第九十話
<アプサラスIV・マリオンズNo.13>
1人でこんな大きなもので空を飛ぶというのは結構気持ちいい。
でも1人もいいけど、やっぱりルーニーさんと一緒に乗りたい。
アプサラスIVのサイコミュはそれ自体が大型ですけどシステム自体はエルメスのそれとは隔絶した差がある。
私達の反応速度に追いつけないのはしかたないけど、ブルーパプワで一番高性能なNT-2よりも反応速度、追従性が高いのだから文句は言えない。
「ハロハロ、疲労蓄積度21%、休憩、休憩」
サポートハロの警告が聞こえてきた。
サイコミュ式可動砲は多い砲の同時コントロールで私達でも疲労が溜まりやすい、しかしその程度の疲労なんてことはない。
「ヒーリング」
なんということでしょう。先ほどまであった倦怠感がいつの間にか晴れ、敵の動きがハッキリわかります。
ハロの警告も聞こえなくなって周りの光景がゆっくり見える。
「目標をセンターに入れてスイッチ、目標をセンターに入れてスイッチ、目標をセンターに入れてスイッチ、目標をセンターに入れてスイッチ……」
「精神異常、精神異常、ハロハロ、戦闘中止、戦闘中止、病院、病院」
ネタに乗るハロは訓練されたハロです。ネタに乗れないのは訓練されてないハロです!!
現在私がいるのは上海沖、ここまで何度か戦闘がありましたけど大した損害はない……のは空の部隊のみで水中部隊は数を減らされてしまい、現状クーンが200ズゴックD100、艦艇30隻……これってもう限界なんじゃ?
当然中国軍ダメージは与えてはいますよ?初戦の戦いを教訓に制空圏を確立するまでは水中部隊は守備に徹し、攻勢に出るのはドン・エスカルゴが到着してから、という戦術で初戦合わせてズゴックDを3700機を撃破しているんですから十分な戦果です。
しかし絶対数が少なすぎてどうにもならないですよ。
正直上海まで到着したこと自体奇跡だと思います。
「アプサラスIVは空中補給でまだ戦えますし、航空部隊はまだまだ数がいますけど……あれは……」
ああ、ここで増援ですか……最初から一緒に行動していた方が被害は少なかったと思いますけどね。
艦艇50隻が合流して上海攻略戦開始。
とは言っても私は突っ込むだけですけどね。
さすがに1度侵略を受けたとはいえ最重要都市上海、防衛への力の入れようが今までと意気込みが違いますね。
ドップブースターとドップ、ルッグンがとてつもない数……だけど、これって全部私達の会社の製品なんですよね—多分ドップとルッグンは違法生産でしょうけど。
数は10000を超える……ちょっとこれはキツイです。弾数的に。
「指揮官さん、撤退しませんか?アプサラスIVで撃墜できるのは多くて2000までですよ」
ミサイルやビームを迎撃するとなると1000届くかどうか。
『気持ちはわかるが撤退は認められない。それに我が軍にはヤマトがある』
「どれほど強い機体かは知りませんがこの戦況をひっくり返すのは無理だと思います」
『そんなことわかっている。しかし家族を殺された怨嗟はその程度のことでは妨げにならんのさ』
怨みですか、私はブルーニーさんがいればいいんでよくわからないんですよね……そういう感覚は人間の頃ならあったんでしょうけど。
さて、雇われの身ですから全力で応えなくちゃいけません……弾が尽きるまで撃ち尽くしますよ。
なんとか陸地に到着。
数が多すぎ弾切れしそうだったんですけど、戦闘しながら補給するという荒業で解決しました。
よく考えて見れば私が迎撃している限り空中補給機が撃墜されないんだからどうとでもなりますね。
後は、メンテ無しでどれだけ戦えるかという点ですけど、今のところは大丈夫。
それにしても言うだけあってヤマトは強いです。
ひょっとするとNT-1より性能がいいかも……ドムIIより高性能なのは間違いないです。
それと精度がどの程度かわかりませんがアンダーグラウンドソナーが装備されているようです。
前線で戦うヤマトの索敵能力が高いため、後方にいるガンタンクと同レベルのキャノン砲が装備されている砲撃仕様のヤマトへ座標を送り、精密な砲撃が思った以上に成果を発揮している。
バックパックに半ドーム型の何かを付けている機体が情報を中継しているんでしょう。
おかげで陸戦は有利に進んでいます。
有利とは言っても上陸した部隊を叩き返されなかったという意味ですけど、正直攻めているかと言われればNOとしか言えません。
蟻のように次から次へと湧いて出てくるため、いくら叩いても減っている気がしないでしょうね。
もっともそれは陸に限ったことではなく、空でも似たようなもの。
なんとか私が前線を維持している間にフライマンタやデブロックが爆撃しましたが効果は薄く、むしろ反撃でアプサラスIVの構造上弱点である下部から攻撃をされて実弾が5発ほど当たっちゃいました。
仕返しにすぐさま蒸発させてあげましたけど、やはりこれほど劣勢で無傷のまま勝てるわけないですね。
上陸したヤマトの数は500機、現在は30ほど撃墜されたが戦果はゲルググ200、ゲルググM140、ザク改キャノン40というから凄い。
それでも数の暴力で押し包まれそうなんですけどね。
私1人で支えるのは辛い……日本軍の水泳部は上海沖で中国軍の水泳部と激闘を繰り広げてるでしょうし、このままじゃ……ブルーパプワ初めての敗北?!私で敗北なんて認めない。
「ブルーニーさん助けてください」
『なかなか劣勢のようだな。増援を送るか』
「ご心配無用!……と言えたら良かったんでっすけどねぇー私1人だと手に余りますね」
『わかった。俺が出撃しよう』
「おお、ブルーニーさん直々で出陣なんてもう……サイコーです!」
『お、おおぅ、日本軍が雇ってくれたらな。俺とマリオンズの報酬はキツイだろうけどな』
(久しぶりの運動だ。最近はマリオンズに任せきりだった。俺も最近皮下脂肪が付いてきた気がするし)
「お待ちしてます!」
こうして通信は切った。
ブルーニーさんが来てくれたら百人力です。
というわけで俺出陣!
「私も居ますよ」
『私も』
『私も』
『私も』
「ああ、皆の活躍も楽しみにしている」
結局、契約は大幅に増加した。
おかげでマリオンズ3体も一緒だぜ。
俺達はリリ丸でのんびり観察していたがこんなこともあろうかと、俺達本体とヴィエーチルをリリ丸に乗せていて正解だったな。
ついでに連れてきていたミデアに乗せてあるクーンを日本軍に売りつけるか、前線じゃパイロット補充ができないだろうけど後方の日本には心強い支援となるだろう。
でもミデアも有限、20機近くしか載せれてないんだけどな。
それでもないよりはいいだろう。
「さあ、パーティーの時間だ!」
『私緑色恐竜』
『じゃあ私は桃っぽい姫で』
『んー…きのこ男でいいかな』
「じゃあ俺はワル男……ってそうじゃないだろ!いくぞ」
さて、本当に久しぶりの出撃だな。かれこれ1年以上前だからなぁ。
おや?あそこで戦っているズゴックは噂の新型か?
今回のズゴックは今までと違ってスタイリッシュでどちらかというとハイゴッグに似ているな。
ひょっとするとハイゴッグとズゴックのハイブリットか?
「おっと、ここにきてビームマシンガンとな」
手の直結タイプだからマシンガンとは本当は違うが、連射性能はマシンガンと言って間違いない。
1撃の威力が下がっているがやはりマシンガンで弾をばら撒かれると回避しづらい。
ただ残念なのは機動力もズゴックDを上回っているがドムIIより下回り、ヤマトには当然遠く及ばない。
それでもビームマシンガンの威力を発揮されると厄介か。
「No.5、6は推定ズゴックIIの撃破に回れ。研究のために鹵獲、完品が1機できるように倒せよ。No.4はこのまま俺と共に」
『『『了解』』』
久しぶりの戦いだ。
遠慮はせん。
敵が密集して防衛している拠点を真っ直ぐ突っ込む。
ビームライフル?砲撃?そんなものは——
「マリオンちゃんとの共有とカラコンがあればどうということはない!」
「ブルーニーさん、それでいいんですか?」
「世の中開き直りって大事だと思うんだ」
ズゴックIIがいればニュータイプにはビームマシンガンがそれなりに有効だっただろうけどここにはいない。
ゲルググMやゲルググ、ザク改キャノンばかりである。
「これが俺達のオールレンジ攻撃だ!」
フルバーニアに付属しているファンネルを使う時が来た。
「貫け!」
マリオンちゃんと共有して動くようになったファンネルを動かし、上部の両翼は前方の、下部はぶっちきって置いてきた後方の敵を狙って6つの砲門がビームが解き放たれる。
「命中ですよ。やはり砲の数が多いと殲滅が早いですね」
前まで1機1機落としていたがファンネル砲塔ができたおかげで最大6機を蹴散らせるようになった。
「アプサラスIVほどではないけどな」
改めて近くで見るとアプサラスIVの射撃は鬼畜仕様だよな。多分カラコン入りの俺達でも近寄れないぞ。
だが、味方だとこれほど頼もしいものはない。
「俺達も負けてられないな」
「はい」
でも、この戦いって負け戦なのがわかってるから困る。
そもそもの人口の差が大きく、兵士の数が違う。
そしてジオンの工場を手に入れて生産設備に余念がない、最近は拡張工事も始めるようなので更に戦力が増強されるだろう。
俺達だけなら食事しながら長時間戦えばいいがマリオンズの武装はそういうわけにもいかない。
敵の撃破がマリオンズと合わせて2100ほど撃破したところで中国軍立て直しのため撤退、事実上敗北だな。
でも新聞やラジオでは戦術的撤退とか後退に置き換わってる……いや、戦勝を祝ってる可能性もあるな。
今日あたりちょっと気にしてみるかな。
情報統制はやってる側はいいだろうけどやられる側からすれば嫌な行動だ。
あ、そうそうドップツヴァイの味だが眠気スッキリ系のガムだった。
ガムなのに食べたら無くなるってのはどうなんだ……ズゴックIIやザク改キャノンなどまだまだ食べたいものはあるぞぉ!