第八話
分身の術が逃走用の囮として有効であることが立証された。
まぁ、命の危険と代償に立証したくはなかったが。
旦那さんが容赦なく、私の分身体の首を切り落としているのを目の当たりにすると冷や汗が止まらない。
なんとか夕顔を盾にして凌いで救援が来るまで耐えきった。
……守る対象を盾にして良いのかって?相手の弱点とわかっていればその限りではない。
と言うか、夕顔が必死になって守ってくれてなかったら私は死んでいたかもしれん。
まぁ、その必死さが余計に旦那さんの怒りの火に油を注いだ結果になって攻撃が苛烈になったんだけどな。
「ハヤテ、分身、上手」
「なぜか分身系とは相性がいいからな」
上忍である旦那さんに分身が通用したということは大体の忍には通用するだろう。
これが初めて使える私の手札ということになる。
攻撃的な術ではないが、生き残るためには使えるはずだ。
「私も頑張る」
……それ以上頑張られると私の立つ瀬がないのだが、私より強い者などいくらでもいる現状では夕顔が強くなる方が効率的だろう。
「でも影分身難しい」
そう、私があれだけあっさり修得した影分身の術を夕顔に教え、更なるパワーアップをしてもらおうと思っていたのだが、まさかの大苦戦。
本当にまさかだ。どうやら影分身の術は高等忍術だったようで夕顔は練習をする度にチャクラが尽きて気を失い、その度に私のライフポイントをガリガリ削るはめになっている。
何度となく止めようとしたのだが夕顔は頑として譲らず、燃えに燃えているのでせめて私の目の届く範囲で修行するように厳しく言いつけている。
なぜこれほど影分身の術が難しいのか考察してみたが、どうやら印というのは術の構築に必要なだけではなく、チャクラを増幅とチャクラコントロールのサポートがされているようなのだ。
だから高等忍術になればなるほど印が増え、チャクラの消費量も総じて少なくなる。上忍は消費量が少ない高等忍術に更にチャクラを注ぎ込むことであの災害としか言えないような術が具現化される。
それに比べて影分身の術は極端に印が少ない。つまりチャクラの増幅がほとんどないことがわかった。
そして影分身の術には影分身を維持するためにチャクラを多く注ぐ必要がある。そのチャクラを注ぐ段階でチャクラコントロールを完全手動で行うため難しい。
特に最後が難しく、夕顔が苦戦しているのも最後のチャクラコントロールだ。
「ん?つまり複雑な印を組んで影分身の術を使えばもっと簡単になるということか」
「術の開発……むずい」
夕顔はどちらかというと肉体派であるから難しだろう。対して私はどちらかと言うと頭脳派……自分で言うと嫌味過ぎるな……であるため術の開発は最近惹かれるところがある。
実際分身の術の私なりにアレンジして開発中だ。
ただし、影分身の術は印が単純過ぎて手を加えるのが難しいため、開発……いや、改造には随分時間が掛かるだろう。
「でも頑張る」
ムンッ!と腕を折り曲げて力こぶを作る。
……今のうちに影分身で少しでも修行しておこう。
ちなみ私は3体の影分身を作り出せるが経験の蓄積はできるが筋トレなどのように身体に影響を与えるものは反映されないため、使っているのは術の練習をさせている1体のみだ。
影分身が1体なのは術の練習をさせる場合はチャクラを消費するから個体を増やすと経験効率は向上するが燃費は最悪になる。だから日中は基本的に1体で訓練して、寝る前には3体同時という形にしている。
身体エネルギーも精神エネルギーも寝れば早く回復するからな。それにチャクラ容量もほんの少しずつ成長するし……まぁ誤差範囲だが。
ついでに言うと一般的にチャクラの量と表現されるのはチャクラ容量+チャクラを練る速度と量を指す。
どうもチャクラを練る速度と量が増えると使える量が増えるから勘違いしているようだ。
チャクラ容量に貯まっているチャクラを使い切って練っているチャクラを使い続けるとかなり疲労して、結果的には寿命を縮めるっぽいので要注意だ。
夕顔が影分身の術で気絶するのは一気に貯まっているチャクラを使い切るからで、寿命を縮める心配はない。
戦死ではない忍の平均寿命が下忍では70代と高齢なため、おそらく貯まっているチャクラを消費しても寿命に影響はないはずだ。
「その前に頑張ることがあるだろ」
「うん」
今日は昨日の夕顔の暴言を謝る予定だ。
さっきまでのやる気が何処へやら、憂鬱そうだな。
「あの3人に謝るの、や」
気持ちはわからなくはない。
何人かのうちは一族に会ったことがあるからわかるが、うちは一族はどうも自分達の血に酔っているところがあるように思える。
才能もあるし、性格も特別悪いわけではない……が中世貴族のようなイメージが離れない。
他の家を何処か見下したようなところがある。全員が全員というわけではもちろんないし、この戦乱に特別な力を持つというのはそれだけで影響力と権限を持つことでもあるから間違ってはいない。
しかし、理解できても納得出来ないことがあるのが人間だ。
「それでも謝るんだ」
「むぅ」
私なら早々に謝って解決を計る。それが大人の対応、いや、日本の大人の対応だからだ。
自分が間違っていなくてもとりあえず謝る。これが手早い問題解決だから。
しかし、子供には納得出来ないだろう。それにこの世界の大人の考え方とも違うだろう。
それでも不承不承頷いてくれた夕顔はやはり他の子とはレベルが違う。(バカ親)
自分達のクラスにつき、こちらに視線が集まる。
「昨日は失礼なことを言ってごめんなさい」
そう言って頭を下げる夕顔に続いて、護衛兼付き人みたいな立ち位置の私も頭を下げておく。
そしてクラスの殆どの者から許す旨の返事が返って来たので安心する。
まぁそのほとんどから外れているのがうちは3人衆なんだが。
これはもう1度波乱があるかもしれない。
波乱があるかとも思っていたがそれもなく、2ヶ月が過ぎた。
一般の授業は本当に退屈だ。
小学生の授業を今更受けてもなんら学習することはないのだから仕方ない。
基本窓の外を眺めていたら先生の注意も兼ねての指名が入るが間髪入れずに回答し続けたらとうとう指名されることがなくなって更に暇になった。
唯一苦戦するとしたら忍流サバイバル術の時だ。
食べれる野草や薬草などはさすがに知識にはなかったので勉強したが、他の勉強をする必要がないのでその時間に勉強して十分な知識を得れた。後は実際の野草などの見極めぐらいだ。
そしてとうとう我慢しきれず、夕顔にも内緒で影分身を置いて私は自主的に修行をすることにした。
遊ぶ時間を全て修行に回してやっと夕顔の次の実力である。
うちは3人衆のようなエリート一族が本気で努力し始めるとアッという間に抜かれるだろう。実際最近のうちは3人衆は家で修行でもしているのかメキメキと実力を伸ばしているのがわかる。
噂では私に暴力を振るったことを親に叱られ、罰として鍛えられているそうだ。
「実力をつけてからお礼参りなんて勘弁だぞ」
実は影分身での修行は時間効率で考えると効率がいいように思えるが、チャクラの効率で考えるとかなり悪い。
影分身がチャクラを使うとただ消費されていくが本体はチャクラを使っても回復する。その代わり本体はチャクラを使わずに満タンまで貯めるとただ溢れて消えていくのだ。
ただ消えていくだけなら使った方がエコというもの……ん?待てよ?これって視点を変えると影分身という外部にチャクラを貯めておけるということにならないか?
チャクラが貯まる、影分身を作る、チャクラを貯める、貯めて影分身を作るという手順にすれば後はチャクラが減った時に影分身を解除すれば本体に還元されてチャクラが貯まる。
いや、普通に生活していても影分身はチャクラを消費するか……それをなんとかすればもしかすると私なりの切り札となるかもしれない。
影分身、奥が深いな。
「よし、早速開発だ」
「頑張る」
「夕顔はその前に勉強を………………あれぇ?なんでここに夕顔が?」
まだ学校は終わってませんよ?
「ハヤテが影分身だったから」
まさか見破られるとは思わなかった。
「先生は……」
「気づいてなかった」
先生が気づかないのに夕顔は気づくのか。
「それで夕顔は……」
「初めて影分身の術成功」
Vサインを高らかに私に見せる。
まさかここで初めての成功だと?!
「多分奇跡、まだ確実には無理」
なんだ、そのご都合的な奇跡は?!
ハァ、仕方ないか。
「今日だけだぞ。もし万が一旦那さん達にバレたら私が殺されるからな」
「大丈夫、私がなんとかする」
本当にどうにかしそうなほど真剣に言っている。
ブラコンここに極めり……ひょっとするとファザコンの可能性もあるか?私に甘えてくる姿は娘のようで可愛いからな。
「……」
なんかジト目で見られている。
なんでだろう?