第八十四話
「ブルーニーさん、ブルーニーさん」
「どうしたんだいエルルゥ……じゃなくてマリオンちゃん」
「…………エルルゥって誰ですか、浮気ですか、そうなんですか、どこの雌狐ですか!」
「俺がマリオンちゃん以外に目が行くわけないじゃないか!」
「知ってるんですからね。ユーリさんの秘書シンシアさんが来てた時、ずっと胸をジッと見て録画していたの」
バレテーラ。
「ンン、ともかくエルルゥってのはアニメのネタだからスルーをお願い、だからフォークを片付けようね。それでどうしたんだ?」
と言うかフォークとか元ネタ知ってるとしか思えないんだが。
「そうでした。私、もうすぐ誕生日なんですよ!」
「おお、そういえばそうだったな」
「これでマリオンズが1人増えますよ!」
やったね、マリオンちゃん。家族が増えるよ……ってアレ?
ステータスには満年齢って書いてなかったっけ?
満年齢、つまり誕生日に歳が加算されるのではなく、年を跨いだ時に歳を加算することのはずで、今マリオンちゃんズは合計で14体……?
マリオンちゃんは俺が憑依した?生まれた?0079の段階で14歳、つまり現在0080なのだから……
「マリオンちゃん、残念なお知らせだ」
「え、もしかしてこれ以上マリオンズは増えないんですか?」
「いや、むしろ逆だ。実は能力を得た時から14体にできるってオチだ」
「…………え?」
これは俺が説明してなかったからいけないんだが、おそらくマリオンちゃんは『現在14歳』だから自分込みで14体しかマリオンズが増やせないという思い込みで制限していたのだろう。
…………決して(作者が)能力を得た時が0080だったというのを忘れた訳じゃないぞ。決して違うのだ!!
「「あ、本当ですね」」
やったね。以下略。
というわけでマリオンちゃんズは合計で15人になりました。
もっと早く気づいてれば……?多少鹵獲ボーナスが増えた程度か?
重要かといえば重要だけど決定的な損失ではないはずだ。
これでブルーパプワの屋台骨であるアイナ、シーマ、ギニアスが死んでいたりすると後悔していたかもだけど幸い皆生きてるしな……そういや、最近マフィアがまた活気づいてきたから注意しないとな。
裏ではアナハイム……いや、定番で言えば多分宇宙引越公社が糸を引いているんだろね。
直接破壊工作員が送ったはいいが誰1人帰ってこない、それどころか諜報員根こそぎ消してやったのは堪えたんだろうね。今度は再び間接的に攻めてきたようだ。
地元マフィアは既にブルーパプワの傘下に入っている連中しかいないがマスドライバーによる物流の変化で海外から大きいマフィアが進出してきている。
中には新たに傘下に入れてくれというマフィアもいるが敵対的なマフィアもいて、そのいくつかがアナハイムや宇宙引越公社が支援してるのは間違いないだろう。
そちら向きの部隊もいるかなぁ……いっそ強化人間は強化人間でも生体CPUとかエクステンデッドよりの強化人間でも研究させるか?死罪や無期懲役に代わりの刑にすればほとんどわからないだろうし。
でも生体CPUはともかくエクステンデッドってこの世界でやるとニュータイプよりの強化人間になりそうだよな。ブロックワードとかうまく使えばニュータイプになれるかもだし。
まぁそれはともかく。
「マリオンちゃんの誕生日かー、プレゼント用意しないとな」
「なんでもいいですよ。ルナツーとかサイド6とか」
「なんちゅー規模のプレゼントだよ」
「アナハイムや宇宙引越公社の首でもいいですよ」
「会社には首はないから実質不可能だ」
なにか考えておかないとなぁ。
「もちろんマリオンズにもありますよね」
「…………お、おう、もちろんだ」
15人分とかちょっと考えたくないんだけど……でも統一するとそれはそれで可哀想だし……くそ、負けんぞ俺は。
「あ、そういえば今日はあの日でしたね」
「そうだな。今日は——」
マリオンちゃんと戦う日なのだ。
もちろん模擬戦……と思うだろ?実弾を使って戦うんだぜ。
俺自身はビーム兵器でなければ多少ダメージがあっても回復するし、マリオンちゃんに限って言えば本気で撃墜してもモビルスーツ1機が使えなくなるだけで、本人は死なない。つまり模擬弾を使う意味は無いということ。
場所は水中、何故かと言うと俺達の模擬戦なんて誰にも見せられないからな。
俺はもちろん本体、そしてマリオンちゃんはズゴックDで戦う。
本当はグーンを作ってから試作でやりあっても良かったんだけど遠慮せずやりあうには量産されているズゴックDの方がいいということになった。
「楽しみにしてます」
果たして俺は勝てるだろうか?
俺が生身の人間だったら引き攣った笑顔を浮かべていたのは間違いない。
久しぶりに俺本来の身体を動かす。
最近はSD化してばかりで戦場に立つ以前に本体に戻ることも少ない。
だからマリオンちゃんに負けても仕方ないんだ!!
『ブルーニーさん、準備はできましたか?』
「おう、こっちはいいぞ」
バルカンやミサイルランチャーなどを水中仕様の物に替えてみたのだが、ステータス画面で確認したら弾が選択可能になっていた。
これは地味に戦力向上になるな。普通ならその場その場で適切な武装を施すことはできない、これはなかなかのアドバンテージだ。
もっともマリオンちゃんも水中仕様なのだから今回の戦いではアドバンテージとはならないけどな。
『では、カウントします。10・9・8・』
マリオンズNo.15のカウントが流れる。
俺はほとんどビームライフルしか使っていないから実弾の遅さを把握しながら戦わなければならない。
しかも今回はマリオンちゃんとの共有も無し、つまり本来のEXAMシステムとゴミのようなニュータイプ能力、飛ばないビット……まぁそもそも水中でビットは動かないけども。
これは厳しいなぁ。
『3・2・1・0』
そして時は動き出す……なんつって。
とりあえずお互い無駄弾(牽制)を放ち、同時に回避行動をとる。
言ったようにマリオンちゃんのズゴックDは水中仕様になっているので本来クローに内蔵されているビームカノンは実弾に変更していて弾幕自体はマリオンちゃんの方が有利だ。
こちらの強みは弾数、燃料という本来有り得ない継戦能力だ。つまり俺がやるべきは遠距離からの持久戦……なのだが。
「そう簡単には……させて、くれないよな!!」
牽制とは言っても当てるつもりで放つマシンガンを回避しつつ徐々に間合いを詰められていく。
今回性能テストも兼ねている背負っていたバズーカをテキトーに照準付けて発射、弾は散弾だから当たってくれれば……なんて甘いだよなー。
散弾が炸裂する前にマリオンちゃんのハンドガンに迎撃されては意味が無い。
俺自身は水中仕様、水中適正があっても後方へ下がる機能自体は控えめに言っても良くない。
正面から距離を詰められると、間合いを取り直すにはすれ違うしかない。
今までの戦いは後退することなどなかったから問題なかったが、マリオンちゃん相手には厳しい。
「くそ、本来なら接近戦は俺の得意な距離なんだが——」
あまり効果がないマシンガンをシールドに収め、ビームサーベルを……抜かず、こちらからも接近する。
中途半端な距離だと相手は中距離ではハンドガン、接近戦ではクローがある分だけこちらの分が悪いので間合いを詰めるとマリオンちゃんも、ほな行くでー!!ぐらいの勢いで突っ込んでくる。
頭から突っ込んでくる潜行モードのままだったので頭部にある魚雷でも撃ってくるかと思ったがそうはせず、ただただ真っ直ぐ突っ込んでくるのは俺を舐めているから……なんてことはマリオンちゃんに限ってない……よな?
空いている左手で殴りつける。もし当たるようならインパクトの瞬間にアイアンネイルの餌食だ〜なんて考えたけど当たるなんて思っていないし、事実当たらなかった。
殴りつける拳の水圧から逃げる木の葉のような動きで一回転、今までうつ伏せになっていて見えなかったズゴックDの目が俺を見た。
次の瞬間右手が俺に迫る。回転した事により勢いは若干殺されていると言ってもまともに受ければ結構なダメージだ。
なんとかシールドを間に入れることに成功したが衝撃で後ろに吹き飛ばされる。
そしてここで追撃として頭部の魚雷ミサイルが放たれ、迫るがバルカンで迎撃。
ほとんどを迎撃したが1つだけタイミングが遅れて放たれた魚雷ミサイルは他の魚雷ミサイルを迎撃したことによって爆発で視界を遮られていたため気付かず、至近距離で受けてしまった。
身体がギシギシと嫌な音がする。
爆発で水流に乗って態勢を立て直すのに若干時間が掛かる。
そこへマリオンちゃんが潜行モードではなく、身体を起こした状態で接近戦を仕掛けてくるのに対して胸部バルカンで牽制するが、装甲が厚い面で狙って受け止めているのでダメージは与えれても微々たるもので阻止には至らない。
仕方ないので本格的な取っ組み合いをするとしよう。
注意するのはクローだ。
アレはジムほど柔らかくない俺でも少々痛い、下手なところ……関節などに受けるとそこから先はなくなる威力がある。
次々放たれるクローの突き、それを逸したりシールドで受けたり躱したりしているが幾つかは掠って装甲に裂ける。
反撃はろくにできていない。
ニュータイプの感知能力のおかげなのか、偶に見えていない攻撃が回避できたりするのはちょっと嬉しい。
今までマリオンちゃんと共有してないとこの感覚はなかったからなぁ。
もっともこの紙一重による戦いもマリオンちゃんの手加減のお陰で成り立っているんだけどね。
いや、本人的には手加減をしているつもりはないのかもしれない。
マリオンちゃんのプレッシャーが俺にはほとんど感じないのだ。
それは恐らくニュータイプレベルが低いことと、一心同体な俺とマリオンちゃんでは本気のプレッシャーなんて出せないのだろう。
つまり本来ならこの強さ+浮気が妻にバレたような時のようなプレッシャーの中、戦わないといけないと……うん、敵に同情するわ。でもマリオンちゃんを殺そうとするなら0コンマ00000000…………0秒で有罪、死刑だけどね。
「ぐはっ、要らないこと考えすぎた」
クローを思いっきり喰らっちまったぜ。
おかげで左肩がズタボロ、腕自体は繋がってるが肩の装甲が軽く貫通して腕から先が上手く動かない。
その代わりにミサイルランチャーから魚雷ミサイルを放って間近で吹き飛ばしてやった。
ズゴックDは陸上でも機動力を確保するために装甲が他の機体より薄めなのでバルカンは防げても魚雷はキツイだろう。
その証拠にあっちこっち装甲に亀裂が入っている。
『もうちょっと自分を大切にしたらどうなんですか!あんな至近距離で魚雷なんて自分にもダメージがあるはずです』
「まぁね」
言われた通り俺の方にもダメージがあるんだけど、それ以上にあのまま戦い続けてたらマリオンちゃんの勝ちは揺らがなかっただろう。
今は相手も相応のダメージを受けているので何処かで隙を突いて1撃を入れれば勝てる可能性がある。
「割りと俺も本気だから……ね!」
今度は俺から間合いを詰めていく。
それに応えるように構えるマリオンちゃん。
接近戦を————仕掛ける前にシールドを投げる。
もちろんわかっているように回避、続けて全バルカンと魚雷を見舞う。
そして今度はアイアンネイルを出してから攻撃を始める。
フックやアッパー、膝蹴りに関節を取ろうとしてみたり、ネタ技サマーソルトキック、さすがにソニックブームは無理……などを繰り出してみたが通じない、どころかサマーソルトキック中に背中蹴られた。
仕方ないので待ちガイル、ならぬ待ちブルーニーで対抗。
攻めるより守ってカウンターの方がまだ突破口がありそうという判断だ。
マリオンちゃんも俺と戦ってレベルが上がってきたのか動きが良くなってきて勝てる見込みがなくなってきているんだけど……諸君、どうしたら良いと思う。
もうそろそろギブアップかな〜と思っていたら……
『……頑張りすぎて、ズゴックDのOSとか関節とか色々がオーバーヒートしちゃいました』
マリオンちゃんのレベルが上がりすぎたようです。
これって俺の勝ち?