第十三話
家に帰ったら既にうちは一族がいたという罠。
判別するのにうちは一族は家紋がわかりやすくていいな。前にも後ろにも団扇がついているからすぐにわかる。
私も一緒に話に加えられたが……うちは一族の扱いの難しさを痛感させられた。
まず家に来たうちは一族の人は喧嘩腰に謝ってはいた。
喧嘩腰というのは私が感じた印象からだから語弊があるかもしれないが、とりあえず、謝罪の気持ちだけで来たわけではないことが伝わってきた。
後で両親から聞いたのだが、うちは一族は良く言えば一族の結束が強く、一族全員が親であり兄弟であると言えるぐらい絆が強いらしく、悪く言えば身内贔屓で排他的と問題も多いとも言える。
1人の屈辱は皆の屈辱、1人の怒りは皆の怒りとなるとのこと……もしかして回収していった人が妙に怒っていたのはこれのせいか。
となるとスルイ→写輪眼8才→回収した者や家に来た者と怒りや復讐心が感染していったのか?……嫌な連鎖だな。これは既に病気の域ではないか?と思ったが、なんとこの性質が写輪眼の開眼に関係するというデータがあるらしい驚きだ。
もちろんこの性質は全員が全員というわけではないそうだが……なんという迷惑な切り札だ。戦争がなければ厄介者でしかないな。
しかも写輪眼の開眼をする者ほどその傾向が顕著になるらしいというのだから困る。つまり今回出てきた写輪眼の彼は早くから開眼するほど重症だったわけか。
ただし、本人達も本能と理性が食い違いを起こし、精神的に追いつめられる者もいるとか……本当に写輪眼は白眼の上位なのか?性格に問題があり過ぎてメリットよりデメリットが目立つぞ。
白眼にはそんなデメリットは聞かないが……もしかして知られてないだけで何かあるのだろうか?
「念のためしばらくは真っ直ぐ帰って来なさい」
「お前に何かある分にはお前の責任だ。しかし卯月のご息女に何かあっては嫌だろう?」
と両親からありがたい言葉(と半ば脅し)を頂いたので修行を断念……するわけがない。
この程度の障害……この程度?……で歩みを止めていたら夕顔の背中はあっと言う間に見えなくなるだろう。
そんなことになれば私は彼女と共にいることはできなくなる。足枷となってしまう。
対策として訓練場所を変え、戦闘訓練の授業がある時だけ真っ直ぐ帰ってくれば問題ないはずだ。
学校で絡んできたところであの3人衆相手なら影分身でも勝てるはずだから問題ない。
というわけで懲りずに場所を変えていつも通りの日課に戻った。
あれからうちは一族からも3人衆からも干渉はなくなった……が戦闘訓練の相手がほぼうちは3人衆に固定されているのはなぜだろう。
嫌がらせかと取るべきなのか、実力順位で決めているのか、私の予想ではうちは一族の圧力だけど……少し捻くれ過ぎかもしれない。
しかし、3人衆の実力も伸び出していて少しずつ差が縮まっている。これはなおさら修行をやめるわけにはいかない。
さて、今回の事件で良かったことがある。
それはこの世界には上には上がいることを再認識したこと、血の強さが思った以上であることを把握できたことだ。
写輪眼の強さは私が想像している順調に成長した夕顔を以っていても勝つことは難しいと思う。
もちろん夕顔が天才であるため、私の想像の範疇を軽く凌駕するかもしれないがそれでも勝率は五分でいいところなのではないかと思う。
まだ私達はしばらく学生だからいいが、卒業して本格的に忍になればあんな存在と戦うことがありえるということだ。
改めて実感した力の差、しかもたった3、4年の差だ。
術が解禁となったとして相性は最悪と言える。
確証はなかったが両親からそれとなく聞き出した内容によると写輪眼はチャクラを見ることができるというからチャクラの量が違う影分身は看破されてしまう可能性が高い。
手裏剣影分身の術はその性質上、見切られても効果はあるだろう。もっとも全部躱されては意味が無いが。
そして行き着いた対策は、やはり以前から考えていた通り起爆札だ。
手裏剣影分身の術と起爆札による面攻撃と爆破、これである程度は通じる攻撃となる……はずだ。
更に両親から教えてもらったが、写輪眼以外にも感知系と呼ばれるチャクラを感知することが得意な忍まで存在するらしいからチャクラを乱す、もしくはチャクラを散布することはできないのか気になっている。
煙幕と組み合わせれば写輪眼を妨害することができるかもしれない。もっとも同じ瞳術である白眼は透視能力があるから意味はないみたいだけど。
正直白眼の対処方法が思いつかない。
身内なのだからそのような想定をする必要がない……と思えるが、白眼はその親和性故に大戦でいくらか敵に奪われていることが確認できているとのこと。
分家は盗難防止用の呪印で奪われる寸前に目が潰れるようになっているが本家はそれがないから奪われることがあるそうだ……本家も呪印やればいいのに。
「起爆札の性能も良くはなってきているが……根本的に燃費の悪さがあるからなぁ」
手裏剣影分身の術と起爆札のコンボを思いついたは良いが、手裏剣の影分身の数だけ起爆札が必要となる。
そうなると1回に30の手裏剣を創りだすとして、同時に起爆札(起爆用チャクラ込み)30個分のチャクラを消費することになる。
それを3人の影分身で使うとすると90個の手裏剣と起爆札も創りだす必要があるということだ。
90もの起爆札の爆発ともなれば必殺の一撃としては申し分ないが燃費の悪さによって継戦能力に問題がある。
となると解決しないといけないが、思いつく解決策は何か思いつく、別の術で頑張るの2つぐらいしか思いつかない。
……個対個の手段は手に入ったと考え、個対複数、複数対複数を想定した術を手に入れればいいという考え方もあるか。
「となると戦術級の忍術となるか」
戦術級……手裏剣影分身の術って戦術級か?……いや、ないな。
私が想像する戦術級とは母さんが使う水の鮫やいつぞやみたうちはのでっかい炎だ。手裏剣が多少多くなっても戦術級とはいえない。
「本来なら性質変化が一種の指針になるんだが……私の場合はどうにも」
影分身で戦術級なんて想像がつかない。
……とりあえずまだ手を出していない幻術でも取り掛かってみるか。
「むぅ」
……
「……むぅ!」
……
「…………むう!!」
「ごめんなさい」
今、私は土下座している。
誰に?夕顔にですが何か?
「酷い」
「申し訳ありません」
なぜこれほど夕顔が怒っているのかというと……模擬戦で幻術を掛けたからなのだが……どうやらその幻術がよほど嫌だったようだ。
いや、幻術に掛かってる時は凄く嬉しそうだったから違うのかな?私の名前をうわ言のように言っていたが……幻術の私、いったい何をした。
もしかすると私に助けて欲しかったという可能性も……ないか、嬉しそうだんだし。
「…………もういい。でも凄い。初めて幻術に掛かった」
なんとか許してもらえたようでホッとする。
これで卯月の旦那さんのように「月光」などと呼ばれたらしばらく部屋に引き篭もる自信がある。
……旦那さん、辛いだろうなぁ。
そして後半はサラッと自慢するかのように言ったが、夕顔は本当に幻術に掛からない。
今まで何度も不意打ちで掛けようとしたがそれでもうまくいかなかった。
どうやら感覚的に相手の掛けようとする意志を察知して意識を逸らして逃れているようだ……これだから感覚派の天才は……。
しかも、卯月家の訓練でも掛かったことがないとか……私と違って卯月家は上忍なんだぞ?……なんという理不尽。
それを知ってからというもの色々考えて見て出来上がったのが——
「人と陣で幻術……凄い」
そう、今回は私の完全オリジナルである幻術、名前は陣幻(じんげん)の術と名付けた。
幻術とは色々なものがある。
もっとも多いものは視線を合わせたり、何かの動作に注意を惹きつけ、その意識の隙に術式を相手に無意識に認識させることで刷り込み、自分(対象者)のチャクラで幻術の術式を起動させてしまうのだ。
幻術を掛けられた方は幻術で行動制限の上に術式の起動でチャクラを削られるんだからなかなかいやらしい攻撃だよな。
そして私が開発した陣幻の術は本来一箇所に集めて起動するはずの幻術を人、私の場合は影分身に術式を分割して陣形にも術式を含めて相手へ刷り込んだ。
もっともこの術は掛かる相手が限られている。
あまりに相手が凡才だと何処か一点集中して術は不発に終わることが多い。逆に言うと従来の幻術には掛かりやすい。
夕顔は私と影分身を無意識、意識両方で認識していたから見事に掛かったわけだ。つまり非凡な存在ほど空間認識能力が高いため陣幻の術は掛けやすく、従来の幻術は掛けにくいということだ。
……しまった。あまりにも夕顔が幻術に掛からないから躍起になってこんな術を開発してしまったが本来の目的とはズレているじゃないか。
まぁ無駄にはならないだろう……多分。
いや、もしかしてこれは写輪眼にも通じるかもしれないか……あ、影分身が使えることは夕顔以外に内緒にしてるから駄目か。でも白眼にも通じる可能性があるか。
「でも幻術返し勉強する」
よほど懲りたらしい。そんなに嫌だったのか?
「虚しい」
……深くは聞かないでおこう。