第十八話
進級してから半年、座学が減り本格的に戦闘訓練が主体になってきた。
おかげで影分身ではなく本体が学校に通わないといけなくなってしまったため術の成長が伸び悩み始めた。
その代わり体術や戦闘経験は伸びている。
術無しでは勝てないクラスメイトが何人かいるため、いい経験だ。
以前のクラスでは男女分かれていたがさすがはエリートクラス、男女は混同。つまり私も夕顔と戦うはめに……もちろん抵抗はしたが勝つためではなく、負けるまでの時間を長くするためのような戦いだ。
夕顔はダントツで1位……断然トップの略であるダントツと1位を合わせて使うぐらい圧倒的な成績だ。
実はこれを知った時、ある意味安心した。これで夕顔が中位や下位だったら世界のパワーインフレに挫けるところだった。
少なくとも夕顔は正真正銘天才……いや、鬼才であるのは間違いないだろう。
それに比べて私の分不相応な称号である月光の天才の異名は薄れつつある。いくら上位の成績とはいえ、評価の主たるものがチャクラコントロールと座学というわかりづらいものだからだ。
あいにく忍術に関しては天才ではなく凡才という評価だ。
若いうちは派手なものを好む傾向にあるのは何処の世界でも共通であり、このクラスでも同じ。そのため派手さに欠ける私はあまり注目されなくなってきた。忍が目立つなんてデメリットしかないから私は気にしていないどころか歓迎しているのだが夕顔は気にしているようだ。正直他人の評価なんて気にしている余裕はない。
座学は一区切りつき、術の開発にしか使えなくなった影分身はイマイチ有効活用できている気がしないことや自分が成長していても他より遅いことで焦っていることを自覚している。
焦っている要因として最近里同士の小競り合いが激しくなりつつあるということも焦る要因だ。
小競り合いのうちは良いが、本格的な戦争となれば私達も駆り出される可能性が高くなる。どこの里も前大戦の傷跡はまだ回復していない現状を見ると嫌な未来が見えてくるわけだ。
幼い子供同士が殺し合う未来、その中に私と夕顔がいる……避けることが難しいなら生きるように努力するしかないだろう。
とりあえず手裏剣に起爆札の術式を刻みこむことに成功したので手裏剣影分身の術、改め手裏剣影爆の術と命名した。
試してみたらいつも訓練している場所が更地になったのは良い思い出だ。
おかげで慌てて逃げることになったし訓練場所を移すことになったが……しばらく里の警備が厳しかったのは多分私のせいだ。
ただし、これには弱点がある。
手裏剣を媒体にしている関係上、使い捨てになる。つまり経費がバカにならない、それに手裏剣に彫金を施すのも一苦労だ。
「手裏剣の影分身だけ投げる?」
「……なるほど」
まさに目から鱗、そしてさすが夕顔さん、私とできが違う。
(このままだと私とハヤテ、別の部隊になるかもしれない……頑張って手伝わないと!)
何やら夕顔が決心したような表情をしているがなんだろう?
それはともかく、手裏剣影分身の術は投げてから影分身を生み出していたから思いつかなかった。
最初から影分身させておけば奇襲性はなくなるが、費用や手間は大きく減る……ん?そうか、影分身に影分身の術が使えるんだから手裏剣影分身に手裏剣影分身の術を掛けることもできるな。そうすれば奇襲性も損なわれずに済む。
これでほぼ完全に完成となった。
攻撃手段はこれでいいとして、次に取り掛かったのは口寄せの術だった……が、すぐに行き詰った。
口寄せの術は道具や動物を呼び出す時空間忍術の一種で、便利な召喚魔法と青狸のポケットの役割を果たしてくれるため是非手に入れたかった。しかし——
「暗号化されすぎだろ」
どうやら書物を媒体とした口寄せの術は機密に入るらしく、複雑に暗号化されていて解読にはかなりの時間を要しそうなので早々に諦めた。
時空間忍術を使うだけなら売られている巻物を使えばどうとでもできるからだ。まぁ青狸のかべ紙ハウスに憧れていたから少し残念だが。
そしてそんな挫折を味わい、次に手を出したのは結界と封印術だ。
どうやら私は五大性質変化とは相性が悪いが、それらに分類されない忍術とはそれなりに相性が良いようなのだ。
結界も封印も初歩的なものは全て1発で成功した上に効果も十分実用に耐えられるものだった。
……結界も封印も夕顔の気合で粉砕されたからイマイチ確証がないが、夕顔がそう言っているんだから多分そうだろう。
まだ高額で手が出ないが結界の使い手である墨村一族、雪村一族の著書を買いたいものだ……それにしてもこの2つの一族の名前、どっかで聞いたことがあるような……確かサンデーあたりで。
封印に関してはうずまき一族が有名だが……うずまき一族って主人公のナルトもこの一族の一員か?しかし主人公の攻撃が封印術とか地味過ぎるような?
「ハヤテ……」
「ん?どうした?」
珍しく夕顔が悩んでいることを表情に出ている。
こういう時は夕顔自身に悪いことが起きるより私に悪いことが起きる前兆だ。
自身に悪いことが起こるなら夕顔は素知らぬ顔をして、それを私が看破するのだが、見るからに悩んでいる場合は私に関することがほとんどだ。
「昼顔が会いたいって」
何の用事だろう?週に2回ほど鍛錬に付き合ってもらっているのにわざわざ夕顔に言伝を頼むとはよほどのことか?
「……許嫁決める、ハヤテ希望、試験」
なんか不穏な言葉が並ぶ。
旦那さんが許嫁を決めると言い出したが夕顔が私を指名、よろしい、ならば戦争(試験)だ——
「という認識であってる?」
「あってる」
ええっと……どうしよう。
なんでこのタイミングで許嫁を決めようと?
「私、強すぎて申し込み殺到……全部斬り倒しておーるおーけー?」
「おーるのーです」
なるほど、唾つけってやつか。
現代でもそうだが結婚や恋愛は競争だな。うかうかしていたら優良物件は次々売れていく。
……4歳の子供にそれを行うのはどうかと思うのはやはり前世の価値観なんだろうなぁ。
「ハヤテ……」
うぐ、涙目で見られても困るぞ。
正直何が正解なのかわからない。この思いに答えていいのか?依存しあっているような関係は正常ではない。
しかし……夕顔が望まぬ結婚をさせることはありえない。もしそんなことになるなら——
「……拉致して里を抜けることも辞さない」
あれえぇ?なんかおかしい方向に行ったぞ?
そこは私に「頑張って」とか「期待してる」とか言うところじゃないか?!
「ハヤテ、私のために悩んでる、知ってる。でもハヤテがいい」
どうやら気づいていたらしい。その上で私がいい、と……ここまで言われて燃えないのは男じゃないな。
まさかこんな年で結婚する覚悟を求められるとは、な。
「フル装備、切り札込みで挑むとするか」
「……おぉ」
……小さくガッツポーズするのはいいが、試験に合格できるかどうか、不安だ。
「ハヤテなら大丈夫……万が一駄目でも抜ければいい」
なんか夕顔の方がすごく男前な件について。
……いや、案外いいかもしれない。夕顔と一緒なら何処か人里離れた山などでも生活できそうだ。
と言うか、もしかして私の目標的に里より安全なのでは?
まぁ私達が抜けた月光家や卯月家のことを考えればちょっと気が引ける。
「……でも多分大丈夫、本気のハヤテは誰にも負けない」
夕顔はそう信じて疑わないようだ。
嬉しいような、プレッシャーなような。