第九十七話
さて、上海防衛戦に成功したわけだけども、問題は対馬防衛戦。つまり韓国戦だ。
上海防衛戦と比べると戦力が少ないこちらの方が激戦になることは予想できていたのでゼロと新・黒い三連星を派遣しておいた。
クーンはほとんどを上海に配置したせいで水中戦力は連邦から購入したアクアジムIIが配備されている。
くそ、俺達の利権が……と思うが、まぁ仕方ないよな。数が揃えれなかった俺達が悪い。
日本政府はしばらくはクーンを優先的に買ってくれるというので我慢する。
連邦では散々だったアクアジムIIだが、実際はそれほど悪いモビルスーツではない。
ただ単に運用するノウハウがなく、モビルスーツの習熟が足りなかっただけなのだ。
ついでに言うと日本軍は志願兵制度と徴兵制度を導入しているんだが、アクアジムIIに乗る兵士達はまさか徴兵された兵士なんだが……まさかニートを徴兵するとはねぇ。
ニート達は兵士としての基礎体力作りなどは免除してモビルスーツの操縦方法を流行っているゲーム筐体と同じにするという荒業で戦力としている。
ただ、ゲーマーのニートが現役兵士を10人抜きしたという伝説を打ち立てたらしい。
兵士さんカワイソス。
そんなわけで対馬防衛部隊の水泳部はニートで構成されている。
……文字だけだと物凄く弱そうだな。
そのおかげで兵士が少なかった日本軍が数を揃えることができたのだから僥倖だろう。
恐らく戦後に人権問題とか色々起こるだろうけどな。
水泳部にニートを集中している理由はもう1つある。それはゲーム感覚をそのまま活かせることだ。
これが陸上部になるとモビルスーツだけでなく、生身の人間を攻撃対象にしないといけない場合がある。
そんなことをニートができるかどうかが未知数である。
水泳部なら相手も水泳部なので精神的に楽なのだ。
全く関係ない話だが、ドムIIやガルバルディなど新しいモビルスーツはコクピットだけ取り替えることが可能な構造になっていることが判明している。
どうやら俺やマリオンちゃんズがコクピット焼きをやり過ぎたせいで、コクピットだけを取り替えれる構造にすることにより、鹵獲兵器の再利用を簡単にできるように、というなんとも後ろ向きなシステムを導入されたようだ。
ちなみにまだコクピット脱出機能は導入されていない。
さて、話が若干逸れたが戦況は……
「空戦は相変わらずのアプサラス無双か、問題の水泳部は……日本少し有利ってとこか」
「アクアジムIIがいい働きをしてますね。もちろんゼロさんや黒い三連星さん達も頑張ってますけど」
アクアジムIIはズゴックDより陸戦では劣るが水中戦では五分以上の戦いができるスペックがあるからなぁ……連邦も使い熟せていたら少し話が違っただろうに、学習型コンピュータに頼りすぎたのが敗因だな。
もっとも頼らなければ陸戦や宇宙戦では負けてただろうけどさ。
そういえば黒い三連星の連携はなかなか見事なもので、水中戦での三次元連携は見応えがある。
水の抵抗を受ける水中戦ではお互い動きが鈍い、その中で輝くのが黒い三連星の連携だ。
それぞれが囮、撹乱、攻撃を自然な流れで行っていて俺でもマリオンちゃんとの共有がなければ何発か被弾しそうだ。
それと対局にあるのがゼロ、まるで協調性がなく、中の人繋がりのお前を殺す的な人にそっくりだ。
そういえばウイングの後継機に積んでるシステム名もゼロだったな。
ちなみに撃墜スコアは黒い三連星が35、ゼロが10……マリオンズの撃墜数を見るとショボく感じるが普通だったら十分凄いよな。
ゼロのスコアが伸びないのは突っ込みすぎてよく追われて味方に助けてもらってるからだったりする。
やっぱり強化人間には戦術とか難しいのかねぇ。
そうそう、実はゼロとニート部隊はウルトラロボット大戦、つまりスパロボだろ……を通じて仲良くなったらしく、そいつらがゼロの突出をフォローしてくれているようだ。今回の戦いが終わったらブルーパプワから迷惑料という名のボーナスを渡すよう手配しよう。
ニート部隊は思った以上に善戦していて韓国軍涙目、というか日本軍も涙目。
「何者でも使い道ってあるんですね」
「本当にな」
過去の自分が奮闘しているようで涙を禁じ得ない。
「というか、ニートさん達の中に何人かニュータイプがいるんですけど……」
「マジで?!」
ニートがなれるのって合併症の引き篭もりニート、極一部例外的に金銭を稼ぐネオニート、童帝という名の魔法使いぐらいしかなれないもんと思ってたのに!
まさかのニュータイプとか、これは本格的に革命来たか?いや、シャア風にいえば革新か……ニートによる革新とかガンダムさんの世界じゃないですかヤダー。
「もっと使えるニュータイプ兵器を開発すればシェア拡大だ!」
「アプサラスIVも立派なニュータイプ兵器ですよ」
「マリオンちゃんズしか使えない兵器が売れるとでも?!」
アムロ級で少し使える程度の兵器にどれぐらいの意味があると……カミーユならもう少し使えるのだろうか?
「む、この気持ち悪い気配は……」
「もしかしなくても……」
『腐腐腐腐腐腐腐腐、私の前に敵は無し、私の後ろに屍あり、腐女掛け算戦士フラウ・ボゥ見参!』
…………
「なんか以前より悪化してないか?」
「強化人間にしてまともになると思ってたんですか?」
「……言われてみればその通りだな」
『掛け算されるのを恐れぬなら掛かってきなさい!』
…………ちょっとの間戦場が止まった。
皆掛け算されるの嫌なんだなぁ。
『BLなんて時代遅れニダ!世は百合ニ——』
『ただし異論は認めん』
容赦なく一閃で撃墜、これって強化人間として成功しているのか?成功例がこれって納得できないんだけど……ガンダムウォーからネグザの移り変わりの時ぐらい納得できないんだけど。
「なにはともあれ日本軍有利か、よかったよかった」
「……戦わなきゃ現実と」
「フラウはきっと日本に骨を埋める気でいるからきっと大丈夫だ。パワーアップしたアレはさすがに相手できん」
「そう願いましょう」
いや、本当に、切実と。
特に奇襲などはなく初戦は終了。
判定は日本勝利、韓国ざまぁ、中国ざまぁないな。
韓国軍は2時間しないうちに撤退をしていったし、中国は言わずもがな。
日本の被害は配備されていたアクアジムII330機のうち、撃破されたのは130機、半数近くやられてるんだよな。しかも残りの半数も中破だっていうし。
親愛なるニート達よ、君達の活躍は忘れないぞ……半月ぐらい。
韓国軍水泳部600機という倍の相手によく頑張った!感動した!
エース級が敵に居なかったのも幸いだったな。
それにしてもズゴックIIとアクアジムIIではズゴックIIの方がスペック的に有利なはず、ニートの底力恐るべし。
「ところで、日本が悲鳴を上げてるって聞いたんだけど」
「ニューギニア特別地区の代表として日本に行ってきたんだけどさ。ブルーパプワの兵器値下げを打診してきたのさ。どうやらそろそろ財政が厳しくなってきたようだね」
シーマ様の見立ては間違ってないだろうな。
自国生産の兵器はともかくとして連邦やブルーパプワなどから大量の兵器を購入している。
クーンはズゴックIIどころかズゴックDより安価(二足歩行可能にすると案外高い)とはいえ、1000機以上購入しているし、大量生産で比較的安いアクアジムIIも合計して800機ほど購入している。
それだけでもかなりの出費なのにフライマンタやジェット・コア・ブースターまで購入しているからな。
全部合わせて60兆ぐらいか?連邦から購入した兵器の値段が大体だから予想だけど。
ヤマトの値段も入れるとトンでもない消費だな。正確な値段知らんけども。
日本1年間の収税消えてんじゃね?ああ、でも現代でも95兆あったんだっけ……それでも厳しいのは変わんねぇ。
兵站とかの軍費を考えれば一体いくらになるやら。
「それでどう答えたんだ?」
「寝言は寝て言え」
「シーマさん、過激です」
まぁ今は優良輸出先ではあるけど戦争が終わったらどうなるかわからないから強気で行っても問題ないだろう。
そもそも結構安いクーンを更に値切ろうってのは無理あるだろ。
どう考えても自分とこのヤマトの方が何倍も高いっての。
「と言うか、この戦争は怨みから始まったから落とし所が見つからないんだよな」
普通は利益を奪い合うための外交手段の一種が戦争なわけだが、今回は話が違う。
怨みによる戦争なので利益を求めていない、と言うより現代戦争は利益が出るほど兵器が安くない。だから日本は上海を落とした後は動けないのだ。
「いっそ私達で戦争を終わらせてみるかい」
「また仲介ですか、私達は日本側についてるのでそれは難しくありませんか?」
「いや、死神と呼ばれるあんた達に最適の方法さ」
まぁ日本を崩壊させたいわけじゃないから打開できるならそれが一番だが……
これがアニメの世界ならナレーションでこういっただろう。
「宇宙より4つの隕石中華の地へ落ち、災い振りまき、人々に絶望を与えたであろう」
予想がついてるかもしれないが今、俺達は中国に絶賛降下中。
俺達やアプサラスはブルーパプワに一旦撤収、そこからマスドライバーで打ち上げてブースターで降下先を調整、目標は北京市西城区、通称『中南海』、現代でわかりやすく言えば『中国共産党本部』。
シーマ様が考えた作戦はシンプルで中国の中枢を麻痺させることだった。
中国は元々まとまりが悪い国であるから中枢が無くなれば派閥争いを始めるだろうということだ。
日本に計画を話すと飛びついてきた。その代わり成功報酬を色々ボッタクってやったがな。
ミノ粉を散布してミサイルはほぼ無力化しているので障害は少ない、航空機は……言わずもがな。
『アプサラスが4機も並べばさすがに圧倒されますね』
「全くだ。こんな大きなものが降ってくるなんて中国人は思いもしないだろうな」
『ジャブロー強襲の前例がありますし、読まれてる可能性があるってシーマ様が言ってませんでしたか?』
「……」
そういえばそんなことも言ってたな。
邪魔なハエを叩き落として、目標を確認。
『では撃ちまーす』
凄い軽い言葉と共に既にチャージが済んでいるアプサラスIIIの高出力メガ粒子砲が発射。
しかも1発、2発、3発……ちょっと待て、照射型じゃなくて収束型をそんな連射できるっておかしくね?
そんなこと思っていると中南海は蒸発、後に何も残らず……と思ってたらまだまだ撃ってるし。
『こういう場所は核シェルターがあるでしょうから念には念を入れて、ですよ』
なるほど……ただ、そういうならもう逃げられてる可能性もあるけどね。隠し通路とか用意するのは定番だし。
お、紫禁城だ。
『ついでに破壊しておきますか?』
「歴史的建造物を無駄に破壊しない。それに必要最低限の破壊でって日本のオーダーもあることだしな」
『日本は神経使い過ぎだと思いますけどね。上海だってなるべき壊さず制圧しろなんて無茶なオーダーがありましたし』
第2次世界大戦とかの教訓だろうね。
大義を損ねたら面倒になる……もっとも第2次世界大戦はアメリカが強引に戦争を仕掛けてきたんだけど。
「さて、俺も降りて警戒するか」
『アプサラスIVがいれば制空権を確保できるんですから大丈夫だと思うんですけどね』
「それこそ念には念を入れて、だ」
俺がいるのはアプサラスIIIの背中に特設されたコンテナの中だったりする。
燃料が異次元に格納されているため飛行したまま北京から対馬までアプサラスと共に撤退できるので同行することにした。
補給もないからアプサラスが途中で力尽きないように護衛だ。
最近良いところがないので活躍したいんじゃ決してない!!