第七話
「長い戦争の時代は一息とついたとはいえまだまだ平和とは言いづらい状況にある。しかし皆が笑顔でいられる里を目指すべく健やかに友とともに学び、励み、競って欲しい」
今、忍者学校の入学式が行われている。
そして話しているのが3代目火影である猿飛ヒルゼンだ。
話している内容が3〜5歳の子供に聞かせるにはちょっと物騒すぎやしないか?と思うが、この世界の子供自体が割りと物騒だから問題ない……のか?
総勢150人の同級生となる子供が並ぶが年齢はバラバラ、かく言う私も4歳、今年で5歳だが、隣りにいる夕顔は今年で3歳、早生まれということでもない。
そもそも忍者学校自体が義務教育というわけでもないからこうなって当然だが。
それにしても……やはりこの世界は現代と違って血筋や人脈などの力がモロに出るな。
私と夕顔が同じクラスであることもだが、名門の猪鹿蝶や日向本家分家などのように繋がりがある家同士、同じクラスに放り込まれている。おそらく班も同じことになるだろう。
こんな教育していると偏った思考になってしまいそうだが大丈夫だろうか?まぁ特殊な忍術を掛け合わせて使ったりすることもあるから子供の内から連携強化をして戦力として充実させようというのもわからなくはない。
……にしても静かだな。子供がこれだけ集まれば騒がしくなりそうなものだが……やはり戦争というのは子供の発育にも影響を及ぼすのか?
ハァ、本当は夕顔に人殺しなんてさせたくない……ないんだが本人も周りも許さない。
ここで私が強ければ代わりに〜……なんていうエゴの押し付けができるかもしれないが、残念ながら夕顔本人に負けてしまうありさまだからどうにもできない。
「ん?」
この可愛い夕顔に人殺しなんてさせたくない。大事なことなので二回以下略。
「……話長い」
「偉い人の話が長いというのはお約束というやつだ」
「……父様の話も長い」
何やら納得しているようだ。
卯月さんの旦那さんも話が長いらしい……ちなみに今は父様と呼んでいるが、まだ怒っているらしく昼顔と呼び捨てられている……と、本人がよく私に愚痴りに……八つ当たり?に来ている。
「とっ、危ない」
「?」
私と夕顔に小石が飛んできたので弾く。
一体誰が?と見ると……先生と思しき人がこちらを睨んでいる。
ああ、おしゃべりへの注意か、やはり忍の先生だな。なかなかに暴力的な注意だ。
そして私達だけのせいではない、と視線で訴えてみると問答無用と睨み返された……ハァ、こちらのことを少しも理解しないなんて柔軟性のかけらもない先生だな。あんな担任は遠慮願いたい……あ、なんかフラグ立てた気がする。
どうしようか、そろそろ火影様に反旗を翻すべきか、と悩んでいたら話が終了したから反乱計画は水に流しておく。
「続いて貴方達の先生を紹介します」
まだ話が続くのか、反乱計画をサルベージすべきかもしれない。
まぁ教師の名前ぐらい覚えておいたほうが良いだろうと思い、暗記していたんだが……さっき石を投げてきた教師の名前が薬座ツメルというあたり嫌な予感しかしない。忍なのかヤ○ザなのかはっきりしろ。
それらが終わってやっと教室入りする。
席決め、教科書の配布、学校の規則の説明などなどがされた。
ちなみに私達の担任は……薬座ツメルじゃなかった。さすがにフラグなんてそう簡単には立たないか。
「それにしても……これ、本物か?」
配布された教科書の中身を確認してみたんだが、ほとんどが現代小学生レベルなのは文明レベルの差から考えると驚嘆に値するとしても……なんで忍術は変化と分身と変わり身だけ?
どこかに暗号で隠されてたり特殊な方法でしか見られないのか?
どう思う?と夕顔に振っていると——
「他の里に盗まれるから載せない?」
「なるほど、さすが夕顔」
とりあえず頭を撫でておく。あいにくナデポなどというものはないが喜んでくれているようで何よりだ。
しかし、そうか……現代では知識の価値は随分低下していたから気にしてなかったが教科書に軍事機密を載せるわけにはいかないか。
こちらの世界に随分染まっているつもりだったがまだまだなんだと実感できた。
これはひょっとすると思わぬところで穴がある可能性が高いな。気をつけないと自分だけならともかく夕顔にまで及んでしまう。それだけは避けねば。
「……それにしても」
おっと口に出すところだった。
いくら周りが子供ばかりとはいえ、いや、子供だからこそ——
「皆弱い」
まさかの夕顔さんがカミングアウト。
そして教室の空気が凍る。
ああ、どうやら少し夕顔の教育を間違えたようだ。
同じことを思っていたがそこは言っちゃダメでしょ。
この教室にいる子供達のほとんどは私以下、エリート出身っぽい3人組と4人組の子供ですら才能自体は私以上なのを感じるが今の実力は若干私の方が上という程度で夕顔に大きく劣る。
もしや夕顔が凄いだけで私も才能がある部類に入るのだろうか?……いや、こういうことを考えていると間違いなく慢心する。忘れよう。
それよりこの場をどうにか——
「おい、そこの女!今、皆弱いって言ったか?まさか俺達まで入れてじゃないだろうな!」
しまった。気を逸した。
エリート出身者っぽい3人組のリーダー格っぽいやつが売った喧嘩を買ってしまった。
ん?3人とも団扇の家紋が入ってるな……確か……あ、うちは一族か?!うわ、卯月家よりエリートに喧嘩売ってしまったらしい。
木の葉の里で創設に大きく貢献した一族で写輪眼という邪気眼持ちだ。そしておそらくナルトのライバル的な立場のルルーシュっぽい人はこの一族出身のはず。
創設に貢献したというだけあって優秀な一族で写輪眼に覚醒したなら下忍であっても中忍以上の実力を発揮するそうだ。
まさかとは思うがこの年齢で写輪眼に覚醒はしていないと思いたい。
万が一覚醒しているなら私では抑えきれないだろう。
そうでないなら2対3でも十分勝てるが……まぁ喧嘩をするつもりはない。
「すみません。夕顔は少し世間知らずなところがあるので——」
「俺が話があるのはそいつだ!」
いきなり暴力はいけないと思います。もちろん暴言もいけないけどな。
それなりに鍛えているのだろうがまだまだ甘い拳を反射的に躱してしまった。
あ、ここで殴られてれば誘導によっては穏便に解決へ……あ、駄目だ。後ろから感じる怒気から考えて殴られてたら間違いなく大喧嘩スタートだったな。
「お前っ!」
どうやら私が攻撃を躱したことにご不満なご様子、いや、殴られたら躱すだろ。
しかし、今の攻撃でわかったがこいつらは写輪眼に覚醒していない。
写輪眼は忍術から体術まで盗み取ることができると聞いている。つまり写輪眼が使えてこの程度の技量しかないということはありえない。
「こら、貴方達!何しているの!席につきなさい」
ちょうどいいタイミングで先生がやってきたようだ。
これでなんとかこの場は凌げそうだが……しかし、謝るタイミングを逸したため私達の好感度はマイナススタート確定だな。
入学式であるため、軽く自己紹介する程度で早々に解散ということになった。
そして私は今——
「夕顔、なんであんなこと言ったんだ?いつもはあんなこと言わないだろ」
そう、夕顔は基本的に無口だから必要ないことはあまり口にしない。
甘えている時などは口数が多くなるが、それでも普通の人よりも喋らない。なのになんであの場であんなことを?
「……ハヤテ、弱いこと悩んでる」
「っ?!」
まさか、皆弱いというのは……私が自分自身の弱さに思い悩んでいることを察して言ったのか?!
……くっ、迂闊だった。子供は周りの人間の表情を大人以上によく見ている。
それは弱い自分を守ってもらうための生存本能でもある。だからよく泣きよく笑う。
「ごめんなさい」
ハァ……私のせいとなると私が怒ることができない。
それに反省していることは見てわかるからこれ以上私が責めるのは酷だろう。
卯月さんあたりに伝えてサラッと釘を差してもらおう。
多分大丈夫だとは思うが、あまり私が親代わりをし過ぎて卯月夫婦に疎ましく思われるとやりづらい。……今更な気もするがこういう気配りが大事なのだ。
「明日、どうにかしないとな」
「大丈夫」
お、夕顔が自信ありげにしている。何か策があるのか。
「ハヤテ以外はおまけ」
……これはすっかり消えてしまったお笑い芸人のネタを持ちだして、ほれてまうやろ〜と叫べと言うのか、それとも私をキュン死させる気か、それともこやつめハハハとでも言っておくか。
「……明日、皆に謝るように」
「わかった」
本当にわかってるのかちょっと不安だ。
もしかしたら私が近くに居過ぎることが問題なのかもしれない。
もう少し距離を——
クイクイッと服の袖が引っ張られるのでそちらを向くと、夕顔がもちろんいるわけだが……めっちゃ泣きそうな……否、今涙が流れた。
まさか悟られたか?全く困ったものだ。私がサトラレなのか、夕顔がサトリなのか、どっちなんだろう。
とりあえず抱きしめておく。
可愛いのは今のうちだけだろうからいいか、そのうち一緒に服洗わないで!とか言い出すだろう……まぁ、今も一緒に洗ってるわけではないが。
ただ、風呂はたまに一緒に入るけどな。
「あ」
「……貴様、何をしている」
なんでこのタイミングで現れるかな、卯月さんの旦那さん。
抱きしめている夕顔がビクッと震えて、ゆっくりとそちらを向く……涙がまだ完全に止まっていない状態で。
……これは、死んだかもしれん。
「君とは良い付き合いをしていたと思っている」
いや、それならあの殺意ある護衛訓練はどうなんでしょう。
「だから……遺書を作る時間と夕顔に一言だけ許してやろう」
あ、殺すのは確定なんですね。
「えーっと、夕顔……逃げるぞ!分身の術!」
「ちぃ、せっかく猶予をやったのにこの所業!許すまじ」