第七十五話
<チェンバロ作戦・司令官レビル>
マズイ。マズイぞ、この戦況。
このまま負けてしまっては無為に戦争を長引かせた責任で戦犯になってしまう。
あの土竜め、大人しくブレックス准将に任せておけばいいものを……何が「たまには私も現場の空気を感じたい」だ!武功欲しさに出しゃばった上に真っ先に逃げ始めるとは、何たる無様。
せめて副官はヘンケン中佐を……と思ったがまさかリード大尉とは、お前を補佐するには階級が足らんだろう!
説得を試みたが悉(ことごと)く失敗、結果ソーラ・システムの中途半端な照射、これがたまたまドズルを殺したというのも腹が立つ。
作戦を半壊させといて一応最低限の戦果はあげているので処罰されることはないだろう……私はこのまま休戦となっては命すら危ういというのに。
幸い日本は取り返したと連絡を受けたが(直接の長距離通信は無理だが中継地点を構えればあまり大きくない情報量なら可能)ペキンは五分の戦いをしていると聞くし、何よりあの死神の鎌が2人派遣された。
一応ノリス・パッカードという者の護衛であって戦闘はしないと大死神から連絡が来たが何かの間違いで死神の鎌に攻撃をした時のことを思うと……胃が、胃が痛い。
しかもチベットやベトナムにも派遣されたとか、地球にジオンを残すと政治家や民が煩いというのに……派遣されたのが2人なら倒すことも、いやいや、そんなことをして大死神が出てこられでも、いや私個人を狙いでもされたら助かる気がしない。
なんにしてもペキンを攻略できればロシアに戦力分散させることができるのだから落とさねばならん。
それ以外は現地のコリニー提督に任せよう、そちらの責任はなんとしても逃れる。そしてソロモンはなんとして私は英雄になる!
「全艦隊とモビルスーツ隊に告げよ。艦隊を前進させつつ、Iフィールドを張る艦に全メガ粒子砲、ミサイルを集中、その間の無防備な艦隊をモビルスーツ隊が死守せよ。Eパックに余裕が無い場合はカタパルトで射出して受け取らせよ」
「将軍!いくらなんでもこの戦況で艦隊を前進させるのは無茶です!せめてモビルスーツ隊に補給を——」
「そんな時間と余裕が何処にあるというのだ!今!まだ戦線が維持できている今だからできるのだ!何よりあの縦横無尽に暴れ回る巨大そら豆の補給艦であるあの艦を沈めれば運用に支障が出るのはソーラ・システムとモビルスーツ隊で2隻を落として立証されている!あの巨大そら豆をこれ以上好き勝手されては私達はジオンに屈するしかない!」
あのそら豆は稼働時間自体はモビルスーツより短い、整備や補給が簡単ではないからこそあのような専用の艦を誂(あつら)える必要があったのだろう。
「……わかりました。全軍に伝えます」
Iフィールドを展開し、砲塔が多数あって迎撃能力に優れていて難攻不落であっても、ビーム兵器で破れないことはない。
ジャブローのIフィールドならばともかく艦に載せた物程度なら集中砲火でジェネレーターの出力以上の攻撃密度にすれば突破できるはず。
「ああ、第13独立部隊とT3部隊にはノイエ・ジールを最低でも足止めするように伝えよ」
「わかりました」
第13独立部隊はともかく、T3部隊はあのジャミトフの子飼いだ。使い潰しても問題ない。
一般人を強制徴兵したような第13独立部隊がこれほど活躍するとは……本当にニュータイプというのはいるのかもしれんな。
……アムロ・レイは大死神からスカウトされてると聞いたが、本当だろうか。
ジオンのようにエースパイロットを優遇しようという話が出ているというのに、あ、頭が痛い。
「全軍に通達完了、後は号令するだけです!」
「では、行進開始!」
「おお、レビル将軍は闘将だねぇ。まさか艦隊を押し上げるなんて……モビルスーツ隊でビグ・ザム別働隊を消耗しながらでも抑えられている内に決着つけようってこと——あれ?護衛艦を集中砲撃?なるほどノイエ・ジールの補給破壊か」
「もっと早く行っていればもっと有利になった——あ、護衛艦が1隻消滅しましたよ」
集中砲火にIフィールドが耐えられなかったのだろう、最後は多くのメガ粒子砲で蜂の巣にされ、蒸発、文字通り消滅した。
不幸中の幸いというか、護衛艦にノイエ・ジールがいなかったのはジオンにとっては救いだっただろう。
これで護衛艦は1隻となった。ここでジオンがこれ以上護衛艦を失えば戦いに支障が出ると思ってか後退していく。
そして同時にノイエ・ジールに枷を嵌めることに成功したわけだが、効果はすぐに現れた。
俺達の気配を感じて(マリオンちゃんはプレッシャーを掛けてるつもり無し)ビビっているララァがちょうど補給のため帰還するつもりだったのだがガトーとブッキング、まだ余裕があるガトーが引いたが、その戦闘力は何かに気を使っているのか目に見えて落ちている。
他のノイエ・ジール達も同じで一機当千、万夫不当という言葉に相応しい戦いだったのが強敵ぐらいにランクダウン。
全力戦闘と言うのは消耗が激しく、人間の疲労もそうだが機体の疲労はかなりのものとなる。
だが、連邦も艦隊を全面に出したことにより、それなりの被害を出しているがそれでも護衛艦を沈めれたことを考えればプラスだろう。
ここでビンソン計画の遅れが幸いしている。
サラミスやマゼランのほとんどは旧式であり、モビルスーツの搭載能力がないものが多い。
冷酷に言えば艦が沈んだ所で、艦の戦闘能力が失われるだけであり、沈んだ結果でもまだ連邦の方が艦の数もモビルスーツの数も多い。
戦況は少しだけ連邦に偏った。
そういや、気付かなかったが……ビグ・ザムが主砲を奇襲当時に3発撃ってからそれ以降撃ってないがもしかして故障か?それとも仕様か?
「ビグ・ザム別働隊は迂回してソロモンの部隊と合流するようですね。護衛艦が沈んだのでフォローに回るのでしょう」
「合流はできるだろうけど……ビグ・ザムが合流できれば正面戦力が厚くなるから気持ちはわかるがな」
護衛艦が無事ならそのまま挟撃を続けてジオン勝利で終わっただろうが……決死、とまでは言わないが肉を切らせて骨を断つとはこういうことを言うんだろうな。
これでノイエ・ジールの圧力は減り、連邦のモビルスーツは補給を行える……行えるんだが多分相当窮屈な補給になりそうだがな。
ただし、それは現状の話だ。
これは予想だがルナツーか地球から増援が来るんじゃないか?
よく考えれば戦力の逐次投入は愚策であるが、兵站なんて持続的に送られてきて当然な物だろ。
原作のチェンバロ作戦や星一号作戦は1日で終わっていたので今回もそのつもりでいたがそんなわけないよな。
普通重要拠点の戦いで1日で決着付くほうがおかしい。
「アイナさんから連絡がありました。終戦が成されるという情報が財界に出回ってるおかげで軍事技術をいくらか安く購入できたそうです。その中には目的のコアブースターやGファイターの設計図や現物もありますよ」
よしよし、戦後の不景気が怖いから食いついたな。
今のうちに各会社とのパイプを繋ぐことも込みで恩を売っておくのも悪くない。
コアブースターは航空機開発の手助けになるだろう。Gファイターは連邦初のゲタなので有用……かなぁ?まぁフルアーマー系開発には手助けになるかも?
他にもハイパーバズーカやビームライフル、核融合炉ジェネレーター、フィールドモーターの開発資料を手に入れている。
これでハービック社とサムソニシム社、ブラッシュ社などとタキム重工などとパイプができた。
どれも1線級ではないが基礎技術であるため、開発にはあって困るものでない。
開発チームは嬉しかろうが体に気をつけろよー、時々マリオンズが勝手にヒーリングしてくれるから健康をなんとか維持してるんだが頻度が多くて苦情が来てるんだぞ。
まさかマリオンズに触られて喜んでんじゃないだろうな?そうだったらちょっと拷も——説教部屋行きだ。
「コアブースターのブースター部分をドップに取り付けることに検討しているようです」
「早くも流用するわけか」
ブースターが増えれば航続距離も長くなるし加速性もよくなる、そしてメガ粒子砲も撃てるだろう。
コアブースターは対地に対しても強いのは魅力的だな。
ただ重くて旋回速度が低下したりしないんだろうかね?まぁその辺を解決するのが開発チームの仕事と言えばそうなんだけどさ。
完成した頃にはジオンは終戦して連邦に対抗してモビルスーツ開発真っ盛りだろうからロシアと揃って買ってくれるだろう。
航空機を俺達の製品で埋めてくれるわ!!
問題はニューギニア島の自然保護の観点から工場増設が大変なんだよなぁ。
オーストラリアに復興支援で手助けするか、連邦領土でジオンとロシアの兵器を作るって何という因果。
んー、いっそオーストラリアに利権に割り込み掛けるかな。
今のところジオンの方に利権が偏ってるからバランスが悪いからね。