第十五話
幻術で勝ち続けてたら夕顔の幻術返しの速度が0.0何秒の世界に突入した。
既に隙らしい隙を生み出すことができなくなった。……と言うか幻術返しの速度だけだと里で1番なのではないかと思う。
おかげでハンデはそのままで勝率はだだ下がりである。夕顔が幻術を解禁するともう手がつけられない。
「……虚しい戦いだった」
最近知ったのだが、どうやら私が使っている幻術は幸せで相手を縛るものらしいことがわかった。
幻術は見せるものによって相手の対応が大きく変わるためいくつかパターンが用意されていて、多く使われているのは辛さで縛るもののようだ。
辛さ、とは言ったが拷問をしたりトラウマを抉るようなものだ。
元々戦闘中に使われることが多い忍術だから辛いことが普通なため自然と浸透させやすく、幻術による肉体的、精神的痛みで精神を乱して幻術返しを妨害される。
それに比べて幸せで縛るものは戦闘中で使われるとギャップがあり過ぎて察知しやすく、抜け出しやすい。ただし、平常時の不意打ちだと高確率で掛かり、一旦深みに嵌ると抜け出せなくなる。
やはり術は一長一短、使い方次第だ。
まぁそれ以前に上忍クラスともなると幻術に掛けるのはなかなかに難しい。実際夕顔が卯月さんの旦那さんに幻術を掛けようとしたが通じなかった。
それにしても……夕顔は幸せな幻をなぜあれほど拒絶したんだろうか、まぁ虚しいといえばそれまでだけど。
「そういえば今日、里が騒がしかったけど何か知ってるか?」
「はたけサクモ、自殺した」
……誰だ?
いや、はたけ姓は聞き覚えあるな。確か、ナルト達の担当上忍だったか。
「はたけサクモ……任務より仲間の命を優先した。それで責められてた」
「まぁ、人それぞれか」
外道なことではあるが忍としては間違っているんだろうな。
私は夕顔の命を救うんだったらサックリ切り捨てるつもりだから人の事言えた義理ではないが。
「ハヤテ優先」
どうやら夕顔も私を選んでくれるようだ。
嬉しさと感謝を込めて抱きしめておく、そして抱き返され——ちょっ、夕顔さん、力っぉぃ。
「サクモ死んで、これから厳しくなる」
「そ、そんなに強かったのか」
「……ハヤテはもう少し里の情報収集すべき」
「面目ない」
言い訳させてもらえれば、どうせ私が下忍や中忍になる頃には今の情報は半分も役に立たないはずだから、そんな無駄なことより修行して少しでも強くなろうと思ったんだ。
……いや、本当は怖かったんだ。上が何処まであるのか知るのを。
ここは何度も言うがここは元マンガの世界、同雑誌の1番有名な作品龍の玉なんてインフレ激しすぎるし、他の作品もラブコメとかでない限り……いや、ラブコメでもインフレしていたか?記憶があやふやで正確には覚えてないが。
とりあえず、この世界はパワーインフレはほぼ確実だろう。私の知っているだけでも巨大狸と巨大蛙の戦いとかあったからなぁ。
そんな現実を直視する度胸がなかったのだ。
「そのサクモという人のことを教えてくれる?」
「うん!」
凄く喜んでる。
そういえば座学に関しては私が教える側で、戦闘も一緒に成長するという感じで教え合う感じではない。つまり今まで夕顔が私に教えるということ自体がほとんどなかった。だから私に教えるのが嬉しいのだろう。
「正確な情報はあまり多くないけど——」
雷遁主体で近接戦闘が得意な忍で、木の葉の白い牙という異名を持っていたらしい。
素直に凄い、異名に『木の葉』とつくということはそれだけの実力を持っているということだ。
砂隠れの里との戦いでは戦況を逆転させるほどの活躍を魅せたことも1度や2度ではなかったようで砂隠れの里から大層怨みを買い、木ノ葉隠れの里内では尊敬を集め、次代の火影とも言われていたそうな。
そんな存在なのに身内が殺すとは……いや、世の中こんなものかもしれない。敵の殺意より味方の怨みの方が深く抉る。
期待の裏返し、可愛さ余って憎さ100倍ってやつ……いや……まさか……他里の離間工作と考えるのは考えすぎだろうか?砂隠れじゃ露骨過ぎるから雨隠れあたりが怪しいと思うが……もしそうだとしても戦争の火種にしかならないから調べない方がいいか。
まだ未熟な私達だが、戦争となれば徴兵……徴忍?され、戦場に駆り出される可能性もある。
戦場に出るならせめて後5年は時間が欲しいところだ。
「なるほどな。夕顔ありがとう」
お礼にお腹をサワサワしてやる。
「ファッ?!んっ!……——ッ!」
セクハラ?いえ、コミュニケーションです。
ロリコン?2歳しか違いませんが何か?
しばらくこうしてまったり過ごした。
修行をしているといつの間にか進級する季節になってた。
そして私達とうちは三人衆と日向組は同クラスの生徒とは別のクラスとなることが告げられた。
どうやら実力が認められ、特別クラスに編入されるらしい。
元のクラスでも年齢にバラつきがあったが、この特別クラスは更にバラつきがあるようだ。
そしてこのクラスにはうちは一族を始め、日向一族、猪鹿蝶(正確には違うが面倒だからこれ)、猿飛一族、志村一族などエリート勢揃いしている。
もちろん夕顔以外の卯月家の人間もいる。
月光家は残念ながら同世代はいない。
ちなみになぜ卯月と月光は一族ではなく、家と表されるかというと規模が小さく、うちはや日向のように一族(一集落単位という意味)ではなく、一族の中の一つの家だったからだ。元となった一族は今では先の大戦で跡形もないようだが。
「……嫌な視線を感じるな」
その視線の発信源は……もちろんうちは一族だ。
うちは一族は3人衆を含めると10人いるようだが……その中にお礼参りのヤツがいないのは不幸中の幸いか。
もっとも写輪眼を開眼している者を特別クラスとはいえ、忍者学校に所属させておくほどの余裕は里にはまだないはずだからいなくて当然といえば当然だが。
そんな小さなことを気にしている私とは格が違う夕顔は周りを見渡し、何やらうんうんと頷いて——
「ハヤテの方が強——」
「言わせねぇよぉっ!」
どこのお笑い芸人だよ。それにもう古いだろ……あ、世界が違うから通じないか……なんて考えてる場合じゃない。
夕顔さん、お願いだからこのクラスでその台詞はやめてください。お願いします。
今回に関しては夕顔さんの目が節穴ですから!明らかに私より実力が上な人がそこら中にいるから!
幸い私達のやり取りを気にしている人はいなかったし、睨んでいるうちは一族は特に反応はなかった。
良かった。あの3人衆も察していないようだ。仲が悪くなった切っ掛けなんだから察しが良ければすぐに勘付かれただろうから冷や汗ダラダラだった。
「夕顔さん、お願いだから迂闊な言動は控えてもらえるかな?じゃないとおしりペンペンするぞ?」
……いや、なにそれ?!受けてみたい!的な眼差しをされると凄く困る。
そういやおしりペンペンとか一般人ならともかく忍の家ではやらないのか?……いや、夕顔は良い子だからやる機会がなかっただけだろう。
やらないから、絶対やらないから……そんなに期待を込められた瞳で見つめるような内容じゃないから!
「お前ら、いちゃついてんじゃねーぞ」
しばらく無言の戦いを繰り広げていると何者かが話しかけてきた。
そちらに視線をやると、頬に赤い三角の化粧をして子犬を頭の上に乗せているツリ目の気の強そうな7歳ぐらい?の男の子が立っていた。
この特徴は……
「犬塚一族かな?じゃあ後ろにいるコートの彼女は油女一族か」
2人や他の一族が把握出来たのははたけサクモの一件から里内の情報を本格的に集めて回った成果だな。
「ウチはともかく油女一族を知ってるなかなか博識じゃねぇか。俺は犬塚ヤイバだ」
「油女……ヤエ」
「月光ハヤテだ」
「………………」
いまだに私を見つめ続け、自己紹介をしない夕顔……チラチラと自己紹介するように促すがスルーされているのか、ただ気づかないだけなのか……期待した反応は返ってこない。
「自己紹介されて返せないような悪い子とはしばらく話さない」
「卯月夕顔、好きなものは月光ハヤテとハヤテとお隣さんちの長男です。嫌いなものはハヤテの嫌いのことです」
全部私な件について。
そして犬塚ヤイバは爆笑と油女ヤエの静かな笑いが響く。
「お前、愛されてるな!」
「愛は……大事に」
「…………そうだな」
うん、大事にはするつもりなんだが……夕顔がいつものクールな表情を捨てて真っ赤な顔で照れているのは……うん、レアだ。
私は今死んでも後悔しないかもしれない。