第十二話
里内での武器の使用は制限されているためもちろん武器は使えない。そもそも殺すことが目的ではない。
忍術の使用も制限されているが変化の術や分身の術などは対象となっていないのだが相手は写輪眼となると有効な術は一気に無くなる。
実際私の得意な分身の術は写輪眼の前には無力だ。これは既に立証済みである。
分身の術を陽動に使ったのだが、相手は掛かったフリをして逆に利用して攻撃を仕掛けてきたが、元々写輪眼に分身の術が通じるかのテストだったため対処ができた。
影分身の術に関してはバレたらこれから忍者学校に通わないといけなくなるリスクを考えると使うことはできない。
「すげぇな。その年でそれだけ動けるならスルイが負けるのも納得だ。同学年で敵なしだろ?その天狗の鼻——」
「残念ながら私より強い人はいますよ。しかも割りと身近に」
天狗?まさか私が天狗になれるわけがない。
高い壁は身近に存在する。しかも今現在も改築され続けている。
相手は目を白黒させ、何かに思い至ったのか納得したように頷く。
「ああ、卯月の神童か。お前がそれほど言うなら本当の天才なんだろうな」
うむ、私も異論はない。
夕顔が努力していないとは言わない、言わないが……努力と結果が見合っていない。主に努力の時間が明らかに少なすぎる。
「さて、そろそろ本気で行くぞ」
写輪眼が厄介極まりない。
忍術こそ使わないから威力が半減しているがそれでも十分過ぎる。
そしてわかったことは写輪眼の動体視力は反則級だということ。
こちらの攻撃が全て見切られていることがわかってしまう。
相手は真っ直ぐ走ってきた。それに合わせるように殴ろうとしたのだが……速度を落とさず躱されて逆にスピードの乗った一撃が右脇腹に突き刺さる。
「グハッ」
写輪眼頼りの直線的な動きによるカウンター、写輪眼があってこそできる攻撃か。
威力を殺せず3mほど転がってしまうが倒れている場合ではないので痛みが走る右脇腹を無視して慌てて起き上がる。
上半身を起こしたところで目の前には足が迫ってきていたのでガードしようと腕を上げる——が、見て分かったのだろう。蹴りを途中で止め、私の鳩尾を踏まれる。
息が口から漏れ、力が抜ける。
ちょっと写輪眼さん仕事し過ぎじゃないか、攻撃を躱されるのは良いとしても防御を見切られるのはかなりきつい。
全ての攻撃が確実にダメージとなってしまう。
本来なら影分身や手裏剣影分身の術で弾幕を張ればなんとか……なんて仕方ないことを考えている場合じゃない。
このままだと身動きが取れない。この現状でやれることは限られているな。
力が入らない手を伸ばして私を踏みつけている足を掴……もうとすると離れ、代わりに鋭い蹴りが返ってくる。
手が出ていたことが幸いにガードは間に合った。だが、そのガードすらも意味があるかわからないほどの威力があり、また吹き飛ばされた。
「もう、少し加減してくれても……いいんじゃないですか?年上なん、ですから」
「そういえば訂正を入れるのを忘れてたな。俺が14、5に見えているらしいが8歳だからな」
「…………なんの冗談ですか」
8歳?私と3〜4歳しか違わないと?
「ないな」
「よく言われる」
もしそれが本当だとして8歳の子供が写輪眼を使い、165cm近くも身長があり、これだけ戦えると?……なんだ、天才か。
何が月光の天才だ。うちはの天才が何言ってんだか。
とりあえずあの写輪眼をどうにかしないと訓練にもなりやしな——
「あ」
私の間の抜けた声。
「ぎゅべっ?!」
相手の意味がわからない声。
「刀無くて残念」
木刀を背後から思いっきり叩き込み物騒なことを言う夕顔の表情はまるでゴミクズを見るような目で……そういえば名前聞いてないな……うちはの刺客を眺める。
さすがに天才の気殺は油断している天才では見破れなかったようだ。
これが白眼なら視界に入ったんだろうがな。
それにしてもこれがサスペンスだと確実に殺人になってしまうような場面だな……死んでないよな。
とどめを刺そうと木刀を振り上げる夕顔をなんとか止めて、呼吸と脈を確認する。
ちなみによく医者がやっているような脈の確認は素人ではまずわからないので胸に耳を当てて心臓の音を確認することをおすすめする。私は前世でライフセーバーの資格を取る際に必要だったので修得済みだ。
「……脈は大丈夫か、しかし後頭部を強く叩かれてるんだから病——「埋まる」——院へ……ってコラ」
「だってハヤテ、怪我」
「責任追及はすべきかもしれないけど殺しては駄目」
「……」
私のために怒ってくれるのは嬉しいんだけど、本当に人を殺さないか心配だ。
病院に連れて行こうとしたらうちは一族の人が来た。
今度は40代ぐらいのダンディな人だ。
何か文句を言ってくるかと思ったら謝罪をして帰っていった。
謝罪は仕掛け人達にさせるべきだと思うんだが……それと、謝る時に握り拳が震えているあたり実は怒ってるんじゃないだろうか。
「やっぱり後2、3発入れるべきだった」
「こらこら」
「……うん、間違えてた」
ん?どうした?やけに素直じゃないか。
日頃は素直なのに1度注意しても直らないことはなかなか直らない夕顔にしては珍しいな。
「ハヤテの治療が先だった。反省」
私の腕と右脇腹を順に見て、涙を浮かべられると……さすがに何も言えない。
もう、なんていうか、完璧にブラコンだな。……ばっちこい。私もシスコンになる覚悟はある。(もうシスコンであることに気づいていない)
歩いて身体が揺れる度に腕が、脇腹が悲鳴を上げる。
なんとか夕顔に心配かけまいと声を殺すが、それに気づいているのだろう。声を殺す度に心配そうにされる……全然誤魔化せてないな。
「それにしても止める影分身が邪魔だからって倒すというのはどうなんだ」
「……ハヤテが悪い」
学校の授業中に突然夕顔が嫌な予感がすると言って早退しようとするのを影分身が止めようとしたんだけど……森の中に入った瞬間にやられてしまったようだ。
本気となった夕顔を止められる気がしない……私の心配をしてくれて来てくれたのは嬉しい、嬉しいが影分身への容赦の無さが少々心配だ。
いくら私ではないと言っても普通は躊躇しそうなものなのにそれが一瞬もない。
どうも教育方針が間違っているような気がしてならないが……卯月さん達の教育方針が間違っているのだろう。
「病院まで遠いなぁ」
「狼煙玉使う?」
忘れている人もいるかもしれないから説明すると狼煙玉というのはその名の通り狼煙を上げるものであるが、里内では現代で言うと110番+119番に相当するものだと思ってもらえればいい。
「さすがに大騒ぎになるから避けたいんだが……」
うちは一族と敵対していることが周りに知られると面倒事にしかならないと予想がつく。
何より名門であるうちは一族がお礼参りなんていう事実、認めるのは難しいはずだ。そうなると考えられるのは私から喧嘩を売ったという捏造が1番危険だ。
万が一ではあるが家同士の諍いにまで発展すると大変なことになる……まぁ月光家とうちは一族とは格が違いすぎて相手にならないだろうけど。
母さん達への言い訳も考えないといけないな。こんな怪我を負うことは忍者学校ではほぼありえないから理由を新たに用意しなくてはならない。
「私がやった」
「そんなことが通じるほど世の中あまくないからな。それに私がそれを認めるわけ無いだろ」
そもそも私の両親や卯月さん達は夕顔が私にこれをどの怪我をさせることは想像できないはずだ。かくいう私自身もそんなことは想像できない。訓練で軽くボコられるのはもういい加減なれたけどな。