第九十三話
ゼロと黒い三連星というエース級の参戦は思った以上に手助けになった。
黒い三連星のうち2人は元ジオン兵、つまり実戦経験豊富な熟練パイロットであり、マリオンちゃんズとの模擬戦でも少しは保つほどの腕である。
ゼロは初陣ではあるが、強化の過程で人殺しへの忌避感が薄くなっているので十全と力を発揮……いや、ニュータイプに適していないモビルスーツだから十全とは言い辛いか……まぁ、そこそこ戦っている。
もっともエース級はもちろん、強化人間ですら補給と休憩は必要なのでどうしても一時的に戦線離脱するがそれは俺達が例外というだけの話だ。
当然日本水泳部の皆さんも補給と休憩をローテーションでしている。
ちょっとは俺達にお先失礼します的な挨拶はないかなぁ。いや、ずっと言われ続けるのもしんどいか。
「それにしても韓国が早々に脱落するとは思わなかったな」
「対馬攻略部隊が全滅したら厭戦感情爆発して一気に政権交代しましたね。しかも言い分が『日本に負けたのではない、連邦と蒼い死神に負けたのだ』ですからねぇ」
間違ってないっちゃ間違ってないけど……対馬に派遣していたマリオンズからの報告ではアプサラスIVで撃墜した数は4700、韓国軍全軍で7000ほどだったことから考えればほとんどをアプサラスIVが撃墜しているの事になる。
うん、負けた要因はアプサラスIVと言われても仕方ないよな。
更に連邦が明確に日本側に付いたことにより、兵器提供という名の前大戦の在庫処分セールが開催されて格安で大量の兵器を入手した日本は戦争を始めて戦前より戦力充実した……んだけど兵士が足らず志願兵まで募ることになっているとのこと。
一年戦争前から使用されている兵器の類、航空機や戦車は正規兵が充実していた当時の兵器なので操作性の問題もあって日本軍の正規兵が、モビルスーツは一年戦争中盤から投入された兵器だから素人と正規兵の差がそれほど無いため志願兵に与えられた。
正規兵が旧式兵器で志願兵が最新兵器というのはなんとも皮肉なことだな。
その多くはジムクゥエルやジムキャノンだが、少数ながらジムカスタムも提供されたらしい。
さすがに現行の最新機TR-1を提供することはないようだ。
「ただ、杞憂があるんだよなぁ……ジムクゥエルとか量産機を売り払うほど旧式化してないはず」
「次世代量産機が生産間近とか?」
「それならいいんだけど……」
このタイミングで次世代機、ねぇ?
もしかしなくてもアナハイムのドムIIか日本のヤマト、もしくは両方を導入する気でいるんじゃないだろうか。
俺達は会社の規模こそ大きくなったがやはり開発競争には1歩も2歩も遅れてしまっている。
唯一のアドバンテージはアプサラスに関しては並々ならぬ情熱を燃やす男がいるおかげで大型モビルアーマーでは遅れていないことか。
問題は原作通りだと少数生産でしかなく、どちらかというと廃れていくジャンルであることが問題か。
とは言ってもこの世界ではノイエ・ジールが無双し、ビグザムもノイエ・ジールほどではないにしても活躍した。
何よりマリオンズが乗るアプサラスIVはIフィールド搭載機じゃないと対抗できないほどの機体になっている。
うん、大丈夫……そう信じよう。
「とは言え、さすがに飽きてきたな。水泳部狩りは」
「ですね。かれこれ2200機も倒してますからね」
まさか波状攻撃で休みなく戦わされるとは思わなかった。
水中だと攻撃が当たるという危機感はない、攻撃速度がビームライフルに比べれば劣るので弾が3mぐらいの距離でも余裕で回避できる。
問題はやはりこちらの有効打も少ないってことだろう。
それでも接近戦で仕留めているし、牽制程度で放った弾に当たるような素人も結構いる。
だが、それでも多少センスがある素人に俺達の射撃が当たらないことが問題なんだけどな。
どうもモビルスーツの急激な開発の反動が攻撃手段の旧式化なのだろう。
そう考えれば、原作ではゲルググなどはマシンガンを採用していた機体が多かったのに、この世界ではビームライフルに圧倒的に偏ったのはこの辺が理由かもしれないな。
「ん?来たか」
『主役は遅れてやってくるものなのです!』
「連戦で負担を掛けるな、No.2」
『これも内助の功と思えばなんてことはない!正妻の座に一歩近づきました』
「ちょっとそこの私、話をしようじゃないか」
『だが断る』
そういや、以前融合拒否ごっこという遊びをやってたのを覚えてるだろうか。
遊びでやってる分にはいいが、もしそうなったら大変だから詳しく話を聞いてみたんだが……どうやらマリオンズには帰巣本能的なものがあるらしいことがわかった。
別に定期的に帰りたくなるわけではないが、帰っていいとなると「ああ、帰らないとなぁ」って感じになるんだそうだ。
つまり問題はないということだな。
「これで中国軍も抑えられるだろう」
あれから1ヶ月。
2機となったアプサラスIVを止める手段はなく、上海は無事制圧。
ティターンズも四川省を制圧して重慶市へ手を掛けようとしたところで、どノーマルザク改やキャノンが死に物狂いの防衛で一進一退の戦いとなり、ズゴックDやドムIIが増援として現れた。
そこからは無理をせず、戦線を決めたら睨めっこ。
無事、中国軍を分断することに成功したわけだ。
戦線は一先ず膠着して日本本土から増援も到着した。数はクーン250機(なんとか頑張って納品)ヤマト500機、ジェット・コア・ブースターが2000機となる。
これでヤマトが合計1000機近くになり一安心だ。
その代わり中国はドムIIの輸入は現在もしていて、宇宙海賊の妨害を受けながらも3000機近くが届けられているし、ズゴックDはジオンからと製造でかなりの数を揃えている。
ちなみにだが上海を落としたあたりで日本では厭戦感情が高まりつつある。
平和ぼけした日本根性が原因か、それとも日本内にいる売国奴や在日の右翼と左翼の分断のせいなのか……何にしても世論に振り回されるのは相変わらずの日本人だな。
そんな世論であるため展開している軍が動けるはずもなく、上海で足止め状態だ。
こうして戦線は膠着したわけだ。
「それにしても……アプサラスIVは合わせて2万機を軽く超える撃墜数とは恐れ入る」
こりゃ本格的にマリオンズにはアプサラスIVの方がいいな。
まだモビルスーツは跳ぶことはできても飛ぶことはできないからなぁ、やっぱり飛べる
それにムラサメ研究所でサイコミュがもう少し小型化できそうだって報告があったからアプサラス自体も少し小型化できそうだ。
他にも強化人間用にサイコミュ搭載のモビルスーツ開発をさせてくれと言ってきてるが……サイコガンダムのことだよな。
問題はIフィールド技術がないことなんだよなぁ、ティターンズも連邦もジオンもムラサメ研究所が俺達の傘下ってこと知ってるから技術協力してくれない。
Iフィールド無しの大型兵器の弱さはギレンの野望アクシズの脅威のα・アジールが証明している。
となると目指すところはインコム?いや、ファンネルの研究させるか。
今使っているファンネルやサイコミュ式可動砲の全てはエルメスのビットをギニアスが再設計した物だから本格的に開発させるのも悪く無いか。
ただサイコミュ自体がモビルスーツに載らないというジレンマもあるからそちらを解消する方が先だろうけど。
こっそり回収したヤマトとズゴックIIだが、ズゴックIIの方はそれほど目新しいものはなく、全て底上げした強さ、と言った感じで会社で複製可能だというので一応試しに数機生産する予定だ。
問題はヤマトだ。
武装などは特に変わったものはないが、機体自体がオリジナルなので解析に戸惑っている。
そして何より一番困っているのはOSだ。
随分高性能な機器を使っているらしく、OS自体もとんでも性能でアムロが動かすピーキーなNT-1をOSで補助して一般兵に動かせられるようにしてあるのだからたまらん。
このOSは是非解析しなければならんだろう。
と言うか、近接戦闘でのビームサーベルの振り方がロボットのソレではなく、達人の雰囲気を醸し出していたのもOSが原因だろうか。
それともあの有名な侍魂というやつだとでも……それとも艦魂ならぬモビルスーツ魂?……それって俺達のことじゃね?
船は女性に例えるがモビルスーツはなんだろうな……ぬいぐるみ……嫌だ。
「それにしてもティターンズ……少数精鋭のはずなのにザク改に止められるって……そこんところどう思うジャミトフさん?」
『耳が痛い話しだ。ただ、敵にニュータイプがいたようでな。慎重に慎重を重ねた結果のようだ』
ニュータイプがザク改って……限界値足らなすぎだろ。
まぁ強い奴が弱い機体を使う、なんて中国的……ってそれは日本でもよくある傾向かな。
幸いなのは地上で使えるニュータイプ機って実はアプサラスIV以外ないのだ。俺達自身はちょっと特別なんで例外扱い。
中国はその人口でニュータイプがゴロゴロ居そうだから有効に使えないのはいい。
「噂では四川料理の食べ過ぎでお通じが良くなりすぎて戦えなかったとか聞いたけど」
『それは極一部の話だ』
「一部であったのかよ?!」
俺も麻婆豆腐食べてぇ……シャアを探さないと食べれないのは難点だ。
どうもモビルスーツの味は角を付けてペイントを変えただけじゃ味は変わらないんだ。一体どういう原理で味が変わってんだろ。
『そういえばおぬしのところで開発した水中専用モビルスーツをデザイン変更してティターンズにも導入したいのじゃが』
「わかった。数は如何程?」
日本が買い占めしてる現状在庫は多くないからキツイんだけどね。
『試験導入であるから200機ほど頼む』
「再来月までには納入するよ」
『もちろん、いい具合であったら連邦にも検討しよう』
クーンの実戦データも大量に集まったから改修計画が進んでるからそれが終わってから納入だな。
『楽しみにしておるからな』