第三話
「3人に出産祝いと誕生日プレゼントです。どうぞ」
「まぁ、これは——」
「これは——」
「朝顔」「昼顔」
「「……」」
うん、こうなると思ってた。
実は朝顔と昼顔と夕顔を手の平サイズの木の板に掘った物なんだが、元々朝顔、昼顔、夕顔の花にそんな大きな違いはない、その上に私が手作りしたことにより更に区別はなくなった。
つまり、それは見る人によって変わるということであり、こういう結果を招くことは予想していた。
ちなみに朝顔だと言ったのが昼顔(旦那さん)で、昼顔だと言ったのは朝顔(奥さん)、お互いがお互いを言い合ったのだ。
はいはい、お熱いことで。
「夕顔にはちょっと早いか」
さすがに口には入らないが叩き割られたりすると口に入るサイズになるし、破片や割れだ断面で怪我をする危険性があるので渡しておくのは危ない。
この世界の子供はこれぐらいやっても不思議ではないから注意が必要だ。
そう時間をおかず、分別がつくようになるはずだからその時に喜んでくれたら嬉しい。
「それにしてもハヤテは随分大人びた話し方をするな」
「ええ、いつもあのような感じですよ。しかもこんな凝った手土産を持参するなんて」
「……昼顔と夕顔を助けてもらった礼はそのうち返すとしよう」
「今ではないのですね」
「ふん、お前達の命が2歳程度の子供の願いと同等なわけがないだろう」
「あなた……」
家に帰って早速チャクラを練る訓練を——
「ん?私、チャクラの練り方、知らないぞ」
いきなり躓いた。
忍がチャクラという不思議パワーを使っていることは話を聞いていると自然と知った。
チャクラって確かヒンドゥーとか仏教とかの概念だったはず……だが、この世界のチャクラと同一のもとはとても思えないからそこはスルーする。
さて、どうしたらいい。
父さん達もいないし、卯月さん達に教えてもらうのも迷惑が掛かるとかもしれない。
となると……自力か、やれるだけやってるとしよう。
この世界はジャンプの世界だ。そして不思議パワーの大半はある訓練で使えるようになったり、使用量が増えたりする。
その訓練とは——修行の定番、瞑想。
ただし、ジャンプ系の世界では瞑想をしている風景は乗っていたが、やり方が解説されてないから具体的なやり方は赤ちゃんの歩みなテニスマンガでやっていた座禅を参考にすることにした。
赤ちゃんの歩みなテニスマンガはジャンプじゃなくてマガジンだが、そのあたりは気にしない。
ただ1つ、問題というか疑問があった。
それは……瞑想と座禅って一緒か?というものだ。
やってることはそっくりだけど名前が違うことから何かが違うのかもしれない。
「座禅しか知らないから考えても仕方ないんだけど」
まず座る。そして雑念を払い、数字を数え、雑念が入ると1から数え直す。
やっていることは単純だが、これが難しい。
とりあえず100まで数えたら終わりにしよう。
一体何回数え直ししたら——ってこんなこと考えてたらいけないんだ。
何回もやり直してもう少しで50を超える——というところで身体を揺すられていることに気づく。
「ハヤテ?!ハヤテ?!大丈夫!!」
目の前には母さんがいた。
周りを意識しないようにはしていたが、思った以上に集中していたみたいだ。
「大丈夫だよ。ちょっと眠かっただけ」
「そう、ならいいんだけど」
表情には本当に?と書かれているが、まさか座禅してたなんて言えない。
さすがに2歳の子供が座禅していたなんて奇妙過ぎる。
なんとか笑って誤魔化せた……と思う。しばらくは心配そうにこちらを見ていたような気もするが気のせいだろう。
さて、問題は結局チャクラと言われるこの世界の不思議パワーの存在が認識できていないことだ。
……よく考えてみると練るというからには何かと何かを混ぜたり、変化させたり、捏ねたりする必要があるはずなんだが……元となる何かがわからない。
マンガで説明していたような気もするが、主要キャラの名前すら怪しい私が覚えているわけがない。
座禅は効果がないのか、それともチャクラという存在の認識には数時間程度ではいけないのか。
マンガ的観点で言えば不思議パワーを手に入れるにはそれ相応の努力が必要であるはずだが、この世界のマンガでは確かコントロールにこそ努力が必要だったが不思議パワーの認識に戸惑っていた覚えはない。
むしろ主要キャラは子供で、全員が全員チャクラを使えていたはずだ。
私に前世の記憶があるから障害となって感じられないだけなのか、それとも血筋か……あ、父さんがチャクラ使えるんだから血筋は関係ないか……やはり努力の仕方を間違えているんだろうな。
やっぱり聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥か、昔の人はよく言ったものだ。
「母さん、チャクラの使い方教えて」
「あら?とうとう忍術に興味持ったの?」
「うん。夕顔……卯月さん達の赤ちゃんなんだけど、可愛かったから何かあった時に守ってあげたい」
(……子供って本当に早く成長するものなのねぇ)
ん?なんか母さんが遠い目しているけどどうしたんだ。
もしかしてチャクラの使い方って子供に教えちゃまずいものだったか。
「いけないことだった?」
「い、いえ、そうじゃないのよ。でも……そうね。チャクラの使い方を教えることに問題はないわ。問題は別にあるのよ」
「?」
「チャクラっていうのはね。人を助ける力にもなるけど人を傷つける力にもなるの、だから——」
ああ、なるほど。道徳的なものか。
無邪気な子供が特殊な力を持って暴走する。よくありそうな話だ。
しかもこの世界の力はほぼ暴力に使われることが前提であることが拍車を掛けるんだろう。
治療忍術ってのはチャクラのコントロールが相当上手くないといけないらしいから覚えると便利な力と言う教え方はできない。
一通り母さんから道徳授業を終え、明日からチャクラの使い方を教えてくれることになった。
しかし忍でもない母さんに教えてもらって大丈夫なのかと疑問に思って聞いてみると……
「これでも父さんと同じ中忍で、父さんより戦闘技術は上だったから大丈夫よ」
驚きの新事実。
今にも倒れそうな顔色の悪さなのに中忍……しかも父さんより強いらしい。
この世界にはチャクラがあるから男女の差はそれほどない。もちろん元の世界と同じでベースとなる筋力に差はあるがチャクラの筋力強化に比べれば霞む……ああ、だから母さんの動きが偶におかしかったのか。鍋が吹きこぼれそうになった時、止めようとしたらいつの間にか母さんがいてびっくりしたことがあるが、ある意味納得だ。
「じゃあご飯の準備するから少し待っててね。ちょっと遅くなっちゃったわね」
とか言っておいて遅れを挽回していつも通りの食事の時間に準備を終えたあたり母さんは私が思っている以上に優秀なのかもしれない。
翌日早朝、朝食を食べる前に約束通り母さんがチャクラの練り方を教えてくれるというので庭に出る。
「まずは座学から」
と言って教えてくれたことをまとめると、チャクラというのは身体エネルギーと精神エネルギーを練り合わせることによってできるらしい。
色々わからない部分もあるが、1つ気になるのは……身体エネルギーというのは細胞の力と言っていたことだ。
世界観的に細胞という単語が出てきたことにもびっくりだが、何より細胞の力を使ったりして寿命が縮んだり、早く老けたりしないのだろうか、という心配になる。
母さんに遠回しに話を振ってみた。
「そういう話は聞かないわね。逆に若返るという忍術があるとは聞いたことあるけど」
なんだ、その人類の夢が叶ってしまう忍術は……と言うか忍利権多すぎないか、治療兼武力なんて国が真っ先に保証するものだぞ。それだけ重要なことなのに忍は両方を兼ね備えるとか……わざわざ火の国と木の葉の里を分ける必要性が何処にあるのかわからん。
国と軍でいいのに、なんで国と傭兵集団なんだろうか……いや、そもそも木の葉の里が火の国でいいと思う。
「次は実践ね」
ここからが本番だ。
チャクラを練るためにはイメージが大事で最初は合掌した状態で片手に意識、片手に力を集めるようにイメージするとできるそうだ。
……意味がわからん。
結局、この世界の住民は半ば自然にチャクラを使うことができるみたいだ。人によっては教えられなくても勝手にできるとも言っていたし。
とりあえず、言われた通りの手順?を行ってみる。
…………
………
……
…
む、なんか少し練れたような……気がする。
気がするだけで本当にチャクラなのかは不明。
これは思った以上に苦戦の予感がするぞ。
「とりあえずチャクラが練れるまで毎日頑張るのよ」
母さんには私が落ち込んでいるように見えたのか、優しく諭すよう言うが落ち込んではいない。
元々私はあまり器用な方ではないからこれぐらいは予想内だ。
昔から嫌なことへの予想はなかなか外れなくて辟易とするが努力して覆せなかったことは少ない。
そして、私は努力が嫌いではない。
努力が嫌いではないと言ったが1年も掛かるとは思ってもみなかった。
才能が乏しい子供でも3ヶ月もあればチャクラを練れるようになる。
もっともコントロールできるかどうかは別なのだが……それはともかく私はここ最近やっとチャクラを練れるようになった。
半年を過ぎたあたりで母さん達が「無理をして忍を目指さなくてもいいのよ」と心配して声を掛けてくれた。
しかし、私の心はその程度では折れぬ。
「ハヤテ……」
「はいはい、どうした夕顔……って駄目でしょ!壁に立っちゃ!」
1歳の夕顔が誰にも習わず、普通にチャクラを使い、それをコントロールして壁に立っている姿には流石に心に罅が入ったと言わざるを得ないが。
「はい……」
しゅん、という声が聞こえて来そうなほど落ち込む姿は1歳児には見えない。
この世界の子供が本当に成長が早いと実感する。
「そういうことをする時は大人が近くにいる時じゃないと危ないと言っただろ」
「ごめんなさい……」
謝っている姿も涙目なところも抱きしめたくなるほど可愛いが、こういうことはちゃんと教育しておかないといけない。
1年の間にチャクラが使えなかったが座学はとりあえず修めた。
それで知ったのだが才能がある子供達が壁立ちで遊んでいてうっかりチャクラを切らせ、落ちて死亡という事故は年に1件も無いが2年に1件ぐらいはあるというデータがあった。
そして夕顔は『才能ある子供達』の1人に数えられるわけだ。
さすが卯月家、さすが夕顔。