第九話
更にもう1ヶ月過ぎた。
夕顔の影分身の術は本人の言っていた通り本当に奇跡的な成功だったようであれから成功していない。
そのため、この1ヶ月間近所にある森で1人訓練している……その度に夕顔に抗議されるがそこは我慢してもらう。
……恐ろしいことにそれだけズルをしても夕顔との差は縮まらない。なんとか差が広がらないようにするだけで精一杯だ。
そんな私は影分身2体に術の改造と開発を、本体は手裏剣と苦無の投擲練習に励んでいる。
影分身の1番正しい使い方は知識の蓄積だと思う。
体力もチャクラを消費するようで体術や忍術の練習をさせると還元されるチャクラが減ることに繋がる。
逆に言えばあまり体力を消耗させず、チャクラを使わなければ長時間持つということだ。つまり勉学に励む分には還元された時に結構酷い肩こりと腰こりと眼精疲労ぐらいだ……手裏剣と苦無の投擲練習を足すと致命的なことになるような気もするが気のせいだ。
特に酷かったのは眼精疲労だがタオルをお湯で濡らして目に当てるだけでもかなり違うというのを最近知った。そういえばそんなアイマスクが売ってたな。何にしても教えてくれた母さんに感謝だ。
術の開発、改造の成果は……実はわからない。
いくつか小手先の変化程度だが完成したつもりだ。しかし術を実行するとなるとリスクが高い、影分身にやらせて回避するにしても次の問題……私に扱える術じゃなくなっていたのだ。
小手先の変化のくせに難易度が上がりすぎていて効率が悪い。やはり素人の付け焼き刃なんだなと理解した。
だからと言って諦めたらそこで試合は終了と偉い人が言っていたから地道に続けるつもりだ。
投擲訓練は成果がわかりやすいからいい。
的に当たる平均値が安定すれば腕が上がった、不安定ならまだまだ修行が足りないということ。
今はまだ的当ての段階で動く目標に当てれない。ウサギや鳥は忍並に察知能力があるんだと認識している今日このごろだ。……生き物を殺すぐらいの経験はしておきたいんだが。
ちなみに夕顔と比べると動かない的に当てるのは私が、動く的は夕顔が上手い……うん、またなんだ。また夕顔に置いて行かれるんだ。
このままでは嫉妬日記になってしまいそうだ……日記ってなんぞ?
そういえばこの前、修行場を探していると下忍か忍者学校の生徒ぐらいの子供を見かけたんだが……うちはの家紋が目に入って早々に逃げ出そうとした。
しかし次の瞬間、何かの術で炎が舞った時にはびっくりしたもんだ。
森の中で火遁の練習するなよ!とツッコミたかった。
それを見て思ったことがある。
「やっぱり自分の属性を知るべきだよな」
小遣いを貯めて初めて買ったのがチャクラ紙と母さん達が知ったらなんて思うか……内緒にしておこう。
さて、早速チャクラを流し込んでみた……んだが……
「なんじゃこりゃ?」
チャクラ紙、それは自分の属性に反応するようにできている。
火属性なら燃え、水ならずぶ濡れになどといった現象が起こる。
しかし私のそれは——
「なんでチャクラ紙が増えている?」
チャクラ紙にチャクラを流すと、手にした感触に違和感が生まれた。それはそうだろう。紙が2枚になっていれば。
「これって何属性なんだ。普通に考えれば——」
影分身か。
確かに初めて影分身の術を試していきなり成功した。あの、あの天才とも言える夕顔が未だに1度しか成功していない術を、だ。
それに影分身や分身とその本体の識別できることも納得できるといえば納得ができるが……攻撃手段が限られるのでは?と思ったが、父さんからもらった本にチャクラ紙は得意な属性がわかるだけで使えないわけではない、と書いてあったな。
とりあえず……このことは誰にも内緒にしておこう。夕顔に聞かれたなら答えるが、聞かれるまでは黙っておくことにする。
この世界は忍術による科学、医学が発展している。噂では人の記憶を覗き見ることができるほどらしい。
となればマッドサイエンティスト的な存在がいても不思議はない。その類に知られるようなことがあれば解剖や実験台にされる可能性は否定出来ない。
最悪は死……ではなく、生きた状態で無限地獄などということになりかねない。そしてその影響は夕顔にまで及ぶこともありえる。なにせ忍の世界なのだから。
「しかし……強くなろうとして悩みが増えるとは思いもしなかった」
こうなると影分身の術のバリエーションを増やすべきかもしれない。
「本体、旦那さんが使っていた手裏剣影分身の術なんていいのでは」
おお、なるほど……って、こういうこともあるんだな。
本体が閃かないことを影分身が閃くなんて……いや、閃くというより多角的に思考できるということか?
何にしても便利なのは間違いない。
印は確か……うん、覚えている。
「手裏剣影分身の術!」
声で術名を叫ぶのはお決まり……一応仲間への誤射防止やチャクラの消費量微量軽減などの意味もある。
そして術の結果は……見事に成功した。
手裏剣が50ほどに分身して1面手裏剣だらけになった。
初めての術成功でこれなら十分のはずだ。
大体は成功しないか成功しても小規模になることが多いと教科書に書かれていた。
今目の前にある成果は旦那さんが使用した時より数が多い。
「これは今の段階でも使えるな……後は威力をどうにかできればなお良い」
問題は自分の投擲技術では威力に欠けていること、夕顔級の才能があればおそらく全て弾かれるということ。
だが、それは修行すればもっと数が増えるだろうし、威力も向上するはず……夕顔に当たるイメージは欠片も浮かばないあたり親ばかなのか、それとも夕顔の才能の高さ故か。
手裏剣影分身の術は影分身の術よりチャクラの消費量が少ない。この程度の消費量なら影分身を戦力化する際に使うことができる。
「問題は他の術が見当がつかないことか」
影分身を利用した術なんて私が手に入る書物類にはそう多くない。
おそらく影分身自体高等忍術だからなんだろうが、非常に困る。
そもそも影分身を使った術というのはあまりイメージが湧かないのも問題だ。
「私が死んでも変わりはいるもの」
影分身の1体がボソッとつぶやく、またくだらないことを……いや待てよ。替えが利く戦力で1番怖い戦術は——
「自爆か」
頭に過ぎったのは巨大ロボットが爆弾を抱えて特攻する姿だった。
「本体が外道だ」
「鬼畜だ」
「「我々に人権を!」」
影分身に人権はない。
教科書に起爆札なるものがあったな。
使い勝手良く、安くて、効率がいいと忍が多用する忍具の1つ。
これを影分身に仕込めば戦術が広がる。
もっとも剣術だけは夕顔に置いていかれない程度には成長しているから接近戦ではそれほど困った事態にならないと思うが……世の中、上には上がいることから念には念を入れておくべきだろう。
「「デモも辞さない所存」」
「夕顔を守るためだ」
「「ぐっ」」
所詮影分身も私だ。弱点なんて最初からわかっている。
そもそも気分転換のコントだしな。
「本体、真剣に考えるなら術で影分身を自爆させる方法があった方がいい。影分身させた手裏剣を自爆させられるなら弾かれても問題ない」
それなら夕顔級でもダメージを与えられるか、となると他の開発を中断してでもこちらを開発したほうがいいかもしれない。
今開発している術は影分身を変化した状態で生み出す術だ。
影分身に変化の術を使わせればいいだけの話なんだが戦闘中にはその隙が致命傷となることは間違いない。
それに変化の術を戦闘中に使うとよほどの技量がないと荒い変化となり見破られるおそれがある。それなら最初から変化した影分身を生み出せればと思って開発していたのだが……燃費が悪すぎて使い物にならない代物しか出来上がっていない。
やはり要開発と言ったところだろう。
「取った」
「……夕顔、気配を殺して近寄るのは危ないから止めてと言って——」
「影分身でサボるからいけない」
「むぐっ」
それとこれとは話が別というのは簡単だが、そもそも気配を察知できない自分も悪い上に、夕顔に寂しい思いをさせているのも事実……夕顔は影分身を私だとは認めていないため、学校では必要最低限の会話しかしない。
そのため周りから喧嘩しているという認識になっているようだ。下校の時は影分身を放って早々にここにやってくるから信憑性が高まっている。
ちなみにこれを1番に喜んだのは旦那さんだったりするんだが……最近夕顔よく冷たい視線を向けるがその温度が更に下がった。父親としての観点ではわからなくもないがほどほどに。
「……これ凄いね」
夕顔が指差したのは先ほど使ってみた手裏剣影分身の術の跡だ。
「父様が使った術?」
そういえばあの時は夕顔に助けてもらったんだ。わかっても自然なことか。
「ハヤテズルい」
「ごめんなさい」
私からするとその才能の方がズルいんだが言わぬが花だろう。