第二十話
旦那さんは唖然としている!とかウインドウの表示されそうなぐらい見事に唖然としている。
これほど唖然とする姿を今まで見たことがない。
「なにが……どうなっている」
「昼顔!負け!」
ちょっ、夕顔さん!そんなに力を目一杯込めて本当のこと言わんでも。
「そんな、馬鹿な!!」
いや、うん……気持ちは痛いほどわかる。
旦那さんが幻術に掛かった時は思わず三度見してしまったぐらい信じられなかった。
もしかしてこの……偽印(ぎいん)幻術(今命名)は私が思っている以上に強力なのかもしれん。
「ハヤテ、勝利、圧勝、完勝、winner、victory……昼顔、敗北、惨敗、敗者、YOULOSE、loser——」
「夕顔タンマ!旦那さんが崩壊寸前だから!」
身体がなんか震えてきてるから!顔面崩壊寸前だから!やめてあげて!昼顔のライフはもうゼロよ!
「ふ、ふは………ふはははは!」
……あ、旦那さんが壊れた。
さすがに夕顔もやり過ぎたかという表情を浮かべている。
「幻術とは恐れ入った。まさかこれほどの技量を持っていたとは私もまだまだだな」
それほど大したものじゃないんだが……この世界の忍は兵士としての役割が主なため、里の教育方針は純粋な戦闘能力を重視したものが主流だ。
もちろん私のように幻術などを使う忍もいるだろうが少数派だ。例外的に写輪眼を開眼したうちは一族の幻術は神懸っているらしいが本当に例外だ。
まぁ大したこととは思わないが……認められて嬉しくは思う。
「よし、ハヤテを暫定婚約者として認めよう」
「暫定」
「婚約者?」
「これから定期的に婚約者候補と戦ってもらって勝ち抜けたら晴れて婚約——」
あ、夕顔が殴り飛ばした。
昼顔に張ってあった結界は内向きに強い結界だったが外からだと脆いためほとんど障害になってなかったな。もっとも阻害できるものだったら解除して通してたから結果は変わらなかったがな。
……つまり私が認められたというわけではなく、負けた悔しさを飲み込み、仕返しの一手を仕掛けてきたわけだ。
うん、ちょっと私も腹が立ったので脅し用として貼り付けてあった低威力の起爆札を起動する。
多少火傷するかもしれないが、爆竹が破裂したような音が2つ鳴る。
ちなみに発生源は尻だ。選定理由は尻は脂肪があり、致命傷になりにくくなることとこれでしばらく座ることが苦行となり、治療は恥辱を味わうことになるからだ。
ささやかな私の復讐。
婚約者の座争い……正直他の忍と戦えるのは経験値的には美味しい、しかし、そんなやり方で夕顔の相手を決めるなど私は認めん……いや、夕顔を溺愛している旦那さんもこんなやり方を望んでいるとは考えづらい。
何処かの家から圧力が掛かっているのかもしれないな。公平さを示すために力試しで振るいを掛けている……うん、これなら理解ができる。納得はできないが。
元の顔がわからないぐらいボコボコに変形させて満足したのか夕顔がこちらに寄ってきて上目遣いで一言——
「頑張って」
嫁にと1度決めた以上、壁があるなら壊す所存。
だから心配するな、と夕顔の頭を撫でる。
「ハヤテは負けない」
「……まぁ、条件は付けさせてもらう予定だから大丈夫」
同年代だけならいいが、さすがに年上が相手となると厳しい。
実際クラスメイトの何人かは危うい。だからこそハンデを貰う予定だ。
予定日は最悪10日以上前に教えてもらえるようにすることや戦う場所の選定をこちらでやらしてもらうとか戦う相手を選ぶ権利をもらうとか戦った内容は口外しないという守秘義務などなどを提示する予定だ。
呑まれなかった場合は……大人しく2人で駆け落ちするかな。
「そのあたりどうですか?」
「のふでふゅいふ」
「……」
日本語でおk?
まぁ顔が腫れているから仕方ないけど……この話は後日だな。
昼顔さん(暫定でも婚約者となったので旦那さんという呼称は止められた)と改めて話をしたのは1ヶ月も後になってからだった。
なぜこんなに時間が掛かったかというと、どうやらある程度治ったら夕顔が襲撃して完治を遅らせていたようだ。
3度目に朝顔さん(こちらも他人行儀は止めるように言われた)に怒られてやっと止めたようだが……理由は、少しでも私が修行ができるようにとの配慮だそうだ。初めての内助の功が父親を殴ることとはこれ如何に……あ、まだ結婚してないから内助ではないか。
おかげで封印も結界もいくらか実戦的なものが開発できたのだから私から夕顔に注意することはできない。
それで決まったのは対戦相手は年齢が若い順、守秘義務、最低でも7日前には通知、私より年齢が上の場合3本勝負で1本でも勝てば私の勝利というハンデを勝ち取った。
もっとも守秘義務は守られるかどうか疑問ではある。普通なら信用問題になるから自重するが、相手は忍、裏の裏まで読んで相手を騙すことを基本としている外道の集まりだ。
そう考えると、よく主人公の周りは素直な性格をしているもんだ。間違いなく異端だ……いや、現火影の影響と考えればわからなくはないか?現火影はなんというか……ぬるいというか緩いというか。
それはともかく、早速決闘日が決まった。
これから2週間後だそうで、相手は……なんとうちはスルイ(うちは3人衆のリーダー)だそうだ。
明らかに作為を感じる……が、私達を除く同年代でトップなのは間違いなく彼なのだから不思議はないのか?
最近も戦闘訓練では負けたことはないが油断はしない。
戦闘訓練では忍術を使うことはない、つまりお互い全力ではないのだ。
うちは一族の血継限界は写輪眼以外にも火の性質変化がチャクラ紙に出る性質変化と同程度の才能を持つという羨ましい才能がある。
しかも幼い内から自身の性質変化より先に火の性質変化の修練を積むという……まぁ火は見た目も効果もわかりやすく、対処がしやすいことが唯一の救いか。
……それにしても——
——風遁・大突破——水遁・水乱波(みずらっぱ)——
「これは理不尽過ぎるぞ?!」
荒れ狂う風と強烈な水鉄砲が合わさって襲い掛かってくる。
今、私が何をしているのか……それは夕顔とハンデ無しで模擬戦をしているのだが……なんで2つの術がほぼ同時に組まれているのか。
いや、片手で印を組んでいるからってのはわかる。わかるが……これって血継限界じゃないんだよな?
——雷遁・雷砲(らいほう)——
しまった。私、今濡れて——
「アバババババババッ!」
私の影分身は全滅、ダメージによる解除のためダメージ分だけチャクラが消耗される。
くそ、雷遁って卑怯過ぎる。1回でも喰らえば動きが止まってしま——
「ちぇっくめいと」
こうしてあっさり敗けるのもいつものことだ。