第十話
手裏剣影分身の術が何処まで通じるか夕顔でテストすることになった……『なった』のであって『したかった』わけではない。
どうやら新しく覚えた手裏剣影分身の術を実感したかったのだ……夕顔が。
私が夕顔に新術を試そうなんて思うわけない。
この術は手裏剣をただ増やすだけというわかりやすい術の部類ではあるから危険性が少ないことはわかっているがまだまだ未熟な私がそのような無謀を推奨するわけがない。まぁ相手が夕顔でなければその限りではないような気もするが……。
というわけで断固反対をしたんだ。したんだが……
「駄目?」
夕顔のお願いを断れるなどと甘い考えをしていた私自身をぶん殴りたい。
結局願いを聞き入れることになったわけだが……結論から言うと50の手裏剣、全て弾き返されました。
イメージは同雑誌の刀と言いつつ刀じゃない刀も存在するような刀を持つ死神が出てくる主人公初めて卍解して千本の桜を弾いていた時みたいだ。わかる人にはわかる、わからない人はごめんなさい。
あ、一応木製の手裏剣を使ったぞ。さすがに本物を使うと危ないからな。
「それで感想は?」
「当たらないものが多い」
言われてみれば面攻撃ではあるが、腕がある忍だと必要最低限に当たるものだけを弾けばいいだけか。不意打ちにはいいだろうがこういう風に来るとわかっていれば対処が難しくないと。
「それと、多分弱点ある」
そう告げてもう一回と言われたので言われるがまま手裏剣を投擲して印を組み始めるのと同時に夕顔が移動して本体となる手裏剣を掴み取る。
そして印が組み終わって手裏剣の影分身が空中に具現化される……がその場から動かず、重力にしたがって地面に落ちる。
「なるほど、本体の運動エネルギーがそのまま影分身にも適用されるわけか」
「多分そう」
首を傾げながら肯定する夕顔……多分運動エネルギーの部分が理解できてないな。
まぁ年齢相応といえばそれまでだが……たまに理解する子供がいるあたり侮れない世界なのだ。ここは。
しかしやはりある程度の格差があると通じない術ということが判明した。
むしろ使い方次第では誰にでも通じる分身の術の方が有能かもしれない。実際本気になれば夕顔を騙すことも難しくない……はずだ。なんか不思議パゥワーで見破られそうではあるけど。
結局は使い方次第という点に変わりはないか。
「いい訓練になる」
どうやらこの術がお気に召したらしい。別にいいんだが……なんか釈然としない。
やはり起爆札あたりを仕込まないといけないのか?
というわけで起爆札を買おうと忍具屋に行ってみたんだけど……まさかの年齢規制で買えませんでしたorz
改めて考えると、現代で言えば、爆弾を小学生が買いに来てるのと同じなんだよな。売ってくれないわけだ。
起爆札はチャクラを少し練れるものなら誰でも使える便利なものであると同時に危険なものとも言える……だからこそ欲しいんだが。
一応変化の術で父さんになって買おうとしてみたんだが……ゲンコツ落とされた。まだまだ未熟なようで簡単に見破られた。
親に知らせが行かなかっただけでも良しとする……いや、万が一の時を考えて言い訳を考えておこう。
「術式を見せてもらうだけでもいいんだけど……店先に現物はなかったし、さてどうしたものか」
「父様に見せてもらう?」
「その手があったか」
私の両親は過保護の部類に入るため、起爆札のようなあからさまに危険なものは許可が出ない可能性が高い……訓練で忍術使ってくるのに過保護とはこれ如何に。
その点旦那さんは私に対して殺意……ゴホン、寛容だから見せるぐらいなら聞き届けてくれるだろう。
そもそも夕顔がこちらの味方である以上旦那さんだけなら勝率100%だ。卯月さんがいるとグッと勝率は下がるけども。
「というわけで見せてください」
早速旦那さんにお願いしてみた。
「だが断る!」
「昼顔っ!」
「よかろう!これだ」
うん、だいたい予想していた通りの流れだったな。
そして渡されたのは起爆札4枚。
研究用に見せて欲しいと頼んだ結果が4枚、なぜ4枚?と思ったが少し調べてわかったのは起爆札にも種類が4つあるということ。
「夕顔、そろそろ前のように父様と呼んで欲しいんだが」
「嫌」
簡単に言うと爆薬となるチャクラが起爆札に貯めておくか使用時に注入するか、起爆するのが時限式か条件式かの違いだ。
チャクラを貯めておく貯蔵タイプは起動するチャクラこそ必要だが爆薬となるチャクラは最初から込められているため戦闘中のチャクラ消費を抑えられる。反面、チャクラを流出を防ぐための術式が書かれていて蓄えられるチャクラが注入タイプに比べる上限が低くなっている。
「そこを何とか」
「ハヤテ虐めるからヤ」
注入タイプは使用前にチャクラを注入しないと時間の経過とともにチャクラが流出してしまうが術式が単純で貯蔵タイプよりも上限が高くできるので威力が高くなる。
「あれは虐めではない。立派な訓練なのだ」
「ダウト。卯月家奥義を使う必要性はない」
「ぐふっ」
起爆の時限式は戦闘時に手榴弾のような使い方をするのに対して条件式は罠と連動させたりして使うことが多い。
それぞれの術式は色々と役に立ちそうだな。
これは良い物を見せてもらった。
ああ、でも影分身達にこの情報を渡すには1回解除してもう1回影分身の術を使う必要があるんだよな。若干面倒だな。
「しかしだな。娘に名前で呼び捨てされると当主としての威厳が——」
「威厳?」
「なぜそこで疑問を抱く?!」
しかも影分身を解除する距離が離れていると経験の還元は支障ないのにチャクラの還元率は落ちるからな。あまり離れている場所で解除するわけにはいかない。もったいないし。
「ところで先程からなんの話を?」
「くだらない戯言を聞いてた」
「たわご——?!」
これは深くツッコまない方がいいな。下手に突けば八つ当たりの矛先が私に向く気がする……いや今更か?実際旦那さんは私に殺意が向けられている。
それをスルーしつついくつか質問してみる。
予想通りというか、前線で使われる殆どは貯蔵タイプの起爆札で注入タイプはあまり使用しないらしい。まぁ前線でチャクラを消費する注入タイプは使い勝手が悪いよな。
時限式と条件式は一長一短で使い分けすることが多いが若干時限式の方が使用者が多いそうだ。
機密の関係で見せてもらえないそうだがもっと強力で時限式、条件式を選べる起爆札もあるそうだ……まぁ機密なら仕方ない。夕顔が頑張って説得してくれたら見れそうだがさすがに犯罪の手伝いをさせるわけにはいかないからな。
「やはりこの小僧、殺しておく方がいいのでは?」
「昼顔」
「」
旦那さんがムンクの叫びになったところでお暇することにした。
……
……
……
「ところで、なんで夕顔はついてきてる?」
「今日はお泊り」
「それはいいが許可はもらった?」
「自主的外泊」
「……おうちに帰りなさい」
「……はい」
今日は珍しく学校に来ている。
それはなぜか……体育の授業で戦闘訓練があるからだ。
別に戦闘訓練に参加したいわけではなく、戦闘訓練で影分身がダメージを受け過ぎると解除されてしまう危険性があるからだ。
もし万が一バレてしまうとサボることができなくなる可能性があるから参加することにした。
それにしても……相変わらず夕顔以外は弱いな。と言うかほとんど成長してなくね?これって本当に忍者学校なのか?普通の小学校の間違いじゃないか。
まぁ戦闘訓練が今からあるんだから本格的に始まるのはこれからということなんだろうけど……不安だ。こんなので殺し合いができるのか……無駄死だけは止めて欲しい。こっちが居た堪れなくなる。
……ああ、でも本当の意味で殺し合いする訓練とかだとそれはそれで嫌だな。あ○みみたいに民間人の虐殺とか仲間と殺し合いが卒業試験だとか……ん?ただの訓練だっけ?
うん、殺伐としてない方がいいかもしれない。もしあず○の展開だと絶対夕顔と戦って……夕顔が手加減して私が殺してしまうという話になってしまいそうだ。
まぁその前に死ぬことになっても2人で里を抜けるだろうけど。
「では対立の印を」
対立の印、胸辺りで人差し指と中指を立てる。
これが対戦する時の礼儀なんだそうだ。
終わりの際には和解の印というのもあるんだって、妙なところで礼儀があるな。忍なのに。
今回は男女別だから敵(夕顔)はいない。
夕顔と戦うなら忍術無しだと3時間は戦わないと決着がつかないからな。私が逃げまわるから時間がかかるだけで強いわけではないぞ。
おい、夕顔、手加減してやれよ。対戦相手が吹き飛んでるぞ。
「俺相手によそ見するとは余裕だなあぁ!」
そう叫んでいるのはうちはスルイ、1番最初に悲しい行き違いで喧嘩をしてしまった相手だ。
実家で特訓をしていたと聞いたが……イマイチ差がわからない。うちはは日向に並んで優良血統のはずなんだが、やはり個人差があるのか?
テレフォンパンチとキック(動作から予測が簡単な攻撃)で多少よそ見してても当たる気がしない。
これでは訓練にもならないから合気道の真似事で相手することにした。
顔を蹴ろうとする足に手で進行方向に力を加えてみると面白いように態勢を崩して立て直せずに尻餅をつく。
思った以上に効果があった。所詮真似事……いや、合気道が相手の力を利用するという理論だけしか知らずにやったことなので真似事とすら言えるかどうかわからないほどだが、なんとなく楽しい。
戦闘では使えないだろうがこれほど実力が離れていると訓練にならないから丁度いいだろう。
「てめぇ!馬鹿にしやがって!」
どういう思考でそうなったか知らないが激おこなのは間違いない。
しかしやることに変わりなく、しばらく合気道もどきで遊んでいると……次第に表情がなくなり、目が胡乱になり……最後には心が折れたようで座り込んでしまった。
これにはちょっと私も困った。先生も慌てて私の勝利を宣言して終了させる……がもう少し早くして欲しかった。
一応和解の印をしようとしたがスルイは走ってどこかに行ってしまった。
なんか面倒なフラグを立てた気がしてならない。