第七十八話
フラウ・ボゥ。
アムロ・レイのガールフレンド、ただしヒロイン枠かと言われれば首を傾げる。
そしてZではサブキャラ(ハヤト)のヒロインだったという少女だ。
ちなみにギレンの野望では最低能力値であり、育て終わっても最弱というキャラである。
そんな彼女がモビルスーツに乗って戦場へ。
どう考えても死亡フラグだよな、普通。
それが——
「なんかニュータイプ覚醒しちゃってね?」
「いえ、ニュータイプではないようですよ。私が感じませんし、相手も私を感じていないようですし」
その割りにはしっかりした動きで着実に敵を沈めてる……あ、だから違うのか。
ニュータイプってのは感覚で動かすから素人や多少齧った程度の人間だと結果的に戦果は出すが戦い方はズブの素人だ。
それに比べてフラウは周りともそこそこ連携できているし、普通のパイロットのゲルググMではあるが2機ほど撃墜しているし、ゲルググも7機かほど撃墜している。
拍子抜けするほどあっさり沈めてるんで本当にフラウなのか疑いたくなるが、一度会った者の気配をマリオンちゃんが忘れるわけがない。
となると本人なわけだが……
「もしかして——」
転生者or憑依者か?
原作のフラウがホワイトベースに乗り込んでからずっと訓練していたとしてもあれほどの腕前になるとは考えづらい。
せいぜい隕石にぶつかって死んだ誰かさんくらいにしかなれないだろう
そうなると俺という前例がいるのだから可能性は捨てきれない……というより可能性が高い。
……でも転生者のくせに不遇過ぎるだろ、フラウ・ボゥとか。
TSなら中身が男だからまだいいだろうけど、もし中身も女性だったら災難だな。
男女差別と言われようがなんだろうが女性は初期値では戦うようにできてないんだろう。
せめて中身が成人だったら……まぁ、妄想の域を出ないからこれ以上は考えても仕方ないか。
<戦場真っ只中フラウ・ボゥの中の人>
なんで私が戦場に出てるんだろ。
この世界に転生してからというもの苦労の連続だ。
転生して前世の記憶があるってだけで混乱するのに生まれたのは宇宙のコロニー、無重力に慣れるのに何年費やしたか……それにコロニーという脆い揺り籠はかなりストレスでノイローゼになったりもした。
勉強も大変だった。
成人していた私にとって初等部は簡単だったものの歳を重ねる毎に前世の教育とはレベルが違うものが多くなって未だに成績は真ん中より下だ。
そして戦争が始まってからはもっと大変だった。
サイド7は重要拠点とも聞かなかったし、軍事拠点であるルナツーがあるため戦線から遠いから大丈夫、なんて思ってた過去の私をぶん殴りたい。
まさかガンダムが自分の住んでいるコロニー内で開発されてるなんて……物語の舞台だったなんて思うはずがないでしょ!ガンダムなんてSEEDと00しか知らないわよ!
初めて見たモビルスーツはザクだったからSEED?と思ったけどコーディネイターいないんだよね。
そして同じハイスクールに通うアムロが『あの』アムロだったというのを知って愕然とした。
初代ガンダムは見たことなかったんだけど、さすがにアムロ・レイという名前は知っていた……見たことはないけどね……なんでよりによってこんな古めかしいガンダムなのよ!
頑張って逃げようとしたら目の前でお父さんお母さん死んじゃったし、なんとか逃げ込んだ先は戦艦だし、しかも民間人に戦闘を手伝わす外道軍隊だし、味方がいない戦いばかりさせられるというブラック企業真っ青な環境よ。
この世界での両親は良い人達だったのでうっかり復讐心に燃えて、こっそりシミュレーターで訓練して、復讐心が冷めてもゲーム感覚でやり続けたことが運の尽き……まさかこんな形で出撃させられるなんてね。
こんなことになるなら途中で降りればよかった!!
「こんのおお!!」
『お嬢ちゃん、気合入ってるねー』
「真面目にやってくださいスレッガーさん!」
『おっと、お嬢ちゃんは戦闘になると変わるタイプ——』
うるさいので通信を切ってやった。
不幸中の幸いはあのデッカイモビルアーマーが出てこないことですね。
………………ハァ、フラグというのをすっかり忘れてたわ。
「わざわざご丁寧に出てこなくてもいいのに……しかもこっちに来てるし?!」
アムロ頑張れ!めっちゃ頑張れ!私は君を盾に——あ、攻撃を躱す盾とか役に立たない。
なんでトランザムないのよ!
「そこ!あ……忘れてた」
ビーム効かないってインチキです。不公平です!
実弾兵器はバルカンと有線式ミサイルランチャー(ランチャー自体は多目的に使えるが今はこれ)しかない現状、私は他のモブを倒してる方がいいわね。決して怖いからじゃないわよ?
「ハァ、せっかくもうすぐ原稿が出来上がるのに……」
今回はアムロ×ハヤトだけど、やっぱりカイ×ハヤトの方が良かったかしら?
早く日本に行きたいわ。この世界の日本なら私の趣味を隠さなくていいみたいだし、何より平和そうよね。
しかもワールドコミックマーケット、略してワコミケなんてものまであるらしいじゃない。
なんとしても参加してみせるわ!だから——
「私は死ねない!!」
あ、これもフラグっぽい——ってアレはニュータイプ部隊じゃない?!こっち来ないでよ?!
『フラウ!ここは僕に任せて後ろに下がるんだ』
「ハヤト、そんなに特大なフラグ立てない」
と言いつつハヤトとカイ、セイラさんに任せて後退、適当に隙がある敵をチクチク、チマチマと攻撃して撃墜、時にはこちらに注意を惹き味方の援護を、時にはやられそうな味方のフォローをする。
私は初陣だから皆が大事にしてくれるから自由度が高くてこういうことができる。
……私、人を殺してるんだ……よね。
まだ、まだよ。
考えるのは後、リュウさんも言ってたじゃない。
戦場で余計なことを考えれば死ぬ、って。
……その割りには随分趣味のことを考えてたような気がするけど。
フラウ・ボゥさん、本当に思った以上にやるようです。
地味だけどな。
射撃は並よりちょい良し、回避は並、接近戦はしない、ならなぜ俺が褒めているのか?ポジショニングだな。
敵に狙われにくい位置で味方の邪魔をしない位置で逃げやすい位置にいる。
簡単なようでなかなか難しいことをうまくやっている。
これなら自軍が多い限りは落ちることはないだろう。
なにせノイエ・ジールや生乳達を味方に擦り付けるその手腕は大したもんだ。
そして擦り付けられたアムロ達は相変わらずの激戦。
ビットやファンネルって本当に対ニュータイプにはほとんど効果ないなぁ、悉く躱されているのを見るとなんだか切ない。
オールドタイプには効果があるとはいえ、本体も戦闘しながら動かすと精度が落ちるのも一要因だろうね。
「リュウさんの代わりとは言いませんけど、いい戦いしますねー」
「その代わり赤い詐欺がモビルスーツに乗り換えたせいでシャアと見事な連携でアムロが押され気味だけどな」
対軍兵器だったノイエ・ジールではエース級を相手にするのは相性的に悪かったんだよな。
そのせいでアムロが余裕がなくなり、ノイエ・ジール達に余裕を拘束できなくなっていて被害を出し始めている。
もっともIフィールドが無敵ではないとわかったため艦隊がノイエ・ジールに集中砲火を浴びせるようになったことにより、以前のような一方的な戦いではなくなっているのも事実だが。
「ブルーニーさん、マリオンズからの情報ですけど上海が連邦に制圧されたようです」
「うげ、上海ってペキンと同等かそれ以上の重要都市じゃん」
「ですから防衛戦力も力入れてたんですけど、やはり航空戦力の差が大きいですね。何より日本が連邦を手助けしていることが致命的なようです」
ジオンには渋ってた支援を連邦には喜々として提供するか……元の支配者だから仕方ないと思うが納得いかない……わけでもないか連邦内でのアメリカの影響力は強く、日本は現代と同じく親米だからな。
つまり沖縄あたりから航空戦力が延々と飛んで来るわけか、いくらズゴックDやハイゴッグが対空攻撃の精度が上がっているといっても、効率的なのはやはり航空戦力には航空戦力なのである。
地力の差が出てきたなぁ。
「事実上中国の半分を落とされたみたいなものか」
「中国経済に大打撃、それに位置的には本来上陸した地点を包囲殲滅するにはいいはずですが、連邦の方が戦力が多い関係上それも難しいかもな」
攻め3倍の法則は、制空圏などが確保もしくは争っている場合の話しであり、制空圏が確保できている場合は3倍の法則はそれほど重要ではないのだ。
これからの戦いは連邦有利で進むだろう。
制圧されたのが上海でなかったら打開策はあっただろうに……黄河や長江などは現代とは違い、断流されず、ちゃんと河となっているから水泳部が多少は粘るかもしれないが大勢は変わらないだろう。
何より中国は加熱も早いが寝返りも早いからジオン不利とわかれば……うん、考えたくない。
「ノリスがペキンから撤退する時には陸路はもうないかもしれないな」
「ブルーパプワに撤退用の足を用意させますね」
中国が敗者をどういう扱いしてきたのかは歴史をみればわかるのでジオンの人間はできるだけ逃してあげたい。
連邦なら国の体裁もあって安心できるんだけどねぇ。
「ノリスはどうするって?」
「上海が落ちた段階で戦線の後退をさせて戦力の集中をしようとしたんですが、周りの人間が納得できないようでそのまま防衛戦を試みるようです。」
何処の世界も苦しめられるのは優秀な敵より無能な味方か。
まぁ死神の鎌が2人もいるから強気になってたり、いざという時は絶対安心ブルーパプワの船という逃走手段があるから安心して無茶をしているという可能性捨てきれない。
どちらにしてもノリスからすれば迷惑だな。
「俺達的には上海以南のジオンをベトナムに集結させて防衛してもらうのが最善なんだけどなぁ」
「やはりペキンは街ですから、ベトナムのような暑い田舎は不人気なんでしょうね」
「そういう問題か?」