第九十六話
報告があった。
アプサラスIIIとIVが1機ずつ出来たって。
……俺、IVは許可したけどIIIは許可した覚えないんだが……まぁ犯人は言わずもがな。
あって困るもんじゃないけどさ、どこからそんな金を……と思ったらサハリン家の資産で作られてた。
どうやら資産運用でかなり儲かっているらしく、サハリン家は安泰だって言ってたが……アプサラスなんて作ってると安泰かどうか微妙だと思うぞ。実際アイナにめっちゃ怒られたらしいし。
「しかも俺達が使うにはレンタル料が掛かるとか……一体どうする気だったのかね」
「個人用セスナの親戚だと思えば……」
「思えるか!!ジャブローすらも黙らすような兵器をセスナと一緒にすな!」
ちなみにアプサラスIVは改修型で、砲門数が前後10門増えて合計80になり、1000m以上はなれた場所からのマシンガン程度しか被弾しないので装甲を薄くして軽量化、サポートハロ達もバージョンアップされたので以前より戦力になるだろう。
妙にアプサラスシリーズの生産が早いなと思ったら、1機作るのにIIIの大型ジェネレーターとIVのサイコミュ以外は半月程度で仕上がるんだそうだ。
これほどの生産速度を誇るのは何処かの誰かの執念の賜物だ。
感謝はするが心の中だけでしか言わん、もし本当に言ったら図に乗る可能性が高いからな。
「前線にいるアプサラスIVと入れ替えて順次更新するとのことです。せっかくなんでアプサラスIIIを追加配備しようと思います。いいですか?」
「ああ、次の戦いも近そうだからな。アプサラスの量産の暁には中国など消し飛ばしてくれる!」
「中国消し飛ばすと後に出来た海で制海権争いが起こりそうですね」
中国を滅ぼしても戦争は終わらない、中国諸悪の根源説はデマだったか。
アプサラスのバージョンアップと追加配備、初陣を良好で飾ったヤマトのデータ取りも終わったので次の戦闘は日本軍有利だ!
「アナハイムもドムIIのデータ取りに成功しているのでそれほど劇的な差は……いえ、むしろドムIIの数が増えていることを考えれば不利になってるかもしれません」
おぉぅ、嫌な現実を見せないでくれ……でも、それでもマリオンズならきっと何とかしてくれる!
「マリオンちゃんズの意地、お見せしましょう!」
これ以上見せつけられたら中国軍を始め、連邦もジオンも絶望しかねんけど……まぁいっか。
ん?通信?しかもジオン地球領からか。
モニターに映ったのはジオンの鳳梨(パイナップル)ことノリスさんじゃありませんか、今日は何の御用で?
『ジオン本国で厄介なことになっておるようです』
「連邦に比べたら経済も安定してたはずだ……となると——」
『お察しの通り、ギレン閣下とキシリア閣下が本格的に武力闘争に発展しました』
全く、平和な時間ってのはなんでこうも儚いのかね。
「詳細は」
『主力をガルバルディαに据え、ペズンで新たに開発した開発したガルバルディβをエース機としたギレン派新鋭部隊とドムIIを主力としたキシリア派懲罰部隊と衝突、原因などはまだわかりません』
「規模的には」
『両派閥共にチベ級1ムサイ級3パプワ級1モビルスーツ20機ほどだと聞いています』
トップの2人が我慢できなくなったのか、下の兵士達が我慢できなくなったのか、それとも誰かが煽ったのか。
勝敗とかはどうでもいい、問題はこれから話し合いで解決するのか、それとも高町式交渉術的OHANASIするのか、だな。
くそ、なかなか宇宙食い倒れ生活に突入できない。
「それで俺達や地球領に何か求めてきたか」
『一応両閣下から中立でいるように命令が来ました』
「それは俺達に参加するな、と言っているのかな」
『だと思います。輸出入は今まで通り行うそうなのでそれほど酷いことにはならないかと』
もしかして別の狙いがあるのか?
それとも単純に俺達が動くのを阻止したいのか……いや、ひょっとすると俺達がジオン本国に関わるとしたら地球圏内の争いが手薄になるからか?
連邦の主力として期待されているティターンズは日本vs中国に駆り出され、連邦自体は雀の涙な復興作業とモビルスーツ開発に専念している。つまり、予備戦力は多くはないということだ。
ジオン公国の内乱に要らぬ介入を入れたくないのかもしれない。
「なら輸出入だけでいいか、しかしあまり多くは出番がないな」
『今の我々ではアナハイムに対抗するには力不足でしょう』
「その通り、モビルスーツを始め、家電や日用雑貨などでも遅れをとっているからな。せいぜい豊富な食材ぐらいだろうが中国が一歩先んじて販売しているからなぁ」
『しばらくは中国で荒稼ぎして力を蓄えるしかありませんな』
こっそり中国へ輸出したモビルスーツの統計を見せてもらったんだけど……いやー凄いね、月産1000機とか……MIP社、どんだけ工場確保してるんだろ。
ブルーパプワの本拠地であるニューギニア島は自然保護が煩いから工場拡大に苦労するから羨ましいぞ。
ズゴックIIもクーンのようにオプション武装を取り入れるようで、次回からクーンは苦戦するかもしれないな。
マリオンズ混ぜとくか?
『それと気になる情報があります』
まだあるんかい。
『初戦敗退した韓国がMIP社に300機ほどズゴックIIの発注を確認しました。他にもアナハイムにドムII200機輸入予定とも……目的は恐らく……』
「日本再侵攻か……アプサラスIVがいなくなって動くやすくなったとでも思ったか」
『可能性は高いかと』
「前回は旧式兵器が多かったからどうにかなったが、次はどうなるかな」
『日本は連邦から大量の兵器を購入してますからそれを警戒して、という可能性もあります』
希望的観測ではあるが、その可能性も捨てれないな。
不意打ちして怨まれているのはわかってるだろうしね。
「わかった。情報感謝する」
『いえ、アイナ様によろしくお伝え下さい』
韓国がもう1度動くとなるとアプサラスIVを対馬に配備しないといけないか……もしかしてこれが狙いかもな。
戦力増強するだけでアプサラスIVを1機拘束することが出来る……随分値段が高い枷だけど。
「というわけでマリオンちゃん」
「はい、アプサラスIV改修型を対馬に送っておきます」
俺達は上海にいるので先に戦力を配備しないといけないのは対馬だ。
「ついでに一応日本にも情報を流しておこう」
もう情報は掴んでるはずだが、現代日本人の感覚からすれば情報はザルってイメージが強いから念には念を入れておいて損は無いだろう。
対馬戦で韓国軍に協力したスパイor売国奴の割り出しは上手くいってないのも不安だ。
対馬駐留軍の上位に内通者がいる可能性も捨てきれない。
「マリオンズにも警戒するように……って言わなくてもしてるか」
「もちろん警戒はしてますよ。でも言ってくれるのは嬉しいです。大事にされてるって思いますから」
マリオンちゃんってツンがないよなぁ……でも一心同体レベルの俺達でツンデレされたら、それはそれでイラッとするよな。
0081年9月、第2次スーパー……じゃなかった日中韓紛争開戦。
攻撃を仕掛けたのは中国軍だった。
今回は6000機ほどと若干控えめ、しかしドムIIの割合が高くなっていて質の向上が見られる。
「だが、そんなのかんけーねー!」
アプサラスIVが双璧を成して弾幕を張りつつ、日本軍の基地を背にするように前進。
中国軍も半包囲するように囲もうと動く……が、空中よりアプサラスIII降臨。
ジャブロー強襲で魅せた火力を今再び!
「薙ぎ払え!!」
まるで風の谷に落ちた巨神兵(完全版)だぜ。
照射型メガ粒子砲で横一線、モビルスーツが次々誘爆していく。
「マリオンズが乗るIIIとIVが並べば無敵だな」
「ですね。私達の出番はないかもしれません」
本来ならこういう会話はフラグなのだが……まぁマリオンズとアプサラスを前にフラグもクソもない。
ひたすら薙ぎ払っていくと中国軍は散り散りに撤退を開始した。
戦争ってこういうものだっけ?と思うのは今更……というかこういうことを始めたのは俺か。
こうして開幕戦は圧勝で終了した。
ちなみに日本軍はポカーンとしていたらしい、そりゃそうだよな。
ただし、開幕戦と言っても地上戦だけで、海戦は激戦だ。
こんな解説しながらも俺達は海中で戦ってます。
どうも多少なりとも訓練してきたらしく、随分腕が良くなっている。
何より俺達を敬遠されているようでめっちゃ逃げられる。
射撃兵器の射程が短くなったことがこんなところで響くとはね。
これが俺達だけなら逃げているズゴックII達を追いかけて食材に変えるんだけど、日本軍から離れすぎると大変なことになるから面倒なんだ。
いい加減俺達を敬遠しつつ日本軍だけと戦うようにしているし、それで日本軍は出血を強いられていて、着実に数を減らされていってもいる。
モビルスーツ自体のスペックはやはりクーンが上回っているがやはり戦争は数だぜ兄貴!みたいだ。
艦隊をカバーしないといけないのも辛いところだ。
クーンを追加配備できたのは750機、対して中国軍のズゴックIIは2200機、上海攻略戦の時ほど数から言えば絶望的ではないかもしれない、だが練度が上がり、全てが最新鋭機というのは辛いのが現状だ。
オプション装備として魚雷ポットが装備されている……というかまんまクーンのオプション装備じゃん!……によって瞬間打撃力が向上したことも苦戦する要因となっている。
「水中戦じゃキツイな。どうしたもんか……」
「……そうだ。アプサラスIIIを呼びましょう」
「まさか、あの高出力メガ粒子砲で無理やり攻撃しようってのか?」
「イエス!」
「……水面ギリギリまで降下させればなんとかなるか、攻撃されそうになれば俺達でも戦えるしな」
「その通りです。では早速呼びますね」
戦い始めて10分でクーン100機も落とされるなんて……いや、数からすれば100機で済んだと思うべきか。
俺達を敬遠するばかりに陣形が崩れてるからこの程度で済んでいる。もしこれが正面から戦っていたら戦いなんて呼べるものじゃなくなっていただろう。
……5分後、アプサラスIIIが到着して高出力メガ粒子砲を発射、見事に集まっていたズゴックIIを200機ほど埋葬することに成功した。
それに動揺した敵はアプサラスIIIに攻撃を仕掛けようとするが、そこに俺達参上!
30機ほど倒したところで撤退開始、結局俺達いいとこなし……今度からマリオンズに任せるかな。