第五話
夕顔が刀を使いたがっていたので私も一緒に剣術を習うことになった。
もちろん木刀を使った訓練である一定の安全は保証されている。
もっとも私が訴えたから木刀になったのであって、元々は刃を潰した小太刀を使う予定だったあたり不安を感じる。
夕顔が不満そうな表情をしていたことにも更に不安が募る。あの小太刀……妖刀だったりしないよな。
そして、意外や意外、私には剣術の適性があったようで卯月家の人達が将来を期待する程度には腕がいいらしい……年下の夕顔と良く言ってギリギリ互角、悪く言えば終始負けないように斬り結べるぐらいでしかないのだが、彼女の才能は別格ということだろう。
5回に1度は負けるあたりスペックの違いを思い知らされる。
しかもこれ、お互いチャクラ無しでなんだ。つまり素の筋力が上回っている現状でこの結果ということだ。
チャクラ使用許可が出た途端に太刀打ちできなくなるのは間違いない。
チャクラ容量自体は夕顔とそれほど変わらないがチャクラを練る速度とチャクラ出力量では圧倒的に負けているのが現状だからな。
チャクラ容量とは身体エネルギーと精神エネルギーからチャクラを練って留めておける量、そして出力量は1回に使えるチャクラの量を言う。
私の解釈では、身体エネルギーや精神エネルギーが野菜、チャクラを練るのはミキサーで野菜ジュースを作ること、チャクラ容量はコップ、チャクラ出力量はどれだけ飲めるかという感じだ。
身体エネルギーや精神エネルギーは特別な血統でもない限りそれほど差はないが、チャクラ容量は努力も多少影響するが基本的には生まれ持った才能、練る速度や出力量は技術にあたる。
この中で唯一私が夕顔と奇跡的に五分なのがチャクラ容量だったりする。
ここだけが本当に唯一私が私自身に感謝している部分だ。
もっともスタート直後では五分のチャクラ量だとしても練る速度が違うからチャクラの回復速度が違うし出力量が違うから身体に纏うチャクラ量も術の規模も違う。
チャクラを身体に纏う量では機動力は亀からチーターへ、力は人間の赤ちゃんからゴリラほどの差が生まれ、術の規模はマッチの火から火炎放射器に変わる。
ちなみに前者が私で後者は……言わなくてもわかるだろう。
チャクラ解禁と共に忍術が解禁されれば分身の術が使えるようになるが、彼女に通じるかは自信がない。
そもそも彼女が忍術を覚えていないというのは妄想でしか許されない楽観である……まぁ彼女は敵ではないのだから成長は嬉しいんだけど。
そうそう、私も一応分身の術はほぼ完璧という出来となった。
これだけは大人も顔負けという才能を持っていた……目立った才能があって嬉しいが分身の術は使える術ではあるが使い方が難しい術でもあり、ちょっと微妙な気分になる。
使いこなせれば上忍でも騙せるがそれは使いこなせてこそで術の完成度が高くても意味は薄い。
もう少し手札が欲しいが……あれもこれもと手を出すと器用貧乏になりそうだ。
いや、器用貧乏こそ目指すべきところという可能性もあるか、なにせ才能にはあまり恵まれていない。よく努力こそ才能だということを言うが本当に才能がないなら努力しても大成しない。
善は急げと刀以外にも槍やトンファー、三節棍、ヌンチャク、弓など様々な武器を試そうとした。しかし最大の強敵が現れた。
「……」
それを知った夕顔が頬を膨らませて拗ねている。
お揃いの武器を替えられるのが嫌なんだろう。いくら話せるようになるのが早くてもこういうところは子供なんだなと改めて認識させられる。
こんな子供に人殺しの術(すべ)を教えているこの世界は野蛮な世界だと思うが、この感覚は異端だ。忘れなければいけない。
「……」
そんなくだらないことを考えるより目の前のお姫様のご機嫌取りを考えないといけない。
……いや、刀から離れることをやめればいいのか、幸い夕顔とギリギリとはいえ互角に渡り合えるのだから才能はあるはずなのだからこれを伸ばすことは悪くはない。
「というわけで一緒にやろうか」
「ん!」
先程まで拗ねていたのは何処へやら、一転して嬉しそうに(最近知ったが卯月家と私ぐらいしかわからないようだ)木刀を持って庭へ出る。
さて、また痣だらけになりますか。
知らない間に第二次忍界大戦が終結した。
ただし、大きい国&里同士の戦いは終わったが小さい国&里を通しての代理戦争は続いている。
勢力が小さい国や里がメインとなったため大戦中から比べると小競り合い程度に落ち着いているという話だ。
私の両親、夕顔の両親が生きている内に終わってよかった。
ただ、残念ながら卯月さんの一族まで枠を広げると15人ほど亡くなっている。
その都度葬式に参加したから把握できている。その中で知り合い以上の人が5人いた。
覚悟は決めているつもりだがやはり知り合いが死ぬのは辛い。そして何より、これが両親や卯月さん達、そして何より夕顔だったらと思うと憂鬱な気分に陥る。
再びやる気が漲ってきた!と思っていたもうすぐ4歳になる頃に事件が起こった。いや、事件というかサプライズか?
実は来年の春から忍者学校に通うことになったのだ。
まだ若干騒がしいながらも平和が訪れた(?)ある日の夕食の時、父さんが突然——
「ハヤテ、忍になりたいという気持ちは今でも変わりないか」
と聞かれたから素直に——
「忍になりたいわけじゃない。自分と夕顔が守れるぐらい強くなりたい」
と答えた。
あくまでこの世界の強さの象徴が忍だから忍を目指しただけで、忍になりたいわけではない。
ないとは思うが夕顔が里を抜けたい、忍を辞めたいと言うなら全力でサポートするつもりだ。
いや、むしろ里に所属すると死と隣りあわせの生活が待っているのでなりたくない方が強いかもしれない。
「……(判断に困る回答だな)」
父さんはなにやら迷っている。
もしかして私が忍になることを目指していると勘違いしてたのか?まぁ、両親が忍で憧れるのが普通の子供か。
あいにく私は違うがな。
しかし、問題は夕顔は十中八九忍になるだろうから私もならないと守れないからなりたいといえばなりたいのか?あくまで結果的に、だけど。
私が訝しげにしているのを気づいた父さんは説明を始める。
「いやな。お前が忍になりたいなら忍者学校に入れようと思ってな」
「……忍者学校は数え年で3歳から入学できたような?」
入学なら今年の始めにできたはずだ。
「そこは察しなさい」
「?」
え、なに、何か見落としがあるか?もしかして私の自己鍛錬でどこまで伸びるか様子を見ていた、とか?それで思った以上に伸びなかったから教育機関に通わせようと……うん、あり得る話だ。
……うわぁ、凹む。才能がある方じゃないのはわかってたけど親からも見放されるとは……いや、見放されたんじゃないのはわかる。伸び悩んでいる子供に習い事を進めるのは当然だ。
しかし——
「ハァ、その表情だとわかってないようね。いつもは察しが良いのに偶に抜けてるわね」
母さんが呆れたようにもう一度溜息をつく。
違うのか?しかし他に思い当たる節がないぞ。
うーん。
「おい、私はあまり構ってやれなかったが、こいつはいつもこうなのか?」
「さっきも言ったけどいつもならわかると思うんだけど……」
え、そこまで言われることなのか?!
もう後5時間ください。
「そんなに待てん。卯月さんのところの娘さんのことだ」
「……?……あっ、もしかして夕顔と一緒に登校するため?!」
2人は、やっとわかったかとでも言いたげな表情をしている。というか手前の会話で言っているも同然だ。
「もしかして入学を遅らせたのは卯月さんからの提案?」
私以外の月光家からこんな話をするわけがない。となると卯月家から持ち込まれた話だろうというのは想像がつくが一応確認しておく。
万が一にもこちらから持ちかけた話なら後でお礼しておかなければいけない。
「ええ、夕顔さんの護衛もお願いしたいそうよ」
案の定そうだったからいいが……親ばかここに極めり。
護衛対象より弱い護衛ってどうなんだ。
「夕顔さんに近寄ってくる虫達を駆除してこい、だと」
そっちの護衛だったのか……親ばかじゃなくてばか親でしたか。
私より強い虫とか出てきたら大変そうだ。
なんとか勝てるように鍛えないと。
「名のある一族の子供達はある程度一族内で教育を施してから忍者学校に通わせる。一族の力を見くびられないためにな」
子供の頃から一族の名を背負わされるなんて大変だな。
そうか、だからこそ私が護衛するのか。しかし3歳の子供を狙う子供なんているか?この世界は血統が大事なのはわかるがさすがに気が早いのでは。
ああ、でも初恋などが実る可能性もあるのか……よし、全力で護衛しようじゃないか。
「今回はいつもは言わない夕顔さんの我儘だからとハヤテと一緒に忍者学校に通えることになったのよ。男なら夕顔さんを守りなさい」
「言われるまでもなく守るよ」
物理的距離が離れているならともかく、近くにいるなら守ってみせるさ。命を掛けてでも。
そんなこと言ったら夕顔が悲しむだろうけど、そこは自分勝手な男と割りきってもらう。
そうか、夕顔の我儘……遊んで欲しいなどの要望は言うがあまり意見を無理やり通そうとはしない彼女が我儘を……卯月さん達が我儘と言うことはそれなりに無理を通したんだろう。
私と共に行動するために……うん、後悔ないように頑張ろう。本当に。
「それと卯月の当主様から伝言があるけど、聞く?」
「結構です」
どうせ、娘に手を出したら死ぬより酷い目に遭わすとかそんな感じだろう。
「なんでこの察しの良さが続かないのかしらね」
いや、ばか親の考えそうなことぐらいすぐわかりますって。
ということで、私と夕顔は忍者学校に通うことになる。
できれば恥をかきたくないからそれまでに変化の術を修得しておきたい、と思うのは自分の才能から考えて贅沢だろうか?