第十六話
「それにしても……お前らが卯月の鬼才と月光の天才か……見えねぇな!」
「……素直は美徳とは言えない……なぜなら傷つけることもあるからよ」
「なんだよ。本当のことだろ」
犬塚ヤイバはわかりやすい感じで好感触、油女ヤエは……よくわからん。表情がほとんど動かない上に顔の下半分を隠すほどのコートを来ていて声が平坦、更にサングラスしてるから読み取れる情報が少なすぎる。
「ハヤテ……この人達、敵」
「違うから、落ち着け」
最近、夕顔のヤンデレ化している気がする……?……前から、だとっ?!
それはともかく、今にも襲いかかりそうな夕顔を片に手を置いて落ち着ける。彼女は私の手を払いのけたことは1度としてない。
実際今回も払いのけてまで行動することはないようだ。
「本当に熱々だな。将来が不安になるぜ」
「……依存は良くない……なぜなら相手が死んだ時が悲惨になるから」
なんだ、その妙な説得力のある言葉は……まさか身近にそういう人がいたのか?
「ハヤテは死なない……私が守るもの」
おい、なんだその死亡フラグは?!
その戦いでは大丈夫な気がするけど、結果的に死ぬぞ。しかもどちらかというと夕顔もダウナー系だし、嫌な予感しかしない。
あっちには代わりがいても夕顔には代わりがいないんだから気をつけてくれよ。
ちなみに私は影分身がいるから無茶しても問題ないぞ、うん。
「こりゃ完全にやられてるな」
「……恋は盲目……依存も恋?」
恋、なのか?一緒に居すぎて恋愛対象というより多分家族愛なんだと思うんだけど……私だけ?
「まぁ、お前も頑張れよ」
「女は強くなければならない……なぜなら強敵(鈍感)を倒さなければならないから」
「頑張る」
えーっと……まぁ受け入れる受け入れないはせめて10歳を超えてからにさせてもらおう。
本来は15歳ぐらいまでという気持ちはあるのだが、この世界は死が溢れているためなのか、結婚や婚約などは結構早い内に決まる。
夕顔が行き遅れることはないだろう。つまり、もし気持ちに答えるならあまり時間がないということだ。
でも……なんだろう。この夕顔の外堀を埋めるどころか力攻めと水攻めと兵糧攻めを同時に受けているような絶望感は……嫌な絶望感ではないぞ?でもなんというか……うん、とりあえず、考えないでおこう。
……本当はもっと男らしく受け入れてやれればいいんだが、心の問題だからなぁ。
幼馴染といえば恋愛対象だが、妹か娘か孫ぐらいになると恋愛対象にならない。私はこの狭間で揺れている。
だからこそ最後の最後だったのに、なぁ。
「ハヤテハヤテ」
「ん?」
「友達できそうで良かった」
衝撃の新事実。
夕顔が私のぼっちを心配していた?!
てっきり私がいるからハヤテは1人じゃない的な考えをしていると思っていたがそうではなかったようだ。恥ずい。
まぁ、悪い人達ではないし、付き合い易そうではあるな。
進級してから1ヶ月経った。
ヤイバとヤエとはあれからも仲良くしているし、猪鹿蝶とも多少仲良くなった。
どうもそしてまた月光の天才、卯月の鬼才という異名を聞くことになる……一体何処まで浸透してるんだ。恥ずかしすぎる上に、大仰な異名に名前負けしてしまう。
特別クラスの授業は以前までの授業内容とは進級したことを差し引いてもはっきりと差がある。
座学のレベルが上がり、影分身で先行して勉強していたのが幸いしてついていけているが夕顔の顔には絶望が見える。
歴史などは普通と変わらないが算数が数学になり、理科が化学と物理とより専門化され、今までになかった戦術や戦略の授業も増えた。
しかし……こう言っては何だが、忍にこれほどの知識が必要なのかは疑問だ。
忍は基本的に肉体労働だ。情報収集などは確かに頭を使うが、それは経験の蓄積や先生、先輩のノウハウの伝授だけである程度成り立つはず、端的に言えば、こうすればこうなるという結果を教えるだけでもいいのだ。
ここまで細かく教える必要は、情勢を鑑みるとない……となると——
「これは兵士と研究、開発者の仕分けているのか?」
卒業するのに実力が必要とは言うが、その実力が何の実力かは明言されていない。
この世界では前線で戦うだけが忍ではない。術や科学などを研究するのも忍なのだ……いや、これって明らかに忍の仕事じゃないよな?術はともかく科学は別だろ。
しかし、もしこの予想が当たっているとすると少々マズイことになる。
元々夕顔と共に現場で活動するつもりだったのだが、このままではひょっとすると夕顔が前線へ、私がはるか後方……なんてことになりかねない。
離れ離れになると守ることができないではないか……後ろ向きな考えだと足を引っ張らないで済むが——そんなことを考えていると袖がクイクイと引っ張られる。
もちろん引っ張っているのは夕顔だ。
「……」
どうやら私の考えたあたりまでたどり着いたらしく、その表情はいつも以上に無表情だが、瞳には複雑な感情がある。
期待と不安と安心と悲しみ、目は口ほどにものを言うというが本当だと思う。
心配するな。という意味を込めて頭を撫でる。
安心したのか猫のようにスリスリしてくるからそのまま撫で続ける。
まぁ……撫でて誤魔化しただけでどうするか私自身決めかねている部分が多い。
守るとは言ったが、私自身が夕顔を殺す要因になるのではないかという不安があるためだ。
…………とりあえず、配属がどのように決められるのか確認するか、もし上から強制されるならそれ相応に手を抜かないといけないし、こちらから希望すればいいだけならその時の実力次第という結論の先延ばしが可能だ。
「では明日はそれぞれの性質変化を調べてみよう」
へー、やっと性質変化に関しての授業か、これで私ももう少しパワーアップできるな。
それにしても授業中に夕顔を撫で撫でしてても先生が注意して来ない……いや、注意しなくなったというべきか。
最初は注意していたんだがその度に冷や汗が止まらないほどの殺気が籠もったオーラを向ける夕顔に先生が音を上げたのだ。
先生……やってる私が言うのもなんだけどもう少し頑張れよ。
まぁ、先生の体術が夕顔の少し上程度でしかないため、実力主義の忍としては扱いに困っての放置なんだろうけど……将来の上司になる可能性を考えると難しいのはわかるがな。
……先生って中忍だったよな?既に夕顔の体術は中忍レベルということか……って——
「あっ?!」
「どうした月光。また夕顔が何かしたか」
「……何もしてない」
「すいません。今回は私事(わたくしごと)です。すみませんでした」
やばい。
やばいぞ。
私の性質変化はなぜか記述にない性質だ。あまり公にしたくない。
どうする、どうやって回避する。
くっ、修行中の影分身に伝えて対策を練りたいが伝える手段がない。
思いついたのは放課後になってからだった。
方法は簡単だ。チャクラ紙を何かの小道具で燃やして性質変化を火とする。これなら誤魔化せるはずだ。
まずは火をつけるための小道具を用意しなくてはならない。それと火遁が使えるように猛特訓だな。
このクラスはエリートが集まっている。つまり、才能がないと見做されると降格させられるだろう。
別に名誉や出世街道などには興味は薄いが教育環境的に優れているのでなるべくなら長くいたいものだ。
なにせこのクラスだから読める忍術書などがあるからな。
最近の興味は口寄せの術だ。
生物だろうと無機物だろうと術式や契約によって長距離をタイムラグなしで呼び寄せることができる青狸のどこでも扉的な使い方ができるというのだ。
興味を持たないようにする方が難しい。
ただし、どうもかなり難易度が高い術なようで修得には至っていない。対象との距離が短い分にはチャクラでゴリ押しすれば成功するが、燃費が悪い。
それはともかく、今は火遁の術だ。
今まで長所を伸ばすか興味の沸いた物を優先してきたので今回が初めての性質変化の訓練だ。
「そういえば夕顔は自分の性質変化は知ってるのか?」
「知ってる。紙では風、使えるのは雷、水、土」
……え?4属性も使えるのか?
やばい、マジで鬼才だ。
三代目火影はプロフェッサーと呼ばれ、血継限界以外の全ての性質変化を使い熟(こな)すと言われているがそれの一歩手前じゃないか。
「風が1番、雷水はそこそこ、土はちょっと苦手」
……戦闘訓練でハンデを無しにすると蹂躙されるな。間違いなく。
体術だけでも手に負えないのに忍術までとは……これは一層気を引き締めないといけない。
「良ければ術を見せてくれないか」
「うん!」
少し自慢をしたかったようで快く受けてもらえた。
——風遁・大突破!!——
印を組んで大きく息を吸い込んだと思うと次の瞬間、息が何倍にも膨れ上がったかのような勢いで口から吐き出される。
それを受けた木々は大きく揺れ、直撃を受けた細い木はへし折れた。
「……こんな感じ」
「これは凄いな」
「でも使いどころ難しい」
「ああ、攻撃力そのものはあまり高いとは言えないからな」
ただ風を当てるだけでは台風の中を歩くのと大差ないわけだ。
パッと思いつく改良点は私の手裏剣影分身の術と同時に使えば攻撃力を上がるか、というぐらいだ。