第七十三話
今の戦況はスカーさん死亡、ジオン涙目という感じか。
最初から眉なしが指揮していたのならこれほど混乱することはなかっただろうが前線指揮を務めていたスカーさんの死亡はそれだけ響いていた。
ノイエ・ジール4機のおかげで勢いに流されずには済んでいるが、結界寸前のダムに土嚢を積み上げて防止しているような紙一重さだ。
何より白い悪魔が止まらない、俺達が把握しているだけでチベ級ティベを1隻とムサイ4隻を沈め、グワジン1隻を中破させた上にゲルググ40以上、ゲルググM10以上を撃破している。
ガトーやシン・マツナガ達と変わらない戦果だから普通だろ?と思う事なかれ、アムロが乗っているのは良くも悪くも普通のモビルスーツ、それがジオンの用意した切り札と同じ戦果をあげるというのは普通はありえない。
カイやハヤト、セイラなどの他の原作組も活躍していて艦こそ落とせていないがゲルググを合わせて40機以上を撃破している。
第13独立部隊のグレイファントム2隻から発進したTR-1もなかなかの腕前で、撃破数こそそんなに稼いでいないが誰かはわからないがジオンのエース級と互角に戦って拘束している。
「でも快進撃もここまでか」
アムロの前に1つの部隊が立ち塞がる。
ゲルググN2機とガルバルディα10機、ゲルググM3機だ。
感覚からしてゲルググNはもちろんのこと、ゲルググM3機もパイロットはニュータイプのようだ。
そういや原作では主人公と対決したキャラしかいないがニュータイプの数がその程度なわけない。
恐らくフラナガン機関から何人か連れてきたのだろう。
しかし実戦経験がないようでアムロにビビっていて、勝負になるかどうか微妙だが一般兵よりはいい勝負になるはず。
ニュータイプの中でアスナとクスコ・アルが一番のビッチ……じゃなかった経験者というのは年齢などを考えると現代だと悪い冗談だな。
ガルバルディαのパイロットも腕が確かなベテランのようだが今のアムロに勝つことが……いや、どれだけ死なないでいられるかな。
「さすがにあの数だとアムロも防戦一方だな」
「それにあれだけ激しい攻撃をして今まで補給を受けてないのでライフルの残弾も気にしてるんでしょう」
アムロ頑張れ!今を凌げば俺達の所で馬車馬の如く——じゃなくて自由な生活が待っているぞ。
そうそう、最近気づいたんだがニュータイプが近くにいるとEXAMシステムがうるさかった件だが、どうやら分身体なら関係ないようなので戦後は本体をどこか辺鄙に隠しておこうと思う。
第13独立部隊の奇襲が成功したのはソーラ・システムの大打撃があってこそだが、アムロがいなくても成り立たなかったのは間違いない。
そしてジオンは予備の切り札である新生?ニュータイプ部隊をアムロにぶつけたのも納得がいく。
だが、眉なしにしては妙に素直過ぎる。
コロニーレーザーは連邦に攻撃しようとすると射線上にソロモンがあり、撃つことができない。
もしコロニーレーザーを作ってたら巨大な粗大ごみの完成だな。
まぁサイド3防衛にはそれなりに有効かもしれないけど、今はジオンのこれからが決まる大事な戦いなのだからなにか用意してると勝手に思ってるが。
「マリオンちゃん、眉なしに切り札があるとしてなんだと思う?」
「そうですね……核とか?」
「それじゃ休戦協定で不利になるし、何よりビーム兵器が登場してからは核の必要性が薄くなってるだろ」
元々ザクが核を使用してたのは艦を沈めるのに手っ取り早かったからだ。
今じゃビーム兵器で当たりどころが良ければ1発、5発当てれば沈む確率の方が高い。
「となると、やはり——」
マリオンちゃんが何か言おうとしたところで極太メガ粒子砲が予想外の方向から放たれる。
「連邦の背後から奇襲とか度胸あるねー」
そこにいたのはビグ・ザムと護衛のゲルググ達と母艦であろうザンジバルとムサイ達。
結局連邦もジオンも似たようなことを考えていたようだな。
砲撃を放ったのはもちろんビグ・ザム……生産中止になったはずだが、どうやら偽情報だったみたいだな。
しかも巨大なキャベツだったビグ・ザムが進化してる。
でっかいトゲが6本ほど付いているが、まさか、な。
「今の砲撃でコロンブス級に2割ほど被害が出たのでモビルスーツの帰還が難しくなりそうです」
「宇宙戦において空母は最重要だから後方に下げてたのが仇になったか、まぁ戦線近くにいたらノイエ・ジールに狩られていただろうから間違いじゃないんだけど」
それにしてもビグ・ザムやあの数のムサイ(7隻)なんて目立つ物がなんで発見されなかったんだ?
録画していたデータを見直してみると……隕石やデブリに偽装して来たのか、ダミーバルーンじゃないみたいだけど。
1隻だけパゾク級輸送艦が混じってるけど補給用かね?それとも予備兵力を搭載してるのかな?確かモビルスーツ運用は想定してなかったように思うけど。
「これで連邦の予備兵力の減少とソロモン方面の圧力低下で——こうなるよな」
圧力低下でノイエ・ジールに余裕が生まれ、撃墜スコアの増えるペースが早くなる。
押し込まれつつあった戦線も立て直し始めた……んだけど一部は未だに崩壊中、もちろんそれは第13独立部隊の戦線だ。
アムロはなんとか後退して補給に成功、すると瞬く間にガルバルディα2機が撃破されて拮抗が崩れて新生ニュータイプ部隊、略して生乳(『なまにゅー』と読む)が防戦一方になる。
いやーさすが主人公、格の違いを魅せつける……あれ?
「なあ、ホワイトベース隊のモビルスーツ1機減ってない?」
ホワイトベース隊のモビルスーツは専用カラーとして白色が与えられている。
今の主力であるジムカスタムは青緑、ジムクゥエルはティターンズカラーが標準となっているし、TR-1もティターンズカラーだし……あれ?何気にジャミトフ、乗っ取り企んでる?
それは置いといて、つまり連邦の中で今は白い機体は存在しないので分かりやすいのだ。
「え?……あ、本当ですね。えーっと……あ、ジョブ・ジョンさんがお亡くなりになったようです」
うわ、いい加減地味なのに死ぬシーンカットとか、カワイソス。
というか、もしかしてアムロキレてない?鬼神のような強さなんですけど、生乳は撃破できてないけど周りにいるモブを次々落としてるんだが……あ、もしかして初めて仲間殺されたのか?
リュウ・ホセイもスレッガーもハヤトも(え?)生きてるし……あ、マチルダさんも生きてるっぽいし、ウッディは……知らん。
なるほど、アムロが種割れするわけだ……SEEDでもないのに。
あ、NT-1の右腕と引き換えにゲルググM退場、生乳の賞味期限が縮まったようです。
どんなに機動力があろうと攻撃を躱すと速度は落ちるから、そこをニュータイプの命がけの特攻で狙われてはさすがに無傷とはいかないよな。
右腕にはビームライフルが装備してあったので戦力半減、今度はアムロが守勢へ。
ここでアムロが退場するようなら原作知識は完全に当てにならない……あ、でも小説版ではアムロ死んだんだっけ?
ん?ニューギニア島から通信?
「シーマ様、どうかしたか?今は観戦で忙しいんだけど」
『ここから通信できる距離でどうやってソロモンの決戦を見てんだい。いや、衛星軌道の戦いのことか?まぁいいさ、ハワイにいた連邦がペキンの戦力が減ったのをみて日本に侵攻開始したよ』
宇宙と地上の2方面作戦が余裕でできるなんて、さすがの国力だ。
「機を見るに敏とはこのことだな。防ぎきれそう?」
『十中八九無理さ、制海権はともかく制空圏の維持はおそらく1時間も耐えられないだろうさ』
「数と質、両方で勝ってるから仕方ないか……ペキンまで手は伸びそう?」
『さて、日本を守らずペキンを防衛に集中するならあるいは、というところかねぇ』
日本を守るメリットはそれほどない。
補給基地の提供はあったがそれも所詮兵站破壊の手助けであり、ちゃんとした防衛用の基地ではないため無力。
となると、余程の無能出ない限りはペキンに後退するのは間違いないだろう。
ゴモラが宇宙にいることが不安材料だが……
「司令官は誰だ」
『直々の指名でノリスが務めるらしいよ』
なら大丈夫か。
ベトナムやチベット方面は防衛マニュアル通り対応していれば、簡単に負けることがないらしいし……いや、ノリスが移動したとなると油断はできない。
「ナンバーズを1人ずつチベットとベトナム……ついでにインドネシアに派遣しといてくれ。ノリスの居ない隙を狙って連邦が動く可能性もある」
『わかった。ペキンには派遣しなくていいのかい?』
「そっちは俺達にとって堕ちた方が都合がいいからな。依頼が来たら……いや、やっぱり2人派遣しよう。ただし目的はノリスの護衛、追加報酬が無い限り戦闘はしないように言っといて」
『了解』
ペキンが堕ちるのはいいけどノリスが死ぬのは俺達にとってマイナスでしかないからな。
むしろチベットやベトナムより必要かもしれない。
所属がジオンだから情報もいくらか入ってくるし人脈も結構豊富、そして本人の能力も捨てがたい。
「さて、アムロはどうなった?」
「ちょうど今補給にホワイトベースに帰還しましたよ。他のホワイトベース隊の奮闘……特にセイラさんやハヤトさん、カイさんがニュータイプ部隊をマズイながらも何とか抑えてます。ですがそろそろ奇襲効果が切れてきたのでこれからは劣勢になりそうですね」
言われてみれば取り囲むジオンの陣形が形になってきているし、ドロスから次々とモビルスーツが吐き出しているところを見ると予備兵力の投入だろう。
しかも何機かケンプファー……の改造機までいるようだ。
確かに撤退するべきだろう……ただし認めてもらえたらの話だが。