこでノイエ・ジールはそもそも拠点防衛用であり、移動速度は必要がないということでノイエ・ジール専用の補給艦も兼ねるようになった。
何より本来かなり繊細なノイエ・ジールの整備と補給が10分掛からずで終わるというのだから凄いものだ。
水分補給と用意された一般パイロットより豪華な食事を軽くて手を付ける。
ノイエ・ジールのパイロットは重要度が高く、色々優遇してもらえる。
今回は使わないが専用の湯船があるぐらいだ。
もとより手を抜くわけではないが、これほど期待されて裏切ることは許されん。
「ジオン独立のため、負けはせん」
「くそ、このガンダムタイプ!しつこい!」
このノイエ・ジールというのは凄まじい機体だがエースパイロットを相手にするには少々キツイ!
『赤い彗星殿、ここは私達にお任せを。貴方は艦隊の方をお願いします』
「わかった。任せる……だが俺は紅い稲妻のジョニー・ライデンだ!!」
全く、なんで未だに間違えるかな。
赤い彗星は今頃あの薄気味悪い褐色女と一緒にランデブーしてるだろうよ。
地球で拾ってきたらしいが——
「っと、危ねぇ。さすがにバズーカが当たればタダでは済まないな」
周りの状況を把握するとジムカスタムの半数はバズーカに武装が変更されている。
いつまでも無抵抗なわけがないか、この数の攻撃を躱すとなるといくらビーム兵器より躱しやすいといっても難易度が上がる。
自由が利く武装がこのサイズで偏向メガ粒子砲9門とサブも含めたアームに内蔵されているメガ粒子砲6門と言うのは迎撃するのを考えると少し少ない。
ミサイルランチャーもあるが、弾数に限度があるから使う場面に迷う。
「とは言っても破格な機体なのは間違いないけどな!」
包囲している敵は後ろから続く味方に任せて強引に包囲を突破し、護衛として付いているジムカスタム4機をアーム内蔵のメガ粒子砲で、本命のサラミス2隻をビームカノンと偏向メガ粒子砲で葬る。
速度を緩めず、多少の回避運動をして続けて盾になるように並ぶサラミス3隻と内側に隠れるマゼラン1隻を沈めたが……
「これ以上はIフィールドジェネレーターが持たないか……こちらジョニー・ライデン、一時後退する」
まだまだ戦いは序盤、無理してもいいことはない。
2人は後退したか、少しはペース配分を考えろ。
今まではジオン有利の決戦しか経験がない弊害か、始めから自分の持てる力を全て出し切るような戦い方をする者が多い。
主力のノイエ・ジールが2機も前線から同時に離脱などしたら今までノイエ・ジールによって軽かった連邦の圧力が一気に増す、そうなれば味方の多くは戸惑い、流れを持っていかれる可能性が高い。
こういう時は本来、注意を促すものだが……ミノフスキー粒子の通信妨害が恨めしい。
加減して戦っていて正解だったな。
あのお嬢さんは赤い彗星が付いておるからか、ちゃんと抑えて戦っておるようだし、戦線が崩壊することはない、か。
「手始めにこのうるさいやつらを黙らせるか」
アームを飛ばして操り、ガンダムタイプのコクピットを貫いて近くにいるジムカスタムに投げつけて注意を逸らしてもう片方のアームで打ち取る。
味方も順調だが……気になるのはガンダムタイプの活躍だ。
ガンダムタイプとゲルググの戦力比は大体1:3程度、あまり数が多くないとはいっても決して無視していいものではない。
幸いなのはゲルググMとは五分の戦いをしていることか……いや、ベテラン兵が五分の戦いをしているのは劣勢か。
何にしてもガンダムタイプを優先的に狙いたいところだが——
「それは許してくれそうにないな」
2人の後退でこちらに向かってくる実弾装備のジムカスタムの数が増え、弾幕が厚くなってきている。
突破することではなく、戦線維持をすることを心掛けるとしよう。
白狼などという異名を与えられたが、1人でできることなどたかが知れておる。
結局は味方がおらねば勝てぬさ。
これでいいのだろうか。
キシリアが言うにはこの戦いが最終決戦だ。なのにザビ家で殺せたのはガルマだけではないか。
このままではジオンがザビ家独裁で固められてしまう。
しかもデギンに限っては例の死神が屯(たむろ)するような場所に逃げ込まれた。
アレを掻い潜って暗殺ができるとは到底思えない。
死神の鎌と呼ばれる存在にララァが怯え方が尋常ではない、恐らくニュータイプとして何かを感じたからだろう。
「ララァ、私はどうしたらいいのだろう」
『とりあえず戦ってください』
はい。
……しかしララァがいるならザビ家などどうでもいい気もしてくる。
ララァ……私を導いてくれ。
『大佐、戦ってください』
「はい」
今は目の前の戦いに専念することが最良か、死んでは元も子もない。
だが、アムロが居ないのはなぜだ。あの部隊を決戦に使わないとは思えん。
ということは別働隊か、もしかしたらザビ家の誰かを始末してくれるかもしれんが……それでいいのか。
『大佐』
「戦っているぞ」
『いえ、なんだか遠くに死神の……影……が、死神の影があぁ!!』
「しっかりするんだ!ララァ、私が付いている!それにこの戦いでは死神の連中は関与できないようになっている!」
『ハァ……ハァ……私は……カイトを……助けて』
ララァ、どうしたんだ!まるでガンダムのことを『さん』付けで呼びそうな声をして。
そしてカイトって誰だ!誰なんだ?!答えてくれ、ララァ!
『大佐……赤くなくても……角がなくても……乗ってください』
「だが断る!」
<ゴモラ>
「あの鏡は太陽光を利用した対要塞兵器だという情報が入った。ソロモンの決戦の勝敗は俺達に掛かっていると言ってもいい!なんとしても叩き割れ!」
『『『おう!!』』』
……それにしても連邦の動きが鈍すぎる気がするが……罠か?しかし罠だろうとなんだろうと突っ込む以外選択肢はないんだけどな。
「一斉射撃を2度、後に全モビルスーツを出せ!あの忌々しい鏡を1枚を叩き割る毎にボーナスを出すぞ!」
『『『おおおおぉぉ!!』』』
……結局艦砲射撃はほとんど無しでモビルスーツ戦か、いったい何をする気だ?
「モビルスーツ隊、戦闘開始しました。ですが連邦のモビルスーツ半数は旗艦と思われるマゼランを守るように動いているため、予想されていたほど数の差はなく、有利に動いてます」
本当になんなんだ?
まるで素人の、いや、これはひょっとすると素人以下の対応だぞ。
「司令!!鏡の角度が変更されています!」
なに?!未完成状態で照射するつもりか?!
「1枚でも多くの鏡を叩き割れ!テンペストとバンパイア(ザンジバルの名前)も敵を無視して鏡を狙うように伝達しろ」
「了解」
幸い、連邦艦隊は散発的な反撃の上に、撤退気味だ。なんとかなる——
「し、司令!鏡が照射されたようです!ソロモン方面で大規模な爆発が複数同時に確認されました」
く、間に合わなかったか……しかし、早く残りも叩き割らなければ被害が広がる一方だ。
「これ以上の被害を広げさせるな!」
皆さん死闘乙。
でもソーラ・システムの照射は不完全ながら成功しちゃったようだな。
マリオンちゃんが思念を感じて知ったが——
「まさかスカーさんが巻き込まれて死ぬとはねー」
見せ場がほとんど無く終わったか、ビグ・ザムの生産打ち切りの段階で運命は決まっていたのかもしれない。
「キシリアさんだったら内戦の種がなくなったでしょうけど、ドズルさんが亡くなったとなると2極化が進み、内戦の可能性濃厚になりましたね」
「戦後が楽しくなりそうだ」
戦いさえあれば多少はおこぼれがいただけるだろう。
「ドズルさんが亡くなったことによりジオンが浮足立っているようですね。ギレンさんがドズルさんの弔い合戦だと鼓舞して士気自体は回復しましたけど、代理の指揮はデラーズさんがしていますが……」
「今まで指揮系統が違った分摩擦があるか」
スカーさんのカリスマ性は眉なしには劣っていたがキシリアよりはあった。
それが突然、眉なしの腹心の部隊として顎で使われるようになれば思うところもあるだろう。
不幸中の幸いというべきか、ノイエ・ジールは全機無事で白狼さんは友の戦死にやる気はMAXで無双中だ。
もっとも護衛艦1隻、ドロス1隻、グワジン1隻(これにスカーさん搭乗)、ティベ1隻、ムサイ10隻以上、ソロモンの防衛システムが1部、ソーラ・システムにより蒸発したダメージは大きく、連邦有利の流れとなる。
「更にここでホワイトベース……いえ、第13独立部隊が参戦しています」
「ん?わざわざ言い直したということは他にも艦がいるのか?」
「はい、グレイファントム2隻が同行しているみたいです」
これは囮じゃなくて単純に別働隊だな。
「今モビルスーツの発進を確認。アムロくん以外は全機がTR-1みたいです……いえ、一部増加装甲を施されたものもあるみたいです」
ヘイズル改か?いや、そろそろ原作知識に頼るのは危ないか、まぁ俺達が戦うんじゃないからそれほど気にしなくていいか。
ジオンの踏ん張りどころが来たな。