第十七話
「今度は私の番か」
火遁……正直こんな森の中で試すようなものじゃないんだが、背に腹は代えられない……そもそも私が乾燥もしていない、むしろ瑞々しいとも言えるこの時期の木々を燃やせるほどの火遁を放てるかといわれると……。
気を取り直して印を組む。
今回はまだ知識でしかない術を使うので慎重にゆっくりと組む。
注ぐチャクラの量も今回は術の発動確認という意味が強いので控えめにしておく。
——火遁・火玉(ひのたま)——
火遁最弱の術で子供の手の平サイズの火玉を生み出すものだ。
一応難易度は下忍クラス、ただし下忍すら使わない廃れた術だ。
まぁ、少し難易度を上げれば豪火球の術が存在するし、何より威力がない。
マッチの代わり、明かりの代わり程度にしかならない術で、チャクラの消費量を考えると燃費の悪さが目立つ。それならマッチや松明を持ち歩いた方が効率的だと言えるほどだ。
さて、術の方は……発動はした。ちゃんと火は出た。ただしそれは本当の意味でマッチの火程度のものだった。
「……まぁ1回で術が成功したことは行幸だな」
「……………………うん。ガンバ」
夕顔から憐れみを受けた気がする……いや、そんなはずはない。きっと激励に違いない。
しかし私自身が言った言葉は負け惜しみでも何でもない。
実は夕顔には私の特殊な性質変化に関して教えてはいない。夕顔が信用出来ないなどという理由ではなく、間違っても巻き込みたくないからだ。
それを察しているのか夕顔も深く聞こうとはしてこない。本当に良い嫁さんになると——いかん、こういうことを考えるとまた夕顔が外堀を粉砕してくる。
ともかく、他の性質変化が全く使えない可能性もあったが使えないことはないということはわかった。
後は明日に向けて精進を重ねるだけだ。
——火遁・火玉——
今度は注ぐチャクラの量を増やしてみた……結果はほとんど目に見える変化はない……いや、ひょっとして温度に差があるのか?さっきより熱い気がする。
もっとも気のせいかもしれないが。
「とりあえず当面はこれで誤魔化せるか」
「豪火球の術は?」
「残念ながら印を知らない」
汎用性が高そうな幻術や起爆札、本来の性質変化である影分身(だと思う)ばかり研究開発していたばかりに他の性質変化の勉強は基礎的なものしかしていなかった。
理由はある。
実は忍者学校では通常、性質変化まで教えることはないと本に書かれていた。性質変化は下忍になってから教えられるとも書かれていた。
だから余裕だと思って実用的なものを優先させた結果がこれだ。
今から術の資料を探すとなると街の忍具専門店に行くか忍者学校の図書館に行かないといけない。今から行って調べて覚えていると門限に間に合わない可能性がある。
門限とか意識しないといけないあたり自分は本当に子供なのだな、と改めて思う。
「印だけ……わかる」
うちの幼馴染は本当にできる子です。
「昼顔が、使ってたのを覚えた」
……きっかけとなった私が言うのもどうかと思うが、そろそろ呼び方を戻してあげたらどうだろう。
「……なんて呼んでたか忘れた」
まだまだ道のりは遠いようです。
「……それに家で蓄積させてるからまだまだ先(ボソッ」
ん?なんか言ったようだけど聞こえなかったな。
とりあえず、豪火球の術の印を教えてもらう。
さすがに夕顔が天才とはいえ発動はさせられないそうだが……少しホッとした自分の器の小ささに凹む。
——火遁・豪火球の術——
うん、火玉でスーパーボールの大きいやつぐらいだったが豪火球の術だとバレーボールぐらいの大きさになった。
……燃費悪くね?こんなんにこれほどのチャクラを使うなら影分身を使った方が効率的だ。
ああ、これがチャクラ紙に出るか出ないかの違いなわけか、確かに使えるには使えるが効率的ではない。
影分身の術の特性を考えれば燃費はいいとは思えないが……もしかして私の特性はハズレなのかもしれない。
「……しばらくはこれで誤魔化して術自体を改造していくか」
豪火球の術はもともとうちは一族が使っていた術を基本として汎用性を高めたものだという話を聞いたことがある。
今ではうちは一族もこちらを使用しているらしいが、その背景には創始者の1人であるうちはマダラが離反したことがあるそうだ。
汎用性を高めたということはその分何かを犠牲にした可能性が高い。それを復元して私に合うようにすればもう少し使える術になるかもしれない。
「今のままだと……風で勝てる」
「やはりそうか」
火は風に対して有利に働く、なのに私の豪火球では夕顔の風に押し負けて私自身に術が返ってくることになる。つまり実力差がそれだけあるということだ。
もっとも相性の関係上無理をしているのでチャクラの消費は夕顔の方が上だろうから相手の疲弊を誘う手段として使えないこともないが……戦場ではあまり使いたい方法とは言えない。
「ついでに他の性質変化も一通り試してみるか」
そして試してみた結果、だいたいどの性質変化も変わらない感じで使えた。
夕顔の性質変化も確認して感じたのはチャクラ紙で出る性質変化である風を100として水、雷75で土は60といった感じだ。感覚的に当てはめたから全てが正しいとは限らないが。
それに対して私は影分身が100とすると他の全ての性質変化を50……いや、45くらいか?下手をすると30くらいかもしれない。
ちなみに幻術は自身のチャクラを殆ど使わない技術の分類であるためこれらの数字は当てはまらない。
総合的には私の方が数字が高いように見えるが、器用貧乏……どころか貧乏器用貧乏ぐらいだと思う。意味はわからんが。
「要努力」
「だな」
努力してある程度どうにかすることができるとは思っている。
人を殺すのに家一軒を丸焼きにするような炎は必要ない。粘着性のある炎で火傷を誘うなら全身を覆う程度で殺せる。
まさかチャクラで大きな火を起こせるからと、わざわざ炎で包囲して酸欠を狙うなんてまどろっこしいことはしない……よな?
何が言いたいかというと、最小限にチャクラで最大限の威力、これが私の目指すべきところだろう。
幸い手数は多くなるはずだ。
あくまで将来的には、だけど。
結果的にいうとなんとか誤魔化すことに成功した。
うっかりミスって持っている手のあたりを燃やしてしまって火傷してしまったがうまくいったので目を瞑るとする。
性質変化に関して他より劣っていると思っていたがどうやら少し事情が違って修行を若干緩めてもいいかと思っている。
他のクラスメイトはチャクラコントロールや術式構築から未熟であり、今の私より劣っているのだ。
逆に言うと私はチャクラコントロールや術式の構築は優れているが、そもそもの才能が劣っているので伸び代が短い。
来年にもなれば私は置いて行かれるだろう。しかし来年までは先行しているのだ。
今のうちに打開策を練る……のではなく、更なる実戦向きの術を研究する予定だ。とは言っても起爆札の研究なんだが。
私の五大性質変化では起爆札の効率的に劣ることがわかっている。
100のチャクラで性質変化は30〜50、起爆札だと60〜80と効率がいいのだ。
新米中忍までは起爆札をよく使うというのはこのあたりが要因だろう。新米中忍と言っても現代の感覚で言うと高校生程度で、社会に出れるが未熟だ。
それだけ性質変化を使い熟すのは難しい。
「さすがにこのクラスだと夕顔無双はないか」
戦闘訓練を眺めながら思う。
通常クラスだと無双していた夕顔だが、この特別クラスでは無双は難しく、ロボットシミュレーションのように1対複数ぐらいになった。
…………夕顔の強さを改めて実感した。
「イテテテテッ……おい、もう少しで骨が折れるところだったぞ!」
「大丈夫、その時は綺麗に折ってすぐに治るようにする」
「そういう問題じゃねぇ!」
私の戦闘訓練相手は犬塚ヤイバだった。
「いや、犬と連携されると手数が足りなくなるから少しでも負担を強いることが重要だろ」
「それはそうかもしれないが……」
犬塚の犬はやばい。
まだ未熟だからどうとでもなるが習熟してくると人間に化けて人間と同じ行動が可能になる。
影分身でも同じことが言えるが、影分身はあくまで自身のチャクラを分けて作り出しているが、犬は自身のチャクラを使っている。
しかも何より五感が人間より優れているため、隠れたりしても看破されるのは辛い。
「それとハチを犬って呼ぶな!!」
いや、ハチって名前はちょっと……