第九十一話
「ビルの木陰に隠れて食事とは風流ですなー」
「木陰は文字通り木の陰ですからビルの影は木陰じゃありませんよ」
細かいことは気にすんな。ハゲるぞ。
後ろを警戒していたマリオンズNo.4のヴィエーチルに蹴られた。くそ、これだからニュータイプは。
「それにしてもズゴックDが毛ガニとは……さすがジオン産美味い」
「ですね。しかしたまに生臭い味がするものがありますね」
「多分中国産だろうね。とっても心配になる味だ……さすがにこの体で腹壊さないよな?」
「大丈夫ですよ。多分……一応帰ったら身体を洗浄しましょうか」
それがいいだろうな。
ただ、戦場と化している上海だが1つ思うのは……現代中国より綺麗なんじゃね?
河の水を見ると透き通っていてモビルスーツの歩く振動で慌てまくる魚が見える。
さすが貧民を宇宙に放り出しただけのことはあるな。
……ん?中国人の貧民を追い出せば、コロニーって中国人だらけにならないか?元日本人的にはあまり想像したくないな。
「戦況は日本不利だけど有利というなかなか意味がわからない状態になってるな」
「日本軍は数が少しずつ減っていますけど、中国軍はそれ以上に消耗してますからね。でも次から次へと中国軍が出てきて一向に戦場にいる数が減りません」
戦力の逐次投入は下策、しかし心を折るには上策らしい。
撃墜率から考えると日本軍が有利、それは変わらない。だが、そのパイロットは人間であり、疲労もすれば狼狽えもする。
倒しても倒しても減らない敵に有利に戦っているのに後退を始めている。
なんというか、共産系って死人がいくら出ても気にしないから色んな意味強いよな。
こりゃ負け戦か、どっかの傾奇者が負け戦こそ面白いなんて言ってたが絶対嘘だよな。戦争は逆転劇こそ面白いと思うんだ。
そんな下らないことを考えると中国から強力な通信電波を受信、そういやミノ粉が緩くなってるな。
『日本の野蛮人に告げる!!今日、我らに新しい同志が加わった!その名は大韓民国!現在同志は対馬に進軍中である!繰り返す…………』
おいおい、碌でなし国家の上位2カ国が手を組むって……まぁ現代人だったら至極当然なんだが、どうやら日本軍にとっては違ったようで動揺が広がっている。
あえて情報を明かすことで士気を挫きに来たか、なかなかやるな。
「日本消滅の危機、ですね」
「フラウあたりだと発狂するだろうな」
中国は現在百合が流行ってるらしいからな。
同性愛が増えたのは人口が増えすぎたせいなのかもな。
「とは言え、そっちの手助けをしてる場合じゃないんだよなぁ」
フルバースト(ビームライフル、ファンネル×6、メガ粒子砲、頭部胸部バルカン、多目的ランチャー同時発射)で数多くのゲルググ無印とM、ドムIIを数機を撃ちぬく。
当然マリオンズも戦っているが如何せん数が多い。
と言うかこれって万単位でいるんじゃね?と思ってしまうほどだ。
「くそ、街中だと障害が多すぎて攻撃しづらい」
「そういえば私達、市街戦やったことありませんでしたね」
ビームライフルはある程度の障害なら貫通するがいくつもビルがあるとさすがに減衰してしまう。
メイン武装をメガ粒子砲にすればある程度対応できるが、肩についているので使い勝手が悪いんだよな。
「とりあえず機動力がないザク改キャノンを全滅させるか」
「後方支援がいなくなればアプサラスIVももう少し余裕ができます」
アプサラスIVはデカイだけあって砲撃には弱い、もっともマリオンちゃんズにかかれば迎撃も可能だがそれでも攻撃する機会が減るし、それにまだまだ大丈夫とはいえ、数が多すぎて迎撃が間に合わず何発か被弾もしているのだ。もしこれでアプサラスIVが沈めば日本軍の負けは確定するのは間違いない。
「No.4は5、6と合流してザク改キャノンを狙え、俺達は囮としてこのまま正面から突破する」
『私達が囮でもいいですよ?』
「あいにく戦闘能力はマリオンズ3人には勝てないし、何より囮をするには弾薬制限がない俺達の方が向いている」
あの数の敵と戦おうとするとヴィエーチルでは……というか普通のモビルスーツでは囮となれない。
『わかりました。ご武運を』
「マリオンズもな」
<アプサラスIV・マリオンズNo.2>
「ブルーニーさん達は順調のようですね。こちらもですけど」
私がいるのは日本の対馬、つまり今戦っているのは大韓民国、通称韓国。
大昔は小さかった国だったけど北朝鮮と戦争して併合して領土が広がったけど、北朝鮮という貧乏国を抱えて衰退した国。
ただ民族性はよく似てたから衝突は少なかったみたいですけどね。
その韓国が突然攻めてきたわけですけど……どうやら日本は最初からそのことを知っていたようですが……ならなぜ上海を攻めている日本軍は動揺しているのでしょう?
まぁ何にしても私は敵を射抜くだけですけどね。
韓国軍は秘密裏に戦力を集めていたようで、最新機は少なく、旧式兵器がほとんどで楽勝ですね。
TINコッドの攻撃程度ではアプサラスIVの装甲に傷すらつきませんよ。
とは言え、やはり島国を攻撃する上では便利な水陸両用モビルスーツは力を入れているようでズゴックDは結構数を用意しているようです。
韓国から対馬までの距離は大体50キロ、あまりに近いせいで迎撃が間に合わず、韓国軍の水泳部は既に対馬に上陸を許してしまっている。
私が担当している最前線である北部では陸に上がり次第退場願っているから大丈夫ですけど、他の地域では陸上戦が繰り広げられ、苦戦しているようです。
対馬は日本より韓国に近いせいでよく乗っ取りを企んでいると陰謀論が囁かれていますが、どうやらその陰謀論は強ち間違っていないようで、一部の対馬民が韓国軍に協力しているのを確認してます。
誰が敵で、誰が味方かわかりづらくなっていて対処が大変だそうです。
私は判別付くんですけど、それは理解できない人にとっては証拠もない無根拠なものですから聞き入れられないでしょうからスルーしてます。
一番心配なのはアプサラスIVの補給が保たれるかどうか、ですけど……
「そのあたり大丈夫そうですか」
『貴官が私達の砦です。なんとしても補給は維持してみせます』
「補給さえしていただければ韓国本土を単機でも落としてみせますよ」
『それは楽でいいですが、さすがにそこまで補給を維持する自信はありません』
元々防衛戦力として期待されての配置だから仕方ないですね。
正直韓国には攻勢に出た方が有利だと思うんですけど……中国と違って国土は狭い上に旧北朝鮮領はろくに発展してないようなので南の主要都市である釜山、蔚山あたりを攻撃できれば韓国の攻勢も弱まるでしょう。
まぁ私が戦線から抜ければ対馬は敗北確定ですから致し方ありません。
……海上でファンファンというのは何の冗談なんでしょうね。
風に煽られて海で沈んでいくその様はどこか悲しい……韓国軍もうちょっと考えましょうよ。
「新兵器もなにもないようですから、こちらは単純作業で退屈です」
マリオンズによる奇襲に成功してザク改キャノン混乱中で次々血祭りにあげられている。
見るからにアプサラスIVへの攻撃が減ったのでやはりザク改キャノンがネックだったようだ。
それとザク改キャノンはどちらかというと旧式なため、ゲルググやゲルググMほど生産されていないようで無尽蔵に湧くってことはなかったことは幸いだ。
俺達は俺達でゲルググやゲルググMを狩っているのだが、こいつらはきっと雑草なんだな。次から次へと生えてくる。
日本軍はなんとか動揺から立ち直ったようで何倍もいる敵に健闘しているが……撤退が近いんじゃないかなと思う。
正直上海落とせる気がしない、情報では近隣の基地から増援が送られるという話も聞いた。
まだいるのか、一体どんだけ作ってんだよ。
もしかしてジオン本国やロシアとも取引しているのか?……ありえるな。
ただ中国軍に関して1つ言えるのは、たまに不良品が出ているようで何もしていないのに爆発することがある、ということだ。
さすがメイド・イン・チャイナ、品質の低さには恐れ入る。
戦場で動作不良……というか爆発事故とかちょっと可哀想だな。せめて俺達の手で葬ってやりたい。
そうすれば俺達の燃料として再利用してやるのに。
「アプサラスIVへの圧力が減ったのでこちらが有利になりましたが、私達はどうしましょうか。このまま突撃を繰り返すか、後方の日本軍と歩調を合わせますか」
「突撃で行こう。俺達が居てもいい影響は与えづらいだろう」
俺達は良くも悪くも逸般人、一般人とは違うのだよ。
正規軍の中に俺達が入っても陣形を乱してしまうだろう。
「というわけで突撃!」
「あいあいさー」
ゲルググやゲルググMをコクピット焼きしていくと、戦場がそこそこ広かったので今まで気づかなかったようだが突出している俺達が無双していることを認識した中国兵士には怯えが入ってきている。
例えば少し近寄れば倍以上後退したり、隠れてやり過ごそうとしたり、モビルスーツを捨てて逃げたりである。
どうやら俺達特有の降伏方法DOGEZAはまだ知らないようだ。
中国人を捕虜にしてたら物資を喰い尽くされそうだから助かるがな。