第二十一話
「ぐはっ」
また負けた。
これは新しい術の開発でどうにかなるレベルじゃない気がする。
印のスピードが根本的に違いすぎて相手にならない。術の出力の違いで相手にならない。近接戦闘の実力が違いすぎて相手にならない。
結界張る→破られる。
封印する→破られる。
近接戦闘→ボコられる。
影分身→術で流される。
手裏剣影分身の術→起爆はさすがにできないから全部弾かれる。
幻術→幻術返し
逃げる→夕顔からは逃げられない。
どうしたらいいんだろうか、本当に勝つ方法が思いつかない。
手裏剣影爆の術が使えたら……なんて言い訳にすぎない。手裏剣なんて中距離〜長距離でしか使えない武器だ。
高速機動で戦う忍が間合いを維持し続けることができるかというと甚だ疑問だ。
苦無ならば接近戦でも対応できるが手裏剣とは違い、投擲する分には直線しか飛ばないから命中率が低いので結局使い勝手は手裏剣と用途が違うが決定的な差はない。
「ハヤテ……多分私だから」
「まぁ夕顔が飛び抜けて強いのは確かだな」
「違う……手の内を知り過ぎてる」
そうだよな。昼顔さんに幻術が簡単に通じたんだから他の忍にもある程度通じるって結論出したじゃないか。つまり夕顔は慣れてしまったから通じないわけで決して私が成長していないということではない。
しかし、その言葉に甘んじていてはいかん。
そもそも2つの忍術を同時発動なんてされている段階で戦闘では1歩や2歩どころか100単位で遅れていると思う。
ならば更なる術の開発を進めれば対抗できる……かもしれない。
もっとも、その手立てができる前にうちはスルイを片付け無くてはならないが。
……と意気込んで勝負に挑んだものの——
「フハハハハッ!どうだ、月光!今まで馬鹿にした奴に負ける気持ちは!!」
わかってたが……下忍ですらないうちはスルイが私の幻術を初見で見破ることなんて不可能。
写輪眼を開眼していたなら話は別だが……いや、練度が低い者なら幻術の術式を常人より早く認識してしまいもっと早い段階で幻術に掛かる可能性もあるか。
「不甲斐ないな。ハヤテ、それでも夕顔と共に修行した者か」
そして……『一応』私側の見届人である昼顔さんがまた幻術に掛かっていたりする。
言っている内容から以前とそう変わらない幻を見ているのだろう。
うちは側の見届人は……うん、目が虚ろだからこちらも幻術に掛かっているようだが、現状に関してどちらにも公平に見ているのか偏った発言などはない。
まさか相手の見届人の方が公平だとは……まぁ、普通に考えれば卯月家にうちはの血を入れれるならば私や夕顔の気持ちを無視しても余りあるメリットだろう。
更に言うと、おそらくうちは側の見届人は今回の縁談……縁談?……にあまり乗り気ではないのだろう。
『里』ができてからまだ200年も経過していないため他家への血の流出は少ない。うちはの血という希少性と優良性を考えれば自身の価値を下げるようなことはしたくないはずなのだ。
当主である昼顔さんの子は夕顔しかいないため、婿に迎えることになるというのも問題があるだろう。
もしかすると嫁に出て夕顔の子に跡を継がせるなんて方法もあるかもしれないが。
「何にしても勝ちは拾えたか」
うちはスルイには前回の昼顔さんと同じように起爆札と結界を念入りに仕込んだ……ついでに昼顔さんにも仕込んでおいた。
それにしても本当にこの幻術はよく効くな。
昼顔さんは2回目、そして初見で写輪眼ではないとはいえ中忍以上であろううちは一族にも通じたことは大きい。
うちは一族は写輪眼がなくても才能がある一族だ。それに通じたというのは更なる自信に繋がる。
……昼顔さんも有能な上忍のはずなんだが、どうも夕顔が絡むとコメディキャラというかネタキャラというか……とりあえず、信用度はガタ落ちするから平常心である忍に通じたのは嬉しい。
「さて、誰かが解除するまでゆっくり術の開発でもしていよう」
今メインで開発しているのは封印術だ。
影分身が強みな私だからこそ影分身の新たな使い道を考えていた。
影分身は自身の意思で解除すると経験とチャクラを還元する。つまりチャクラの予備ができるという考え方ができる。ならば本体のチャクラが回復次第、影分身を増やし続ければチャクラの予備として運用できるのではないかと思ったのだ。
しかし問題となるのは影分身は存在しているだけでそのチャクラを消費してしまうことだ。
それならばと影分身を仮死状態にしておけば……と思って安直に攻撃して物理的に意識を奪おうとすると影分身が解けてしまった。その時の私は凄い間抜け面をしていただろう。
次に試したのは薬だ。
麻酔や毒で仮死状態にすることを試みたわけだが結果は惨敗。
ここで問題になったのは経験の還元である。
薬で仮死状態にするとどうしても肉体的負担が掛かり、影分身経由だから人体に影響は無いものの還元された時の倦怠感は凄まじく、とても使えるものではない。
そこで目をつけたのが封印術だ。
封印術は術式にもよるのだが封印した状態で時間を停滞させるものもある。
もっともそれは生きている物は封印できない代物だったためすぐには応用できなかった。
しかし、これが実現すれば実質チャクラはほとんどの忍を上回ることができるだろう。
そうすれば手裏剣影爆の術による弾幕兼爆撃の密度も高めることができ、継戦能力も伸びる。
やはり戦う上で、自分が優れていると言える一芸があった方が戦術が組みやすい。
「将来的に刺青を入れることになるかな」
刺青など趣味ではないが術式を身体に刻むと起動の容易さ、常時携帯などメリットが多い。
本当に趣味ではないが。
「どんなになってもハヤテはハヤテ」
「うお?!」
いつの間にか背後から抱きつかれていた。誰に、などというのは愚問である。
「気配を消して抱きつかない」
「これも鍛錬」
「むぐっ」
鋭い切り返しだ。気を抜きすぎていたか……しかしここは集中していたといいたい。
「私も……」
「うっ」
術を刻んだ方が何かと便利だし、戦術が広がる。それは生存率を高めることにもなるのはわかっている。
しかし……この美しい肌に傷をつけるとなると戸惑ってしまう。
いつもは効率重視、生存重視な私だが、ここに来てエゴが湧く。
全身に刺青というわけではないのだから別に構わないだろうと思う私と愛する彼女に取り返しの付かない傷をつけることを拒否する私がいる。
しばし迷った結果。
「満足できる術式ができたら考えよう」
先延ばし、保留。
あまり褒められたことではないが今の段階では取らぬ狸の皮算用でしかないのも事実だ。
「それにしてもよくここがわかったな」
昼顔さんが謎の配慮で夕顔をここの事は教えていないと言っていた。なのに彼女はここにいる。
「ハヤテの匂い追いかけてきた」
いつから犬塚一族になったんだ?
「私のはハヤテ専用」
赤く塗ったら3倍の速さになる……いや、夕顔が3倍の速さってシャレにならないぞ。
しかし……夕顔のヤンデレ具合は既に末期か?
まぁ——
「あう」
——こんな世の中なら重いってこともないし、愛する存在にそれほど思ってもらえるなら悪い気はしない。
いつも通り、夕顔の頭を撫でつつ、そんなことを思う。
1度受け入れたからには離すつもりはない。
……それにしてもなかなか幻術解けないなぁ。昼顔さんは2度目なんだからそろそろ……お、言ってる側から解けたみたいだな。
「ま、またしても不覚を……そしてまたこのパターンか?!」
「いい夢、見れましたか?」
ん?なんか昼顔さんがブルった気がするがなぜだろう。
「なぜ、夕顔がここに……」
「同じこと2度……面倒」
取り付く島なし。